Netflixと言えば、オリジナルドラマや、映画の印象が強いかもしれません。
しかし、上質で社会派なオリジナルドキュメンタリーシリーズが多いのもその大きな魅力です。
ドキュメンタリー作品は、世界各地の様々な文化や社会問題を知ることができる上に、平易で聞き取りやすい英語が使われていることも多いため、英語学習にも最適です。
今回は、Netflixにあるドキュメンタリー作品の中でも、特に見ごたえがあり、上質なものを紹介していきます。
目次
Netflixオリジナルのおすすめドキュメンタリー7選
『13th 憲法修正第13条』
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作品のタイトルにもなっている合衆国憲法修正第13条は、奴隷解放宣言の2年後である1865年に施行されました。
この法の改正をもって、奴隷制度は完全に廃止になったと考えられていましたが、実はこの法には抜け穴があると指摘されています。
法においては「すべてのアメリカ人に自由を与える」とした上で、「犯罪者への処罰は除いて」と例外規定が設けられているのです。
アメリカにおける人種差別、とりわけ黒人差別は長い歴史のなかで社会システムが作りあげてきたものです。
奴隷解放宣言から150年以上が経過した現在もなお、差別は形を変えて根強く残っています。
『13th 憲法修正第13条』の優れた点は、「なぜ差別が社会に組み込まれたのか?」という問いを多角的に検証していることです。
政治的な観点から言えば、共和党と民主党が政権運営を安定化させるために、どちらも犯罪の取り締まり強化を公約として掲げメディアも人種間の分断を煽るような報道を過熱させてきた歴史があります。
人種の問題は単なる感情論ではなく、政治戦略の駒としても多用されてきたのです。
トランプ大統領がツイッターで使用する言葉やフレーズが度々話題になりますが、メディアや歴史が人々の憎悪を煽ってきた歴史を考えれば、大統領が発する言葉が慎重であるべき理由が分かります。
また、受刑者が増え続ける刑務所の経営はビジネス化し、大量投獄とそこから企業が得る利益はアメリカが抱える大きな課題となっています。
監獄ビジネスに多大な資金が流れていく中で、受刑者の更生や犯罪の抑止といった根本的な課題が二の次にされていることは明白です。
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アメリカにおける構造的な搾取の歴史を考える上で、『13th 憲法修正第13条』は多くの事実と知識を与えてくれる作品です。
『ワン・オブ・アス』
ニューヨークの一角にあるユダヤ人居住地区。
ここに住むのは、ユダヤのなかでも特に厳格な教えを守って生活をしているハシド派と呼ばれる人々です。
ここで暮らす人々はアメリカの学校には通わず、戒律にのっとった教育を受けることになります。
コミュニティ内の学校で使用される英語教科書の女性のイラスト部分は黒く塗りつぶされ、アメリカの映画を観ることも許されません。
ハシド派の社会のなかで幸せに暮らす人々がいる一方で、『ワン・オブ・アス』で描かれるのは、このコミュニティを抜ける選択をした人々に待ち受けている過酷な現実です。
夫からの家庭内暴力に耐えかねて離婚を検討する女性、ハシド派の教育に疑問を持ちドラッグ依存となった青年、ハシド派の家族を捨てて演技の夢を追いかける男性。
それぞれが外の世界へ飛び出そうとしますが、彼らが小さい頃から受けてきた教育や技能はあくまでハシド派のコミュニティの中だけで役立つものに過ぎません。
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同じくNetflixのオリジナルドラマシリーズ『アンオーソドックス』も、ユダヤ教超正統派の女性が主人公の作品のため、『ワン・オブ・アス』を基礎知識として視聴するのもおすすめです。
『シントイア・ブラウン 裁きと赦し』
シントイア・ブラウンは2004年、売春婦として働いていた最中に、客だった男を撃ち殺してしまいます。
当時シントイアは16歳で、テネシー州では未成年も成人と同じように送致される決まりとなっており、終身刑に課すことが可能となっていました。
シントイアや弁護団が正当防衛を主張した甲斐はなく、2006年に第一級殺人で終身刑の有罪となり一生を刑務所で送るという現実を突きつけられることになります。
シントイアに転機が訪れたのは、2017年11月のこと。
シントイアの事件をきっかけとして、法改正の議論が高まり、未成年は売春によって起訴されることがなくなったのです。
