人気作家・住野よるのデビュー作を実写化した映画『君の膵臓をたべたい』。
今注目の若手俳優である北村匠海と浜辺美波がW主演を務め、双方の出世作となりました。
原作にはないオリジナルの設定を加えたことで、よりドラマチックな展開が待ち受ける感動作となり、多くのファンから“キミスイ”の略称で愛されています。
今回はそんな映画『君の膵臓をたべたい』をネタバレありでご紹介します。
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目次
『君の膵臓をたべたい』作品情報
作品名 | 君の膵臓をたべたい |
公開日 | 2017年7月28日 |
上映時間 | 115分 |
監督 | 月川翔 |
脚本 | 吉田智子 |
原作 | 住野よる |
出演者 | 浜辺美波 北村匠海 大友花恋 矢本悠馬 桜田通 森下大地 上地雄輔 北川景子 小栗旬 |
音楽 | 松谷卓 |
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【ネタバレ】『君の膵臓をたべたい』あらすじ
桜良の“秘密”と【僕】の“責任”
教師をしている【僕】(小栗旬)は母校でもある高校で国語を教えていますが、職員室の机の引き出しに退職届を用意しているほど、いつ仕事を辞めるか思い悩む日々を送っていました。
そんなある日、高校の図書館が老朽化を理由に取り壊されることとなり、図書委員の男子生徒・栗山(森下大地)とともに蔵書の整理をすることになります。
なぜなら、【僕】はかつて図書委員として膨大な図書館の蔵書に分類番号をつけたことで知られていたからです。
半ば強引に押し付けられた蔵書整理ですが、栗山との会話の中で高校時代の同級生・山内桜良のことを思い出し、当時の記憶が蘇っていくのでした。
…12年前。
高校生の【僕】(北村匠海)は盲腸の手術後、とある病院に通院していました。
その待合室で『共病文庫』というタイトルの本を拾うと、自分のものだと声を掛けられます。
振り返った先にいたのは、クラス1の人気者である桜良でした。
桜良は天真爛漫で友達が多く、地味な【僕】とは縁のない存在です。
しかし、『共病文庫』と名付けられた桜良の闘病日記を見たことで、桜良が膵臓の病気を抱え、余命わずかであることを知ってしまいます。
桜良は自らの“秘密”を知ってしまった【僕】に“責任”を求め、共病文庫に書き記していた「死ぬまでにやりたいこと」に付き合うよう命じました。
さっそく、桜良は【僕】と同じ図書委員に立候補したり、【僕】を「仲良しくん」と呼んでクラスのみんなを驚かせたりと、屈託のない笑顔で【僕】を振り回します。
さらに、桜良が【僕】と親しくしていることを受け入れられない桜良の親友・滝本恭子(大友花恋)には睨まれたり、突っかかられたりと散々な【僕】ですが、桜良のことを疎ましく思うようなことはありませんでした。
【僕】は桜良と親しくなったことで今まで以上に孤立するようになりましたが、学級委員の隆弘(桜田通)と、いつも「ガムいる?」と声を掛けてくれるガム君(矢本悠馬)だけは、【僕】のことを気にかけてくれるのでした。
そんな日々の中で【僕】は桜良と書庫の整理を続けますが、桜良は「ちょっとくらい間違えたっていいじゃない」「頑張って探したほうが楽しいでしょ?宝探しみたいで」と言って、本を番号通りに並べようとしません。
【僕】に「君に私の残り少ない人生の手助けをさせてあげます」という桜良は、親友の恭子にさえも病気のことや余命が短いことを秘密にしています。
日常を取り繕うのに必死な両親を見て、きっと恭子もそうしてしまうだろうと考えた上でのことです。
「僕より大切な友達と過ごす時間のほうが、価値があると思うけど?」と【僕】は冷たく言い放ちますが、それでも桜良は病気のことを打ち明ける気はないようでした。
縮まる距離
人と一定の距離を置いて過ごしてきた【僕】ですが、明るくて無邪気で少し変わった桜良とは少しずつ距離を縮めていきます。
当初、桜良はスイーツパラダイスに【僕】を誘って困惑させましたが、今度は予告なしでお泊まり旅行に連れ出し、【僕】を動揺させます。
博多に向かった二人はホルモンやラーメンを食べたり、観光をしたりと旅行を楽しみ、「死ぬまでに貯金を使い果たしたい」という桜良の意向で良いホテルに宿泊します。
