2019年4月9日から放送されていた全5回のテレビドラマ『his~恋するつもりなんてなかった~』の13年後を描いた映画『his』。
田舎で静かな一人暮らしを送っていた井川迅の元に、高校時代に出会い、大学卒業時に別れた恋人・日比野渚が突然現れたところから話は動き出します。
舞台となったのは、岐阜県の白川町。
迅と渚の関係はもちろんのこと、渚の家族問題などをメインに丁寧に描かれた人間ドラマは、LGBTQ問題を考えるきっかけになる作品と言うよりは親子、家族とは何かを静かに問いかけているかのようです。
『愛がなんだ』の今泉力哉監督が、ドラマ版からも関わっていただけあり、主演の2人を演じる俳優は違っていても、世界観は崩れることなく何とも言えない優しさを全編から感じる作品に仕上げています。
- ドラマ版を観ていなくても大丈夫な構成ですがドラマ版も観ていると2倍楽しめます。
- 同性愛者が差別される姿を描くものではなく、人とのつながり、家族の在り方を問うドラマです。
- 白川町の自然が美しく描かれていて映画の世界観にぴったり。
それでは『his』をネタバレありでレビューします。
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目次
『his』作品情報
作品名 | his |
公開日 | 2020年1月24日 |
上映時間 | 127分 |
監督 | 今泉力哉 |
脚本 | アサダアツシ |
出演者 | 宮沢氷魚 藤原季節 松本若菜 松本穂香 外村紗玖良 中村久美 鈴木慶一 根岸季衣 堀部圭亮 戸田恵子 |
音楽 | 渡邊崇 |
【ネタバレ】『his』あらすじ
高校の春休みに江の島で偶然出会った井川迅と日比野渚。
やがて互いへの感情が、友情ではなく恋だと気付いた2人。
しかし迅の大学卒業を控えたある日渚は一方的に別れを切り出したのでした。
そして、出会いから13年後。
ゲイであることを周囲に知られるのを恐れた迅は仕事を辞め、岐阜の白川町でひっそりと一人暮らしをしていました。
そこへ6歳の娘を連れた渚がいきなり現れます。
戸惑う迅に、渚は居候させて欲しいと頼み込むのでした。
空も次第に迅に懐き、周囲の人々も3人を受け入れていきますが、渚は空の親権争いを妻の玲奈としていることを打ち明けます。
渚は迅と別れた後に通訳をしている玲奈と出会って結婚、空も生まれて家族の幸せを守ろうとしたものの、迅への想いをどうしても捨て切れなかったことを告白。
再び想いが通じ合った迅と渚は、空と3人で暮らしていくことを考えます。
親権を取るため、白川で仕事に就く渚。
空を白川町から連れ帰った玲奈は、仕事と子育ての両立何より母親からのプレッシャーに追い詰められていきます。
やがて空の親権を争う裁判に挑んだ渚ですが、自分が玲奈を裏切っていたこと、玲奈が働いてくれたおかげで空と過ごせて幸せだったことを考え、玲奈が空と暮らせるように自らが親権を取ることを諦めるのでした。
そうして東京で暮らし始めた空ですが、学校でも友達を作らず過ごしていると聞き、玲奈は躊躇った末に渚に連絡を取ってアドバイスをもらいます。
自転車を買ってもらった空はもちろん、玲奈にも明るい笑顔が戻ります。
しばらくして、白川町を訪れた玲奈と空。
自転車に乗る空を迅と渚、玲奈は優しく見守るのでした。
【ネタバレ】『his』感想
前日譚であるドラマは必見
映画版は大人の2人の物語ですが、ドラマ版の『his~恋するつもりなんてなかった~』は高校生の2人が偶然出会い、惹かれ合っていく姿が描かれています。
『his~恋するつもりなんてなかった~』は、映画とスタッフが同じ。
そのためドラマ版とキャストは違っても、迅と渚の物語だと違和感なく物語に入って行けます。
くりす
3月のある日。
高校3年生を迎える春休みに、単身赴任の父親を訪ねて名古屋から江の島にやって来た井川迅。
ところが父親は急な出張でしばらく家を空けることになってしまい、迅は名古屋に戻ることを決めます。
マンションから出て浜辺で写真を撮っていたところ、別れ話をしているカップルに目を止めた迅。
カップルの少年の方にサーフボードを持っていてと強引に頼まれた迅は、どうすることもできず少年の帰りを待っていましたが、海に落ちて家の鍵や財布を失くしてしまいます。
サーフボードの持ち主を知っていた熊切千歌は、迅がサーフボードを盗んだと勘違いした後に謝罪し困っている迅を自分の家であるサーフィンショップに連れて帰ります。
そこで出会ったのがサーフボードの持ち主・日比野渚。
渚は訳あって親と離れて、江の島で一人暮らしをしているサーフィンが好きな少年でした。
迅は渚に誘われてしばらく江の島に残ることを決めます。
無口で無愛想に見える渚と迅はその日から少しずつ仲良くなっていきます。
実は千歌は渚が好きで、千歌の後輩の亜子は迅に惹かれていきます。
一度は千歌と付き合うことにした渚ですが千歌は渚が本当は迅に惹かれていることに気付きます。
渚は千歌に江の島にやって来た本当の理由をちゃんと話すことを決意します。
もともと同性にしか惹かれなかった渚は、前にいた高校でゲイだと噂になって自分が好きになった相手にまで迷惑をかけてしまい転校してきたのです。
