ファンタジーアニメ、映画、ドラマに出てくる魔法、呪術などのモチーフを解説!陰陽師や妖怪、気とは何か?【東洋編】

ファンタジーアニメ、映画、ドラマに出てくる魔法、呪術などのモチーフを解説!陰陽師や妖怪、気とは何か?【東洋編】

出典:U-NEXT

以前、ファンタジーに登場する魔法、魔術、呪術などのモチーフを西洋魔術の観点から解説した記事を執筆しました。

今回は東洋魔術編です。

散々語ってきましたが、前提として以下をおさらい。

ポイント
  • 魔法も魔術も呪術も基本一緒。なので、文中「魔術」と呼んでいるものはほぼイコール「魔法」でもある
  • 呪術は原始的な魔術という意味合いで使われる場合がある
  • 呪術は地域、文化の差異が小さく、どの地域でも似たような方法論
  • 各地域の文化が洗練されていく過程で呪術が魔術に進化し、地域差が発生した

以上を前提とし、映像作品によく登場する東洋魔術由来のモチーフを解説していきます。

ファンタジーアニメ、映画、ドラマに出てくる魔法、呪術などのモチーフを解説【東洋編】

中国とインド

アジアにおいて、文明の発祥地になったのは二か所。

インド、パキスタン、アフガニスタンなどで発生した、インダス文明と中国で発生した黄河文明です。

世界には文明の発祥した地域と、その地域から文明が伝搬した地域の二つしかありませんが、大多数は影響を受けた方の地域です。

ニコ・トスカーニ

我が国は地理的に中国と近いため、中国の文明から多大な影響を受けています。インド発祥の文化にも影響を受けた部分もあります。
中国文明

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自然と日本の魔術が、日本古来の呪術に中国・インドの魔術が合わさったものになることはご理解いただけるかと思います。

中国魔術の根幹思想・気

「気」は中国魔術の大前提となる思想です。

その歴史は起源が判然としないほど古く、春秋戦国時代の後期(紀元前4世紀から3世紀ごろ)にはすでに定着した概念になっていました。

ニコ・トスカーニ

気は万物にあまねく存在する、宇宙エネルギーの一種です。

空間に充満して絶えず流れ続け、天体の運行、気候、生物の成長などあらゆるものに作用すると考えられています。

易や風水、仙術、伝統的な中国医学など中国由来のあらゆる魔術思想は気を前提にしています。

風水

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ニコ・トスカーニ

身近な例だと、鍼治療がそうです。

古代中国医学の思想では、人が病気になるのは気の流れが原因と考えられています。

鍼治療は経穴(ツボ)を刺激することで、経絡(気が通る道)の流れの異常を正す治療法です。

鍼治療

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日本でも鍼灸院は、そこら辺にあるありふれた代物です。

ニコ・トスカーニ

鍼治療は現代でも存在が公然と許されているので、効果が科学的に証明されている…と言いたいところですが、実のところ、鍼の科学的な効果は21世紀の現在でも証明されていません。

鍼は治療効果そのものを実証するためのランダム化比較試験も多く行われており、「実はプラセボ(偽薬効果。プラシーボとも。効果的な治療を受けたと被験者が思い込むことで、病状が好転する現象)なのではないか?」という疑いも持たれています

ニコ・トスカーニ

現時点ではとにかく「謎」ということですね。

創作の世界における「気」は『ドラゴンボール』はじめ嫌と言うほど色々なところで見ますが、大体において、「戦う時に必要なエネルギー」みたいな扱いになっています。

『ドラゴンボール』気

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中国思想の気は万物にあまねく存在する力なので、おおむね古代中国の思想に基づいているわけですね。

ニコ・トスカーニ

体内に気を蓄え、不老不死を目指す仙術が内丹法。これはファンタジーっぽいですね。

現代でも健康増進法として一般に行われている気功は、仙人になるための修業が現代化したものです。

インドと仏教と密教

黄河文明がそうだったように、同じく四大文明の一つであるインダス文明でも様々な思想が生まれ、魔術が生まれました。

精神統一の修業であり、輪廻からの解脱、宇宙との合一を果たすヨガがその一つです。

ヨガ

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ヨガは現代でもエクササイズとして浸透していますが、ヨガをベースに科学的に発展させたのがピラティスです。

