売れない女優マチ子の眼差しを通して、“女”であること、“女優”であることで、女性が人格をうまく使い分けることが求められる社会への皮肉を、周囲の人々との交わりを介在しながら描いていく映画『蒲田前奏曲』。
本作は、4人の監督が各自の手法でコミカルに描き、1つの連作長編として仕上げていった新しいタイプの作品です。
9月26日(土)にキネカ大森にて、公開記念舞台挨拶が開催。
1作目『蒲田哀歌』に出演の古川琴音、須藤蓮、中川龍太郎監督及び、本作プロデュース、出演の松林うらら(『飢えたライオン』)が登壇し、本作に懸けた想いや撮影の裏話などを語りました。
目次
『蒲田前奏曲』公開記念舞台挨拶レポート
日時:9月26日(土)
登壇者:古川琴音、須藤蓮、中川龍太郎監督、松林うらら
場所:キネカ大森(品川区南大井 6-27-25 西友大森店 5F)
第1番『蒲田哀歌』は、中川監督に、松林うららの弟に彼女ができた時の嫉妬と蒲田というお題を提示して、それ以外は自由に作ってもらった作品。
中川監督は、75年前の蒲田の空襲も絡めて描き空襲も絡めようとした意図を聞かれ、「自分のあり方を含め疑問を感じていたり、反省しなくてはいけないことが非常にあるなと日々思っていて、『蒲田哀歌』だけでなく『蒲田前奏曲』全体でもそういうメッセージをいっぱい受けられるようになっていると思うんですけれど、反省をしながら生きていかなくてはいけない中で、たった75年前に、生きたくても生きれなかった人がたくさんいる。そういう人たちが今の僕たちあるいは僕たちが作ってきた街というものを見たら、どのように思うんだろうかというのが発想の起点としてありました。自分に対する恥ずかしさや至らなさをどういう風に相対化して客観的に見るかとなった時に、その視点が必要だなと思いました。」と本作に込めた想いを語りました。
古川琴音は、空襲で亡くなった幽霊・節子役。
古川は、「現代の時代に住む二人(松林演じるマチ子と、須藤蓮が演じるマチ子の弟・蒲田タイ蔵)と比べて、浮いた存在に見えて欲しいと思っていたので、佇まいだとか喋り方だとかをシャンとしたりだとか、お客さんにちょっと違和感を持っていただけるようなキャラクターにしたいと思って演じました」と話し、中川監督は、「あの存在感を出せる方はなかなかいなくて、それが古川さんの素晴らしさです。浮いている感じがしないで浮いている」、須藤も、「作り込んでいないのに浮いている」と古川の魅力を解説しました。
須藤は現代的な若者役。
「僕、普段あんな感じなんで、あまり作り込むということはなかったんです」と告白。
中川監督が「多弁な感じが、あのキャラクターにはまっていた」とのことで、須藤は、「中川さんに『現代的な若者の空虚な感じで演じて欲しい』と言われていたので、欠落しているものを他人で埋めようとする感覚を大事にしながら演じさせていただきました」と話しました。
本作は、蒲田に実在の中華料理屋や写真館で撮影して、役者さんだけでなく、実際に働いている方にインタビューするドキュメンタリー風なシーンもあります。
中川監督は、「登場人物がカメラを持って、どういう風に世界を切り取るのかということに非常に興味があって、最初にお題を頂いた時に、お姉さんが弟の恋人に嫉妬するというのは自分には分かり得ない世界だったんですが、そのことを通して、この街の歴史であったり、過去の人間が現在をどう見ているのかということ、そして、そのことを通して現在が見えるのではないかなと思いました。(蒲田の中華料理屋)味の横綱は昔からよく行っているお店なんですけれど、長い歴史がある場所なので、その場所自体がなくなる前に撮っておきたいという想いもありました」と回答。
蒲田のロケで印象に残っていることを聞かれた古川は、「蒲田の街ってノスタルジックな感じがして、いまだに古い商店街も残っていて、屋根の低い建物がずらーっと並んでいる細い通りや鞄の専門店があったりだとかして、昔の日本を感じる景色が印象に残っています」と話し、商店街を走るシーンは、「開放感があるというか早朝で誰もいないアーケードを好きなだけ走ったのでとても楽しかったです」と回想しました。
