第93回アカデミー賞において、作品賞・主演男優賞を含む6部門にノミネートされ、編集賞と音響賞を受賞した『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』。
『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ 宿命』の脚本を務めたダリウス・マーダーが監督を務め、『ヴェノム』『ローグ・ワン/ スター・ウォーズ・ストーリー』のリズ・アーメッドが主演。
突然聴覚を失ってしまったドラマーの青年の葛藤の日々を描いた、Amazonプライムビデオのオリジナル作品です。
マルコヤマモト
目次
映画『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』作品情報
作品名 | 『サウンド・オブ・メタル』 |
公開日 | 2020年12月4日 |
上映時間 | 120分 |
監督 | ダリウス・マーダー |
脚本 | ダリウス・マーダー エイブラハム・マーダー |
出演者 | リズ・アーメッド オリヴィア・クック ポール・レイシー ローレン・リドロフ マチュー・アマルリック |
音楽 | ニコラス・ベッカー |
【ネタバレ】映画『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』あらすじ・感想
突然の難聴に襲われるドラマーの青年
ドラムとギターボーカルの2ピース・メタルバンドの演奏シーンから物語がスタート。
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ドラマーのルーベン(リズ・アーメッド)とギターボーカルのルー(オリヴィア・クック)はカップルでバンドを組み、トレーラーハウスを拠点に全米各地でライブツアーを行いながら暮らしていました。
スムージーを作るミキサーの音、コーヒーが落ちる音など、日常の細やかな音が聞こえる中、ルーとルーベンは幸せそうにダンスをし、他愛のない会話をしながら旅を続けます。
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しかし、とある街のライブハウスに到着した時、ルーベンの耳に異変が起こります。
突然耳鳴りのような「ビーン!」という音が鳴り響き、ライブ中にルーの声もドラムの音も頭の中で籠って聞こえるようになり、最後には音が全く聞こえなくなってしまったのです。
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薬局に行くも、ルーベンは10段階のうち2段階程度しか聞こえていないようで、医者で診察を受けることを勧められます。
聴力検査を受けるルーベンは医師の発する言葉が全く聞こえず、結果全体の7〜8割程度が聴こえてないことが判明。
医師からは大音量に晒される環境を止めることと、テストをしてから治療法を探ろうと提案されます。
人工耳を頭に埋め込む治療法もあるようですが、高額で保険も適用されず、今のルーベンには手術を受ける手立てがありません。
さらに医師は、「衰えた聴力は戻らず今の聴力をできるだけ維持することしかできない」と続けました。
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それでもドラムを叩き続けるルーベンですが、演奏中にルーとコンタクトが取れなくなってしまい、思わずライブハウスを飛び出してしまいます。
そして、ルーに耳が聞こえなくなったことを打ち明けたのです…。
どうにかしてライブツアーを続けようとするルーベンでしたが、ルーは彼の身体を案じて反対したことから、2人は噛み合わなくなってしまいます。
2人は話し合いの末にヘクターという人物に紹介された支援グループのある町へ向かうことにしました。
施設で支援グループのジョー(ポール・レイシー)と彼の聴導犬のルイに迎えられた2人。
ジョーは耳が聞こえませんが、手話と相手の唇を読んで会話をすることができます。
ジョーはルーベンとの面接を行い、彼にここで過ごして手話を学んで新たな生活の基盤を作ることを勧めました。
しかし、ルーと離れて暮らすことになるため、ルーベンはジョーの申し出を断ります。
ライブを続けようと必死にルーを説得するルーベンでしたが、ルーは決心ができません。
頑なに施設には戻らないと取り乱したルーベンに対して、ルーは長年疎遠になっていた父親の元に戻ることを決意し、必ず再会することを約束して2人は別れます。
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支援施設での生活とルーベンに与えられた課題
施設に戻ったルーベンは車のキーとスマートフォンをジョーに預け、外界との連絡を一切撮らないようにと約束させられます。
