1942年、常勝を続けていた日本海軍をアメリカ海軍が打ち破り、太平洋戦争の流れを決定的に変えた伝説的戦い「ミッドウェイ海戦」。
アメリカ側では偉大な戦いとして讃えられるこの海戦を、ドイツ人でありながら『インデペンデンス・デイ』『パトリオット』などアメリカ万歳な内容の映画を撮ってきたローランド・エメリッヒが監督。
しかしこの『ミッドウェイ』は日米の視点から硬派に、重厚に伝説の海戦を描いています。
それでは『ミッドウェイ』をレビューしていきます。
史実ですが、現場兵士のたどる命運などは知らないほうが楽しめるのでネタバレはなるべく避けます。
目次
『ミッドウェイ』作品情報
作品名 | ミッドウェイ |
公開日 | 2020年9月11日 |
上映時間 | 138分 |
監督 | ローランド・エメリッヒ |
脚本 | ウェス・トゥック |
出演者 | エド・スクライン パトリック・ウィルソン ウディ・ハレルソン マンディ・ムーア ルーク・エヴァンス 豊川悦司 浅野忠信 國村隼 デニス・クエイド |
音楽 | トーマス・ワンカー ハラルド・クローサー |
『ミッドウェイ』あらすじ【ネタバレなし】
1941年12月7日、大日本帝国海軍はハワイ真珠湾への奇襲攻撃を決行。
山本五十六大将(豊川悦司)の指揮のもとの作戦で、米海軍は大打撃を喰らいます。
エースパイロットのディック・ベスト(エド・スクライン)をはじめ、仲間を失った多くの米兵がショックを受け、日本への復讐を誓います。
一方で真珠湾攻撃で空母を数多く沈めて米海軍を壊滅させ、早期講話を狙っていた日本海軍は、現場の南雲中将(國村隼)が第2撃を行えず、山本大将はすでに目論見が狂っていました。
米軍は太平洋戦域の指揮官にベテランのチェスター・ニミッツ大将(ウディ・ハレルソン)を任命。
ニミッツは情報将校のレイトン(パトリック・ウィルソン)に「山本の次の手を読んで先を読め」と命令します。
そこから日米の苛烈な情報戦が始まります。
42年に入ると、米海軍は2月にディックらパイロットたちの活躍でマーシャル諸島の日本軍基地破壊に成功。
さらに4月、日本本土の爆撃も行います。
一方、日本海軍も5月にアメリカ空母レキシントンを沈め、両軍ともに譲らぬ攻防が続きました。
レイトンは寝る間も惜しんで、日本の情報を集め、暗号も解読。
そしてとうとう日本が太平洋のミッドウェイ環礁の米軍守備隊を攻撃予定だと先を読むことに成功します。
日本軍は南雲中将・山口少将(浅野忠信)率いる空母4隻と戦闘機250機でミッドウェイに進撃。
米軍は空母3隻ほか、潜水艦、戦闘機、爆撃機の戦力をかき集めてこれを待ち受けます。
そして1942年6月4日、両軍ともに絶対に負けられない戦いがついに始まるのです。
『ミッドウェイ』感想
こだわった時代考証
ローランド・エメリッヒという監督の名前を聞くとどうしても映画ファンは見せ場優先の大味大作を想像してしまうと思います。
シライシ
しかしこの『ミッドウェイ』はなんとエメリッヒ監督が20年以上も映画化を希望していた企画だというのです。
エメリッヒ監督は「今は世界各国でナショナリズムが台頭しているが、かつて自由のために戦った人々がいたことを思い出してほしかった」と語っています。
また日本と同じ敗戦国のドイツ人として「戦争には勝者はいない」と日米両方の現場の兵士たちに敬意を持って描くことも意識したとのこと。
脚本のウェス・トゥークも日本側の資料まで徹底的に調べて物語の参考にしたそうです。
ミッドウェイ海戦単体だけでなく、真珠湾攻撃で日本が先手をとってからミッドウェイでアメリカが戦局を覆すまでの濃密な半年を、日米の指揮官や現場兵士のドラマを過不足なくリアルに盛り込みつつ138分にまとめています。
