映画『ハウス・ジャック・ビルト』あらすじ・ネタバレ感想!カンヌで賛否両論。淡々と語られる殺人鬼の犯行記録

出典:『ハウス・ジャック・ビルト』公式ページ

ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『アンチクライスト』など、人間の鬱々とした部分を描いた作品を多く世に出してきたラース・フォン・トリアー監督の最新作。

ポイント
  • カンヌ国際映画祭では途中退出者を続出させたほど胸糞悪い、でも見入ってしまう物語
  • 少しずつジャックの心の中に入り込んだような感覚にさせる音響演出
  • これぞトリアー作品とも言える、救いようのなさになぜか見応えを感じる

物語は主人公・ジャック(マット・ディロン)が行ってきた殺人を、彼の身に起きた5つの出来事に沿って日記を語るように紹介されていきます。

R18指定の作品ですので、その点だけご注意ください。

映画『ハウス・ジャック・ビルト』作品情報

ハウス・ジャック・ビルト

出典:映画.com

作品名 ハウス・ジャック・ビルト
公開日 2019年6月14日
上映時間 152分
監督 ラース・フォン・トリアー
出演者 マット・ディロン
ブルーノ・ガンツ
ユマ・サーマン
シオバン・ファロン・ホーガン
ソフィー・グロベル
ライリー・キーオ
ジェレミー・デイビス

映画『ハウス・ジャック・ビルト』あらすじ


1970年代のワシントン州。

建築家志望の独身技師ジャック(マット・ディロン)が車で人けのない雪道を通り掛かると、女性(ユマ・サーマン)が車が故障したと助けを求めてくる。

ジャックは彼女を車に乗せ修理工場まで送るが、彼女は急に態度を変えて無神経で挑発的な発言を繰り返し、ジャックは彼女に怒りを募らせる。
出典:シネマトゥデイ

映画『ハウス・ジャック・ビルト』みどころ

映画『ハウス・ジャック・ビルト』みどころ

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『アンチクライスト』などのラース・フォン・トリアーが監督を務めたスリラー。

殺人に明け暮れるシリアルキラーの12年を描く。

『クラッシュ』などのマット・ディロンをはじめ、『ヒトラー ~最期の12日間~』などのブルーノ・ガンツ、『キル・ビル』シリーズなどのユマ・サーマン、『アメリカン・ハニー』などのライリー・キーオらが出演。
出典:シネマトゥデイ

映画『ハウス・ジャック・ビルト』を視聴できる動画配信サービス

『ハウス・ジャック・ビルト』は、下記のアイコンが有効になっているビデオ・オン・デマンドにて動画視聴することができます。

なお、各ビデオ・オン・デマンドには無料期間があります。

u-next
注意点
  • 動画の配信情報は2019年6月24日時点のモノです。
  • 動画配信ラインナップは変更される可能性もありますので、登録前に各サービスの公式ページにて必ずご確認ください。

ご覧のとおり、2019年6月24日現在はどこのビデオ・オン・デマンドでも配信開始となっておりません。

動画配信が開始になり次第、追って情報を掲載させていただきます。

【ネタバレあり】映画『ハウス・ジャック・ビルト』感想レビュー

きっかけは一人の女性を助けたこと

第一の出来事でジャック(マット・ディロン)は運転中に山道で女性(ユマ・サーマン)と出会います。

彼女は車がトラブルを起こしていて、通りがかったジャックに助けを求めました。

持ち上げるための機械であるジャッキが壊れていて、少し離れたところに鍛冶屋があるのでそこで治してもらうようアドバイスをしたのですが、女性はそこまで連れて行けとなかば強引にジャックの車に乗り込んだのです。

それからは女性の一方的なおしゃべりが始まるのですが、これがまた少しジャックに同情してしまうほど酷いものでした。

「あなた殺人鬼みたい」だとか「きっとこのジャッキで殴って殺すんだ」とか、助けてくれた人間に対する敬意など微塵も感じられない、無神経な言葉の数々がジャックに投げられます。

しかし、ジャックは嫌そうな感じを醸し出しながらもぐっと堪えていました。

ですが、「あなたにそんなことできるはずない。虫一匹も殺せない臆病者だもの」という一言でジャックの怒りは頂点に達し、先に女性が話していた通りジャッキで女性を殴り殺します。