近代西洋魔術の大家であるアレイスター・クロウリーも、ヨガを取り入れており西洋魔術にも影響を及ぼしました。

アレイスター・クロウリー

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生命エネルギーの集積所であるチャクラ、神秘主義の一つであるタントリズムも多くの文化圏に影響を及ぼしています。

ニコ・トスカーニ

この地域で生まれた思想で我々日本人にとって、最も重要なものは何と言っても仏教でしょう。

日本人は世界でも有数の信仰心が薄い民族で、多くの日本人が仏教徒を一応自称しながらもクリスマス(キリスト教)を祝い、初詣に神社(神道)に行きますが、仏教は確実に生活に根差しています。

人が亡くなることを「成仏」と何気なく言いますが、成仏はそのまま「仏に成る」ことを指し、仏に成ることは仏教の最終目標です。

仏

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苦しいことを意味する「四苦八苦」も、本来は仏教の用語です。

インドではかつて仏教が主流で、インド統一を果たしたアショーカ(紀元前304-紀元前232)は仏教を厚く保護しました。

しかし以後、インドはヒンドゥー教が優勢になり、多神教の仏教は多神教のヒンドゥー教に吸収されました。

お釈迦様は仏教の開祖ですが、ヒンドゥー教でも重要な存在であり、ヒンドゥー教ではヴィシュヌ神の24番目アヴァターラ(化身とも。何らかの目的のために死のある存在に、身をやつすること。アバターの語源)と見做されることがあります。

ニコ・トスカーニ

日本の仏教が神道を吸収して、本地垂迹説が成立したのとは逆ですね。

古代インドの叙事詩『ラーマーヤナ』に登場するコーサラの王ラーマは、インド神話でも最も有名な英雄の一人ですが、ラーマもヴィシュヌのアヴァターラとされています。

ラーマーヤナ

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ラーマとお釈迦様は近しい存在であると見做されているわけですね、

インドの神話は、創作の世界でしばしば元ネタになっています。

インド映画『バーフバリ 伝説誕生』(2015)、『バーフバリ 王の凱旋』(2017)は『マハーバーラタ』を初めとする幾つかのインド神話をモチーフにしています。

『バーフバリ 王の凱旋』

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これらが日本で元ネタになることはあまり見かけませんが、『Fate/Apocrypha』に登場する赤のランサーは『マハーバーラタ』に登場する大英雄カルナその人です。

『西遊記』を語るまでもなく、仏教はその後アジア中へと伝搬します。

現代において、特に仏教が盛ん(国民当たりの仏教徒が多い)のはカンボジアで、ラオス、タイなど東南アジア一体は仏教が盛んな国が多いです。

中国、韓国、モンゴル、日本も仏教が盛んですが、東アジアの仏教は極めて世俗的で東南アジアとは大きく異なります。

ニコ・トスカーニ

大乗仏教、小乗仏教の違いを説明すると面倒くさい話になるので省略します。

密教(秘密仏教)もその一つです。

チベット密教はインド密教を受け継いで興ったものです。

チベット仏教

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インドで生まれた仏教は中世以降、ヒンドゥー教やイスラム教に押され気味で、他の地域に活路を見出そうとします。

その一つがチベットです。

チベット密教は成立以降、ネパールや内モンゴルなどにも伝搬しました。

『ドクター・ストレンジ』(2016)の主人公、スティーヴン・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)はネパールで魔術の修業を受けますが、この舞台設定は何となくネパールにチベット密教の神秘的なイメージがあったからだと思います。

『ドクターストレンジ』

出典:IMDB

日本でも密教は生まれました。

ルーツはチベット密教と同じでインド密教ですが、日本密教は中国を経由して流入し、日本国内で独自の進化を遂げています。

日本密教の最終目標は即身成仏(生きたまま仏に成ること)ですが、それと同時に現世利益を重視し、病気・災難などを祓うため仏に祈願する加持祈祷と呼ばれる儀式が発達しました。

火を焚く護摩行は神仏に祈る加持祈祷の一種で、日本密教の重要な魔術の一つです。

護摩行

出典:Wikipedia

ニコ・トスカーニ

なんとなく、オフシーズンにプロ野球選手がやっているイメージのある護摩行ですが、本来はそういう意味合いがあったんですね。

陰陽道

恐らく、陰陽道は日本で最も有名な魔術なのではないでしょうか。

陰陽道は中国の陰陽五行説を基に、日本で独自に発展した魔術体系です。

「陰陽」とは「森羅万象は陰と陽の相反する二つの気で成り立っている」という考え。

陰陽道

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「五行」は「この世はすべて木、火、土、金、水の五つの性質が互いに影響し合っている」という考えです。