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施設にはそれぞれ役割があり、ルーベンはまず「ろう者の生活を学ぶ」という役割を与えられます。
ジョーに連れられてろう学校へ向かったルーベンは、そこでダイアン(ローレン・リドロフ)という教師やクラスの生徒たちと出会い、次第に交流を深めていきました。
ある日、ルーベンはジョーに黙って事務所のパソコンでメールを確認。
ルーからのメールには「私のためだと思って頑張って!」という励ましの言葉が書かれていました。
しかし、それがバレたのかジョーに呼び出されたルーベンは「ある課題」を与えられます。
それは毎朝5時に起きて何もない部屋でただ座って過ごすということでした。
ルーベンは言われた通りに毎朝5時に起きてジョーからの課題をこなしますが、じっとしていることができず叫び出し、課題の意味がわかりません。
しかしながら、課題をこなしたりろう学校での支援を手伝ううちに、ルーベンは手話を覚えて施設の仲間たちと打ち解けるようになっていました。
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いつの間にか施設にとって欠かせない存在になっていたルーベン。
ジョーは先のことがチラつき始めているルーベンに、ここでの生活を続けることを提案します。
ある夜、再び黙ってインターネットをチェックしていたルーベンは、ルーの最新ライブ動画を発見。
そこにはルーが1人でエフェクターのようなものを動かしながら歌う姿がありました。
動画を見たルーベンは複雑な表情を浮かべ、ルーのために再び動き出すことを決意したのです。
手術を受ける決意をしたルーベンだったが…
音楽機材とルーとの思い出が詰まったトレーラーを売り払ったルーベンは、聴覚学者にアポを取り、ジョーに書き置きをして施設を出ました。
そしてついに、人工耳のインプラント手術を受けたのです!
手術は無事成功しましたが、しばらくまだ聞こえない日々が続き、4週間後に再来院が必要です。
施設に戻ったルーベンはジョーに手術を受けたことを報告し、自分の人生を考えて今が動き出す時だったんだと伝えました。
そんなルーベンに対して、ジョーは「静寂の瞬間を感じることはあるか?確かに世間は残酷かもしれない。だから静寂こそ心の平穏を得られる場所であり、その場所は君を見捨てない。」と語ります。
そして、ルーベンの全てを理解したように「この選択で君が幸せになることを願っている」と言いました。
難聴はハンデではなく治すものではないという理念のもとに施設を運営するジョー。
先のことを優先して自分勝手な行動をしたルーベンは、施設の理念に反して信頼を失ってしまいます。
次の手術までの期間までも施設には置いてもらえず、荷物をまとめて出ていけと言われてしまいました。
モーテル暮らしをしながらなんとか食い繋ぎ、ルーベンは再び病院を訪れます。
両方の後頭部に機器をつけて、少しずつ音が聞こえてくるようになりますが、医師に機械を調節してもらってもジンジンというノイズが入ります。
医師によるとこの機器はルーベンの脳を覚醒させて音が聞こえるようにしているだけで、ルーベン自身の聴力が戻ったわけではないと説明しました。
そして最後に「焦らずうまく付き合っていくしかない」と言われ、ルーベンははっとした表情を浮かべました。
大事なものを売り払ってまで手術を受けても、ルーベンの難聴は完治しないどころか、機器をつけたことによってノイズのような不快音が頭の中に響き渡ります。
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『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』の結末
病院を出たルーベンは、ルーの家を訪ねると父親に出迎えられます。
ルーベンを手料理でもてなした父親は、最初はルーベンのことをよく思っていなかったが、ルーに居場所を与えてくれたことに感謝していると述べました。
ルーベンがルーの部屋のベッドで寝ているとルーが帰宅し、2人は久々の再会を果たしますが、パーティーの準備があると言ってルーは早々に部屋を出て行ってしまいます。
庭にはルーの父親の誕生パーティーに大勢の人が集まっていました。
場に馴染めず庭の片隅でタバコを吸うルーベンには、人々の会話ですらうるさいノイズのようにしか聞こえません。
父親の伴奏でシャンソンを歌うルーの姿をじっと見ているルーベンでしたが、ルーの歌声でさえノイズのようにしか聞こえなくなっていました。
その夜、2人は同じベッドに入りこれまでのことや懐かしい思い出を語り始めました。
しかし、少しの沈黙の後、ルーが「ねぇ」と切り出します。
ルーベンはその後にルーが言おうとしたことを理解していたのか、「君は俺に幸せをくれた。十分だ」と言い、2人は泣きながら抱き合いました。
まだ暗い頃、ルーが寝ている間に部屋を出るルーベン。
ノイズにまみれた街を歩いていきます。
ルーベンがベンチに座ると、街のさまざまな音が聞こえてきました。
