アメリカの差別主義問題に挑んだ問題作。
映画『デトロイト』は、1967年のデトロイト暴動の最中に発生したアルジェ・モーテル事件を題材にした衝撃の実話です。
白人警官クラウスを演じたウィル・ポールターの演技に注目せよ。
- 『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』のキャスリン・ビグローが描く実話をもとにした戦慄の一夜
- 衝撃の40分!あまりにもひどい現実に思わず目を背けたくなることも。
- 白人警官クラウス役のウィル・ポールターによる狂気の演技がすごい。
それではさっそく『デトロイト』の作品情報・あらすじ・ネタバレ感想を書いていきたいと思います。
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目次
『デトロイト』作品情報
作品名 | デトロイト |
公開日 | 2018年1月26日 |
上映時間 | 143分 |
監督 | キャスリン・ビグロー |
脚本 | マーク・ボール |
出演者 | ジョン・ボイエガ ウィル・ポールター アルジー・スミス ジェイコブ・ラティモア ジェイソン・ミッチェル ジョン・クラシンスキー アンソニー・マッキー |
音楽 | ジェームズ・ニュートン・ハワード |
映画『デトロイト』は、1967年に起きた「アルジェ・モーテル事件」を基にした衝撃のノンフィクション作品です。
死亡した一人は容疑者とされ、残る二人は警察による正当防衛による死亡とされた。
警官は殺人の罪で起訴されたが、無罪判決となった。当時の黒人差別を象徴するような一件として知られている。
【ネタバレ】『デトロイト』あらすじ・感想
キャスリン・ビグロー監督が描く実話をもとにした戦慄の一夜
みなさんは”デトロイト”と聞いてなにを思い浮かべますか?
自動車産業、野球チーム、それからロックとかメタル。
なつかしい「モータウンサウンド」でも有名ですね。
しかし、そんなデトロイトで今から約50年前、アメリカ史上最大級の黒人による人種暴動が起きたことは、あまり知られていないのではないのでしょうか。
本作『デトロイト』は、デトロイト暴動の最中、実際に起きた「アルジェ・モーテル事件」をもとに作られました。
暴動により戦場と化していくデトロイト。
そして「戦慄の一夜」でなにが起きたのか。
『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』など、骨太な作品で知られるキャスリン・ビグローが描く問題作です。
冒頭部は目まぐるしく、見るのがつらいと思う部分も
無免許の酒場が摘発されるシーンから始まる冒頭部は、デトロイト暴動がどのように始まったのか、暴動の全体像を描いています。
いろんな人物が入り乱れるので、いったい誰が主役なのか?誰の目線で物語を追えばいいのか分からなくなってしまいました。
実際の暴動の映像も挿入されるのでドキュメンタリーのようです。
またカメラの揺れが大きくて見ているとクラクラすることもありました。
映画全体の物語が見えていない感じを受けて、正直「見るのがつらい」と私は思いました。
白人警官クラウスの登場で物語は一気に緊張感を帯びる
暴動勃発から3日目、デトロイト市警察の警官クラウス(ウィル・ポールター)たちが、パトロール中に店から盗みを働いて逃げようとした黒人の男性を背後から射撃死亡させるという事件が起きます。
クラウスは「市民は俺たちを頼ってる。失望させちゃだめだ。」と間違った正義感をふりかざす、典型的な差別主義者です。
武器を持たない人間を背後から射殺したという、クラウスの行為は、当然警察でも問題になります。
しかし、クラウスに反省する様子はありません。
「略奪だけでなく人を殺したのだと推測した。」
「略奪したヤツを見逃したら街を焼き略奪していいというメッセージになる。」
このクラウスという白人警官が登場してから『デトロイト』は急に緊張感を帯び、物語のピントが合ってきたような気がします。
このときの市警は暴動鎮圧のため、人手が足りなかったのでしょうか?
こんな大問題を起こしておきながら、クラウスは普通に現場に戻ることを許されてしまうのです。
事件の発端は若者たちがふざけて撃った競技用のピストルだった
事件の現場となった「アルジェ・モーテル」には、黒人男性7人と白人女性2人の滞在客がいました。
ラリー(アルジー・スミス)はミュージシャンで「ザ・ドラマティックス」というバンドのボーカル。
フレッド(ジェイコブ・ラティモア)はそのマネージャーです。
2人はこの夜に行われたライブが、暴動により中止になり、その帰り暴動に巻き込まれアルジェ・モーテルに避難していたところでした。
ほかにもカール(ジェイソン・ミッチェル)、マイケル(マルコム・デヴィッド・ケリー)、リー(ペイトン・アレックス・スミス)、オーブリー(ネイサン・デイヴィス・Jr)の若い黒人男性、退役軍人のグリーン(アンソニー・マッキー)、ジュリー(ハンナ・マリー)とカレン(ケイトリン・ディーヴァー)の白人女性がいました。
そして「アルジェ・モーテル」より1ブロック北の保険会社の建物を、デトロイト市警、ミシガン州警察、ミシガン州兵が警護していました。
真夜中に銃声が鳴り響き、警官たちは「アルジェ・モーテル」の窓に人影を確認します。
「アルジェ・モーテルから誰かが俺たちを狙って撃ってきている。」
警官たちは窓に次々と銃弾を撃ち込み、3つの入り口から突入していきます。
その中に、クラウス、そして仲間の警官フリン(ベン・オトゥール)、デメンズ(ジャック・レイナー)の3人もいました。
