映画『国民の選択』は、原子力発電を禁止するかどうかについての国民投票が実施されることとなった架空の未来の日本を舞台に、ある家族が投票日までに様々な観点から原発の問題と向き合っていく物語です。
この度、主演を務めた水石亜飛夢さん、宮本正樹監督にインタビューをさせていただきました。
映画『国民の選択』水石亜飛夢、宮本正樹監督インタビュー
−−『国民の選択』は「原発」を題材にしており、水石さんの近年の出演作とは毛色が違う映画だと思うのですが、本作の主人公を演じるにあたって、どのようなことを準備しましたか?
水石亜飛夢(以下、水石)「僕たちの年代が普段生きている中で聞くことのない難しい用語、セリフが随所に散りばめられているので、まずその単語がどういう意味なのかを勉強しましたね。」
−−脚本に書かれていた専門用語を調べて、自分の知識として取り入れていたんですね。
水石「本作の僕の役は、いろんな人から知識、意見をもらって学んでいくキャラクターなのですが、後半になると自分の想いを持って喋るシーンもあるので、自分の中でちゃんと理解できてないと話せないと思い、頑張って調べて覚えました。」
−−宮本監督は本作の脚本を書かれるにあたって、参考文献を読む準備も含め、具体的にどれくらいの時間がかかりましたか?
宮本正樹監督(以下、宮本監督)「もともと原発や社会問題に関心がある人間なので、いつかは原発の映画が作りたいと思っていて、知識は初めから持っているものもありました。もともとの知識にプラスして、実際に脚本を書く時には原発に関する本を読んだり、調べたりしましたね。書きあがるまでには1、2年かかっているかもしれないです。大枠は早い段階で出来上がっていたんですよ。ただ、実際の撮影稿にいく前はもっと攻めた内容になっていたんです。原発に対する意見ももっとたくさん入っていて、プロデューサーと話していく中で、このまま行くと踏み込みすぎなんじゃないかという話になって、土壇場で攻撃的なところを、かなり丸くしたんです。それで結果的に、書き始めてから完成まで2年くらいかかりました。元の脚本はもっと攻めていたんです(笑)」
−−その内容、気になりますね!
宮本監督「撮影している段階では、中曽根元総理がまだ生きていたんですよね。僕は日本に原発を持ってきたのが中曽根さんだと思っていて、そこにも踏み込んで書いていたんですよ。ですが、固有名詞を出すのは、さすがに危険じゃないかとなって削りました…。その脚本は水石君にも見せてないです。」
−−水石さん演じる敦は原発に対して、賛否の間で揺れる役でした。揺れ動く感情を出すために、演技で意識していたことはありますか?
水石「今の日本は、敦のような若者が大多数のはずなんですよね。原発に関して考えるタイミングがないと、2020年以降はコロナウイルス問題で精一杯の現状ですし。今回、敦を演じさせていただくにあたって考えたのは、自分も原発の問題を目の前に突き付けられたら、まずはいろんな人の話を聞いて、そこから自分で自分の意見を作っていくだろうなと言うことです。自分だったらどうするのかを考えることでリアリティが生まれました。本作の中で重要なポイントとなる国民投票が実際にあった場合、例えば自分に敦のように結婚相手がいたとして、その相手が妊娠している状況で原発の是非を問われたら、どういう風に心が揺れ動くんだろうと考えました。」
−−敦は家族と一緒のシーンや、婚約者の直子と一緒のシーンが多くありましたが、撮影中もっとも多くコミュニケーションを取られた方はどなたですか?
水石「父親役の妹尾青洸さんですかね。父親はセリフもかなり多くて難しかったので、妹尾さんが一番大変だったのではないかと思います。ただ難しい用語を言うだけでなく、その一つ一つにしっかり想いが乗っていて、セリフに厚みがあったので、セリフ合わせでも細かく会話や質問をして勉強させていただきました。」
−−本作の一番の見せ場は2回目の家族会議での、水石さんの圧巻の長セリフだと思います。あのシーンはただの暗記で喋っているようには見えなかったので、工夫されたことや苦労話などあればお聞かせください。
水石「本作は今までの出演作で1番長セリフがあり、専門用語もあって大変でした。二十歳の時に一人芝居を演じたことがあったんですが、その時のセリフ入れも大変ではありましたが、登場人物の思いを語るセリフだったので、心の流れがわかってしまえばスッと入っていったんですよね。本作では普段話しなれない言葉を使って父親を説得して、さらに自分の想いを込めるという芝居だったので、感情だけで一気に言おうとするとセリフが詰まるし、詰まった瞬間に感情が飛んでいくんですよ。そのため今回は、最初はお経のように、何も考えないでセリフが出てくるところまで練習しました。それからやっと、ここにはこういう心の流れがあるなというのを把握して、肉付けしていきました。やっぱり、あの長セリフは難易度が凄かったですね。」
−−どんどんセリフのレベルを上げていくという作業だったんですね。水石さんだけでなく要所要所で様々な登場人物が長セリフを喋るシーンがありますが、宮本監督は演出の上でのこだわりで役者にこう演じて欲しいとオーダーすることはありましたか?