陰陽道のシンボルとして一般にイメージされる五芒星は、この五行を示しています。

五行

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自然現象を陰陽五行説で解釈し、それを役立てようとしたのが陰陽道です。

古代メソポタミアで生まれた占星術は遠く中国にまで到達しましたが、当時、政治の重要な判断を占いに頼るのは普通のことでした。

『キングダム』では申し訳程度にしか描写されていませんが、春秋戦国時代の中国では天文と干支術を組み合わせた六壬神課りくじんしんかという占術が成立しています。

陰陽道でも星読みは重要な要素で、吉凶を占うだけでなく政治にも影響しています。

ところで、木星の英語名はジュピター(Jupiter)で、ジュピターはローマの最高神ユーピテルの英語読みです。

ユーピテルはギリシャ神話の最高神ゼウスと同一視されており、木星は「ゼウスの星」と呼ばれています。

木星

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木星は陰陽道でも重要な星であり、「天皇の星」と位置付けられています。

ニコ・トスカーニ

占星術がメソポタミアから発した地続きのものであることを感じますね。

大宝元年(701年)、大宝律令によって、中務省管理下に陰陽寮という陰陽師を管理する官庁が設立されます。

当時の日本は文字通り国家ぐるみで陰陽道を行っていたわけですが、その陰陽寮で天門道(天文現象の異常を観察・記録する学問)を研究していたのが、皆様ご存じの安倍晴明(921-1005)です。

安倍晴明

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幾度も映像化されている夢枕獏・原作の『陰陽師』に登場するその人です。

晴明は大器晩成の人でした。

40歳ぐらいまでは一介の研究者に過ぎず、天文博士(天門道の教官)に任ぜられたのは50歳のころです。

ニコ・トスカーニ

20世紀にいたるまで、人類は成人前に亡くなるか、50-70歳ぐらいで亡くなるかのどつらかだったので当時の感覚としてはもう最晩年ですね。

ここから晴明は陰陽師として名声を築いていくことになります。

逸話もスーパーマン化しており、記録のはっきりしないものは神格化されて発生した創作でしょう。

『陰陽師』

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以下、代表的な逸話です。

  • 皇太子師貞親王(968-1008 後の花山天皇)の命で那智山の天狗を封じる儀式を行う。※儀式を行ったのは史実
  • 病に伏せる一条天皇(980-1011)を泰山府君祭により蘇生させる。※儀式を行ったのは事実
  • 寛弘元年(1004年)、雨乞いの儀式を乞われ見事に雨を降らす。※雨乞いの儀式を行ったのは事実
  • 鬼が見えた
  • 手を使わずに蛙を潰した
  • 蔵人の少将の呪いを返した
  • 鬼となった橋姫の腕を封印した
  • 式神に家事を任せており、家の門が誰もいないのに開閉していた

※のついていない逸話は『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』など歴史的資料と見做されていないものが出典ですが、平安末期に成立した『今昔物語集』から21世紀にいたるまで、安倍晴明は創作の題材になり続けています。

