『TENET テネット』とタイムラベルの設定を解説!時間が逆行すると何が起こるのか?

『TENET テネット』IMAX鑑賞感想レポート!劇場の大迫力の音響と映像で“時間の逆行”を体験!

出典:『TENET テネット』公式ページ

現代を代表するヒットメーカー、クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』(2020)がコロナショックで遅れに遅れてようやく公開されました。

製作費2億2,500万ドルをかけた超大作ですが、すでに世界興行収入は7億5,000万ドル越え。

宣伝費を考慮すると6億ドルは稼がないと元が取れないと計算されているようですが、すでに回収済みでありヒットメーカーとしての面目を見事に保ちました。

さて、その最新作である『TENET テネット』は、一部から「難解」「おいてけぼり」という声が上がっているようです。

そんな難解な映画を理解する一端になればと思い、今回は、『TENET テネット』の話に絡めつつSFの定番設定であるタイムトラベルについて、解説してみようと思います。

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『TENET テネット』タイムラベルの設定を解説


はじめに:『TENET テネット』は難解か?

『TENET テネット』は公開されるや否や難解、わかりにくいと言われています。

記事を書くためにネットのレビューを読んでみましたが、確かにそういう意見が挙げっていました。

ニコ・トスカーニ

ですが、私は特に難解とは思いませんでした。

『TENET テネット』は時間逆行というギミックこそ面倒くさいですが、話自体はシンプルで「世界が滅亡する危機を過去に逆行して阻止する」と、搔い摘むとただそれだけの話です。

『TENET テネット』

(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

クリストファー・ノーランは基本的にエンタメの人だと思います。

『メメント』(2000)にしても『インセプション』にしても『インターステラー』にしてもギミックが凝っているだけで話自体は普通に正統派のサスペンスです。

『メメント』は記憶を10分しか保てない男を主人公に時間を終わりから初めに逆行する構成になっていますが、話自体はシンプルで要約すると「妻を殺害された男が、復讐のために犯人を捜す」です。

『インセプション』は人の夢に入り込む装置というギミックは目を引きますが、やはり話自体はシンプルで「闇の世界のプロが大仕事を最後に足を洗う」と要約できます。

『インターステラー』は相対性理論を用いたギミックがありますが、これも話自体はシンプルで「人類滅亡を防ぐため、滅びかけた地球に代わる移住可能な惑星を探しに行く」という感じの要約になります。

ニコ・トスカーニ

ですので、少なくとも私はノーランの作品を見て「小難しい」と思ったことはありません。

彼は作品を作るごとにスケールが大きくなり、ますます中二病を拗らせていますが(誉め言葉)、見ている人をハラハラドキドキさせるエンタメの人であることは一貫していると思います。

クリストファー・ノーラン

出典:IMDB

これは何度か共同脚本家として名前を連ねている弟のジョナサン・ノーランもそうで、彼が手掛けたテレビドラマ『PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット』(2011-2016)と『ウエストワールド』(2016-)もギミック満載の世界観を無視すれば、普通に正統派のサスペンスです。

さて、『TENET テネット』の時間逆行は時間を逆行して世界の滅亡を阻止するサスペンスですが「時間」は、クリストファー・ノーランの最近のお気に入りのテーマのようです。

彼の映画は骨子の部分はあくまで正攻法だと思うのですが、ギミックへのこだわりもやはり魅力的であり中々考えさせられます。

ニコ・トスカーニ

今回は、SFの定番設定であるタイムトラベルについて、解説してみようと思います。

未来にタイムトラベルする場合

ニコ・トスカーニ

厳密な意味での未来へのタイムトラベルが可能であるかどうかは不明です。

その方法が発見されたと聞きませんので少なくとも実現してはいないのでしょう。

SFの古典であるハーバート・ジョージ・ウェルズ(1866-1946)の『タイム・マシン』のように、一瞬にして80万年後の未来に行くのは完全に絵空事です。

ですが、未来へのタイムトラベルに近いことは可能です。

なぜかと言うと、時間の流れは一定ではないからです。

世紀の天才、アルベルト・アインシュタイン(1879-1955)は二つの相対性理論を発表しました。

アルベルト・アインシュタイン

出典:Wikipedia

一つが特殊相対性理論です。

ニコ・トスカーニ

私は以前、物理学の本を読了しようとして断念したことがあるのですが、これは思い切り要約すると「光の速さは常に一定で普遍である」という理論です。

この理論を言い換えると、「光の速さ以外は一定ではない」とも言えます。

これが一般相対性理論です。

一般相対性理論は、「重いもの=重力が強いもののまわりでは、時間が遅く流れる」ということを示しました。

この理論を叩き台にしたのがノーランの『インターステラー』(2014)です。

『インターステラー』に、極めて重力の重い惑星で数時間を過ごしたクーパー(マシュー・マコノヒー)とアメリア(アン・ハサウェイ)が宇宙船に戻るとすでに23年が経過していたという描写がありました。