同じく蒲田の印象を聞かれた須藤は、「古川さんの印象が強すぎて全然蒲田の印象が残っていないんです。こんな変わった女優さんがいるんだと強烈な印象でした。『古川琴音さん面白いな、中川さん面白いな』という人の記憶がすごく印象に残っています」と古川の印象の強さを語りました。
須藤は、実際にカメラを回して、アドリブで松林演じるマチ子と古川演じる節子に質問をしました。
古川が須藤を撮るシーンも。
須藤は、「事前に中川さんと打ち合わせをし、どういう質問をしたら面白い答えが飛んでくるかを話しながらやりました。決まった段取りがあって、それをどう壊せるかとか、どう潜在意識の方に人の意識を向けられるかが面白くて役者をやっているので、潜在意識の中にある、意図されていない面白さをどうやったら引き出せるかを中川さんと話しながらやりました」と工夫を説明。
古川は、「アドリブに苦しみました。私が演じている役が、戦争で亡くなった女の子なので、私はその時代に生きていないから、色々作りこまなくてはいけないことや、知らなくてはいけない情報が多かったんです。その役を演じながら、アドリブの質問をもらうと、今の自分の答えしか出せないけれど、私はその時代の女の子じゃないしという葛藤もありながら、答えをひねり出しました」と苦労を吐露しました。
最後の語りの詩について古川は、「監督が書いた後に私も続けて、監督と一緒に作った」と裏話を披露。
中川監督は、「古川さんからしか出ない言葉だったので、素晴らしいと思ったし、須藤さんがうららさんを撮っているところも、自分では絶対ありえないアングルだったり、アドリブも結構あった」とのこと。
須藤も、自分がカメラを回すシーンは、「役者に好きにさせるというのも中川さんの演出だと思って、やりました」と頼もしさを見せた。
古川は、劇中で『蘇州夜曲』を歌った。
「歌が苦手だったので、カラオケでずっと練習しました。すごくいい歌だと思って、他のオーディションで歌が必要な時にあの歌を歌わせてもらいました。勝負曲です」と話し、監督は大喜び。
中川監督は、「(75年前空襲で亡くなった方々は)本当はおじいちゃん、おばあちゃん位の年代だけれど、白黒の存在でしか認知していない。劇中で古川さんの妹を演じるおばあちゃんって、実際の僕のおばあちゃんです。カラーの存在として、色味のある存在として、そういう人が若く生きていたんだというのを映像化する必要があると思っていて、その存在感を古川さんは丁寧にすくい取ってくださった。自分が本作を観た時に、現代的な須藤さんとうららさんがいる中で、古川さんでなければあの役は成立しないなと、白黒だった存在をカラーにしてくれたのではないかと思っています」と絶賛しました。
本作の見どころを聞かれ、古川は「蒲田の街並みが雰囲気ごとスクリーンに残っていると思うので、街並みや人間を楽しんで観てもらいたいのと、ファンタジーも楽しんでいただけたらと思います」、須藤は「中川監督の意図をくみ取りながら見たら面白いんじゃないかと思います」と見どころを挙げました。
最後に、『蒲田前奏曲』全体の見どころを聞かれた中川監督は、「僕たちは最初の話を作ったけれど、4つで1つ。他の作品はどれも個性があって、それぞれ魅力があると思うんですけれど、どうして4つが並んでいるのか。そういう映画体験はあまりないと思うので、4つが並んだ時に、どういう化学反応があるのかというのを楽しんでいただけたらと思います」と話し、舞台挨拶は終了しました。
『蒲田前奏曲』概要
『蒲田前奏曲』は売れない女優マチ子の眼差しを通して、“女”であること、“女優”であることで、女性が人格をうまく使い分けることが求められる社会への皮肉を、周囲の人々との交わりを介在しながら描いていきます。
これを4人の監督が各自の手法でコミカルに描き、1つの連作長編として仕上げていった新しいタイプの作品。
監督には日本映画界の若手実力派監督が集結。
