2020年9月25日より公開される、主演・草彅剛さんがトランスジェンダーの女性を演じる話題の映画『ミッドナイトスワン』。
本作の公開に先駆けて、草彅さんと共に新宿のニューハーフショークラブ<スイートピー>で働くトランスジェンダー女性を共演する実力派俳優・吉村界人さんにインタビューをさせていただきました。
『ミッドナイトスワン』の魅力や、吉村さんが語る「映画そのものの魅力」など、良いお話をお聞かせいただけたのでぜひご覧ください。
映画『ミッドナイトスワン』出演・吉村界人インタビュー
−−吉村さんと言えば、主演を務めた『サラバ静寂』や『ハッピーアイランド』など個性的な役柄を演じられてる実力派のイメージが強いですよね。今作『ミッドナイトスワン』でもトランスジェンダーの女性を演じられるということで、なかなか巡り会うことのない役柄への挑戦でしたが、オファーを頂いたときの率直な印象はいかがでしたか?
吉村界人(以下、吉村)「そうですね。率直に演じるのがとても難しい役だなと感じました。」
−−役にあたるまでの準備ですとか、役作りの部分で意識されたことはございましたか?
吉村「まず、マニキュアを自分で塗る練習をしたり、普段から見られてる意識を持つようにして、身だしなみや身体的なしぐさについても生活の中で気を配って過ごすようにしていました。」
−−主演の草彅剛さんや、ママ役の田口トモロヲさんとの共演はいかがでしたか?
吉村「あの強烈なキャラクターをお二人とも違和感なく演じられていて、同じ時間を過ごせたのがとても刺激的でした。」
−−撮影中のコミュニケーションはございましたか?
吉村「はい。特に草彅さんと撮影の合間で一番お話しさせて頂きました。ほかのキャストの皆さんともお話しする機会は多かったです。」
−−お店のメンバーですもんね?
吉村「そうですね。イン前にダンス練習があったので、特に「白鳥の湖」の練習時には4人でコミュニケーションを重ねました。」
−−今、白鳥の踊りのお話があったんですけど、拝見してかなり難しいダンスだと思いました。一番苦労したシーンはあのダンスシーンになりますか?
吉村「僕以外の皆さんはダンスが踊れるので、僕だけが練習時に四苦八苦していました。本当に大変でしたね…。(笑)」
−−今回、草彅さんが演じる凪沙は40代、田口トモロヲさん演じるママは50代から60代ですよね。吉村さんは、その人たちよりも一回りも二回りも若いトランスジェンダーを演じられていたわけですけど、何かお2人と差別化を意識されたことはございますか?
吉村「皆さんと同じように葛藤はあると思います。ただ、まだ10代とか20代で独り立ちできないからこそ、同じような人間を探して一緒にいてしまう弱さを意識しました。」
−−拝見して思ったのは、吉村さんの演じられたキャンディという役は、他のトランスジェンダーの方と比べてメイクが薄かったり、髪型も振り切れていない見た目でしたよね。あのビジュアルは、まだ揺れている心情から通じる造形だったのでしょうか?
吉村「心の中ではそういう風に思っていました。また、衣装合わせとかでいろんなカツラとか服を着たりしている中で、周りの皆さんから笑いが起こることがあったので、そこも役の個性として取り入れた部分もあります。」
−−それが真相でしたか(笑)では、色々な衣装を組み合わせた時に、派手なパターンは失笑されてしまったためにあまり変化はつけないことに決まったと…。
吉村「そうですね、ロング、セミロング、黒髪も試しましたが、笑われてしまうことが多かったです。」
−−今作では主人公の凪沙以外はお店で働き始めるまでの生い立ちが本編では語られません。吉村さんの想像で良いのですが、吉村さん演じるキャンディにはどういった背景があったとか、表には出ない部分で、何か内田監督と話し合われた部分や決められていたことはありますか?
吉村「自分に自信が持てないとか、何かトランスジェンダーに対しての折り合いがまだついていないなど、その狭間にいてふわふわしている状態であるというのは監督とも話しました。」
−−吉村さんご自身が出演しているシーンや、それ以外のシーンでも良いのですが、『ミッドナイトスワン』本編の中で吉村さんが一番気に入っているシーンがあれば教えてください。
吉村「僕は『ミッドナイトスワン』という作品そのものが好きなんですけど、好きなシーンを強いて挙げるなら、草彅さん演じる凪沙と服部樹咲さん演じる一果が一緒にご飯を作って、どんどん仲良くなっていく。そこの2人の掛け合いが特に好きですね。」
−−少しずつ距離感が縮まっていく感じですか?