殺した後、死体はジャックが以前冷凍ピザ屋から買い取った巨大な冷凍庫に隠します。

この冷凍庫は、この後次々にジャックが殺した被害者を隠す場所になります。

物語終盤ではもう死体でいっぱいになるほどに…

衝動的な殺人から芸術を求める殺人へ変化

第一の女性は、怒りを抑えきれなくなったことで殺してしまいます。

しかし、それ以降のジャックの殺人は、用意周到なものもあれば、再び殺人衝動を抑えきれなくなったものまで様々なパターンが出てきます。

特に用意周到さにはかなり念を入れていました。

それもそのはず、ジャックは強迫性障害でした。

この障害は、ささいなことをいつまでも忘れることができずに気になってしまうというものです。

それを確実に感じられる象徴的なシーンが第二の出来事です。

この出来事でジャックは警察を装って、ある婦人(シオバン・ファロン)の家に訪れます。

警戒心の強い婦人は、ジャックが警官バッジを持っていないことに不信感を抱き、一向に家に上げようとはしません。

映画を観ている側からしてもジャックの言っていることは二転三転して支離滅裂なので当然です。

結果的に年金を管理する職員で、上から最初は警察を装うよう言われていたと言ったあと、年金を約2倍にできるかもしれないと嘘をつき、金に目がくらんだ婦人はジャックを家にあげてしまいます。

その後婦人を殺して死体を車に積んで、あとは出発するだけだという時に、潔癖ゆえにテーブルの脚の下やカーペットの下、額縁の裏などに返り血が飛んでいるのを思い浮かべて何度も何度も見に戻っているのですが、その間に警察が来てしまいます。

なんとか切り抜けてその場を立ち去るのですが、この一連の姿があまりに滑稽で笑ってしまうほどです。

しかし、彼の殺人には一貫した芸術的なテーマがありました。

それは、殺した後に写真を撮ること。

ただ死体が横たわる風景ではなく、イスに座らせてポーズを取らせるなど日常の一コマを切り取ったかのような写真です。

この写真に対する彼のこだわりは強く、時が経つにつれて過去の写真に納得いかなくなれば、その時の死体を冷凍庫から持ち出して再び同じ場所、つまり殺害現場で写真を撮るほどでした。

また、そんなこだわりのために現場に行く途中すれ違った老人を見て殺人衝動が起き、自分でも抑えきれなくなって、そのまま轢き殺して死体を持ち去り、一緒に写真に収めてもいます。