出典:IMDB

※人間は地球上の環境でしか生きられないので、宇宙船の中は地球と同じ環境に保たれているはずです。

これがまさに一般相対性理論で示されている現象です。

このような現象をウラシマ効果、またはリップ・ヴァン・ウィンクル効果と呼びます。

ニコ・トスカーニ

古典的名作である『猿の惑星』(1968)で使われていたのもこれですね。
『猿の惑星』

出典:IMDB

時間の流れをどう捉えるかは、最終的に個人の主観の問題になります。

アイシュタインは「過去、現在、未来は幻想にすぎない」と言いました。

もっとスケールの小さな話をすると時差がそうです。

ニコ・トスカーニ

これは遠方への海外旅行を経験したことがある方なら想像がつきやすいと思います。

日本から台湾、香港ぐらいまでの旅行であれば時差は微々たるものです。

フライト時間も短いし、時差も1時間しかありません。

ですが、例えばロンドンに旅行しようとすると成田から直行便で片道12時間かかり、時差はサマータイムでマイナス8時間あります。

午前10時に成田を出発すると、ロンドンに到着するのは日本標準時の午後10時です。

ですが、時差がマイナス8時間あるため、イギリスでの現地時間は午後2時です。

主観では12時間の時間が経過しているとも言えるし、4時間しか経過していないとも言えます。

また、これはSFによく登場する設定ですがコールドスリープする方法もあります。

『デモリションマン』

出典:IMDB

ニコ・トスカーニ

コールドスリープすることで、肉体を長期間老化させることなく保ち続け、結果として長時間の時間移動を可能にするということですね。

コールドスリープは現実世界でも実験が行われており、理論的に十分可能なようです。

比較的最近の映画だと『パッセンジャー』(2016)はこの設定が採用されていました。

『パッセンジャー』

出典:IMDB

ニコ・トスカーニ

ただし、一般相対性理論にしてもコールドスリープにしても理論的に可能な未来へのタイムトラベルは一方通行で、スタート地点に戻ることはできません。厳密な意味での時間旅行とは別物ですね。

過去にタイムトラベルする場合

アイシュタインの理論によると、物体が光の速さを超えて移動すると時間は逆方向に流れるとされています。

しかし、物体を光の速さで移動させるには無限大のエネルギーが必要になるため、この理論を実現することは不可能です。

時間的閉曲線と呼ばれる時空の歪みを利用する抜け道があるらしいですが、これも理論の域を出ません。

ヒッグス・シングレットという未発見の粒子を利用すれば、過去にモールス信号を送ることが可能という理論もありますがこれも理論の域を出ていません。

ニコ・トスカーニ

そういえば、『インターステラー』はモールス信号が重要な役割を果たしていましたね。
『TENET テネット』

出典:IMDB

よくSFに出てくるワームホールも存在自体が未発見であり、やはり理論の域を出ていません。

そもそもワームホールがタイムマシンとして機能するかどうかする不透明です。

『TENET テネット』では「エントロピーを減少させることで時間が逆方向に動いているように見える」と説明されていました。

ニコ・トスカーニ

私もちゃんと理解していると言い難いですが、エントロピーとは乱雑さを表す物理量のことです。

例え話をすると、まず想像でしてほしいのですがコーヒーにミルクを入れるとします。

コーヒーにミルクを入れ、攪拌するとコーヒーとミルクは混ざり合ってミルクコーヒーになります。

もはやミルクとコーヒーを分離するのは不可能で、この状態をエントロピーが増大した状態と言います。

エントロピーは基本的に増えていくものですが、『TENET テネット』の未来人はエントロピーを減少させるテクノロジーを開発しました。

これにより、エントロピーが減少する→時間が逆行するという『TENET テネット』の基本設定が成り立っています。

ニコ・トスカーニ

※あくまで私が理解した超大雑把な理屈です。

もちろん、エントロピーを減少させるテクノロジーなど存在しないのであくまで劇中のフィクション設定です。

このように過去に戻ること自体が現時点では不可能であり、過去に戻って何かをしたらどうなるかは理論、想像の域を出ません。

SFでもよく語られていますが、過去で行動した場合、主に3つの可能性が発生すると考えられています。

過去に干渉はできない

面白味が無いためか、このパターンが用いられるSF作品は少ないです。

ロバート・J・ソーヤーの小説を原作にしたテレビドラマ『フラッシュフォワード』(2009)では、未来を変えるために行動しても結局、未来は同じような結果に収束という結論になっていました。


物理学の理論で「現在が未来を決めるのではなく、未来が現在を決定するという」説があります。

ニコ・トスカーニ

例え話をすると料理がそうです。

特定の料理を作ろうとすると、どんな材料を使い、どんな工程で料理するかは自ずと決まってきます。

これは完成した料理という未来が現在の行動を決定しているとも言い換えられます。

「未来は結局変えられない」というのは「過去に干渉しても現在は変えられない」とほぼ同義です。

『TENET テネット』では「祖父のパラドックス」(または「親殺しのパラドックス」とも)が例えに用いられていましたが、この理論では、「自分が存在している以上、過去に戻って祖父を殺すのは不可能」ということになります。