ニコ・トスカーニ

オカルトな逸話のある歴史上の人物では、断トツに有名な存在と言っていいでしょう。

なお、実際の晴明ですが、晩年には陰陽寮から主計寮に異動になっています。

主計寮は税制の計算を行う機関です。

今でいう天文学者だった晴明は、計算が得意でした。

ニコ・トスカーニ

適材適所だったわけですが、何とも地味ですね。

『陰陽師』では天皇にさえ阿らない自由人として描かれていましたが、実際の晴明は地味なお役人だったのかもしれません。

さて、歴史の話ばかりになってしまいましたが、陰陽師の術についても述べておくべきでしょう。

祓い、禹歩(魔よけの歩行法)、身固め(邪気を威嚇し身を守る術)などが陰陽道の術の代表例として挙げられますが、やはり最も有名なのは式神なんじゃないでしょうか。

式神は陰陽師がその呪力で鬼や精霊を使役したもので、晴明は卓越した式神使いだったと言われています。

ニコ・トスカーニ

『呪術廻戦』に登場する伏黒恵の例を挙げるまでもなく、多くの和製ファンタジーに登場するモチーフですね。

なお、陰陽師の操る式神で特に名高いものは晴明が使役した十二神将(十二天将)ですが、この名前は『双星の陰陽師』でモチーフになってますね。

陰陽道は戦国時代に弾圧を受け、一度衰退したものの江戸時代になると盛り返します。

しかし、明治3年(1870)に陰陽寮は正式に廃止されたため、現在では正式な陰陽師は存在しません。

ニコ・トスカーニ

映像化された『姑獲鳥の夏』『魍魎の匣』に登場する京極堂こと中禅寺秋彦は安倍晴明の流れを汲む陰陽師という設定でしたが、同シリーズは昭和が舞台ですので、京極堂は民間陰陽師だったのでしょう。

陰陽寮が存在した当時にも、民間(モグリ)の陰陽師は存在しました。

その代表例が、安倍晴明のライバルとして登場することの多い蘆屋道満です。

狐と狸

昔話から『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994)、『有頂天家族』に至るまで様々な作品に登場するモチーフですね。

『平成狸合戦ぽんぽこ』

出典:IMDB

狐と狸をまとめて狐狸こりと言いますが、狐狸には「人をだまし、こそこそと悪事を働く者」という意味もあり、我が国において「狐と狸が人を化かす」のは文化的なイメージとして嫌と言うほど沁みついています。

化け狸、化け狐の伝承は非常に歴史が深いです。

『日本書紀』には推古天皇(554-628)の御代に陸奥の国の狸が人に化けた出来事が記されていますし、妖狐伝説の代表例である玉藻の前の伝承は鳥羽上皇(1103-1156)の時代のものです。

ちなみに絶世の美女に化けて鳥羽上皇を拐かした玉藻の前ですが、その正体を陰陽師の安倍泰成に見破られています。

玉藻の前

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追い詰められた玉藻が封じられたものと伝わっているのが、栃木県那須町の殺生石せっしょうせきです。

殺生石

出典:Wikipedia

安倍泰成は安倍晴明の子孫ですが、最近の創作では泰成ではなく晴明が玉藻の前を退治したことになっているものもあります。

ニコ・トスカーニ

その場合、玉藻と対峙した時の晴明は200歳以上になってしまうのですが、晴明の超人的な逸話を聞くと「あり得るかも」と思えてしまいますね。

ところで、狐狸が人を化かすというイメージはどこから来ているのでしょうか?

陰陽道のルーツが中国にあるように、狐狸のルーツも中国にあります。

中国神話に登場する九尾狐狸きゅうびこりという妖怪です。

『九尾の狐』

出典:Wikipedia

伝承では狐の妖怪ですが、日本に入ってきた時に狐と狸が分かれて別物になったのでは、と考えられています。

なお、「狸」という文字は中国では山猫の事を指し、山猫のいなかった日本では穴熊などのことを指していました。

ニコ・トスカーニ

また、狐は古来よりわが国では神獣と見做されていました。

神道において、狐は農耕神であるお稲荷さまの眷属です。

この辺も、狐が化けるイメージに影響してるのかもしれません。

安倍晴明の母親は葛の葉という人に変化した白狐だったという伝説もあります。

化け狐に玉藻や葛の葉がいるように、化け狸にも有名人ならぬ有名狸がいました。

日本三大狸

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佐渡の団三郎狸、淡路島の芝右衛門狸、香川県の太三郎狸は日本三名狸に数えられています。

佐渡に狐がいないのは団三郎が追い払ったからと伝えられており、『有頂天家族』の家系同士の勢力争いを思わせますね。

『鬼滅の刃』の例を出すまでもなく、山ほどの創作に登場する妖怪ですね。

鬼

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鬼の起源も例によって中国にあります。

「鬼」は音読みすると「キ」ですが、元は「」で現世に「帰」ってきた霊魂、すなわち幽霊を指していました。

また、目に見えないが人に危害を加える病などのことを指し、「オニ」は「オン」がなまったものという説もあります。

角を生やした恐ろしい形相の鬼が誕生したのは、仏教伝来意向で、虎の毛皮の腰巻をつけているのは風水の鬼門(鬼が出入りする方角)が、丑寅の方角に当たることから来ています。

