とにかくヤバいと評判の映画『ミッドサマー』。
『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督も大絶賛です。
#ミッドサマー『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督2019年ベスト映画に挙げられています pic.twitter.com/KV80kvOtKz
— 全国公開中『ミッドサマー』公式☀️ (@midsommarjp) February 27, 2020
独創的で、今までに見たことのないタイプのホラー、というかジャンル分けも難しいといわれています。
しかしどれだけ斬新な映画であっても映画が誕生してから125年目の2020年に何にも似ていない映画などあるわけありません。
調べてみれば過去のいろんな映画の影響を受けていますし、アリ・アスター監督もそれを正直に公言しています。
というわけで今回は『ミッドサマー』に影響を与えた映画を5本選んで紹介したいと思います。
目次
『ミッドサマー』が影響を受けた映画5本!
『ウィッカーマン』(1973年)
ロビン・ハーディ監督の『ウィッカーマン』はイギリスの敬虔な牧師が、行方不明の少女を探してほしいと依頼され、怪しい風習があるといわれているスコットランド西海岸のサマーアイルという島に行くという物語です。
牧師はそこでペイガニズム(キリスト教普及以前の自然崇拝や多神教の文化の総称)が根付いていることに気づき、そして島民たちの恐ろしい風習に巻き込まれてしまいます。
シライシ
「ミッドサマー」と合わせてどうぞ・・・「ウィッカーマン」The Wicker Man(1973年製作) pic.twitter.com/LB5yE4W0hQ
— 内田 涼 (@uchidaryo_eiga) February 25, 2020
『ミッドサマー』のスウェーデンのホルガ村でも具体的宗教名はわかりませんが、あきらかにキリスト教以前の自然崇拝が根付いています。
異文化の中でのカルチャーギャップが恐怖を生み出したり、異様な祭りが開かれているところも同じです。
そして『ミッドサマー』でも『ウィッカーマン』でもクライマックスで盛大にあるものを燃やすんです。
余りに似過ぎているのでアリ・アスター監督は逆に『ウィッカーマン』を見返すことはなかったそうです(笑)
『ウィッカーマン』ではタイトル通り”ウィッカーマン”という古代ガリア時代からある木でできた巨大な人型の檻の中に人を入れて燃やす儀式が行われます。
シライシ
ちなみに『ウィッカーマン』は73年版は名作と名高いですが、2006年にニコラス・ケイジ主演でリメイクされた『ウィッカーマン』も珍作として人気ですよ(笑)
『神々の深き欲望』(1968年)
日本映画界の巨匠・今村昌平監督が作り上げた構想6年撮影2年という超大作です。
高度経済成長期の日本、土着信仰が残っている沖縄のクラゲ島の神聖な田んぼに謎の赤い巨岩が立ちます。
それは島の根吉という男が妹のウマと近親相姦を行って神の怒りを買ったからだといわれ、根吉は村八分にされながら穴を掘って岩を埋めるように強制され、妹は島の区長・竜の妾にされてしまいました。
そんな中、島の産業である製糖業の水質を調べるために東京の製糖会社の測量技師・刈谷がやってきて、根吉の息子・亀太郎と島の水源調査に乗り出します。
その後に刈谷は亀太郎の妹トリ子と恋仲になり、クラゲ島に骨をうずめる覚悟をしますが、本社の命令には逆らえず、結局東京に戻ってしまいます。
そしてその後、クラゲ島は近代化の波に飲み込まれ、根吉とその家族たちには決定的な悲劇が起きてしまうのです…。
シライシ
どうやらアリ・アスター監督は来日時のトークイベントではっきりとかなり影響を受けたと明言したようです。
「ミッドサマー」上映後のアリ・アスターのトーク(lilicoが聞き役)。影響を受けた日本の作家は?という質問に溝口健二や黒沢清の名前を挙げつつ、今回最も参考にしたのは今村昌平の作品群(「楢山節考」、「神々の深き欲望」)とのこと! pic.twitter.com/mSpFL1gbYA
— 朝田 (@yoshihiko_asada) January 30, 2020
『神々の深き欲望』では日本の因習が明るい沖縄の陽光の下で描かれ、その中で東京から来た測量技師の刈谷が最初はギャップに戸惑います。
そんなところも『ミッドサマー』と似ていますが、終わった時の後味はだいぶ違いました。
「神々の深き欲望」
ミッドサマーに影響を与えた作品らしく、現代文明から隔絶された地に外から人が訪れるという設定は確かに似てるのかも。