その夜、「死ぬまでにやりたいこと」の一つである飲酒をしてほろ酔いになった桜良は、“真実か挑戦ゲーム”をしようとトランプを取り出しました。
トランプを1枚ずつ引いて大きい数字が出た人が、「必ず真実をいわなければならない質問に答える」「必ず実行しなければならない挑戦をする」のどちらかを、相手に選ばせることができるゲームです。
笑いあって、ふざけあって、本音を打ち明けて、夜な夜なゲームを楽しんだあと、桜良は自らの死後、『共病文庫』を読んでもいいと【僕】に伝えるのでした。
「私が死んだら、私の膵臓を君が食べてもいいよ。人に食べてもらうとね、魂がその人の中で生き続けるんだって」
「私生きたい、大切な人たちの中で」
桜良はそう語りました。
そんな高校時代を回顧する現在の【僕】は、自宅に届いた結婚式の招待状を眺めていました。
招待状の送り主である新婦は恭子(北川景子)で、新郎の名は宮田一晴(上地雄輔)と書かれています。
【僕】は桜良の『共病文庫』を手にしながら、招待状の返事に悩むのでした。
高校時代のある日、桜良は両親不在の家に【僕】を呼びつけます。
それは「死ぬまでにやりたいこと」の一つである、「恋人じゃない男の子といけないことをする」を実行するためでした。
【僕】は桜良を傷つけたくない気持ちと動揺で何もできず、ハグをした桜良も冗談だといってはぐらかします。
馬鹿にされたような気持ちになった【僕】は乱暴に桜良を押し倒しますが、衝動的な行動から我に返り、反省して去っていきました。
また、桜良も目に涙を浮かべて反省します。
外に出た【僕】は大雨の中、桜良の家の前で隆弘に出会います。
隆弘は「桜良の家で何していた?」と問い詰めてきました。
実は、桜良から聞いていた“粘着質な元カレ”とは隆弘のことで、学校で優しく話しかけてくれる姿とのギャップに【僕】は困惑します。
【僕】は嫉妬に駆られ激昂した隆弘に殴られますが、異変に気づいて家から出てきた桜良に助けられます。
後日、桜良が検査入院で学校を休むようになりました。
【僕】が桜良のお見舞いに行くと、「自分が死んだら恭子と友達になってほしい」と頼まれます。
「僕と友達になってください」と恭子に伝える練習をする【僕】と桜良の様子を、偶然お見舞いに来ていた恭子は知ってしまうのでした。
そして、学校で【僕】は恭子に話し掛けられます。
かつて、いじめられて孤立していた恭子は、桜良に声を掛けられて救われたそうです。
「桜良に何かしたら許さないから」という恭子を見て、【僕】はお互いを想い合う彼女たちの友情を感じるのでした。
“その時”は突然に…
入院中の桜良から連絡を受けた【僕】は、桜良の様子がいつもと違うことに気づき、夜中に病院へ駆けつけます。
検査の結果が思わしくなく入院期間が延びたそうですが、いつもと変わらない様子の桜良に【僕】は安心しました。
そこで二人はまた“真実か挑戦ゲーム”をします。
桜良は【僕】に何か聞きたい様子でゲームを始めましたが、大きい数字を出したのは【僕】のほうでした。
二人は、桜良が退院したらまた一緒に旅行に行き、桜を見る約束をします。
桜良の退院当日、待ち合わせ場所のスイーツパラダイスに到着した【僕】は、桜良が来るのを待ちながらメールのやり取りをしていました。
「どこか悪いところがある時、他の動物のその部分を食べると病気が治る」という昔の言い伝えを信じている桜良の考えに則って、【僕】は桜良へのメールに「君の爪の垢を煎じて飲みたい」と書こうとします。
その後、思いとどまって「君の膵臓をたべたい」と打ち直しました。
【僕】は桜良が来るのを待っていましたが、「図書館に寄ってから行く」というメールを最後に、どんなに待っても桜良が現れることはありませんでした。
メールの返信もなく、諦めた【僕】は帰路につきます。
すると、街に設置された大型モニターから、“通り魔事件”についてのニュースが流れてきました。
死亡者が出たというその事件で、ふと目に入ってきた被害者の名前は、紛れもなく桜良のものでした。
【僕】との待ち合わせに向かう途中で、通り魔に刺されて死亡した桜良。
その突然の死を受け入れられない【僕】は、どこの誰かもわからない通り魔が逮捕されてからも、ただ呆然と過ごしていました。
