『ミッドサマー』R18のディレクターズカット版は何が違うのか?R15版との比較を交えて徹底解説

『ミッドサマー』ディレクターズカット版と通常版をネタバレ込みで比較!より納得しやすい物語に?

出典:『ミッドサマー』公式ページ

公開から話題を集めてスマッシュヒットを続け、ミルトモでも何度も取り上げている映画『ミッドサマー』。

そんな『ミッドサマー』の170分R18指定のディレクターズカット版が3月13日より全国公開されています。

いったいどんなシーンが増えていて、なぜR15からR18になっているのか、それによって映画のストーリーやテーマにどんな変化が生まれているのか、解説していきたいと思います。

『ミッドサマー』ディレクターズカット版と通常版の違い【ネタバレ】


主人公ダニーの彼氏・クリスチャンについて

ミッドサマー』ディレクターズカット版で一番増えているのが、主人公ダニーと一応恋人だけど微妙な距離感で心ない雰囲気のクリスチャン周りのシーンです。

『ミッドサマー』

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なぜクリスチャンのシーンが増えているのかと言えば、それは彼が最後にたどる顛末の納得度を増すためでしょう。

最後、ホルガ村の儀式の仕上げとして、メイクイーンになったダニーから生贄として指名され、熊の毛皮にくるまれて燃やされてしまうクリスチャン。

通常版だと「確かにダニーとは上手くいってないけど、そんなことされるほど悪い人かな」と思ってしまう部分もあったのですが、ディレクターズカット版だと「これは殺されても仕方ないかも」と納得してしまう人物像になっています。

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もちろん極悪人なわけではないんですが。

まず冒頭、ダニーが妹の無理心中によって家族を失って泣き叫んでいる時、彼女の家の前までやってきたクリスチャンがその大きな鳴き声を聞いて明らかに嫌そうな顔をするシーンがあります。

そして6月になって傷心のダニーに相談もせずスウェーデンに行こうとしていることを咎められての口論も尺が増えていました。

通常版だとはっきりぶつかり合うことは少なかったダニーたちカップルの口論シーンも全体的に増えています。

その他、ホルガ村についた初日がダニーの誕生日で、通常版だと一応クリスチャンが小さなケーキを用意してくれているので「一応彼氏らしいことしているな」と思うのですが、ディレクターズカット版だと仲間のペレからその日がダニーの誕生日だと聞かされてようやく思い出し、無理やり即席でケーキを用意していたのが分かります。

ダニーが老人が崖から飛び降りる”アッテ・ステューパ”の儀式を見て動揺している時も、あまり彼女に寄り添おうとしていないのが分かりますし、後述するばっさりカットされていた夜のシーンの後にダニーが「こんな村からは早く出ていきたい」というとクリスチャンは「今は貴重な儀式が見られる大チャンスだ。君だけ帰ればいい」と突っぱねるのです。

ショックを受けたダニーはその夜、クリスチャンと仲間たちが自分を置いて村をこっそり出て行ってしまうという夢を見ます。

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この夢自体は通常版でもあったシーンですが、ダニーがこの時に村から出ていきたい、クリスチャンを信用できないと思っていたからこそ、こんな不安を凝縮した夢を見たんだなと納得度が増しました。

その後、ロンドンからダニーたちと同じように儀式の見学に来ていた学生カップルの彼氏サイモンが急にいなくなった(後にこの時点ですでにホルガ村の毒牙にかかっていたことが判明)と分かってそのことをダニーがクリスチャンに告げると、彼は自分のことは完全に棚に上げて「逃げ帰ったのか、あいつ最低だな」と吐き捨てます。

しかし、そんなことがあってもダニーは結局クリスチャンに「昨日は言い過ぎた」と自分の方から謝ってしまうのです。

しかもクリスチャンは自分の方も謝る、ということはせずに適当に「ああいいよ」みたいな態度をとってうやむやにしてしまうのです。

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こういう嫌な人間関係を描かせたらアリ・アスター監督は抜群です。

