大阪を拠点に、2004年より映像制作者の人材発掘を行っているシネアスト・オーガニゼーション大阪(CO2)の第13回助成作品で、第12回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門及びアメリカのThe Philip K Dick Science Fiction Film Festivalに正式上映され、日本芸術センター第10回映像グランプリでは優秀映画賞を受賞した『メカニカル・テレパシー』。
今回は、本作を手掛けた五十嵐皓子監督にインタビューを行いました。
奇抜な発想から展開される引き付けられる内容のアイデアの源など、興味深いお話となっています。
『メカニカル・テレパシー』五十嵐皓子監督インタビュー
−−まず「心を可視化したらどうなる?」という着想はどのように生まれたのか、『メカニカル・テレパシー』が制作されるに至った背景を教えていただけますか?
五十嵐監督「映画美学校の脚本コースに通っていたときに、課題として何か新しいネタを考えていて『心を可視化する』ということと『体と心の2人が映像として出てくるアイデア』が別々にあったという感じです。心を可視化する方法は色々あったのですが、あくまで映像表現として、同じ顔で同じ役者の人が心と体2つ演じるのは心を可視化する一つの手段として面白いのではないかと思い選びました。」
−−監督は「スタッフやキャストの方と現場でディスカッションを重ねてブラッシュアップしたり、第12回大阪アジアン映画祭に来場されていた方々のアドバイスを受けて変更した部分もあった」と語られていましたが、当初の予定からどのように変化していったのでしょうか?
五十嵐監督「CO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)という大阪の若手映像作家を支援する団体の助成金で映画を撮影できるという企画がありまして、それの条件が、夏に企画を通し、同年の12月までに撮影を終わらせて翌年の大阪アジアン映画祭で上映することだったんです。しかし、長編が初めてだったのでテーマや脚本作りに悩みながら作っていた状況でした。大阪アジアン映画祭で上映したタイミングでCO2で企画を通してくださった方たちの講評がありまして『もうちょっとこうした方が良かったんじゃない?』などアドバイスいただいた内容を受け止めた上でブラッシュアップした形になります。」
−−主演を務めた吉田龍一さんを抜擢された経緯を教えていただけますでしょうか?
五十嵐監督「CO2は関西で活躍する若手の俳優を育成しようという企画も当時やっていまして、主演の吉田龍一さんやヒロインの白河奈々未さん、アスミ役の伊吹葵さんは俳優特待生枠にいらっしゃった方たちなんです。私の企画が通って、一緒のタイミングでやりましょうとなりました。その時はまだ脚本ができていなかったので、吉田さんや白河さんとお会いしてく中で、同時に脚本を作っていきました。」
−−吉田龍一さんいわく「脚本が撮影中に更新されて、日毎に渡された」ということでしたが、そういった渡し方をされたのは演じ手にも先を知らせずフラットな状態で演じてほしいという意図だったのでしょうか?
五十嵐監督「いえ、期限がタイトな中で自分が追いついていなかったというのが実情で、そこは反省点です。100パーセントの脚本に当てはめていくというより、今回初めてお会いするキャストの良さを出したいという気持ちもあり、かなりギリギリになってしまいました。」
−−そういった背景もあり、みなさんとディスカッションしながら作られた過程が生まれたということなんですね?
五十嵐監督「そうなんです。『こういうキャラクターであれば、こういう演じ方をしたい、演じ方になりますね』という話を聞きながら作っていきました。ただ、脚本が遅いことに関しては私の反省点で、本当はもうちょっと早くあった上でキャストとディスカッションできればキャストの負担ももう少し減らせたのかなと思います。」
−−『メカニカル・テレパシー』はCO2の助成金の限られた予算で作られた作品ですが、そんな中でも心が可視化されるシーンではCGを用いられたり、研究室も説得力のあるセットで、とても助成金だけで作られたような演出には見えませんでした。あの辺りのこだわりはありましたか?
五十嵐監督「美術の方もCO2で紹介されて入っていただいたのですが、少ない予算の中でメインの機械に、小さな機械も少し加えられないかとご相談させていただいたり、あとは音の効果で大きなセットは使わなくても良いような方向性を一緒に考えてアイデアにしていきました。」
−−出演者のセリフや表情、BGM全てが終始抑えめのトーンで印象的だったのですが、あのような雰囲気作りは監督の意図でしょうか?
