辻村深月の同名原作を『あん』『光』の河瀨直美監督が映画化した『朝が来る』。
子どもが生まれない夫婦が養子縁組で14歳の少女が産んだ子供を引き取ってから6年、実の母親である少女が「子供を返してください」と夫婦を訪ねてきます。
変わり果てた見た目の少女にいったい何があったのか、衝撃と感動のミステリーです。
- 俳優陣の素晴らしい演技が光ります
- ミステリーよりも登場人物たちの心情に引き込まれます
- 特別養子縁組の制度についても詳しく知れます
今回は試写会で一足早く見させていただいた『朝が来る』をネタバレなしでレビューします。
『朝が来る』作品情報
作品名 | 朝が来る |
公開日 | 2020年6月5日 |
上映時間 | 129分 |
監督 | 河瀨直美 |
脚本 | 河瀨直美 高橋泉 |
原作 | 辻村深月 |
出演者 | 永作博美 井浦新 蒔田彩珠 浅田美代子 田中偉登 中島ひろ子 平原テツ 駒井蓮 山下リオ 森田想 堀内雅美 山本浩司 三浦誠己 池津祥子 若葉竜也 青木崇高 利重剛 |
音楽 | 小瀬村晶 |
『朝が来る』あらすじ【ネタバレなし】
結婚してしばらくたち、そろそろ子供が欲しいと考え始めた栗原佐都子(永作博美)と清和(井浦新)夫婦はとある壁にぶち当たります。
清和が無精子病だったのです。
様々な不妊治療をしてみますが、上手くいかず、夫の精神ばかりが病んでいくのを見て、佐都子は「2人だけで生きていこう」と子供を諦めることを提案しました。
栗原夫婦はつらい気持ちを忘れるように2人でいろんな場所を回ります。
そんなある日、2人はたまたまテレビでやっていた子供ができない夫婦と子供を産んでも育てられない母親と子供をつなぐ「特別養子縁組」の制度を知り、NPO法人「ベビーバトン」の代表浅見静恵(浅田美代子)の話を聞きに行きます。
「親が子供を見つけるのではなく子どもが親を見つけるための制度」という言葉に共感した2人は、ベビーバトン制度に参加し、後に片倉ひかり(蒔田彩珠)という14歳の少女が産んだ男の子を引き取って「朝斗」と名付けました。
ひかりは佐都子に手紙を渡し、「ごめんなさい。お願いします。」とか細い声で子供を託しました。
それから6年、朝斗は小学校入学前で、親権は栗原夫婦が持っていましたが、自分たちは実の親ではないこともしっかりと説明済みでした。
そんなある時、佐都子のもとに一件の電話が入り、片倉ひかりを名乗る女性が「子供を返してほしいんです、それがだめならお金をください」と言ってきます。
後日、栗原家を訪れた女性は6年前の片倉ひかりとは変貌しており、佐都子と清和は「あなたは誰ですか?」と尋ねます。
しかしその女性は紛れもなく片倉ひかりでした。
6年前、勉強と部活を頑張る普通の女子中学生だった彼女は、バスケ部のイケメン麻生巧(田中偉登)に告白され、深い愛を育みます。
しかし、手違いで子供ができてしまい、ひかりは世間体を気にする家族から勧められて半ば無理やり「ベイビーバトン」制度に参加させられ、巧とも引き離されます。
広島の離島で寮生活を行い、そこで親しい友人もできるひかりですが、本心では愛する人との子どもと産んだらすぐに離れなくてはいけない現実に苦しんでいました。
そして子供を産んで栗原家に預けたひかりは、その後も家族や親せきと折り合いが合わず、10代のうちに家を飛び出し、働いて暮らし始めます。
しかしそこからがさらなる苦しみのはじまりでした。
いったいひかりに何があったのか、なぜ急に栗原家に現れたのか、そして実の母親と育ての両親と子供の関係はどうなるのでしょうか…。
『朝が来る』感想
感想・一級品の演技と演出に引き込まれる
辻村深月の原作からして『朝が来る』のジャンルはミステリーということになっているのですが、真相を探ることには重きは置かれていないと思います。
それゆえにストーリーは栗原夫妻が子供を作れず苦しんだ過去と特別養子縁組で朝斗を引き取り幸せに育てている第一部とひかりが予期せず子供を産み、引き離され、その後も様々な苦難に見舞われる様を描く第2部にはっきり分かれています。
ミルトモ 編集部
とにかく演出と演技が丁寧で、子供が作れない夫婦の苦悩も、産んだばかりの子供と別れる少女の悲しみもしっかり尺をとってじっくり描かれます。
余計な説明セリフもなく、ちょっとした表情の変化や口調の揺らぎだけで登場人物たちの信条を繊細に語っていく手腕はさすが河瀨直美監督です。
ミルトモ 編集部
ひかりの純真無垢な14歳の時代と子供も産んで世の中の厳しい現実もたくさん味わった20歳の時代も見事に演じ分けていましたし、彼氏の巧と別れなければならないシーン、子供を栗原夫妻に渡す場面の演技は涙を誘われました。
栗原家も片倉家もキャストたちで撮影前から一緒に住んでみるという役作りをしたそうで、ロケ地になる学校にも実際に訪問するなどの徹底ぶりだったとのこと。
役者たちの演技を見ているだけでも十分に楽しめる作品です。
また本業の役者とは別に、栗原夫婦が「ベビーバトン」の説明会に行くシーンで養子縁組をした体験談を語る家族、ドキュメンタリー番組で自分で育てられない子供を産む予定の女性たちのインタビュー映像などは、本当にNPO法人「babyぽけっと」で養子縁組と出産を経験した人々を起用しており、演技とは違う生々しさ、真に迫る言葉が出ています。
このように、全体を通して「今後どうなっていくのだろう」というストーリー展開よりも、その場その場の登場人物たちの心情の機微、言葉のやり取りなどに引き込まれる映画でした。
そして河瀨監督がこの映画を撮った理由には原作「朝が来る」を読んで初めて「特別養子縁組」という制度を知ったからという点があります。
特別養子縁組制度とは?