こんな風にダニーとの恋愛関係面でも結構最低なクリスチャンですが、彼のよくないところはそこだけではありません。

文化人類学を学び北欧文化についてずっと調べて卒論に向けて準備していたジョシュに対しても、「俺はホルガ村について論文を書きたい」と言い出し、譲らなくなります。

ディレクターズカット版ではジョシュとの口論のシーンが増えて、ジョシュから「俺はずっと準備をしてきた!お前は自分でテーマも決められないのか?なんで大学院生になんかなったんだ」とキツい正論をぶつけられるのですが、それでもクリスチャンは思い付きのホルガ村の研究をやめようとはしません。

おそらく彼はもうそんなに好きじゃなくなっているダニーとの関係性を中々切れないのと同じように、単に社会人になりたくないというだけで院生になったのではないかと思います。

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ホルガ村の研究も、これを発表すれば周囲と違う人間になれると考えて思いついたんじゃないでしょうか。

ちなみにクリスチャンは終盤に『ミッドサマー』を見たらだれもが忘れないであろう超強烈な”性の儀式”に参加するのですが、ディレクターズカット版だとそれも「ホルガ村の儀式を体験するため」に引き受けたということが分かります。

そしてその”性の儀式”を見てしまったダニーは決定的に打ちひしがれ、そんな彼女にホルガ村の女性たちは群がり、一緒に泣き叫んでくれるのです。

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とにかく自分のことしか考えていないクリスチャン。

悲しみを究極まで共感してくれるホルガ村の人々。

ダニーが最後にホルガ村のメイクイーンになり、クリスチャンを燃やす決断をするまでの気持ちの流れがディレクターズカット版でより分かりやすくなっていました。

さらに明らかになるホルガ村の風習

ミッドサマー』ディレクターズカット版ではホルガ村の風習がさらに詳しく語られます。

クリスチャンが前述した研究のためにホルガ村について村人に聞いて回る場面も追加されており、ホルガ村の特殊な伝統が明らかになります。

まず劇中で”巡礼”と呼ばれる行為のこと。

ホルガ村の若者は外部に行き、今回のクリスチャンたちのような生贄及び、”外の血”を分けてくれる人間たちを連れてくる役割を持っていることが明らかになります。

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その行為自体を神聖視して”巡礼”と呼んでいるのですね。

追加されたシーンでは、子供を産んだばかりの母親が子育てを村のほかの女性に任せ巡礼に行っているということも言及されていました。

クリスチャンたちをホルガ村に招いたペレも、巡礼者の1人であり、おまけにメイクイーンにまで選ばれるダニーを連れてきた彼は長老からより高い評価を受けています。

また村人たちにはそれぞれ役割が与えられており、マークが村の先祖の霊が宿るという古木に立ちションベンをしてしまった時に怒り狂うウルフには、90年に一度の儀式を滞りなく行うよう管理する役割があったことや、クリスチャンを誘惑する少女マヤにも外部の人間の”種”を受け入れる役割があったのであろうことが分かります。

また、村に到着したばかりの場面では、ペレがダニーたちが寝泊まりする家の壁に歴代の”メイクイーン”の写真が貼ってあること、またホルガ村では人生を72年と考え、それを18年ずつ4つに区切って植物のサイクルと同じように春夏秋冬で例えていることを説明するシーンが足されています。

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ホルガ村の人間が72歳で人生のサイクルが終わり次世代のために死ぬのは何度も書いてきた通りですね。

またメイクイーンを選ぶ行為自体は90年に一度ではなく毎年行われていることが写真の数々でわかります。

気になるのはのちのメイクイーンを決める儀式のシーンでも、その前のメイクイーンが誰だったのかはっきりわからないところです。

もしかするとメイクイーンに選ばれた人間はもうこの世にはいないのかもしれません。

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選ばれた女王も結局は生贄なのかも…。

劇中にも出てくる意味深なタペストリーが気になります。

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『ミッドサマー』本編はダニーがメイクイーンとして祝福されている絶頂のところで終わってしまうのであの後どうなるのかはわかりませんが、彼女にもあの後恐ろしい運命が待ち受けている可能性があります。