五十嵐監督「見た目は結構派手なのですが、テーマ自体はすごく地味で落ち着いたトーンであることから、なるべく小さい振れ幅で見てもらいたいと思い、今作のようなトーンに落ち着きました。」
−−「心を可視化する」という大きなテーマに恋愛感情をうまく乗せて表現されていたと思うのですが、その手法に恋愛という要素を入れられた理由をお聞きしたいです。
五十嵐監督「SFジャンルは好きな人とそうじゃない人がはっきりしていて、SF好き以外の方は入りにくい印象があるので、どなたでも入りやすい入り口として恋愛要素を絡めました。『好きになった人の気持ちを知りたい』という割と日常にある感情を入り口にして『心の可視化を実現したらどうなる?』というテーマは感情移入しやすいと考えたのが一番です。」
−−結末に進むにつれ、ラブストーリーとしては予想外の方向に向かいますが、監督自身も「思いもよらぬ結末にたどり着いた」とコメントされていました。あの結末に関して、当初は別のプランがあったということでしょうか?
五十嵐監督「捉われたことに対して終わりを付けられる内容も良いなと思い、今作のようなラストシーンにしました。」
−−ラストシーンをそのように軌道修正した一番の決め手はどういったポイントだったのですか?
五十嵐監督「吉田龍一さんが演じる真崎というキャラクターを見ている内にですね。物語としてもキャラクターとしても良いという決断をしました。」
−−本作のラストに出てくる「間違いはない」という一言に、色々な解釈ができる今作の全てが詰まっているように感じました。
五十嵐監督「『間違いはない』と言えるのは本当に優しい人だと思っていて、(申芳夫演じる)草一さんという優しいキャラクターだからこそ出てきたセリフです。見ていただく方々が、一つのことを映画から受け取るのではなく、少し余白を残して自分自身で考えられるような余韻を残したかったという意図があります。」
−−『メカニカル・テレパシー』の公開を控えて、監督の手応えはいかがですか?
五十嵐監督「ツッコミどころはあると思いますが、演じているキャストや画面越しに『全てを出し切った』という熱量は本当に伝わる作品になっています。できることは全てやったという手応えはあります。」
−−本作を通して五十嵐監督が伝えたいこと、本作に込めたメッセージはございますか?
五十嵐監督「心を見たいとか、相手の心を知りたいというテーマは答えがないので、見た上で何をするか、どうするのかが大事だと思っています。そこで迷ったり、戸惑いながら正解を見つけるのではなく、自分の気持ちの余韻に浸ったり、その中で選んでいく感性を大事にしていただきたいというメッセージを込めています。」
インタビュー・構成 / 佐藤 渉
撮影 / 白石太一
『メカニカル・テレパシー』作品情報
出演:吉田龍一、白河奈々未、申芳夫、伊吹葵、青山雪菜、石田清志郎、時光陸、松井綾香、長尾理世、竹中博文、古内啓子(声の出演)
監督・脚本:五十嵐皓子
撮影:中瀬慧
照明:加藤大輝
美術:松本真太朗
衣装:蔭木いづみ
ヘアメイク:榎本愛子
音楽:宇波拓
録音:川崎彰人
音響:川口陽一
編集:和泉陽光・五十嵐皓子
VFX:守屋雄介
助監督:吉原裕幸
制作担当:清水美和・根本克也
配給・宣伝:アルミード
2018 / 日本 / カラー / 2.4:1 / ステレオ / 78分
公式サイト:https://mechatelemovie.wixsite.com/mechatele/
Twitter: @mechatelemovie
Facebook: @mechatelemovie
あらすじ
ある大学の研究室で、「心を可視化する機械」の開発が行われていたが、実験中に事故が起こり、開発者の三島草一(申芳夫)が意識不明のまま目覚めなくなる。
共同研究者で草一の妻の碧(白河奈々未)は開発を続け、草一の心の可視化を試みていた。
成果を出さない開発を疎ましく思う大学側は、機械の調査という名目で、真崎トオル(吉田龍一)を研究室に送り込む。
可視化された草一を目の当たりにする真崎。
果たして、真崎が目にした人物は、可視化された草一の心なのか、碧の願望が可視化されたのか?
徐々に碧に惹かれていく真崎は、本当に重要なことは何なのかということに気づいていく。
『メカニカル・テレパシー』は2020年10月9日(金)よりアップリンク渋谷にてほか全国順次公開!
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