吉村「そうですね。あとは草彅さんが演じてらっしゃる時の、芝居なのに芝居っぽくない部分がグッと来ましたね。見ていて、「あっ…」って何か感じた瞬間がありました。」
−−内田監督とは2017年の『獣道』以来だと思うんですけど…
吉村「映画だとそうですね。あとは『湘南純愛組!』というドラマに少しだけ出演させて頂いたので、その現場でお会いしました。」
−−Amazonプライムのオリジナルドラマですね?
吉村「そうですね。それ以来です。」
−−何か内田組ならではのエピソードはありますか?
吉村「内田さんは役者の持っているもの、その人の中に入っている潜在的なものをすごく大事にする方だなと思います。取り繕った芝居をしても、結局本当の心の奥底は何か見え隠れすると思うんですよ。だから、繊細な役をやっても、ぶっきらぼうな役をやっても、その人の根底にあるもの、それを大事にしている監督だと思っていて、今回の作品でもそれを感じました。」
−−今作は、ネグレクトやトランスジェンダーといったテーマがありますが、脚本や完成した作品をご覧になった時に、吉村さんから見た『ミッドナイトスワン』の魅力、社会的意義はどういった点に感じてらっしゃいますか?
吉村「色々な人間にドラマがあって、人生があって、映画だからできる映像、描写、それが両方共存しているところがこの作品のすごいところだと思っていて。例えば、他のキャラクターの人生を掘って、もっとトランスジェンダーの方々のことを深く伝えることは、小説であるべきだと思うんです。ただ、映画という形で表現する上では、抜粋してどうアクセントを付けるかが必要かなと。
僕はお芝居とストーリー両方が大事だと思うんです。視覚的なものや、セリフを掛け合えばOKというものではないというのを『ミッドナイトスワン』で知ることができた気がします。すべてを伝えきらない美学のようなものが映画と小説の違いで、映画ならではの良さではないかと思います。」
−−あえて全てを伝えきらずに、映画だからこそ観客のイメージとか余韻にあえて任せるであったり、含みを持たせるということでしょうか。
吉村「そうです。それが映画の良さだと思います。」
−−社会的なメッセージ性が強い映画は、得てして差別に対して明確にダメだよという明示や描写を含む映画が多いと思うんですけど、『ミッドナイトスワン』はあえてせずにということですね。
吉村「そうですね。それでも十分に伝わるし、そこに夢があるんですよね。」
−−ありがとうございます。最後に、『ミッドナイトスワン』をお楽しみにされている方、もしくは吉村さんのファンに向けて一言メッセージをください。
吉村「僕は、『ミッドナイトスワン』のような作品こそが<映画>だと思いますね。僕はあまり見ないんですけど、今はYouTubeとかの時代じゃないですか。だからこそ、本作を通じて映画離れをしている人たちにも「やっぱり何か映画って良いものだな」と思ってもらいたいですし、そんな作品になっていますので、ぜひ見て欲しいです。」
−−貴重なお時間、ありがとうございました。
吉村「ありがとうございました。」
インタビュー・構成 / 佐藤 渉
撮影 / 白石太一
『ミッドナイトスワン』作品情報
出演:草彅剛、服部樹咲(新人)、田中俊介、吉村界人、真田怜臣、上野鈴華、佐藤江梨子、平山祐介、根岸季衣、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖
監督・脚本:内田英治
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://midnightswan-movie.com/
公式Twitter:@M_Swan_Film0925
公式Instagram:m_swan0925
あらすじ
故郷を離れ、新宿のニューハーフショークラブのステージに立ち、ひたむきに生きるトランスジェンダー凪沙。
ある日、養育費を目当てに、育児放棄にあっていた少女・一果を預かることに。常に片隅に追いやられてきた凪沙と、孤独の中で生きてきた一果。
理解しあえるはずもない二人が出会った時、かつてなかった感情が芽生え始める。
『ミッドナイトスワン』は2020年9月25日(金)公開です!
→映画『ミッドナイトスワン』はいつから動画でフル無料視聴できる?おすすめ配信サービスを比較し紹介
▼あらすじ・ネタバレ記事はこちら▼
▼あわせて読みたい!▼