大阪を拠点に、2004年より映像制作者の人材発掘を行っているシネアスト・オーガニゼーション大阪(CO2)の第13回助成作品で、第12回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門及びアメリカのThe Philip K Dick Science Fiction Film Festivalに正式上映され、日本芸術センター第10回映像グランプリでは優秀映画賞を受賞した『メカニカル・テレパシー』。
今回は、本作の主演・吉田龍一さんにインタビューを行い、独自の演技手法や作品への解釈を語っていただきました。
『メカニカル・テレパシー』吉田龍一インタビュー
−−本作『メカニカル・テレパシー』の脚本を読んだ時の第一印象をお聞かせください。
吉田龍一(以下、吉田)「昨今の映画はメリハリのある物語が多い中で、本作はど〜んとくるものが無くて、どちらかというと緩やかに流れていくストーリーだなという第一印象でした。」
−−難解で視聴者によって解釈が分かれるストーリーだと思いますが、そんな中で主役の真崎という人物をご自身にインストールされるにあたり、役作りの準備はどのようなことをされましたか?
吉田「無意識に人が人に惹かれていく物語なので、その“無意識”という点をすごく考えました。無意識を意識的に表現するのはとても難しく、いざその場に立って対峙した時に『言葉を交わして心に響くもの』を意識しないようにしている時点で無意識じゃなくなるんですよね。感情を無視して閉ざしながら、我慢していた意識が開放的にならないように注意して臨んでいました。」
−−真崎が無意識に碧を待つ頃と、自分の感情を意識し始めてからの碧への接し方に関して、確かに微妙な変化は画面上で感じたのですが、その演じ分けはどのようなことを意識されましたか?
吉田「真崎は碧への気持ちがない時は心を可視化する研究に対しての探究心が強い状態ですが、相手を意識し始めた時は相手のために行動するようになるんですよ。そこが大きな違いだと思います。そのために表情や言葉尻の微妙な使い分けを意識して演じていました。」
−−碧役の白河奈々未さんとの共演シーンが多かったと思いますが、ご一緒された印象はいかがですか?
吉田「すごくお綺麗な方だと思います。ただ、印象としては近寄りがたい方かなと思っていたのですが、役柄とのギャップもあって、カメラが回ってないところやクランクアップの時は凄くフレンドリーな方で印象が変わりました。」
−−解釈が分かれそうな本作のストーリーは五十嵐監督からの明確な答えがあって撮影が進んでいたのか、解釈も演者に任せて撮影していたのかどちらでしょうか?
吉田「明確な答えはなく、撮影しながら考えを深めていました。ゴールが明確ではなくても作品の本質的な部分は変わらないですし、細かい言葉尻などが変わる程度なので影響はありませんでした。『ここではまだ気持ちを意識してない』『ここでは優しさではなくその人の欲を出す』と監督からその都度指示があって、やりながらディスカッションをして作っていきました。」
−−メインキャストの3人が『自分』と『心が投影された自分』の2役を演じられていましたが、吉田さんが演じられる上で本心を語れない実際の真崎と可視化された心の真崎の演じ分けで意識されていたことはありますか?
吉田「真崎の心がふと現れるシーンをどう捉えるかが難しいですよね。真崎の思い出であったり、優しさは本心だと思うんです。ですが、色んな感情がある中で出てきた欲やエゴなどがもう一人の真崎になると思い、その感情をイメージして強めに演じていました。特にきっちり決めてはいなくて、解釈の仕方によって演じてます。」
−−例えば、顔つきや喋り方など表面的に見られる違いなどは意識されていましたか?
吉田「監督とも『わかりやすくはしたくない』とお話していました。見た目は真崎でも真崎じゃないなと表面上でわかるようにしたくなかったので、見た目より心の状態を意識していました。」
−−終始抑えめのトーンで抑揚をあまりつけない話し方をされていましたが、監督とのすり合わせで意識的にされていたのでしょうか?
吉田「真崎のようなしっかりと物事に対して探究していくような愚直な人物を演じるには、いろいろなアプローチの仕方があると思うんですが、わかりやすく『演じている』という風にしたくなかったんです。演じるのではなく、同じ心であればその人物になれると思うので、自ずと抑えた喋り方になっていたと思います。」
−−オーバーに演技するというよりは、演じる役の心になってありのままやっているんですね。
吉田「そのままの感情を出していただけなんですよね。だから間を取りすぎな部分もあったんです。言葉は無理やり出したら嘘になってしまうので、現場ではありのままでいることを意識していました。」
−−劇中では真崎がいつ碧を好きになったかがはっきり描かれていませんが、吉田さんなりに真崎はどこでスイッチが入ったのか、どういった解釈をされていますか?
