『パラサイト 半地下の家族』ネタバレ考察。石と水、匂いにはどんな意味が込められているのか?

『パラサイト 半地下の家族』ネタバレ考察。石と水にはどんな意味が込められているのか?

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映画興行が新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け始めてきた中で、孤軍奮闘し続ける映画『パラサイト 半地下の家族』。

アカデミー賞主要4部門受賞という実績もあって日本国内の興行収入は40億円を超えてきました。

これは2005年の『私の頭の中の消しゴム』の記録を15年ぶりに塗り替えることになり、日本で一番ヒットした韓国映画となりました。

それと同時に、映画の深堀り考察が多くのブログや動画などで同時多発的に展開され、映画に登場する高低差などの多くのパーツに意味を見出す意見が多く見えるようになりました。

そこで、今回は『パラサイト 半地下の家族』のこれまでの様々な見方・意見を参考にしつつさらに一歩深く踏み込んだ考察をご紹介できればと思います。

一部ネタバレ部分がありますのでご注意ください。

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『パラサイト 半地下の家族』ネタバレ考察。石と水、匂いにはどんな意味が込められているのか?

『パラサイト 半地下の家族』物語の舞台となる”高低差”

「空間配置にドラマが生まれる」と語るポン・ジュノ監督は『パラサイト 半地下の家族』の制作において登場人物の動線を脚本段階で明確にしたうえで、現実以上に誇張することで、より印象的な”高低差”を描き出しました。

村松 健太郎

ハリウッド態勢で作られた『スノーピアサー』では水平方向の列車内で格差が生まれていたので見比べるとよいかもしれません。

もともと、半地下物件というものは北朝鮮からの攻撃への防空壕、シェルターとしての役割を持っていました。

『パラサイト 半地下の家族』

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1950年に勃発した朝鮮戦争は今も休戦状態にあるだけで、国際法上は戦争状態が続いてます。

休戦協定締結から15年後の1968年に北朝鮮ゲリラ部隊が韓国政治の中枢・青瓦台(日本で言う霞ヶ関)を襲撃するという事件が起きています。

青瓦台の直前で露見したため未遂に終わりましたが、襲撃舞台の逃亡は2週間に及び、その間には銃撃戦も展開され双方に多くの死傷者を出しました。

このように、ある一時期までは北朝鮮の攻撃は“今そこにある危機”で半地下はそれに備えるための必需品だったのです。

それが時代の流れから緊張状態が緩くなり始め、それと同時に経済発展が進み富裕層と貧困層の差がはっきりするようになり、富裕層はより高台へ、そして貧困層はより下町へ、物理的にも下の物件へと生活の拠点を移していきます。

村松 健太郎

こういったことは韓国に限られた話ではありません、日本でも富裕層のご婦人たちを“山の手の奥様方”と表現したりしますし、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』ではレオナルド・ディカプリオ演じるスターは高台の豪邸で暮らし、ブラッド・ピット演じる専属スタントマンは下った先のトレーラーハウスで暮らしています。

また、メイキング映像でも分かりますが、主人公一家のキム一家が暮らす半地下の家とその周辺地域や、寄生されるパク一家の豪邸は実はセットです。

半地下の物件には狭い室内に多くのエッセンスが込められていますし、ハエや蚊も実際に飛ばし、映画では感じることができない匂いも再現しました。

『パラサイト 半地下の家族』

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一方の豪邸は敷地面積500坪以上、1階だけで床面積200坪以上という本物の豪邸となっています。


この豪邸では玄関やガレージといった入り口が一番下にあり、階段を昇りつけることで邸宅にたどり着けるという高低差を内包しています。

村松 健太郎

さらに言えば半地下と共通項のある”特別な下部”まで内包しています。

映画後半部分で主人が留守なのをいいことに我が物顔で過ごした豪邸から逃げるように自分たちの半地下の家に戻っていくシーンでは、一家が延々と階段と坂道を下っていく描写が続きますが、これは住む世界の明確な区別を描いています。

基本的にパク一家は階段を昇るシーンが多く、キム一家は下っていくシーンが多いです。

村松 健太郎

階段の使い方はポン・ジュノ監督がインスパイアされた作品として語るキム・ギヨン監督の1960年の作品『下女』と見比べることもできます。

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階段や立地などの高低差で人物の置かれている環境や精神状態を描く手法は『天気の子』や『ジョーカー』でも見ることができる、映画の定番の演出手法です。

『ジョーカー』

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村松 健太郎

これから映画を見るときはちょっと意識して見ると、楽しみが増えるかもしれませんね。

物語の起点となる”石”

『パラサイト 半地下の家族』。

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『パラサイト 半地下の家族』の考察で必ず触れられているのが映画冒頭に一家にもたらされる水“石”と、クライマックスの大量の(雨)でしょう。