そして、事件当時に売春を行っていたシントイア自身の正当性についても見直されるべきであるという世論が高まり、リアーナなどセレブたちまでもがSNSで彼女の釈放を求める運動を起こしました。
そして、弁護士たちはこの運動に後押しされる形で残りの任期が1年と迫っていた知事に恩赦を求めることを決意。
2018年5月に行われた仮釈放の審理では、2008年当時に州側に立ってシントイアの上告を担当し、「シントイアが終身刑に値する」と主張した検察官までもが、彼女の釈放が妥当だとして委員会の前で証言を行ったのです。
その結果、知事の恩赦が与えられ、シントイアは刑務所の外で再び人生を送る権利を与えられました。
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また、シントイアが彼女自身の経験と、大学で学んだことを結び付け、アメリカ社会が抱える問題について声をあげる存在になっていることにも勇気づけられます。
『アイ・アム・ア・キラー 殺人鬼の告白』
『アイ・アム・ア・キラー 殺人鬼の告白』は、シーズン2まで配信されている1話完結もののドキュメンタリーシリーズです。
エピソードごとに、アメリカで特に凶悪な犯行に及んだ無期懲役および死刑囚にインタビューを重ね、事件の本質を探っていきます。
登場人物の多くは、事件の発生後から数十年にわたって刑務所で暮らしており、そのほとんどが事件のことを客観的に語りはじめます。
このドキュメンタリーの優れている点は、囚人だけに話を聞くのではなく、事件に関係した周辺の人々にもインタビューを加えて、事件の本質に追っていくという点にあります。
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シーズン1の「つきまとう過去」というエピソードでは、同性愛者のカップルを殺害したロバートが取り上げられています。
ロバートが犯した残虐な犯行の詳細が語られる一方で、ロバートの兄へのインタビューでは、ロバートの母親が「ファゴット(ホモ)」とロバートを呼んでいたことや、ロバート自身が性的虐待を受けてきたことが明かされました。
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『キーパーズ』
『キーパーズ』は7話から成るドキュメンタリーシリーズで、『おしえて!ドクター・ルース』でも知られるライアン・ホワイトの監督作です。
エミー賞にもノミネートされ、Netflixのドキュメンタリー作品の中でも特に評価が高いものの一つです。
『キーパーズ』の舞台は、アメリカのメリーランド州、ボルティモア。
1969年に高校教師で修道女のシスター・キャシーが殺害された未解決事件を高校の同窓生であるジェマとアビーの2人が独自に究明していくところから物語は始まります。
2人はキャシーが殺された理由を究明することを目的に地道な情報収集を続けていきますが、2話から物語は恐ろしい事実を浮き彫りにしていきます。
かつてキャシーと高校で同僚だったマスケル神父による生徒への卑劣な性的虐待の数々が明らかになったのです。
90年代には100人もの女性がマスケル神父による性的虐待を証言し、匿名で2人の女性が裁判を起こしますが、PTSDを抱える被害者の記憶が曖昧であるとしてマスケル神父は無罪放免となります。
マスケル神父が墓地に埋めた虐待の証拠を検察も把握していたにも関わらず、それが開示されることはありませんでした。
裁判を匿名で起こした2人の女性は、ドキュメンタリーの中ではカメラの前で自らの体験を語っています。
事件の関係者の多くは口を閉ざし、警察や検察でさえも教会の力によって数々の決定的証拠を隠ぺいしていきます。
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『キーパーズ』は、単なるクライムシリーズではなく、宗教と司法の癒着についても大胆に斬り込んだ素晴らしい作品です。
真相の究明は未だに続いており、ジェマとアビーが立ち上げたFacebookページには賛同者が増え続けています。
『ザ・ステアケース 〜階段で何が起きたのか〜』
『ザ・ステアケース 〜階段で何が起きたのか〜』も、実際の犯罪を追ったドキュメンタリー作品です。
事件が起きたのは、2001年12月。
作家のマイケル・ピーターソンが、妻キャスリーンが自宅の階段から転落したとして警察に通報を入れます。
警察が到着した頃にはすでにキャスリーンの息はなく、現場にはおびただしい血痕が残されていました。