実は警官たちが狙撃されたと思い込んだ銃声は、カールが警官たちに向けてふざけて撃った競技用のピストルの音だったのです。
いきがった若者が遊び半分で行った行為が、このあと恐ろしい事件へとつながっていきます。
衝撃の40分!あまりに理不尽なことの繰り返しに目を覆いたくなる。
クラウスは「アルジェ・モーテル」に突入するやいなや、逃げようとするカールを射殺してしまいます。
後に正当防衛として言い訳ができるよう、遺体のそばにナイフを置くという用意周到ぶりです。
残りの客の全員は、モーテルの1階の廊下に集められ、壁に向かって並ぶように言われました。
「銃がどこにあって、誰が撃ったか言え。」
カールが死んだことを知りパニックになっているラリーたちに、クラウスは容赦なく怒声を浴びせます。
衝撃の40分の幕開けです。
このモーテルでの理不尽な尋問シーンは、ヒリヒリするような緊張感の連続で、思わず「もうやめて」と目を覆いたくなることもありました。
銃があって狙撃者がいると決めつけているクラウスたちは、ラリーやほかの滞在者たちを徹底的にいたぶります。
銃はないと言ったリーは、銃の台尻で殴られ倒れてしまいます。
倒れたリーの横にナイフが置かれます。ナイフに少しでも触れたら容赦なく射殺するつもりなのでしょう。
自分たちの思い通りに権力をふるえるこの状況を、楽しんでいるようにも見えるクラウスたちに吐き気をもよおしました。
マイケルとリーは、それぞれ別室に連れて行かれ、激しい尋問を受けます。
そして銃声。
部屋から出てきたクラウスたちは「死んだ」と一言。
実際には2人は撃たれておらず、残った人たちを怯えさせるため、死んだふりをしていろと言われるのです。
しかし、壁を向いて立たされている人たちには、怒声と銃声しか聞こえず事実がわかりません。ものすごく恐怖感がつのるシーンです。
この尋問シーンは音による暴力が凄いのです。
滞在客たちが壁を向かされて、ほとんどなにも見えない状況だからなのでしょうか。
銃声やわめき声、泣き声、ドアの閉まる音、息づかいまで、すべてが神経を逆なでし、恐怖感をあおります。
おぞましい場面の連続で、まさに衝撃の40分でした。
クラウスを演じたウィル・ポールターの鬼気迫る演技は、それだけでも見る価値があり。
差別主義の白人警官クラウスを演じたのは、イギリスの俳優ウィル・ポールター。
『ナルニア国物語』のユースチス役や、『メイズ・ランナー』のギャリー役で知られています。
眉毛がとっても印象的な俳優さんですね。
ウィル・ポールターの鬼気迫る演技が『デトロイト』に不気味な緊張感を与えています。
なんというか、目が怖いのですよね。死んだような目つきと言うか。
童顔の顔つきと相まって、尋常ではない怖さをかもし出しています。
恐ろしいことをしているのに、本人にまったくその自覚がないように感じられるのです。
冒頭で無抵抗の黒人を射殺して上司に叱責されるのですが、そのときにみせる表情は「何が悪いの?」と子供のような無邪気ささえ感じさせます。
ウィル・ポールターは「差別主義の根底にある無知をうまく表現したかった。」とインタビューで答えています。
クラウスを演じるのは簡単ではなく、精神的に厳しかったとも言っていますね。
友達でもある共演者に暴力をふるうシーンはとてもつらかったようで、重荷に耐えきれず泣き崩れてしまったこともあったとか。
大きな葛藤と苦しみの中で、あの息詰まるような演技が生み出されたのですね。
『デトロイト』はウィル・ポールターの演技だけでも十分に見る価値があると思います。
決して過去の事件ではない。現在でも起きているアメリカの差別問題。
『デトロイト』の中で、クラウスたちは「アルジェ・モーテル」で3人の黒人の若者を銃で射殺しますが、裁判で有罪になることはありませんでした。
実際に起きた「アルジェ・モーテル事件」でも、犯行に関わった白人警官たちは無罪になっています。
『デトロイト』で描かれるのは50年前の事件ですが、それは決して過去のものではありません。
アメリカで2016、2017年の2年間で警官に殺された黒人の数は300人。
しかも、そのうち武器を所持していた確率は30パーセントしかないのです。
そして、警官が有罪となる確率はわずか1パーセント。大多数は起訴すらされずに終わるのです。
無抵抗の黒人を警官が殺害し、なおかつ罪にも問われない事件が、現代のアメリカでも多数起きているのがわかります。
クラウスを演じたウィル・ポールターがインタビューで言っていたように、差別主義を生み出す最大の原因は無知であると私も考えました。
監督のキャスリン・ビグローも「事実を知り考えることが差別主義をなくすことになる」との想いから、本作『デトロイト』を製作したのではないでしょうか。
『デトロイト』まとめ
映画『デトロイト』のエンディングでは、主な登場人物がその後どのような人生を送っているかが紹介されています。
- 警官のフィリップはその後も悠然と警官を続けていたのか?
- ラリーはアルジェ・モーテル事件に巻き込まれた恐怖から、その後どのように過ごしているのか?
など、実際あの場にいた人たちの現在の様子もひとつのみどころでしょう。
事件後の関係者たちの現在が気になる方は、ぜひ本編で確認してみてください。
- 『ゼロ・ダーク・サーティ』のキャスリン・ビグローが描く実話をもとにした問題作。
- 「衝撃の40分」が本当に衝撃!理不尽な出来事の繰り返しに目を覆いたくなる。
- クラウスを演じたウィル・ポールターの鬼気迫る演技は、それだけでも見る価値があり。
- 現代アメリカでも起きている差別問題を描いた作品。
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