その頃、迅も渚に惹かれていることを自覚しますが、黙って名古屋に帰ろうとしていました。
純粋な2人の少年の恋はドラマではハッピーエンドを迎えます。
少年少女たちの純粋な恋の物語が、5話に渡って丁寧に描かれた、まさに「青春」といったドラマになっています。
くりす
舞台となったのは岐阜の田舎町
くりす
関ヶ原、白川郷、『君の名は。』の舞台となった高山や飛騨古川くらいしか地名度のない岐阜。
舞台となった白川町は、映画でもわかるように山の中の小さな町なのです。
名古屋からだと1時間半くらいの距離。
2015年から空き家バンクの登録をしていたりと移住・定住のサポート体制が整っている町なのです。
主人公の1人である迅が暮らしているのが、地元である名古屋から少し離れた人の少ない移住支援制度のある白川町なのも自然な流れですよね。
くりす
ちなみに岐阜県外の人なら間違えて当然ですが、世界遺産の白川郷がある白川村とは白川町はまったく関係ありません、距離的にとても離れています。
絶賛田舎暮らし中の迅ですが、引っかかることが一つ。
くりす
もっとも家庭菜園で野菜など作っている人も多いので、我が家も野菜や果物をよく周囲の方から頂いています。
くりす
同性愛がメインではなく、様々な形の人の関わり、愛を描いた作品です
『his』はテレビドラマを観ていた人にとって、ショックな展開から幕を開けます。
迅と渚が迅の大学卒業を機に別れてしまうからです。
そうしてドラマから13年後。
白川町でひっそりと暮らしていた迅のもとに娘の空を連れた渚がいきなり現れたところから、物語は大きく動き始めるのです。
迅と渚の恋の行方、渚と妻の玲奈や空の関係、迅や渚、空と町の人たちとのつながりなどが優しい目線で綴られていきます。
まず、物語の中でも大切な要素である迅と渚の関係。
迅の立場からすると、いきなり別れを切り出した相手、自分を捨てた相手が、急に田舎に住む自分の前に現れた上に何と子持ちとくれば戸惑って当たり前。
実際、渚の行動の意味もわからず苛立ちや不安も抱えているように見えます。
くりす
しかし物語が進むにつれ、渚の現状や考えもわかります。
家庭が上手くいかず離婚することになり娘の親権を争っていること。
「普通」であろうとしてもがいたけれど、結局無理だったことや、迅でないと駄目だということを涙ながらに迅に訴えるのです。
いきなりの別れも就職する迅を思ってのことであり、今回もぎりぎりまで精神的に追い詰められて愛する迅に会いに来たことが伝わってきます。
迅の将来を思ったこととはいえ理由も言わず別れた渚にしてみれば、迅に拒絶されたらと怯えてもいたはずです。
くりす
渚というキャラクターについては、迅だけでなく妻である玲奈を大きく傷付けたことで、身勝手だという印象をどうしても抱くかもしれません。
けれど迅や玲奈が愛したように渚は本来魅力のある人物なのも確かなのです。
だからこそ白川の人たちに、すんなり受け入れられたのでしょうし。
くりす
迅が周囲に知られるのを恐れていたのはわかるので、カミングアウトに対して映画の中で割とあっさりと認められたことには安堵しました。
もちろん差別意識を持つ人間が世間にはまだ多くいるのはわかっていますが、事実を知ったらそれで納得して終わりという人も実際多いでしょう。
くりす
おそらく迅が一番町民で心を許していだだろう、猟師の緒方の言った言葉。
「人が誰を好きになろうとも、その人の勝手」
さり気ない言葉ですが、緒方の言葉で迅はとても救われたのではないでしょうか。
くりす
それでもそれぞれ辛い時期を乗り越えたことで、迅と渚だけでなく玲奈も人として成長し、強くなったはずです。
ラストのその先もきっと何らかの問題は起きるだろうけれど、空を中心とした「家族」としてみんなで強く生きていけると信じられるそんな優しい気持ちになりました。
くりす
『his』にはたくさんの「好き」と「ごめん」、「ありがとう」が詰まっています。
世界は思っているよりも優しいと思える素敵な映画でした。
今作はエンドロールにかかる主題歌がとても素晴らしのもおすすめポイントの一つです。
くりす
『his』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
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映画『his』
絶賛公開中
◢ご感想は #映画his までお待ちしております!🍳✨#宮沢氷魚#藤原季節 pic.twitter.com/ol9V9ZI2GA
— 映画『his』絶賛上映中! (@his_movie) January 29, 2020
以上、ここまで『his』をレビューしてきました。
新しい家族の在り方や人を愛することの尊さを教えてくれる素晴らしい映画でした。
- 主演の宮沢氷魚と藤原季節、2人のケミストリーが素晴らしいです。
- ところどころ胸に刺さるものはあるものの、鑑賞後は優しい気持ちになれる人間ドラマです。
- 空ちゃんが可愛すぎで何とも癒やされます。
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