特に石に関してはこんなポスターが作られるくらい、制作側も重要な要素として押し出してきています。

『パラサイト 半地下の家族』

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村松 健太郎

水石の上にキム一家とパク一家が立っていて、反転した水面を見るとお互いが立っている位置が逆になっているとは意味深です。

風水において石は様々な力と意味があるとされていますし、風水の文化がない土地でも石に意味を持たせてきた歴史があります。

イギリスのストーンヘンジやイースター島のモアイ像などの巨石文明は世界各地で見ることができますし、珍重されるダイヤモンドなどの宝石や金なども全て鉱物ですね。

ストーンヘンジ

出典:Wikipedia

『パラサイト 半地下の家族』では大きな水石が長男ギウの元にやってきますが、それは大学生になっている富裕層の友人からの家庭教師の仕事の話と同時にやってきます。

このことで、水石は劇中でより上流な社会的ステータスの象徴だということ、そしてそういうものはやはり上流の存在からもたらされるものだということを意味しています。

『パラサイト 半地下の家族』

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物語の終盤、豪雨からの水害で浸水した半地下の家からギウが真っ先に持ち出すものはこの水石で、これは今や腕利き家庭教師として豪邸に住む一家の中に棲み付き、さらにそこの娘と恋人同士になったという現状への執着を現しています。

村松 健太郎

ちなみにこの娘と母親は家族写真と顔が違って整形している可能性があります。ファッションだけで一流の人間になりきって見せ、半地下の一家とは対照的な存在です。また長男がネイティブアメリカン(=いわゆるインディアン)の格好していますが、これはパク一家が侵略される側の存在であることが込められていると思われます。

一方で、半地下の家には“知足安分”のと書かれた額が掲げられています。

『パラサイト 半地下の家族』。

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自分の領分を知り、高望みしないということを意味するこの言葉は、半地下の一家の指針であったと思われます。

それが寄生生活を始めたことでガタガタと崩れ、いくつもの大事なものを失っていくことになります。

村松 健太郎

ラストでギウは水石を捨てますが、この行為は大きな喪失を経て、最初の一家の指針に戻ろうとするギウの心情を現していると見るか?または学歴社会に勝負するのではなく、手段を選ばずひたすらお金を稼ぐ道に進むというギウの決意の変化と見るか?もしかしたら両方の意味があるのかもしれませんね。

1つの石が2つの全く違う家族にもたらしたものを描いたのが『パラサイト 半地下の家族』と言っていいでしょう。

物語をクライマックスへと運ぶ”水”

『パラサイト 半地下の家族』はある人物が再登場することで物語が一気にクライマックスになだれ込んでいきますが、その時に共に現れるのが豪雨です。

クライマックスに水に関係する描写を持ち込むのは『殺人の追憶』『グエムル-漢江の怪物-』などでも見られたポン・ジュノ監督の得意の描写ですが、『パラサイト 半地下の家族』ではこの豪雨から思わぬ真実がいくつも噴出します。

それこそ、雨水を処理しきれないで水があふれ出た排水口のような展開です。

屋内シーンが多いのであまり意識が行かないかもしれませんが、実はこのシーン以外はいつも太陽が出ていて良い天気が続いています。

たった一夜の大雨、大量の水が物語と半地下の一家をクライマックスへと運びます。

村松 健太郎

水は人間にとってもっとも身近な存在であると同時に、普遍的(不変的)な存在・ルール(水は決して逆流しないなど…)を示しすことが多々あります。

『パラサイト 半地下の家族』においても水は登場人物たちを翻弄する不変で普遍な存在として登場します。

水を言葉や情報、そして社会の上から下へ流れる理不尽な出来事のメタファーとして見ることもできます。

それまでありとあらゆる言葉と情報でパク一家に入り込んできたキム一家が圧倒的な水に取り込まれ、すべてを失うというのはとても意味深で皮肉な展開でもあります。

水と言えばトイレ

水と言えば、半地下の家で象徴的なのが家で一番高い位置に置かれているトイレでしょう。

『パラサイト 半地下の家族』。

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トイレは風水では不浄のものとされていて、その設置場所次第で一家全体の命運を左右するとも言われていますが、本作では一家の一番高いところにトイレがあります。

半地下ゆえに水の流れ(下水処理)を考慮した結果、トイレを一番高い位置に置かざる得なかったという事情がある設定ですが、結果として一家の上にはどうしようもない(不吉な)存在があり続けるという構造が出来上がっています。

映画を決定付けさせる“匂い”

『パラサイト 半地下の家族』で大きな意味を持つものに“匂い”があります。

村松 健太郎

目に見えない”匂い“を視覚と聴覚で感じる映画の重要な要素にするとは、ポン・ジュノ監督のものすごい挑戦ですね。

貧しさを感じさせる”匂い“というものは当然わかりませんが、一度気になると映画を見ている間ずっと何か匂ってくるような感じがします。

この”匂い”は富裕層側のパク一家が貧困層のキム一家との区別をするモノでありますが、その一方では境界線を容易に超え、人智の及ばない存在でもあります。

村松 健太郎

ちなみに、この”匂い“については韓国内ではみんなが共通の認識を持っているということです。
『パラサイト 半地下の家族』。

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村松 健太郎

また、前半部分で社長一家の人間の1人がする扮装を半地下の家族の1人がさせられることになりますが、これが最後の大きな選択の引き金になっています。

『パラサイト 半地下の家族』考察まとめ

以上ここまで『パラサイト 半地下の家族』について考察をしてきました。

あくまでもこれは膨大な解釈ができる作品の一つの見方です。

正解はないですし、この記事を読まれた方も『パラサイト 半地下の家族』を何度も見て、「自分はあれはこういう意味だと思う」と考察するのが楽しいと思います。

背景的なメッセージを抜きにしてもとてつもなく面白い作品なので、ぜひ劇場でご覧ください。

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