東西冷戦時代に東ドイツから西ドイツに亡命した2組の家族の実話を映画化した『バルーン 奇蹟の脱出飛行』。
ベースになった実話自体が「映画のような話」として有名です。
1982年にはウォルト・ディズニープロダクションで『気球の8人』として映画化もされています。
しかしながら再度映画化された今作は、実話やディズニーの映画に遜色ありません。
むしろ登場人物たちの細かい心理描写、家族の愛と絆、そして「追う追われる」といったスリリングな展開が物語を盛り立て、よりドラマチックな作品になっていると思います。
- フィクションのような信じがたい実話
- 幾度も訪れるピンチに始終ハラハラドキドキ
- 脱出劇と並行して描かれる夫婦愛と親子愛
それでは『バルーン 奇蹟の脱出飛行』をネタバレありでレビューします。
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目次
『バルーン 奇蹟の脱出飛行』作品情報
作品名 | バルーン 奇蹟の脱出飛行 |
公開日 | 2020年7月10日 |
上映時間 | 125分 |
監督 | ミヒャエル・ブリー・ヘルビヒ |
脚本 | キット・ホプキンス ティロ・レーシャイゼン ミヒャエル・ブリー・ヘルビヒ |
出演者 | フリードリヒ・ミュッケ カロリーヌ・シュッヘ ダフィット・クロス アリシア・フォン・リットベルク トーマス・クレッチマン |
音楽 | ラルフ・ベンゲンマイアー マービン・ミラー |
【ネタバレ】『バルーン 奇蹟の脱出飛行』あらすじ・感想
『バルーン 奇蹟の脱出飛行』では、主人公・ペーターの2回の脱出劇が描かれています。
最初の脱出は物語の冒頭から始まります。
仲間であるギュンターの不参加などがあったものの、計画はうまく運んでいるように見えました。
しかし、最終的に気球が雲に入ってしまったことが原因で失敗に終わります。
西ドイツまで残り数百メートルで、無念の不時着。
亡命に向けての張り詰めた緊張はあったものの、西ドイツでの自由な日々を夢見ていたペーターたちの顔から一気に希望が奪われ、絶望がありありと映し出されます。
斎藤あやめ
というのも最初の脱出が失敗したことにより、シュタージ(東ドイツの秘密警察)の取り締まりが非常に厳しくなってしまうのです。
再度、気球を作ろうとするものの、必要な布の購入さえもシュタージの取り調べの目をくぐり抜けなくてはいけません。
また、くぐり抜けなくてはいけないのは、シュタージの目だけではありません。
1970年代の当時の東ドイツでは、密告は当たり前。
劇中、何度も周辺の人間が怪しげに描写されます。
斎藤あやめ
他にも、シュタージや周囲の人間の密告というプレッシャーだけでなく、2回目の飛行にはタイムリミットがあります。
最初の飛行は2年もの月日をかけて準備した計画だったのに対して、今回は飛行仲間のギュンターの兵役が迫っているため、わずか6週間の準備期間しかないのです。
気球作りは、それこそ不眠不休の中で進んでいきます。
また、1回目の飛行が失敗した時に、ぺーターは妻ドリスの医薬品を墜落現場に落としてきてしまいます。
ドリスとペーターはこの医薬品によって身元が発覚することを恐れます。
ギュンターにも時間がないように、彼らにも時間がないのです。
斎藤あやめ
題名に「奇蹟の脱出飛行」とあるように、彼らの2回目の脱出は成功します。
しかし、すぐには成功したのかどうか分かりません。
斎藤あやめ
1回目の失敗と同じような画を入れることで、観客にも、そして登場人物たちにも「本当に壁を超えたのか」という不安を抱かせます。
ペーターとギュンターが森の外で出会った、ある人物たちの言葉までは気が抜けません。
そして、その「言葉」もなかなか上手い演出になっています。
斎藤あやめ
1回目の失敗も、もちろん実話ですが、まるで2回目の飛行成功の伏線かのように映画にドラマチックでスリリングな効果を与えるスパイスになっています。
夫婦愛、家族愛
『バルーン 奇蹟の脱出飛行』では脱出劇以外にも、家族愛も丁寧に描かれています。
ペーターとドリスが西ドイツへの亡命を決めたのは、子供たちの存在も大きな要因だったのではないでしょうか。
西ドイツに行けば、子供たちも今よりももっと自由に暮らせ、将来の選択肢が増えるのは事実です。