桜良が亡くなって1ヶ月。
【僕】はようやく桜良の家を訪問し、桜良の仏前で手を合わせることができました。
そして、意を決して桜良の母(長野里美)に『共病文庫』のことを尋ねます。
桜良の病気を知っていたこと、怖くて来る勇気がなかったこと、『共病文庫』を読む約束をしたこと…。
【僕】の言葉を聞いた桜良の母は、「あなただったのね」と微笑みました。
「たった一人『共病文庫』のことを知っている人がいる」
「その人は臆病だからすぐには来ないかもしれないけど、でも絶対これを取りに来る」
その桜良の言葉の通りやって来た【僕】に、桜良の母は『共病文庫』を差し出します。
『共病文庫』には、桜良が『共病文庫』を書こうと思った経緯や、【僕】と病院の待合室で出会った時の心境、亡くなるまでの日々が細やかに記されていました。
桜良の母は「本当にありがとう。あなたのおかげで、あの子はしっかり生きることができた」と、【僕】に感謝の言葉を贈りました。
「お母さん、お門違いなのはわかってるんです。でも、ごめんなさい、もう泣いてもいいですか…」
絞り出すように呟いた【僕】は、桜良の死を悼んで涙を流しました。
「君の膵臓をたべたい」
桜良の死から12年。
大人になった現在の【僕】は、桜良の「君は教えるのが上手いから先生になりなよ」という言葉を思い出します。
その言葉に導かれるかのように教師になったのでした。
図書館で栗山と蔵書整理をしていると、落書きされている図書カードがあったと栗山に知らされます。
図書カードのその落書きは、かつて桜良がよく描いていたイラストでした。
慌てて書庫を探した【僕】は、桜良が好きだった『星の王子様』に2通の手紙が挟まっていることに気づきます。
その手紙は、恭子宛てのものと、【僕】宛てのものでした。
恭子に桜良からの手紙を届けようと、【僕】は式場に向かいました。
招待状の返事はできず仕舞いでしたが、新郎の宮本一晴は笑顔で迎え入れてくれました。
そして、12年前と同じように「ガムいる?」とガムを差し出します。
宮本一晴もといガム君に連れられて、ウエディングドレス姿の恭子と対面した【僕】は、桜良からの手紙を渡しました。
控え室に桜良との写真を飾り、桜良の形見である桜のモチーフのイヤリングをつけた恭子は、手紙を読んで大粒の涙を流し、その場に泣き崩れます。
【僕】は桜良との約束を果たすため、「僕と友達になってもらえませんか」と恭子に伝えました。
恭子も「なんでこんな時に…」と悪態をつきながらも頷き、笑顔を見せるのでした。
一方、桜良から【僕】への手紙には「拝啓 志賀春樹君」と、【僕】の名前が記されていました。
「君になりたい」
「君の膵臓をたべたい」
感謝とともにそう綴られた12年越しの手紙に、【僕】は涙します。
【僕】は机の引き出しに入れられた退職届を破り捨て、教師を続けることを決意しました。
図書館では桜良が当時の姿のまま、これからも【僕】を見守ってくれることでしょう。
【ネタバレ】『君の膵臓をたべたい』感想・考察
原作では描かれない“12年後”
映画『君の膵臓をたべたい』の一番大きな魅力は、原作小説にはない“12年後”の様子が描かれたことだと思います。
そして、12年後を描くことによって改変された最たる部分が、“【僕】の名前が早い段階で明かされていること”です。
原作では、主人公である【僕】のことを「○○なクラスメイトくん」「仲良しくん」と様々な名前で表記することで、最後まで本名を明かさないという手段を取っています。
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物語は【僕】の視点で描かれているので、彼が自分のことを「○○」に当てはまる「地味」や「根暗」だと思い込んでいるため、脳内変換しているということです。
桜良は遺書に「どうして名前を呼んでくれなかったの?」と書いていますが、映画では桜良と【僕】はお互いに名前を呼んでいないので、「桜良だって【僕】の名前を呼んでなかったじゃん!」と感じた方もいたかもしれません。
【僕】の名前を最後まで明かさない原作の設定でなければ、この違和感を抱いても仕方ないと思います。
では、何故原作で最後まで本名を隠していたのか?