宮本監督「基本的に僕は、役者をリスペクトしてるんですよね。そのリスペクトがどれくらいのものかと言うと、世界中の職業の中で役者さんが一番すごいと思っているぐらいです。監督、カメラマンなどの裏方はその下にいると思ってるので、役者さんを全面的に信頼してるんですよ。もちろん、テストで1回演じた時に違和感があれば何か言うかもしれないですが、基本的に違和感がなければ全然OKです。今回の現場では1回目からキャストが素晴らしい演技をしてくれたので、こちらから何かをオーダーするとことはなかったです。役者さんの芝居が素晴らしくて、あんな難しいセリフでも、みんな落とし込んでちゃんと感情を込めて言ってくれたので、説明セリフになってないんですよ。むしろ、私はそんな役者さんたちの素晴らしい状態を途切れさせないように、現場の雰囲気をよくして、技術部のトラブルで途切れたりすることがないように、現場をスムーズに進めることに気を使いました。」
−−福島原発の事故後、原発の賛否についての議論が盛り上がっていた時によく言われていた「原発の存在意義」は、資源不足を解決できるからという意見が多かったですが、本作ではそれを真っ向から否定する意見が飛び出します。また、地震大国の日本に何で原発がここまで量産されてるのかという事実や、地球温暖化において原発で減らせると言われている二酸化炭素はそんなに影響がないという説にも言及されていました。原発を容認する主な意見は世論の勘違いだというメッセージをしかも強く言い切っていると感じましたが、本作を作るにあたって、そのような問題に真っ向から取り組む怖さは感じられませんでしたか?
宮本監督「先ほども話した通り、本当はもっとすごく攻めた内容だったんです(笑)実際の撮影稿はもともとの怖さが消えてしまったと感じています。監督の自分が怖くなるくらいの作品の方がパンチがあると思うんですが、もともとの台本を書いている時も自分はそこまでビビってなかったんですよ。何でかというと、事実を言っているという自覚があったからです。僕も最初は知らないことも多かったですし、騙されていた部分もあったので、それをみんなに伝えたいという思いもありました。それに、撮影が1年半前の2019年なので最新の情報は取り込めてないんです。今は世界中で先進国が脱炭素を目指す流れになっています。それは世界中で、一斉に言い始めたんですよ。それはなぜかと言うと、原発推進のためなんですよね。『炭素の発生を抑えましょう。では何で発電しますか?原発ですよね』というプロパガンダが2016年ごろから始まっていました。もっと撮影が遅ければ、そういう先進国の思惑にも切り込めたと思います。そういった利権がらみの原発推進派に対し、ちゃんと事実に基づいて反論できていると思っていたので、怖さはなかったです。」
−−水石さんは本作の出演前後で、原発に対する考え方に変化は生まれましたか?
水石「僕ももちろん、詳しいわけではなかったので、本当に本作に出演したことが大きいと思いますね。もちろん何の根拠もなく『原発危ないよな』と思ったり、震災直後の『福島にいなくても放射能が危ないんじゃないか』という噂を鵜呑みにするのもよくないと思います。知識も薄い中で、『原発なんて自分の家の周りにはあって欲しくないよな』と思っていても、実際はその地元の方々は原発の存在に経済的に助けられたりしているという事実を本作のおかげで知れました。『国民の選択』の中では、原発の賛否についていろんな説に解答しているので、それを踏まえたうえで、やはり原発は本当に危ないということを改めて実感できましたね。もっと他の方法があるのではないかとか、これからの時代は僕たちが早めに綺麗にしておかないといけないと感じました。過去・現在の問題を、次の代の人たちに持ち越すのは良くないことだと思っています。」
−−本作を見る前には『放射能は怖いよね』という認識しか持ってなかったんですが、私のようなもともと無関心の人間にも刺さる内容になっていました。長セリフが多い分、噛み砕いた丁寧な説明が多く、知識のない人でも置いてきぼりにならずに鑑賞できる作品になっていると思いますが、初めから原発に対して無関心な観客のことも意識して作られていましたか?