吉田「今作を見た方が各々考えると思うんですが、真崎は、容姿が好き、優しくされたからというような自分へのメリットで碧を好きになったのではないという解釈です。碧はどれだけ社会的圧力を受けても、たとえ地位や名誉をなくしても、一心に(意識不明になった夫の)草一を思い続けていきます。科学的根拠を優先して生きてきた真崎は、碧の自分にはない部分に惹かれていったのではないかと思っています。」
−−本作の一番のテーマとなるのは最後の場面だと思います。碧の最後の選択は果たして正しいのか否か、吉田さんはどのように思われますか?
吉田「ラストの碧の行動は絆であったり信頼であったり、本来人があるべき姿を現しているなと思うんです。社会で生きていれば、メリットがあるからこの会社が好き、メリットがあるからこの人といる、というような損得勘定によるしがらみがありますよね。しかし、そんなしがらみとは関係ない、本当に誰かを想う一番純粋な気持ちを最後の碧の選択が象徴していると思います。碧の判断は素晴らしいと思います。」
−−ラストシーンを美しいと思うのか、それともただのワガママと捉えるのかは解釈が分かれていくと思います。
吉田「かなり分かれると思います。むしろ8割9割の人が『いやいや…』と思うんじゃないのかなと。でも、本質的なメッセージ性はとても強く、めったにない映画だと思ってます。」
−−本作はSF要素も恋愛もある内容だと思うのですが、吉田さんが感じる本作の見どころはどのシーンでしょか?
吉田「ラストシーンですね。暗くなって電気が落ちてカメラが引いていくんですが、その時に音で情景が蘇ってきて泣いてしまったんです。人生とはこんなものなのかな、死ぬ時に思い出すかもしれないなとかいろいろ考えました。」
−−見る人の育ってきた環境によっても感想が変わりそうですね。
吉田「さらに、歳を取ってまた見たら印象が変わると思いますね。1回ではわからないところもあると思うので、2回見て欲しいです。」
−−ラブストーリーという観点で見た時に、碧は草一のことを好きなのはもちろんですが、真崎に惹かれている部分もあった気がします。吉田さんはどうお考えですか。
吉田「碧の境遇は辛いと思うんですよ。圧力を受けながらも、愛する人を何とかしたいと行動していてプレッシャーがあったと思います。真崎に心を開いていったのは、恋愛よりもそんなつらい状況で頼りたいという気持ちがあったからではないかと考えています。」
−−もし真崎が自分の本心を隠す人ではなく伝えられる人だったら違う展開になっていたのかもという妄想も働いてしまうような、ラブストーリーとしても面白く見られる作品になっていたと思います。
吉田「嬉しいです。見ていただく方たちにも色々な意見や解釈を持って楽しんでいただきたいですね。」
インタビュー・構成 / 佐藤 渉
撮影 / 白石太一
▼『メカニカル・テレパシー』監督インタビュー▼
『メカニカル・テレパシー』作品情報
出演:吉田龍一、白河奈々未、申芳夫、伊吹葵、青山雪菜、石田清志郎、時光陸、松井綾香、長尾理世、竹中博文、古内啓子(声の出演)
監督・脚本:五十嵐皓子
撮影:中瀬慧
照明:加藤大輝
美術:松本真太朗
衣装:蔭木いづみ
ヘアメイク:榎本愛子
音楽:宇波拓
録音:川崎彰人
音響:川口陽一
編集:和泉陽光・五十嵐皓子
VFX:守屋雄介
助監督:吉原裕幸
制作担当:清水美和・根本克也
配給・宣伝:アルミード
2018 / 日本 / カラー / 2.4:1 / ステレオ / 78分
公式サイト:https://mechatelemovie.wixsite.com/mechatele/
Twitter: @mechatelemovie
Facebook: @mechatelemovie
あらすじ
ある大学の研究室で、「心を可視化する機械」の開発が行われていたが、実験中に事故が起こり、開発者の三島草一(申芳夫)が意識不明のまま目覚めなくなる。
共同研究者で草一の妻の碧(白河奈々未)は開発を続け、草一の心の可視化を試みていた。
成果を出さない開発を疎ましく思う大学側は、機械の調査という名目で、真崎トオル(吉田龍一)を研究室に送り込む。
可視化された草一を目の当たりにする真崎。
果たして、真崎が目にした人物は、可視化された草一の心なのか、碧の願望が可視化されたのか?
徐々に碧に惹かれていく真崎は、本当に重要なことは何なのかということに気づいていく。
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