『TENET テネット』

出典:IMDB

SFの名作である『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)も結果的にはそうです。

過去にタイムトラベルしたマーティ(マイケル・J・フォックス)は、若いころの自分の両親に出会います。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』

出典:IMDB

マーティは過去世界で大活躍し、若き日の彼の母親がマーティに恋心を抱くようになりますが、結局彼の両親は結ばれマーティの存在は守られます。

これは、過去世界にタイムトラベルしたマーティの存在を含めて、それらがすでに起こった出来事であり、結局、現在も未来も変わらないと言い換えられます。

並行世界(パラレルワールド)になる

便利なのか、これはSF作品で結構見かけるパターンです。

タイムマシンが完成し、過去に多くの人や物資を送ったとします。

バタフライ効果と言う理論があり、ごくわずかな変化でもそれが多くの出来事に影響する可能性があります。

例えば、『サウンド・オブ・サンダー』(2005)という映画では、白亜紀にタイムトラベルした旅行者がわずか1.3グラムの何かを持ち帰ったことで、進化の過程に重大な影響が出てしまいました。

そのまんまのタイトルの『バタフライ・エフェクト』(2004)でも主人公のわずかな過去改変が重大な変化をもたらすことが描かれています。

『バタフライ・エフェクト』

出典:IMDB

ニコ・トスカーニ

並行世界理論ではこうはなりません。

並行世界理論の場合、過去改変をするとその時点で違う世界線が出来上がります。

タイムトラベラーが元々いた世界はその世界線としてそのまま存在し、過去改変を行った世界は全く違う並行世界として同時に存在することになります。

テレビアニメ『STEINS;GATE』(2011)はこれを少しひねった設定になっていました。

同作では電話レンジ(仮)を使用すると、使用者の意識を過去に送ることができる設定になっていましたが、改変された世界はそのまま世界として構築され、それ以外の世界線は可能性としてのみ存在することになっていました。

『SSTEINS;GATE』

出典:IMDB

並行世界理論をまんま活用したのが、テレビドラマ『Terra Nova 〜未来創世記』(2011)です。

『Terra Nova 〜未来創世記』では人口爆発と大気汚染で壊滅的な状態になったことで、白亜紀にタイムトラベルし、汚染の無い世界で人類が新しい生活を始めるという世界観ですが、並行世界理論を採用しています。

『Terra Nova 〜未来創世記』

出典:IMDB

白亜紀で人類が何かしても、それは別の並行世界として構築され、タイムトラベルもとの世界線には影響しない設定になっています。

『ターミネーター』シリーズもタイムトラベルものの代表例ですが、何度もリブートされています。

ニコ・トスカーニ

『ターミネーター』(1984)と『ターミネーター2』(1991)と『ターミネーター:ニュー・フェイト』(2019)以外は全部並行世界の出来事と思ってしまえば一応納得いきます。
『ターミネーター:新起動』

(C)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

また、タイムトラベルものとは違いますが、山ほどのスピンオフ作品を生み出した『Fate』シリーズは並行世界理論を最大活用しています。

一応、正史扱いの『Fate/Stay Night』と直接つながる作品はほとんどなく、大半のスピンオフ作品が並行世界扱いです。

『Fate/Zero』

出典:U-NEXT

ニコ・トスカーニ

並行世界は便利ですね。

過去は変えられる

『TENET テネット』は世界の滅亡を阻止するために時間を逆行するサスペンスです。

「過去は変えられない」では話にならないので、言うまでもなく『TENET テネット』はこのパターンです。

『TENET テネット』

出典:IMDB

このパターンは非常に多く、比較的最近の例だけでも『LOOPER/ルーパー』(2012)、『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)など挙げていくとキリがありません。

『TENET テネット』で面白いのは、「今の自分が無事なのだから、過去に逆行した自分は無事にミッションを完遂したはず」という論理に最後まで決着がつかないことです。

映画ではいかにもノーランらしい熱い(男臭い)決着がついています。

『TENET テネット』

出典:IMDB

また、SFの大家‎ロバート・A・ハインライン‎の『夏への扉』は未来へのタイムトラベルと過去へのタイムトラベルが両方書かれている作品で、2020年以降、日本で映画化予定です。

『TENET テネット』とタイムラベルの設定を解説:まとめ

以上、いかがでしたでしょうか?

タイムトラベルはまだ完成に程遠い技術であり、タイムトラベルが実現した場合に起きる現象は理論、または想像の域を出ません。

だからこそ、多くの作家の想像力を掻き立てるのでしょうね。

タイムトラベル物の映画は山ほどありますが、『TENET テネット』もその代表作として名前を連ねることになるでしょう。

『TENET テネット』は情報量が多くて疲れるので、こだわりが無いなら字幕より吹替で観た方がいいと思います。

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