R18になっている理由について

ミッドサマー』ディレクターズカット版がR18指定になっている理由ははっきり一つだけです。

終盤でクリスチャンとホルガ村の少女マヤが前述した”性の儀式”を行っているシーンのモザイクが無くなっているためです。

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ほかにグロいシーンや性的なシーンが増えているわけではありません。

このシーンのモザイクが取れていることで明らかになるのは、行為を終えたマークの男性器に血が付着していることです。

つまり、マヤは処女で儀式に臨み、村の存続のためにあったばかりの男の種を受け入れたことになります。

モザイクが取れただけで元々異常だったシーンがさらに恐ろしく映ります。

ばっさりカットされていたとあるシーン

ミッドサマー』ディレクターズカット版は通常版の色んなシーンのカットされていたセリフなどが付け足されているのですが、一ヵ所だけ丸々カットされていたシーンが加わっています。

ダニーたちが老人が崖から飛び降りる”アッテ・ステューパ”を目撃してショックを受けていたその夜、彼女らは村人たちにまたとある儀式に呼ばれるのです。

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この場面は『ミッドサマー』のほかの場面と違い暗い野外が映されます。

川のほとりに村人たちが集まり、装飾をした木を川に投げ込みます。

彼らが信仰する捧げものを川に投げ込む儀式のようですが、とある男が「女神はこんなものでは満足しないぞ」と声を上げると、木と同じ装飾をまとった年端もいかない少年が、「自分を投げ込んでほしい」と志願するのです。

そして彼は縛られ、おなかの上に重しを乗せられ、川に投げ込まれそうになるのですが、見ていたダニーが「やめて!」と思わず叫ぶと、周りの女性たちが「彼は勇気を示した!十分よ!」と言って少年を解放させます。

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明らかに最初から少年を殺すつもりのない茶番なのですが、こうやって村や神のために命をささげることを尊いことだと幼いうちから洗脳しているのだなとゾッとする場面でした。

その直後に前述したダニーとクリスチャンの帰るか帰らないかの口論のシーンが始まります。

ちなみに通常版だと、殺された外部からの人間(クリスチャン、マーク、ジョシュ、サイモン、コニー)の内、コニーだけどうやって殺されたのかが不明だったのですが、追加された川のシーンと、中盤の短い女性の悲鳴が聞こえる場面、そしてラストに出てくるコニーの死体がびしょ濡れになっていることから、彼女は川に投げ込まれて殺されたのだとわかるようになっています。

その他細かい追加シーンなど

ミッドサマー』通常版だと終始明るいのに一度も太陽が映るカットがないのですが、ディレクターズカット版では一か所、不気味な音楽と共に、雲がかかって白っぽく光る太陽が映される場面があります。

その直後に、コニーがサイモンがいなくなっていることに気づくというシーンに繋がるので、ここから「明るい世界の中で惨劇が起きます」というサインのような役割で太陽を挟み込んでいたのだと考えられます。

そこまで重要な場面以外で、ホルガ村に向かう車の中のシーンが増えており、マークの下ネタトークや、ジョシュにルーン文字について学ぶことを進めているペレの会話などが足されて、彼らのキャラクターや後の展開の伏線が盛り込まれています。

また、序盤の付け足された会話のシーンにより、ダニーが大学で心理学を学んでいることが明らかになります。

おそらく双極性障害の妹のため、そしてダニー自身も抗不安剤を服用していることも関係していると思えるのですが、結局ホルガ村の人々にいいように心理を弄ばれて取り込まれてしまうことを考えると、より皮肉さが増しました。

『ミッドサマー』R18ディレクターズカット版とR15通常版の違いまとめ

以上、ここまで『ミッドサマー』ディレクターズカット版について、解説してきました。

通常版とディレクターズカット版を並べて見て細かくチェックしたわけではないのでまだまだ発見はあると思います。

たしかに170分の上映時間は長いですが、『ミッドサマー』を少しでも気に入った方は見ていただければ理解も深まるし、より怖さや感動も増すでしょう。

ぜひ劇場でパワーアップした異様な世界観を堪能してください。

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