『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』あらすじ・ネタバレ感想!貧困問題をポップに表現した衝撃作

出典:『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』公式ページ

舞台はアメリカ・フロリダにあるディズニーワールド。

ではなく、すぐ近くの安いモーテルで暮らす母親と娘のストーリー。

映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』は、すぐ側にある”夢の国”とは裏腹に、現実に苦しみながらも、その日その日を懸命に過ごす姿をリアルに、そして色鮮やかに映し出した作品となっています。

ポイント
  • 現代アメリカの抱える貧困問題をカラフルな映像とポップな音楽にのせて撮った問題作。
  • 俳優たちの自然な演技が素晴らしい。ベテラン個性派俳優ウィレム・デフォーにも注目。
  • 巧みなカメラワークの切り替えが『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』の表現の世界を広げている。
  • 謎の幕切れ。疑問の残るラストシーンに頭のなかで「?」が連発。

それではさっそく『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』をネタバレありでレビューしたいと思います。

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『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』作品情報

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

出典:映画.com

作品名 フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
原題 The Florida Project
公開日 2018年5月12日
上映時間 115分
監督 ショーン・ベイカー
脚本 ショーン・ベイカー
クリス・バーゴッチ
出演者 ブルックリン・プリンス
ウィレム・デフォー
ブリア・ヴィネイト
ヴァレリア・コット
クリストファー・リヴェラ
音楽 ローン・バルフ

本作は、2008年に発生したサブプライム住宅ローン危機の余波に苦しむ貧困層の人々を6歳の主人公の視点から描写した作品となっています。

どこか現実離れした世界で、社会の片隅で生きる人々の日常を、登場人物たちに優しく寄り添いながら、まばゆいほどの映像美でカラフルにそしてリアルに描かれているヒューマンドラマ映画。

【ネタバレ】『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』あらすじ・感想


アメリカの貧困問題をカラフルな映像とポップな音楽に乗せて描く問題作

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』は、フロリダのディズニーワールドの隣にある、安モーテルに住んで生活しているシングルマザーのヘイリーと、6歳の娘ムーニーの物語です。

アメリカにはヘイリー親子のように、定職につけず、長く住むことのできる住まいを確保できずに、安いモーテルでその日暮らしを送っている人たちが大勢いるのです。

監督ショーン・ベイカーは、実際に低所得者層の暮らすモーテルに行き、取材をして本作を撮りました。

本作のタイトル『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』とは、1960年代に始まった、フロリダでのウォルト・ディズニーによる、テーマパーク開発を意味します。

夢の国の開発プロジェクトの影で、貧困に苦しんでいる人たちがいる。

監督のショーン・ベイカーは、そんな皮肉も込めて、本作のタイトルをつけたのでしょうか?

こんなふうに書くと、さぞかし暗い映画なのだろうと思われがちですが、決してそんなことはありません。

物語の冒頭で流れるのは、クール・アンド・ザ・ギャングの大ヒット曲「Celebration」。底抜けに明るい曲ですよね。

この明るい曲をベースに物語は進んでいきます。映像もカラフルで、原色がふんだんに使われています。

ヘイリーとムーニーの暮らす安モーテル「マジック・キングダム」は派手なムラサキ、街のさびれた建物は原色のピンクや緑、黄色で描かれています。

現実感があまりなく、どこかおとぎ話の世界のようなのです。

フロリダのまぶしい太陽の下で、6歳の女の子は大人相手にイタズラをしかけ、廃墟を冒険し、毎日が楽しくて仕方がありません。

そんなムーニーの日常が『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』では淡々と描かれていきます。

母親ブリア・ヴィネイトと娘ブルックリン・キンバリー・プリンスのナチュラルな演技が素晴らしい

本作の素晴らしさのひとつは、出演する俳優の演技でしょう。

母親のヘイリー役のブリア・ヴィネイトは、監督のショーン・ベイカーが、ブリア・ヴィネイトのInstagramを見てスカウトしたそうです。

ブリア・ヴィネイトの本職は俳優ではなく、服飾デザイナーなのだそうですよ。

若きシングルマザーで、娘を愛してはいるのだけれど、自分が大事、自分が1番。そんな母親をナチュラルに演じていました。

娘のムーニーを演じる、ブルックリン・キンバリー・プリンスも素晴らしいです。

感受性が強くて実は繊細な悪ガキのムーニーを、見事なまでに演じていました。

アカデミー賞候補にもなった個性派俳優ウィレム・デフォーの演技にも注目

そして特筆すべきは、口うるさく言いながらも母子を見守るモーテルの管理人、ボビーを演じたウィレム・デフォーの存在でしょう。

個人的に大好きな俳優さんです。

ウィレム・デフォーが出るから『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』を見たと言っても過言ではありません。