その時、教会の鐘が「ジャーンジャーン」と銅鑼のような大音量で鳴り響き、さすがに不快に感じたルーベンは、思わず頭につけた機器を外しました。
すると、何も聞こえない全くの静寂の世界が訪れます。
何も聞こえなくなった世界で周囲を見回したルーベンは、今までに見たことがないくらいに穏やかな表情を浮かべました。
そして無音のまま、視聴者がルーベンと同じ世界を共有したまま、物語は幕を閉じます。
マルコヤマモト
SNSでのみんなの感想・評判
『サウンド・オブ・メタル』
お願いします。劇場さんと配給さんはこの作品を映画館で上映するために全力を尽くして下さい。”音が聞こえる”素晴らしさと”音が聞こえない”美しさを同時に表現した驚くべき作品。この体験を伝えるには低音とサラウンドと静寂を備えた映画館が絶対に必要なのです。どうか。 pic.twitter.com/5gxOcN9A12— papiko (@papiko5656) April 27, 2021
『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』Amazonプライムで視聴。アカデミー作品賞ノミネートで期待も大きかったが、とても良かった。聴力を失ったドラマーが、聴覚障害者コミュニティで生活することに…という話。ヘッドホンで観るのにこれほど最適な映画もない。https://t.co/vYcDTxSrD3
— ぬまがさワタリ (@numagasa) April 25, 2021
サウンド・オブ・メタル
バンドのドラマー、ルーベンが失う聴力。施設に入るが馴染めず戸惑う
所長が言う“難聴はハンデでなく治すものではない”
われわれは映像を通じて音のない世界を体感する。静寂とは何か、失って初めて気づく事とは
怒りと哀しみで充満した彼の眼に優しさが浮かんだ時、感涙… pic.twitter.com/ymdI46AQQZ
— Katz_G (@katz_g65) April 22, 2021
『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』アマプラで鑑賞。聴覚を失ったドラマーの葛藤と再生を描く。ダークなポスターとあらすじからパンク男が聴覚を失い自暴自棄になっちゃう話なのかな…と思っていたらとても穏やかで優しくて真摯な作りの映画だった。ラストには深く深く感動した。 pic.twitter.com/b2dhTRGL4E
— ビニールタッキー (@vinyl_tackey) January 26, 2021
アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされたリズ・アーメッドの表情や演技、物語の真摯な作りが映画を観た方からの高い評価を得ています。
まるで音を聞くための作品と言っても過言ではない『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』。
あまりに音にこだわりすぎているために家庭環境では物足りず、音響設備の充実した映画館での上映を求める声が多いことも事実です。
しかしながら、イヤホンやヘッドフォンを使って音を近く感じられることも、スマホやタブレットでの視聴が増えている配信作品ならではの利点だと思いました。
観客が主人公・ルーベンの聞こえる音と同じ音を聞くことで、聞こえることと聞こえないことの追体験をできるというアイデアも斬新。
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映画『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
It’s official! #Oscars pic.twitter.com/EDr4PJcsCq
— The Academy (@TheAcademy) April 26, 2021
映画『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』について、ネタバレありでご紹介しました。
- 圧巻の音響!アカデミー音響賞受賞に相応しい作品
- 聞こえることと聞こえないことの両方を映画を通して追体験できる
- ヒューマンドラマとしても見応えあり!ラストのリズ・アーメッドの表情にも注目
アカデミー音響賞を受賞するだけあって非常に音にこだわった作品です。
可能ならばヘッドフォン推奨、または可能な限り良い音環境で鑑賞すると、作品の中に登場する音の1つ1つを、より美しくリアルに感じ取れると思います。
聞こえることの悦びと聞こえないことで感じられる静寂の美しさの両方を感じられる本作。
ルーベンが聞こえている音を共にすることで、難聴の人の音の聞こえ方がわかるなど映画を通して貴重な体験ができるという意味でもおすすめです。
マルコヤマモト
Amazonプライムビデオで視聴できるので、迷っている方は今すぐにご覧ください。