『ザ・ステアケース 〜階段で何が起きたのか〜』は、弁護側、検察側双方の現場検証のシーンもそのまま映像に記録していきます。
部外者が自宅に侵入することが難しい状況だったため、弁護側と検察側は他殺か事故かという争点で裁判を争います。
もちろんマイケルは自らの潔白を主張し続け、家族も彼を支えようとします。
しかし、風向きが変化したのはマイケルがドイツに住んでいた際に家族ぐるみの付き合いがあった女性が同じような状況で階段から転落死したという事実が明かされた時でした。
マイケルはドイツでの事件以降、亡くなった女性の2人の娘を養子にとり、アメリカで彼女たちを育てていたのです。
2003年にマイケルには仮釈放なしの終身刑の判決が下されます。
残りの人生のすべてを刑務所で過ごすかと思われたマイケルですが、裁判中の検察側の証人に不祥事が見つかり、事件は再検証されることになります。
『ザ・ステアケース 〜階段で何が起きたのか〜』は、2004年に公開された8話に加えて新たに3話が追加された、実に13年間にも渡るドキュメンタリー作品です。
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裁判が長期に渡れば渡るほど、法廷で争うマイケル自身のみならず家族や弁護士までもが、その人生の大半を事件に費やすことを余儀なくされます。
膨大な時間をかけて一つの事件を追っているからこそ、長期化する裁判の課題を浮き彫りにし、見ごたえのあるドキュメンタリーに仕上げています。
『彼女の権利、彼らの決断』
『彼女の権利、彼らの決断』の主題は、「中絶は誰の権利か?」ということです。
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しかし、アメリカでは、中絶は政治においても非常に重要なトピックとして扱われています。
歴代の大統領選挙においても、中絶が争点になってきたほどなのです。
その理由としてまず挙げられるのは、キリスト教保守派が選挙戦略において非常に大きな支持基盤となっていることです。
アメリカにおいては、最高裁が臨月を例外として中絶を合法化した1973年の「ロー対ウェイド判決」が中絶問題における一つの基準となっています。
しかし、その後も胎児の生命を優先すべきと主張するpro-life派と、母体である女性の選択を支持するpro-choice派の間の論争は未だに過熱し続けています。
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本来は女性の身体と人生の選択であるはずの妊娠と中絶は、人々の信仰や政治的な立場のために常に議論の中心になってしまっています。
トランプ大統領も当初はpro-choice支持を表明していましたが、保守派の票が獲得できないと分かると、大統領選では中絶に反対の立場を取りました。
最高裁判事の任命権は大統領にあり、任期は終身制のため共和党と民主党のどちらが政権を握るかで女性の権利も大きく左右されることになります。
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『彼女の権利、彼らの決断』は、アメリカの社会と政治について関心がある方に強くおすすめしたい作品です。
Netflixオリジナルのおすすめドキュメンタリー7選:まとめ
「彼女の権利、彼らの決断」見ていてとても辛かった。彼らは決して望まない妊娠をする当事者の立場に立とうとしない。
出産する女性の人生も産まれてくる子どもの人生も、全ての責任は女性に委ねられている。責任を負わない人、政治が女性の選択を制限するのはおかしい。 pic.twitter.com/85MkxejTQl— n (@queserasera3218) May 27, 2020
- 『13th 憲法修正第13条』
- 『ワン・オブ・アス』
- 『シントイア・ブラウン 裁きと赦し』
- 『アイ・アム・ア・キラー 殺人鬼の告白』
- 『キーパーズ』
- 『ザ・ステアケース 〜階段で何が起きたのか〜』
- 『彼女の権利、彼らの決断』
今回はNetflixで観られるドキュメンタリーを厳選して7作品ご紹介しました。
どれも、鑑賞後には何かしらの学びや気付きが得られる素晴らしい作品です。
常に新しく大胆な視点から社会の問題に斬り込んでいくNetflixのドキュメンタリーシリーズから今後も目が離せません。
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