怖い顔なのに優しい役をやらせると天下一品で、ひそかにアメリカの遠藤憲一と呼んでいます。

私の好きなウィレム・デフォーが、素人の多い俳優の中に入って、どのようにボビーを演じるのか注目していました。

際立った個性を持つウィレム・デフォーが、浮いてしまうのではないかと思ってもいましたが、そんな心配は無用だったようです。

もうボビーにしか見えません。とても自然で溶け込んでいます。

ボビーはヘイリーとムーニーの母子を気にかけて、なんとかしてやりたいと思っていますが、モーテルの経営者と言う立場上、ときには強い態度で2人に接しなくてはなりません。

その葛藤をウィレム・デフォーは、実に見事に演じていて、本作を見る人はボビーを好きになり、感情移入することになるでしょう。

ウィレム・デフォーは『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』で第90回アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされました。

本作でウィレム・デフォーに興味を持った方は、ウィレム・デフォーの他の出演作も、ぜひチェックしてみて下さいね。

「あれ?こんなところにも?」と名バイプレイヤーっぷりに驚きますよ。

巧みなカメラワークが物語の世界をより奥深いモノにしている

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』で注目してもらいたい点はまだあります。それはカメラワークです。

本作では、基本的に世界は6歳の女の子の視点を通して描かれます。

カメラは低めのアングルで子供の世界を映し出すので、空がとても高かったり木が大きかったりします。

重要なシーンはほとんどムーニーの視点を通して描かれるので、見ている観客は全体像がわかりません。

ある事件がきっかけで、それまで明るかった物語に、徐々に暗い影が差し込むようになります。

そしてそのころから私は、ムーニーがひとりで入浴するシーンがとても多くなっていることに気づきました。

ムーニーの母ヘイリーは生活に行き詰まり、インターネットを通じて知り合った男性をモーテルの部屋に招き入れ、売春行為をしてしまいます。

安モーテルには部屋がひとつしかなく、ヘイリーが男性の相手をしている間、ムーニーは風呂場にいるしかありません。

映画を見ている私は、ヘイリーがなにをしているのか、具体的に見ることはできません。

ドアの開く音、男性が母親としている会話。

ムーニーの体験を通して見ている私は、ヘイリーがなにをしているのかを知るのです。

私はムーニーが、どんな思いでこの場にいるのだろうと考えると、胸が痛くなりました。

また母親のヘイリーの描かれ方も、少しずつ変わってきます。

ムーニーの視点で描かれる母親のヘイリーは、明るくて自分を愛してくれていて、一緒に楽しいことをたくさんしてくれる大好きなママなのです。

一方ヘイリーの友人からみると、子供のことをまったく理解しておらず放ったらかしで、自分の好きなように生きる身勝手でワガママな母親に映ります。

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』は視点を変えることで、まったく違う世界を見せてくれて、私たちは自分の見ていたものとの違いに驚くことになります。

謎の多いラストシーン。私なりに考察してみた。

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』のラストは、ある意味「驚愕のラストシーン」だと言えるでしょう。

母親のヘイリーが売春をしていることがバレて、ムーニーはヘイリーと引き離されて、児童保護施設に保護されることになります。

迎えに来た福祉局の女性を振り切って、ムーニーは親友のジャンシーのもとへ走ります。

「あたしどこかに連れて行かれてもうあんたに会えないの。親友なのに。そんなのイヤ!」と泣きじゃくるムーニーの手をとって、ジャンシーは走り出します。

それと同時にカメラも、スマホで撮影したような映像になるのです。

人混みをすり抜け、2人は本物の夢の国・ディズニーワールドに向かって走って行きます。

これで終わりです。ここで唐突に物語が終わってしまうのです。

「なにこれ?!どういうこと?2人はどこに行ったの?ムーニーはどうなったの?」

頭の中は?マークでいっぱいになりました。

そこで、私なりに謎かけっぽく終わったラストシーンの考察をしてみました。

ムーニーは親友のジャンシーの前で大泣きします。

実は、ムーニーが『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』の中で涙を見せるのはこのシーンが初めてなのです。

私は、ムーニーが泣いたことで、おとぎ話の中に住む女の子ではなく、つらい現実を生きる6歳の少女になったのだと考えます。

映像が唐突にスマホで撮影したようなものに変わったのも、現実感を出すためなのではないかと思いました。

そして、ムーニーは本物のおとぎ話の国である、ディズニーワールドに向かっていく。

以上が、私のラストシーンの考察ですが、それでもスッキリせずモヤモヤしたものが残ります。

もしかするとそれが、監督ショーン・ベイカーの狙いなのかもしれません。

モヤモヤしたものを抱えたまま、ひとりひとりがしっかりとこの深刻な問題を考えてくれ、と。

そんなメッセージを投げかけたのかもしれませんね。

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』まとめ

以上、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』の感想とラストシーンの考察を書かせていただきました。

要点まとめ
  • 現代アメリカの抱える貧困問題を6歳の少女の視点から描いた問題作
  • 出演俳優のナチュラルな演技に感動。
  • 個人的にイチオシ個性派俳優ウィレム・デフォーに注目。
  • 巧みなカメラワークが物語に深みを持たせている。
  • 謎の多いラストシーン。観客は想像力と考える力を試されているのか?

ぜひ、あなたも本作から貧困問題について考え、そして謎のラストシーンを解釈してみてください。

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