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【僕】の本名は「志賀春樹」。
「春の樹」といえば「桜」であり、【僕】と桜良が運命的に出会い、惹かれあったことの必然性を二人の名前で表現しています。
こういった名前の脳内変換という手法は、映像では上手く表現できません。
文章ならではのトリックであるといえます。
つまり、12年後を描くためにこのトリックをやめたのではなく、何か代わりを用意するために12年後を描いたのではないでしょうか。
そこで、実際に代わりのトリックとなったのが、“ガム君”の存在です。
高校時代、孤立しがちな【僕】を何かと気にかけ、いつも「ガムいる?」と聞いてくれるガム君。
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このガム君、原作ではガムをくれるクラスメイトとあるだけで本名が登場しません。
映画では宮田一晴という名前が付けられましたが、最初の段階では桜良の親友・恭子の結婚相手だとしか思わないはずです。
しかし、桜良からの12年越しの手紙を届けるために【僕】が結婚式場へ向かったラストシーンにて、「ガムいる?」とガムを差し出したことで、観ているすべての人が「恭子の結婚相手=宮田一晴がガム君だった!」という事実に気づく仕掛けになっています。
ガム君が恭子のことを好きだという話は原作にも出てくるので、原作読了済みで勘の良い方は早い段階で気づいていたかもしれませんが、なかなか巧妙な設定だと思います。
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こうして【僕】だけでなく、恭子やガム君の大人になった姿を描くことで、桜良が周囲の人々の未来に影響していたこと、12年経った今もみんなの心に生きているということが表現され、より深みのあるストーリーになっていました。
さらに、原作と同じ「桜良が通り魔に殺されてしまう」という展開に加えて、「12年越しに手紙が見つかる」というシーンを追加したことで、“2回ラストがある”作品となった点が、映画らしい大きな魅力に繋がったと感じています。
高校時代のキャストと12年後のキャストの演技のシンクロ具合も素晴らしかったです。
桜良が好きな『星の王子様』との繋がり
桜良のお気に入りの本として紹介されるのがサン=テグジュペリの『星の王子様』。
桜良が【僕】に貸してくれたり、台詞の一部を引用したりと随所に登場します。
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『君の膵臓をたべたい』では、病を抱えて余命僅かだった桜良が病気ではなく通り魔に刺されて死んでしまうという衝撃の展開からもわかるように、「誰もがいつ死ぬかわからない」というテーマが潜んでいます。
桜良が「私も君も一日の価値は一緒だよ」と【僕】に話すシーンもありますが、『星の王子様』にもこのような台詞が登場します。
「この星は1分間で回ってしまう。だからオレは休めないんだよ。1分間に1度のペースで灯を灯したり消したりするんだから」
これは、ある星でガス灯の点灯・消灯を生業としている男の台詞なのですが、みんな違う条件で生きていたとしても同じ瞬間を生きているため、その一瞬一瞬は誰にとっても同じように大切なものなのだということを表しています。
そして、『星の王子様』の中で最も有名な台詞である、「大切なことは目に見えない」も、桜良にとってはとてもシンプルなことだといいます。
しかし、これをシンプルだといえるのは、桜良が“誰もが同じように大切な一瞬”を生きているということを、身を持って実感しているからではないでしょうか。
また、『星の王子様』の主人公である操縦士は本名が明かされておらず、「ぼく」と表記されていることが、『君の膵臓をたべたい』との共通点でもあります。
「ぼく」と王子様の出会いと別れを描いた『星の王子様』。
【僕】と桜良の出会いと別れを描いた『君の膵臓をたべたい』。
どちらも生きるとは何か、愛とは何か、人生とは何かを問うたものとなっており、一日一日の価値や、大切なものを見極める心の在り方を考えさせられる作品になっています。
桜良からの12年越しの手紙を見つける“宝探し”でも、その在り処は『星の王子様』。
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『君の膵臓をたべたい』あらすじ・ネタバレ感想・考察まとめ
いかがだったでしょうか。
原作と違う設定を取り入れ、映画らしい表現で感動をより深いものにした『君の膵臓をたべたい』。
高校時代と12年後のキャストの演技のシンクロ具合や、随所に散りばめられた『星の王子様』のエッセンスに注目すると、何度も楽しめる作品になること間違いなしです。
ぜひ、原作小説や『星の王子様』とあわせてご覧ください。
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