宮本監督「もともと関心がある人たちは、すでに原発に詳しいと思うんですよね。1番まずいのは無関心なんです。無関心だと、利権を持っている層や政府の思いのままにされて、気付いたら取り返しのつかないところまで来ていたということになりかねません。王様や政権を握っている権力者が、自分の政策を実行するためにやること、それは国民を無関心にさせることなんですよね。だから、無関心が1番怖いんですよ。だからこそもちろん、この映画はいろんな世代の人に見てもらいたいです。始めに来るのは原発に関心がある人たちばかりだと思いますが、そこから広がっていけばいいと思います。また、本作を見て刺さった方は、ぜひもう1回見て欲しいんですよ。その時は周りの原発に無関心な人を連れてきていただきたいです。無関心の方に関心を持ってもらうのが目標なので。過激にしすぎていたら、無関心な方に引かれると思うので、そういう意味では出来上がった映画はちょうど良いシナリオになっていると思います(笑)無関心な人が見てもわかりやすくて、すんなり入れる映画になったと思います。」
−−お2人は、原発事故からちょうど10年後の2021年に『国民の選択』が公開される社会的意義はどのようなものだとお考えですか?
水石「節目の時期ということで、みなさんが原発事故のことを思い出しやすいと思うんですよね。やっぱり今はコロナで大変ですし、『そんなこと考えられないよ!』と思う人もたくさんいると思うんですが、あの時悲しい思いや辛い思いをした人たちは昨日のことのように覚えているでしょうし、少し離れたところにいる僕たちが忘れていいわけはないと思います。コロナのことも今から10年経ったら忘れちゃうんだったら、どうしようもないと思いますし。目の前の大変なことに目が行きがちですが、まだ原発は問題を抱えていて忘れてはいけないので、本作がその問題を思い出すキッカケになってくれたら良いと思います。」
宮本監督「東日本大震災の直後はあれだけ騒いだのに、10年経った今はみんな無関心になっています。ところが福島の原発は10年経って、やっとあの時何が起きたのか分かり始めている気がするんです。事故直後は何が起こったのか分からなくて、10年経って『まだ分かってないことがすごくある』ということが分かったという現状です。要するに、10年経っても福島を廃炉にする道筋がまだ立ってないんですよ。それでも、どんどん新しい事実が分かってきて、それがやっと報道されるようになってきたんです。なので、10年というのは重要な数字になりますよね。このタイミングだからこそ、皆さんに本作を見ていただいて、もう1度思い出してもらいたい。現状は国民はコロナ禍に関心が向かっているので、政府はやりやすいんですよ。福島がどうなっているのかとか、原発はどうなったのかとか考えにくい状況ですから。10年の節目に原発のことを改めて皆さんに思い出してもらって、『賛成でも反対でも良いのでとりあえず関心を持ち続けましょう』ということを提起したいと思います。」
インタビュー・構成:佐藤 渉
撮影:白石太一
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— ミルトモ【映画・ドラマ・アニメ総合情報サイト】 (@mirtomo_jp) March 3, 2021
『国民の選択』作品情報
出演:水石亜飛夢、妹尾青洸、松永有紗、みょんふぁ、藤原啓児、泉はる、白石康介、犬飼直紀、南圭介
監督・脚本:宮本正樹
プロデューサー:佐伯寛之
企画・製作・配給:ディレクタースカンパニー
制作協力:トキメディアワークス
配給協力:ユナイテッドエンタテインメント
公式Twitter:@kokusen_movie
あらすじ
20XX年、国会で原発に反対する議員たちから原発を禁止する憲法案が発議され、国会議員三分の二以上の賛成により、原発を禁止するかどうか、国民投票の実施が決定した。
それを受けて町議会議員である高橋明(妹尾青洸)は、家族の皆に原発賛成に投票するように指示します。
原発警備員として働いている明の息子の敦(水石亜飛夢)は、生活費を稼ぐために原発には賛成でした。
しかし、敦の婚約者である直子(泉はる)との間に新たな命を授かる事が分かると、原発について疑問を抱くことに…。
原発を受け入れていた家族が、国民投票をきっかけに原発とどう向き合うのか!?
映画『国民の選択』は3月5日(金)よりアップリンク渋谷ほかにて公開です!
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