土着信仰や伝統と近代化の狭間で翻弄される人々。近親相姦。性と愛。差別そして迫害。
不気味でおぞましい日本の神話。
邦画で描かれる湿度高めの暑さが好き。 pic.twitter.com/xoBpOfu7L1— (@aisurumonowo) February 22, 2020
『神々の深き欲望』は『ミッドサマー』よりも長いスパンの話で、島の風習になじみ残ろうとする刈谷は文明社会に戻され、クラゲ島の伝統も壊されて終わってしまいます。
しかし『ミッドサマー』ではたった9日間の間に主人公のダニーがホルガ村に取り込まれるところまでで話が終わり村の伝統は何ら揺らぎません。
『ミッドサマー』のほうがアッパーなテンションのまま終わってくれるのである意味爽やかです(笑)
アリ・アスター監督は『ミッドサマー』は失恋セラピー映画だと語っているので、あくまでもホルガ村をダニーを受け入れてくれる絶対的なものとして描きたかったんでしょうね。
ちなみに『ミッドサマー』は同じ今村昌平監督の『楢山節考』にも影響を受けているとか。
『楢山節考』といえば日本の”姥捨て”文化を描いた作品として有名ですが、確かに『ミッドサマー』でも超強烈な”姥捨て”が出てきますね…。
『叫びとささやき』(1973年)
アリ・アスター監督は前作『ヘレディタリー/継承』の時からスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンに影響を受けたと公言していました。
ベルイマンはこの記事にはとても書ききれないくらい、北欧を超えて世界中の映画に影響を与えた監督です。
ハードで安易な結末を迎えない物語、独特な撮影、型破りな演出手法、非情な現実の切り取り方、などなど82年に映画監督を引退するまで様々な作品で世界をリードしてきました。
そんな中でも1973年に作られスウェーデン映画ながらアカデミー賞の作品賞にノミネートされた『叫びとささやき』は傑作と名高く、そしてアリ・アスター監督がスタッフたちに『ミッドサマー』撮影前に見せたという映画です。
『叫びとささやき』(1972 Viskningar Och Rop)監督イングマール・ベルイマン出演イングリッド・チューリン、リヴ・ウルマン他。末期の子宮癌を患っている次女アグネスの元に屋敷にやってきた疎遠の長女カーリンと三女マリア。献身的に尽くす召使いのアンナ。アグネスの苦しみを救うのは誰なのか… pic.twitter.com/4gP6sUqYZH
— りざふぃ(Lizafi) (@lizardfufu) June 10, 2019
『叫びとささやき』 恐ろし過ぎる。家族という地獄。血縁より喪失の共感で繋がるとか、確かに『ミッドサマー』の源流にある作品だわ。加えて『エクソシスト』の元ネタでもあるって、ヤバ過ぎるだろベルイマン。 pic.twitter.com/NK8ZXMdAwY
— ®_OM 🍞🥖🌿🌲 (@co2bjetdudesir) February 22, 2020
『叫びとささやき』はスウェーデンの大邸宅で重病で寝たきりのその家の次女アグネスと召使のアンナが暮らしているところから始まります。
そして長女のカーリーンと三女のマリアがアグネスが末期ということでお見舞いに来るのですが、姉妹たちの看病もむなしくアグネスは息を引き取ってしまいます。
次女亡き後、姉妹がそろうことも減り、それぞれに夫と上手くいっていなかったり産脇をしていたりと私生活のゴタゴタも多いので、カーリーンとマリアは維持費だけかかる邸宅を売ることにします。
住み込みのアンナのことも解雇する予定でしたが、そんな話を邸宅内でしている最中、孤独なアグネスの亡霊がそばにいてほしいと現れます。
姉妹は恐れおののいて逃げ出しますが、過去に幼い娘を亡くしていたアンナだけは母性溢れる顔でアグネスの霊を抱きしめてあげるのでした。
シライシ
ちなみにアリ・アスター監督は、ベルイマンが何度も離婚や浮気を繰り返していた自分自身を投影した作品を多く作っていたことに一番影響を受けたと語っています。
『ミッドサマー』も『ヘレディタリー/継承』も監督の個人的体験をもとにした作品で、ベルイマンの個人の体験を芸術に昇華する姿勢そのものをオマージュしていたんですね。
シライシ
『2000人の狂人』(1964年)
こちらは悪趣味スプラッターホラーの元祖にして帝王ハーシェル・ゴードン・ルイスの代表作。
アメリカ北部の都会の若者たちと教師が、たまたま南部を旅行中に謎の村に迷い込みます。
その村では祝祭が行われており、当初彼らは村人たちに異様に歓迎されるものの、突然様子が一変!