そして一般的な現在の鬼のイメージが完成したのは、鎌倉時代と言われています。

具体的に鬼の伝承と言えば、安達ケ原の人食い鬼や大江山の鬼の首魁、酒呑童子などが有名どころでしょうか。

酒呑童子

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『鬼滅の刃』などで見られる鬼のイメージが、おおむね人食い鬼に基づいているのは想像に難くないところですね。

他、誰もが知っている伝説だとやはり『桃太郎』でしょうか。

ニコ・トスカーニ

実は桃太郎の伝説には、さらに元ネタと言われている伝説があります。

古代日本の皇族、吉備津彦命と鬼ノ城(現在の岡山県)を拠点にした鬼の温羅うらです。

温羅

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温羅は朝鮮半島から渡来し、吉備地域へ製鉄技術をもたらして一帯を支配したと伝わっています。

ニコ・トスカーニ

なんだが伝承にしては妙に生臭く、リアリティを感じます。実話がベースになっている匂いがしますね。

仮にこの話が実話を基にしていたのだとしたら、鬼は異人(外国人)のことを指していたのかもしれません。

虫と蟲

「虫」は昆虫のこと、「蟲」は古代中国を発祥とする呪術、蠱毒こどくに由来します。

蠱毒とは百虫を同じ容器で飼育して共食いさせ、勝ち残ったものを使う呪術です。

ニコ・トスカーニ

多くの創作物で言及されていますね。

『蟲師』が「虫」でなく「蟲」を採用しているのも、呪術的なイメージから来ているものと思います。

『蟲師』

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マナ

ファンタジーでよくお見掛けする言葉ですね。

『ブラッククローバー』や『Fate』シリーズでは、「魔力」という意味合いで使われています。

『ブラッククローバー』

出典:U-NEXT

どっちも洋風ファンタジーなので、「マナ」という言葉も西洋由来…ではありません。

「マナ」とはメラネシアやポリネシアで信仰されていた地域宗教の概念で、超自然的な力や存在のことを指します。

マナは自然物から人工物まで様々なものに宿り、人から人、物へと移動すると考えられていました。

中国の「気」の思想と、よく似ていますね。

同じ人類が考えた以上、やっぱりどこかしら似てくるということですね。

このマナの概念は、19世紀末にイギリス人宣教師コドリントンによって西洋に紹介されました。

創作での初出になるのが、1969年に出版された『魔法の国が消えていく』です。

作者のラリー・ニーヴンはマナをゲームのMPのような存在として描き、以降、この用法が一般的となります。

ニコ・トスカーニ

筆者も本稿執筆のために調査するまで、西洋由来の概念だと思っていました。

ブードゥー

ニコ・トスカーニ

ブードゥーもマナも東洋魔術ではないんですが、ついででまとめてしまいます。

ブードゥー教は、16-19世紀にアフリカ各地からハイチに連れてこられた黒人が、他宗教の要素を取り入れて作った宗教です。

『ブードゥー教』

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由来はハイチですが、アメリカのニューオーリンズや西アフリカのベナンでも盛んです。

宗教と言いながら宗教法人が皆無で、民間信仰としての色合いが強いです。

さて、そんなブードゥーを有名にした存在は語るまでもなくゾンビでしょう。

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)での登場(ただし、劇中「ゾンビ」とは呼ばれていない)を皮切りに、ゾンビは山ほどのフィクション作品に登場してきましたが、ゾンビはブードゥーの信仰に由来します。

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』

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ただし、本来のゾンビは、腐ってもいなければ人も襲いません。

ブードゥーの信仰では、人は死ぬと精霊に昇華されるか生まれ変わります。

ですが、ゾンビになるとどちらも叶いません。

ブードゥーのゾンビパウダーは人をゾンビにすると信じられていますが、ゾンビパウダーを飲ませてゾンビにする行為は「社会秩序を守るための罰」というのが本来の意味合いです。

なお、「ゾンビ」は、元はコンゴで信仰されている神「ンザンビ(Nzambi)」に由来します。

オカルトと科学

ニコ・トスカーニ

私は今、書籍とインターネットで調べものをしながら、パソコンで原稿を書いています。

紙の本はともかく、パソコンとインターネットは紛れもない科学技術の産物ですね。

平安時代の日本人は呪いや穢れ(ケガレ。不浄な状態。疫病などの原因になると信じられていた)を信じていました。

今時の小学生はさすがに言わないと思いますが「エンガチョ」という言葉は穢れを恐れる古代・中世の文化に由来します。

日本人が入浴を好むのも、穢れの思想が歴史背景にあります。

『双星の陰陽師』では、「ケガレ」は人間の敵という扱いになっていましたね。

では、現代で呪いや穢れを信じている人はどれだけいるでしょうか?