子供たちの将来を思っての亡命だったからこそ、一回目の亡命が失敗に終わり、家族を危険な立場に追いやってしまったことをペーターは心底悔やみます。
また、ドリスの子供たちに向ける愛情やギュンターの妻・ペトロの西ドイツにいる母への想いと夫への想いなど『バルーン 奇蹟の脱出飛行』は、家族愛と切っても切り離せない物語です。
斎藤あやめ
ギュンターの母が劇中で語っているように、実父はすでに西ドイツに亡命しています。
だからと言って、義父との関係性が悪いわけではありません。
むしろ、もしかすると実父よりも、義父と過ごした時間の方が長いのではないかと思うぐらい、ギュンターと義父の信頼関係はしっかりしたものです。
それは、2人の会話からも十分に分かります。
そんな会話の中で、義父はまるでギュンターの脱出計画を見抜いているような、そして脱出を促しているようにも聞こえる言葉を投げ掛けます。
斎藤あやめ
2人の会話シーンは決して長いものではありません。
しかし短いながらも、印象的なシーンになっているからこそ、ギュンターが亡命前の危険な状況であるにも関わらず、家の外から義父と母の姿を、ただ眺めるだけの場面が非常に感慨深く感じます。
そして、何かに気付いたかのような義父の表情からもまた、2人の血よりも濃い父子関係を感じさせられます。
劇中でドリスが語っているように、亡命のことはたとえ家族であろうと話せません。
それは彼らの亡命後に、シュタージから残さなかった家族を守るための術なのです。
そのため、亡命前に別れを告げることもできません。
そして亡命の成功・失敗に関わらず、もう再会がかなわない可能性も非常に高いのです。
斎藤あやめ
だからこそ、映画ラストのギュンターの言葉や表情から救われるような気持ちになる人も、きっと多いはず。
ギュンターの望みはきっと叶うに違いないと、観客に爽やかな希望を残し、物語はエンドロールを迎えます。
このエンドロールでは、当時の実際の写真が使われています。
実際の写真を見ると、この脱出劇の壮大さに改めて感動させられてしまうでしょう。
斎藤あやめ
当時のドイツ情勢を予習すると物語にさらに深みが
斎藤あやめ
しかし崩壊前の西ドイツと東ドイツの情勢について、詳しく知っているという人は少ないかと思います。
もし余裕があれば『バルーン 奇蹟の脱出飛行』を鑑賞する前に、当時のドイツ情勢を予習していくと、より主人公たちの切迫した状況が理解でき、映画の深みが増すこと間違いないのでおすすめです。
斎藤あやめ
劇中ではシュタージの怖さももちろんながら、主人公たちを取り囲む人々の視線の怖さがじっとりと描かれています。
当時の東ドイツでは、密告は珍しいことではありません。
そのため、一度亡命に失敗したペーターは、周囲の人々に対して疑心暗鬼になってしまいます。
斎藤あやめ
「ペーターが疑心暗鬼になりすぎてるだけでは」と思うものの、布屋の密告シーンなどもあり、決して油断ならない状況であることを実感します。
周辺の人々がみんな怪しく思われるシーンで印象的だったのが、ギュンターとペトロの息子が通う保育所のシーンです。
シュタージの保育士さんへの聞き取りがメインのシーンですが、画面の光や色を落とし、なんだか恐ろしいことが起きそうな雰囲気が醸し出されています。
そして保育士さんの表情や視線が怪しく、非常に見ごたえのあるシーンです。
すでに『バルーン 奇蹟の脱出飛行』をご覧になった人の中には、この保育士さんの存在が気になったという人も多いのではないでしょうか?
斎藤あやめ
彼女のシュタージに取った態度から、子供を想う気持ちはもちろんのこと、彼女自身も東ドイツに不満を持っている人物なのかもしれないということも考えられます。
この保育士やギュンターの義父、そして亡命者を追うシュタージの幹部など、短いながらもドラマチックな登場人物が多数登場するのも『バルーン 奇蹟の脱出飛行』の魅力の一つです。
『バルーン 奇蹟の脱出飛行』あらすじ・ネタバレ感想:まとめ
以上、『バルーン 奇蹟の脱出飛行』をレビューしてきました!
- 実話と分かっていつつも、緊迫感あふれる展開に手に汗握ること間違いなし
- 脱出劇だけでない!深い家族愛がテーマのドラマ
- 短いシーンでも輝くドラマチックなキャラクターが多数登場