最新作『静かな雨』が釜山国際映画祭上映、東京フィルメックス観客賞受賞など、国内外の注目を集める中川龍太郎、長編デビュー作『月極オトコトモダチ』がMOOSIC LAB グランプリ受賞、東京国際映画祭上映の穐山茉由、『Dressing Up』(第8回CO2助成作品、OAFF2012)で日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞受賞の安川有果、最新作『叫び』が東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門監督賞に輝き、第22回ウディネ・ファーイースト映画祭では大田原愚豚舎作品、渡辺紘文監督特集が組まれるなどの渡辺紘文(大田原愚豚舎)が務めます。
『飢えたライオン』で主演を務め、舞台、TVドラマなどでも活躍する松林うららが自身の地元である蒲田を舞台にプロデュースし、自らも出演。
また、伊藤沙莉(『タイトル、拒絶』)、瀧内公美(『火口のふたり』)など、旬の俳優が名を連ねます。
9月25日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、キネカ大森にて公開され、10月16日(金)よりテアトル梅田(大阪)、京都みなみ会館(京都)、10月17日(土)より元町映画館(神戸)、シネマスコーレ(名古屋)で公開することが決定。
『蒲田前奏曲』作品情報
出演:伊藤沙莉、瀧内公美、福田麻由子、古川琴音、松林うらら、近藤芳正、須藤蓮、大西信満、和田光沙、吉村界人、川添野愛、山本剛史、二ノ宮隆太郎、葉月あさひ、久次璃子、渡辺紘文
監督・脚本:中川龍太郎、穐山茉由、安川有果、渡辺紘文
企画:うらら企画
製作:「蒲田前奏曲」フィルムパートナーズ(和エンタテインメント、ENBUゼミナール、MOTION GALLRY STUDIO、TBSグロウディア)
特別協賛:ブロードマインド株式会社、日本工学院
配給:和エンタテインメント、MOTION GALLRY STUDIO
2020年 / 日本 / 日本語 / 117分 / カラー&モノクロ / Stereo
『蒲田前奏曲』あらすじ
第1番『蒲田哀歌』
監督・脚本:中川龍太郎
出演:古川琴音、須藤蓮、松林うらら
オーディションと食堂でのアルバイトの往復で疲れ果てている売れない女優、マチ子。
ある日、彼氏と間違われるほど仲の良い弟から彼女を紹介されショックを受ける。
だが、その彼女の存在が、女として、姉として、女優としての在り方を振り返るきっかけとなる。
第2番『呑川ラプソディ』
監督・脚本:穐山茉由
出演:伊藤沙莉、福田麻由子、川添野愛、和田光沙、松林うらら、葉月あさひ、山本剛史
アルバイトをしながら女優をしているマチ子。
大学時代の友人5人と久々に女子会をするが、独身チームと既婚チームに分かれ、気まずい雰囲気に。
そこでマチ子は蒲田温泉へ行くことを提案する。
5人は仕事、男性のことなどを話し合い、次第に隠していたものが丸裸になっていく。
第3番『行き止まりの人々』
監督・脚本:安川有果
出演:瀧内公美、大西信満、松林うらら、吉村界人、二ノ宮隆太郎、近藤芳正
映画のオーディションを受けたマチ子。
セクハラや#metooの実体験やエピソードがあれば話すという内容だったが、皆、思い出すことに抵抗があり、上手く演じられない。
そんな中、マチ子の隣にいた黒川だけは迫真の演技を見せる。
マチ子は共に最終選考に残ったが…。
第4番『シーカランスどこへ行く』
監督・脚本:渡辺紘文(大田原愚豚舎)
出演:久次璃子、渡辺紘文
マチ子の実家は大田原にある。
大田原に住む親戚の小学5年生のリコは、大田原で映画の撮影現場にいる。
そこへとある映画監督が撮影現場の待機場所にやってきて…。
渡辺紘文監督ならではの視点で東京中心主義、映画業界、日本の社会問題についての皮肉を、お決まりの作風で描く。
『蒲田前奏曲』は2020年9月25日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷・キネカ大森で公開中、10月16日(金)よりテアトル梅田での公開!他全国順次公開予定!
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