ニコ・トスカーニ

いないとは言わないけど、いたらちょっと変人扱いでしょうね。

まあ、そんなわけで現代は、ファンタジーとリアリティが大きく離れた時代とも言えます。

『陰陽師』は平安時代だったらリアルだと思われていたかもしれませんが、今ではフィクションと思うのが普通でしょう。

科学が進化したことで、違う視点からオカルトを見ることができるようになりました。

一見、超常現象に見える現象を扱った『探偵ガリレオ』シリーズなどは、科学技術の洗練された近代・現代ならではの産物と言えるでしょう。

と言いつつも、現代にも多くの伝説がまことしやかに語り継がれています。

ツタンカーメンの墓を発掘した関係者たちが次々と変死した「ツタンカーメンの呪い」、船や飛行機などが忽然と姿を消す「魔のバミューダトライアングル」、透視・霊視で事件を解決する超能力者・霊能力者などは、いずれも科学が大きく進歩した20世紀・21世紀の伝説です。

ニコ・トスカーニ

…夢を壊してしまい申し訳ありませんが、これらはすでに謎が解けています。

まず、「ツタンカーメンの呪い」は単なるこじつけです。

ツタンカーメン

出典:Wikipedia

古代エジプトのファラオ、ツタンカーメンの王墓を発掘した関係者の大半は普通に天寿を全うしており、亡くなったのはごく一部です。

呪いで亡くなったと称されている人物には、発掘関係者と食事をしただけの仲のような人も含まれており、これが本当に呪いだったら、もらい事故もいいところですね。

発掘関係者の平均寿命は70歳で、発掘の中心人物であるハワード・カーター(1874-1939)が亡くなったのは発掘の17年後のことです。

ニコ・トスカーニ

本当に呪いだとしたら、ちょっと悠長すぎますよね。

「魔のバミューダトライアングル」ですが、この海域で特に事故が多いというデータはありません。

バミューダトライアングル

出典:Wikipedia

本当にバミューダ海域が危険なら、バミューダ海域を通る船舶の保険料は高額になるはずですが、保険会社の発表している額は他の海域と比べても特に高くありません。

バミューダ海域のエピソードは、脚色やガセネタが多分に含まれている可能性が高いです。

また、メディアに出てくる超能力者は多いですが、テレビドラマ『ミディアム 霊能者アリソン・デュボア』(2005-2011)のモデルになったアリソン・デュボアなどは特に有名な例でしょう。

アリソン・デュボア

出典:IMDB

超常現象の懐疑的な調査を目的に活動するASIOSの会長・本城達也氏は、本物のアリソンの霊視がどのくらい的中しているのかを検証しています。

本城氏の調査によると、彼女の霊視はほとんど外れているそうです。

また、テレビドラマではアリソンがテキサスレンジャーに協力して誘拐事件を解決したエピソードがありますが、テキサスレンジャーはその事実を否定しています。

アリソンが10代のころに親友の死を予言していたエピソードもありますが、親友の姉妹から「ホラ話だ」と指摘されています。

ニコ・トスカーニ

実に夢のない話ですが、アリソン・デュボアが本物の霊能力者である可能性は低そうです。

ファンタジーアニメ、映画、ドラマに出てくる魔法、呪術などのモチーフを解説【東洋編】:まとめ

ファンタジーアニメ、映画、ドラマに出てくる魔法、呪術などのモチーフを解説!陰陽師や妖怪、気とは何か?【東洋編】

出典:U-NEXT

『姑獲鳥の夏』の主人公、中禅寺秋彦は「この世には不思議なことなど何もないのだよ」と語っていましたが、実際、本当に不思議なことなど、そうはないのでしょうね。

まあ、本当に不思議な出来事がポンポン起きていたらフィクションの価値が無くなってしまいますし、世界のバランスはこんなものがちょうどいいのかもしれません。

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