河瀨監督は「特別養子縁組制度の存在をこの映画を通して伝え、子供の命を救う方法が世の中にたくさんあることを知ってほしい」と語っています。
そもそも「特別養子縁組」とはどんな制度なのか。
もちろん私も詳しくは知らないのですが、調べてみると「特別養子縁組」は下記のようなものでした。
普通養子縁組だと引き取った側の家庭では子供の戸籍は「養子」になるが、特別養子縁組だと戸籍上も「実子」となり、もともと子供を産んだ親との親族関係は終了します。
-
- 実親の同意
実親の意思が確認できない状態、もしくは虐待などの過去がある場合は不要。
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- 養親の年齢
婚姻して言うる夫婦で25歳以上、片方が25歳以上ならもう片方は20歳以上で可。
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- 養子の年齢
6歳未満、しかし2020年4月1日からは法改正で原則15歳未満に変更。
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- 半年間の監護
養親が引き取った子供を半年以上監護した後に成立する。
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- 要保護性
実親による養育が難しく、子供のために養子縁組が必要と判断された場合。
ちなみにここ数年では年間600件ほど特別養子縁組が成立しているようです。
『朝が来る』でもこの制度の説明が浅田美代子演じる浅見から細かくされます。
浅見がなぜ「ベビーバトン」を始めたのか、「ベビーバトン」でお世話になっている母親たちにはどんな事情があるのかのも社会の闇などが詰まっていて見逃せない部分です。
『朝が来る』まとめ
#朝が来る 特報映像はご覧いただけましたか?
本日より順次、全国の上映劇場のスクリーンでも展開されます🎞
お楽しみに✨#辻村深月 📚#河瀨直美 🎬#永作博美#井浦新 #蒔田彩珠#浅田美代子#映画#6月5日公開 https://t.co/3PWDM9Bvfe pic.twitter.com/07bGRMRav4— 映画『朝が来る』 (@asagakuru_movie) March 6, 2020
ここまで『朝が来る』についてレビューしてきました。
リアルで心に迫る人間ドラマで最後は静かな感動があります。
ちなみにまだ楽曲は公開されていないのですが、エンドロールで流れるC&Kの主題歌「アサトヒカリ」も作品の内容にマッチして素晴らしかったです。
曲名に朝斗とひかりの名前が入っているんですね。
『#朝が来る 』主題歌が、C&Kさん書き下ろしの「アサトヒカリ」に決定🎶
河瀬直美 監督との偶然の出会いから始まり、完成した主題歌は、主人公たちの幸せを祈り、優しく包み込む様なステキな作品です✨楽曲解禁をお楽しみに🎤#河瀨直美 #辻村深月#永作博美#井浦新#蒔田彩珠#浅田美代子 pic.twitter.com/VIwYr5OvA9— 映画『朝が来る』 (@asagakuru_movie) March 13, 2020
そしてエンドロールの途中からこの曲を歌うのがC&Kからとある登場人物たちに変わるのですが、誰が歌っているのか、どのような歌詞の部分を歌っているのかという点も涙を誘います。
エンドロール最後まで席を立たずご覧ください。
『朝が来る』は6月5日公開予定です!
- 永作博美、井浦新、蒔田彩珠の演技が素晴らしいです
- 演出もとても丁寧で能動的に見たくなります
- 特別養子縁組のことについてもっと知りたくなります
- 主題歌「アサトヒカリ」が流れるエンドロールも必見
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