なんと村人たちはかつて南北戦争で北軍に皆殺しにされた亡霊であり、陽光照らし明るいカントリーミュージックが流れる中、怨念で蘇った彼らの北部人への残虐な復讐が始まります。
昼間の牧歌的な田舎の風景の中で若者たちが血塗れで殺されまくる本作はホラー映画の残酷表現の転換点になっています。
とにかく残酷描写のバリエーションがすごいです。
スプラッター映画の父ハーシェル・ゴードン・ルイスの2000人の狂人はタイトルの秀逸さとテンポの良さと住人達の狂気が最高水準で融合された傑作だと思うの。コメディ風に人体が破壊されていくのがとても不気味。陽気すぎる。これとコフィー はエクスプロイテーション映画の極北。 pic.twitter.com/nwyKlsY7wK
— 伊藤チコ@革命的cinema同盟 (@the_pulp_cinema) September 27, 2019
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「ミッドサマー」って「ウィッカーマン」や「2000人の狂人」みたいな話なの? pic.twitter.com/gTfQEKVJ6N
— 小玉大輔 (@eigaoh2) February 21, 2020
村の祝祭が100年に一度だったり(『ミッドサマー』は90年に一度)、バカな男たちは先に殺され女の子が残るのも同じです。
今見てもスプラッター描写は強烈です。
シライシ
『悪魔のいけにえ』(1974年)
これは亡きトビー・フーパー監督の田舎ホラーの金字塔ですね。
色んなホラーに影響を与えている傑作でニューヨーク近代美術館にフィルムが保管されている芸術的ホラーです。
車での旅行中、テキサスの田舎に訪れた若者グループが変なヒッチハイカーを乗せてしまったことをきっかけに狂気の殺人一家の餌食になってしまうというお話。
『ミッドサマー』が影響を受けているのは明白で、明るいうちに怖い事が起きる点も同じですし、加害者側は被害者側にとっては異常な行為を当たり前だと思っている異様さ、絶望感も共通点です。
そして『ミッドサマー』で一つ明白に『悪魔のいけにえ』オマージュしているなと思った点があります。
名前はぼかしますが、後半に若者グループの一人が殴り殺されるシーンで、殴り殺す側の村人が別の殺された若者の顔の皮を被ってるんです。
シライシ
その他、クライマックスで主人公のダニーが薬物でトリップした状態で悲しみのあまり泣き叫ぶと、ホルガ村の女性たちが一緒に同じテンションで泣いてくれるという気が狂いそうになる場面があります。
あれも『悪魔のいけにえ』のラストで生き残った女の子が殺人一家の食卓に連れてこられ泣き叫ぶと、一家が笑いながら一緒に叫ぶという場面に似ています。
『悪魔のいけにえ』を撮っていて最高だと感じた瞬間は?「のこぎり一家がディナーの食卓に集う場面だな。密室に緊張が張りつめ、非道で病的な暴力が爆発する。(スタッフは全員ゲロを吐いていたが)演出していて一番楽しかったよ」トビー・フーパー pic.twitter.com/3RrG2y3YWY
— 映画『レザーフェイス―悪魔のいけにえ』公式【10/17 BD&DVD発売】 (@akumanoikenie) October 23, 2015
シライシ
そしてホラーとしてエンタメとして最高に面白いのに芸術的という点も同じですね。
『ヘレディタリー/継承』と『ミッドサマー』の共通点は?
『ミッドサマー』は当然アリ・アスター監督のデビュー作『ヘレディタリー/継承』にも、画面の暗さはともかく、よく似ています。
ざっと共通点を上げるとこんな感じです。
- 主人公が精神を病んでいてそこから不幸と恐怖が始まる
- 主人公の家族に最悪なことが起きる
- 親しい人物との不協和音が悲劇を呼ぶ
- 邪教信仰が出てくる
- 人間の頭部が盛大に破壊される
- 裸の老人たちが出てくる
- 最後は祝祭ムード
- バッドエンドにも見えるがある人物は新しい自分に生まれ変わるのでハッピーエンドにも見える
- 監督の個人的体験が元ネタ
やはり題材は変わっても作風は同じですね。
シライシ
どちらも最高に怖くて一生心に残ります。
『ミッドサマー』が影響を受けた映画まとめ
#ミッドサマー こんにちは
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沢山のご希望を頂いておりました、未公開シーンを含むディレクターズカット版が、この度の大ヒットスタートを受けて、TOHOシネマズが運営する上映リクエストサービス「ドリパス」にてリクエストを募ることが決定いたしました。
上映時間は170分、R18+指定となります。 pic.twitter.com/nezHoNHIme— 全国公開中『ミッドサマー』公式🌻💐☀️ (@midsommarjp) February 25, 2020
完全版ではさらなるオマージュ元も発見できるかもしれません。
そして今回紹介した『ミッドサマー』に影響を与えた映画も配信やレンタルで鑑賞可能なのでぜひ『ミッドサマー』鑑賞前後でチェックしてみてください。