シライシ
そして海戦を描く上で重要な空母や基地のセットもかなりリアルです。
軍の記録書や図書館の資料も当たったそうですが、合衆国政府が脚本を認めてくれたおかげで潜水艦内部やパール・ハーバーの基地や空母のデッキ、軍艦の内部までリアルに再現できたそうです。
また、現存はしていない米軍の伝説の空母エンタープライズや対空砲などの武器も新しく見つかった設計図などをもとにCGだけでなく正確な寸法のセットを再現しています。
日本の軍艦や会議シーンのセットも資料をもとにリアルに再現されているだけでなく、軍服や兵器の細部まで工業的な米軍の設備よりも美しく描くことを意識していたようで、合理性だけでなく文化や名誉を重んじる日本の特色も現れています。
両軍の合理性と精神力の描き方がバランス良い
『ミッドウェイ』は美術や映像だけでなく、日米両軍の精神性もリアルに公平に描かれています。
太平洋戦争というとどうしても「好戦的な日本がアメリカに無謀な戦いを挑み、米軍は圧倒的戦力で合理的に日本軍を潰していき、日本は終盤は精神力だけで立ち向かった」というイメージがありますが、ミッドウェイ開戦に至るまでは日本が戦局を優位に進めており、アメリカはピンチに陥っていたという史実をしっかり描いています。
日本軍は追い詰められて特攻や玉砕を始める前の、強力かつ合理的な軍隊として描かれており、日本軍の描き方としてありがちな上官が部下を理不尽に怒鳴ったり制裁を加えるようなシーンは一切出てきません。
一方でアメリカ軍は日本に負ける危険性を感じており、このミッドウェイに決死の覚悟で挑んでいたことも描かれています。
シライシ
ミッドウェイ海戦に至るまでの両軍の情報戦も丁寧に描かれ、なぜ米軍が勝ち、日本軍が負けたのか、周到に見せています。
具体的に書くと長くなってしまうのですが、それまで常勝で進んできていた日本のステレオタイプな戦局の進め方と、何が何でも勝とうとした米軍の戦法が勝敗を分けたという描き方になっています。
また上層部の作戦だけでなく、劇中では米軍兵士たちが自らの命を顧みない攻撃を仕掛けたりと「精神力の日本軍と合理性の米軍」というありきたりなイメージではない描かれ方をしています。
シライシ
史実通り日米の勝敗が決したあとの両軍の描き方にも敬意を感じます。
日本軍は負けても誇りと闘志を失いませんし、米軍兵士たちは勝ったあとに苦い喪失を味わっていることも描かれ、暗すぎず爽やかすぎない題材に対して誠実な後味になっていました。
ローランド・エメリッヒ監督という名前を聞いてちょっと敬遠している人にも安心して見て欲しい誠実な戦争映画です。
『ミッドウェイ』あらすじ・感想:まとめ
10月20日にハワイのパールハーバー基地で行なわれた映画「ミッドウェイ」のプレミアを前に、主要キャストの俳優さんたちが駆逐艦ハルゼーを訪れ、乗組員たちと記念撮影。山本五十六元帥役を演じられた豊川悦司さんの姿もありますね。 pic.twitter.com/NAjtLXDjPe
— 在日米海軍司令部 (@CNFJ) October 23, 2019
ドイツ人監督が日米両軍に敬意を払い、丁寧に描いた海戦映画『ミッドウェイ』。
それでいて”破壊王”ローランド・エメリッヒの名に恥じない大迫力のスペクタクルシーンもふんだんにあるのでぜひ劇場で見て欲しい作品です。
『ミッドウェイ』は2020年9月11日公開予定!
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