芸術の計画のために、衝動に駆られて無計画にさらなる殺人を起こすという矛盾に、彼なりの美学が垣間見えます。

こうして観客もジャックの思想の中に取り込まれていくのです。

ジャックの理想と現実の乖離

次々と語られる物語の中で分かってくるのが、ジャックはあくまで芸術的な殺人を行おうとしていること。

そのため、彼はあろうことか撮影した写真を新聞社に送り出します。

しかも、その時の差出人名は「ミスター洗練」。

しかし、実際には強迫性障害のためスムーズに殺人を進めることができず、どうしても雑でお粗末な場面がいくつも出てきます。

それは到底「洗練」とは言い難いもの。

ですが、それはジャック本人も分かっていたのかもしれません。

なぜなら、この物語では場面場面でジャックが、とある人物と会話している声が入ってきます。

その会話の相手はジャックのやり方を指摘し、ジャックの思い描いている理想とは違っていることを諭すように語っています。

当然ジャックはその言葉を受け入れることはありません。

では、なぜジャック自身が理想とはかけ離れたやり方をしていると分かっていたと予想できるのか。

それはこの話し相手の正体が、物語が終わっても“謎”だからです。

ジャックが会話をする相手の謎

ジャックとこの謎の人物の会話は、物語の最初のシーンから始まります。

最初の方は捕まった後のカウンセラーとの会話なのかと思うような落ち着いた雰囲気です。

しかし、その正体は物語の後半、最後の出来事を語り終える頃に明らかになります。

ある日、ジャックは数人を拉致し、冷凍室に集めていました。

彼らの頭が一列に並ぶように拘束し、一発の銃弾でどれだけの頭を吹き飛ばすことができるか実験をしようとしていたのです。

そのためには破壊力のある弾丸でなければいけません。

そこで彼はフルメタル・ジャケット=完全被甲弾を使おうとしていたのです。

この弾丸は全体を硬い銅で覆っていて勢いが衰えにくいものでした。

しかし、彼が馴染みの店で売られた箱にはフルメタル・ジャケットと表記されていながらも中身だけ違うものでした。

激怒したジャックは改めて弾を手に入れに一度店に向かいます。

これこそがジャックのミスでした。

戻ってきたジャックは弾を銃に込め、照準を合わせようとしますが距離が近すぎてなかなか合いません。

そこで、ずっと開くことができなかった“冷凍庫の隣室”への扉を強引に開いて距離を稼ごうとします。

ようやく照準も合って引き金に指をかけた時に、ジャックは声をかけられます。

振り向くと、そこには一人の老人が座っていました。

彼は自分のことをヴァージと名乗り、これまでずっとジャックの行動を傍で見ていたと言います。

そこでヴァージはジャックに諭すように語り始めます。

しかし、それは決して彼に殺人を止めさせようとするのではなく、落ち着いて彼にとって本当に美しい殺人とは何かを考えさせるような言葉でした。

ジャックが本当に作りたかった物が完成した瞬間

子どもの頃から建築家を夢見ていたジャックは、殺人の合間も自分が理想とする家を作っては納得がいかずに壊すのを繰り返していました。

そのことも知っていたヴァージは、ジャックに対して「材料には固有のものがある。ジャックにはジャックにしかない材料がある」と助言します。

ジャックにしかない材料…それは当然これまで殺してきて保管してあった死体のことです。

この間に冷凍庫の外には警察がやってきて、いつ扉を破って突入してきてもおかしくない状況になっていました。

しかし、ジャックはそんな様子もお構いなしに、死体を積み上げていきます。

そしてできあがったのは、“死体の家”。

嫌悪感しか抱くことができないはずのその家の様子は、どこか達成感を感じてしまうほど幻想的に描かれています。

できあがった家にヴァージはゆっくりと入っていき、ジャックを呼びます。

中に入ると、そこにヴァージの姿はありません。

しかし、床にぽっかりと空いた穴からヴァージの声がして、ジャックもその中に入っていきます。

その後ろでは警察が扉の一部を焼き切り、今すぐにでも入ろうとしていました。

殺人を繰り返してきたジャックの行きつく先

穴に入ると、そこは腰がつかるほど水がたまった洞窟のような場所が広がっていました。

どんどんと進むヴァージの後をジャックはついていきます。

やがて、洞窟中に甲高い音が鳴り響いてきます。

その音をヴァージは人の悲鳴だと言いました。

人の悲鳴が無数も重なり響くとこんな音になるのだと。

そして、2人は下をマグマが流れて落ちていく大きな穴にたどり着きました。

先の見えないその穴の底こそ、地獄だったのです。

しかし、ヴァージは驚くべきことにジャックがいるべき場所はここではなく、2層ほど上にあると言います。

つまり、ジャックは真の地獄に落ちる存在ではないということなのでしょう。

2人が立っていた場所は橋になっていて、真ん中で崩れ落ちています。

向こう側には上に伸びる階段があり、そこを進むと元の世界に戻ることができるとヴァージは言ったあと、来た道を戻るようジャックに言います。

しかし、ジャックは崩れた橋を迂回し、ゴツゴツとした岩をよじ登りながら向こう側に行けないかとジャックは考えました。

これまでに何人かが挑戦したが、成功した者はいないというヴァージの忠告を聞いた上で、ジャックは挑戦します。

ヴァージはその場で別れを告げ、ジャックは一人で岩肌をロッククライミングのように移動していきます。

しかし、橋の向こう側まであと半分ほどまで来たところで足を踏み外し、ジャックは漆黒の闇が包む穴に落ちていき、物語は終わります。

トリアー監督作品特有の後味の悪さ

殺人という重苦しいテーマを生々しく描き、最終的に逮捕されるシーンが描かれるわけでもなく、殺された人の魂が少しも救われることはありません。

殺す側の目線で、ただひたすらに自らの欲望を満たすために人の命が奪われる様子を観させられる。

タイトルにある家は殺された人の死体で組み上げられて完成する。

とにかく重い気持ちを抱いたまま劇場を後にすることになります。

しかし劇中に流れる、ジャックと同じ強迫性障害を持った世界的なピアニストのグレン・グールドの曲と映像も相まって、ひとつの芸術作品を観たような充足感を得られます。

それは、トリアー監督の魅力でもある狂気に振り切った演出や描写が存分に盛り込まれているからかもしれません。

やるのであれば徹底的に鬱々しく狂った作品を生み出すトリアー監督の思考を、まさにそのまま映像にしているので、今後彼の代表作として語り継がれていく作品であることは間違いありません。

映画『ハウス・ジャック・ビルト』まとめ

以上、ここまで『ハウス・ジャック・ビルト』を紹介させていただきました。

要点まとめ
  • 途中退出もスタンディングオベーションどちらも納得できる変態性の強い作品
  • 殺人も芸術の一部なのでは?と理解できてしまいそうな物語の流れが怖い
  • とことん鬱々しい作品を観たい人にはとにかく見てほしい