【赤井英和インタビュー】映画『ねばぎば 新世界』の主人公に感じる共通点、作品を通じた大阪愛を語る

【赤井英和インタビュー】映画『ねばぎば 新世界』の主人公に感じる共通点、作品を通じた大阪愛を語る

(C)ミルトモ

国内外で話題を呼んだ児童虐待を題材にした映画『ひとくず』の上西雄大監督の最新作『ねばぎば 新世界』は、大阪・新世界を舞台に、かつての大映映画、勝新太郎・田宮二郎の『悪名』シリーズを彷彿とさせる痛快アクションドラマ。

新世界・西成に棲む人間味溢れる個性と、今も残る浪速の人情を織り交ぜ、社会の明と暗、善と悪、表と裏の世界観の中、展開します。主演は『どついたるねん』の赤井英和と、上西 雄大のW主演。

その他、小沢仁志、西岡德馬、有森也実、菅田俊、田中要次、堀田眞三、徳竹未夏、古川藍、神戸浩、坂田聡など豪華キャストが集結。

本作は、2020年ニース国際映画祭で外国語部門最優秀作品賞(グランプリ)と最優秀脚本賞(上西雄大)、2021 年 WICA(ワールド・インディペンデント・シネマ・アワード)で外国映画部門 最優主演男優賞(赤井英和・上西雄大)を受賞しました。

7/10(土)~新宿 K’s cinema 他にて公開されるほか、7/16(金)~なんばパークスシネマ(大阪)、MOVIX 堺(大阪)、京都みなみ会館(京都)、7/17(土)〜第七藝術劇場(大阪)、8/6(金)〜名古屋センチュリ ーシネマ(愛知)など順次全国で上映されます。

この度、主演の赤井英和さんにインタビューをさせていただきました。

映画『ねばぎば 新世界』赤井英和インタビュー

『ねばぎば 新世界』赤井英和インタビュー

(C)ミルトモ

−−本作の脚本を最初に読んだ時の印象をお聞かせください

赤井英和「主人公の勝吉、舎弟のコオロギが2人だけでインチキ宗教団体をつぶしていく展開に痛快さを感じましたね。」

−− 赤井さんは学生時代ボクシングを始める前から大阪内で喧嘩負けなしだったという有名な話もあり、本作の勝吉のキャラクター設定はそもそも赤井さんを意識して作られているのかと思ったのですが、上西監督の意図で聞いたこと、また赤井さん自身がこんなところが似ているなと思った点などあればお聞かせください。

赤井「『どついたるねん』でデビューしてから31年、いろんな作品に出させてもらってきたのですが、私はかなりNGの多い俳優でした。ただ、今回の撮影ではNGはなしでしたね。それは、最初に脚本を読んだ段階から勝吉が自分に似ていると思う部分が多かったこと、上西監督の脚本の素晴らしさゆえだと思います。セリフというよりも、本当にキャラクターの気持ちになって言葉を発することができました。」

『ねばぎば 新世界』赤井英和インタビュー

(C)ミルトモ

−−相棒のコオロギ役も演じられている上西監督とのコンビネーションが見事でした。見ていて監督はほんとに赤井さんにほれ込んでいるのではないかとも思ったのですが、プロデューサーでもある監督からオファーを受けた経緯や現場での関係性などもお聞かせください。

赤井「何回も俳優として現場でご一緒していたのですが、ある現場で上西監督から「脚本を書いているのでぜひ出ていただきたい」と言われました。その時に好きな映画を聞かれて勝新太郎さんの『悪名』を挙げたんです。シリーズ16作何度も何度も見ていて、特に勝新太郎さんと田宮二郎さんのコンビのときの作品は特に好きです。」

−−今まさに名前が出ましたが、赤井さんの公式コメントで、勝新太郎さんの代表作『悪名』シリーズへのオマージュが本作ではささげられていると拝読したのですが、特にどのような点が『悪名』を意識されているのでしょうか?

赤井「勝吉とコオロギの2人だけで悪党のアジトに殴り込みをかけるところや、お互いが信頼と絆で結ばれているのが何気ないやり取りでわかるところなどが似ていると思いますね。私が好きなのはラメク(劇中の悪徳宗教団体)に殴り込みをかける前に、焼き肉を食べながら勝吉がコオロギに「お前のことはホンマの弟のように思うてんねん」と声をかける場面です。」

『ねばぎば 新世界』赤井英和インタビュー

(C)ミルトモ

−−本作はシリーズものではないですが、主人公・勝吉の過去にはいろんな経験があったことが示唆されていて、特に小沢仁志さん演じるやくざの親分との会話シーンなどはすごく歴史を感じたのですが、勝吉のキャラクター設定などは細かく監督と詰められたりなどしたのでしょうか。

赤井「監督が書いた脚本以上に、勝吉の人物像に特に自分から言ったことはないです。ただ、勝吉の実家に子供を連れていく場面で使われていた飛田新地の家は私の実家なんです。その場所で商売していたわけではないのですが、もともと釜ヶ崎という土地で近所で味噌の漬物を家族で作っていたのが、新開発で立ち退きになってしまい、なるべくその土地の付近から離れたくなかった父が飛田新地の今の実家を買い取ってリフォームしました。もう40年近く前の話ですが(笑)子供が寝ていた部屋はもともと私の部屋だったところです。菅田俊さん演じる医者がスクーターで走ってくる場面の家の周りの映像も、リアルな私の地元でした。上西監督のこだわりで、実家を使わせてくれないかと打診があったので、すぐにOKしましたね。そういう点で私のバックボーンに近い設定にはなっています。」

−−本作では各所でアクションも披露されていて、やはり元ボクサーの赤井さんの身のこなしが段違いで凄かったです。本作に向けてトレーニングも積まれたのでしょうか?

赤井「いえ、特に新しくトレーニングを積んだりなどはしていないですね。アクションシーンに関して思い出深いのは、終盤で勝吉とコオロギが商店街で敵対ヤクザと戦う場面で、最後に下っ端のヤクザで眼鏡に坊主頭の男が走って逃げていくのですが、あのヤクザを演じたのは私の大学の後輩の応援団の親衛隊長をやっていた男なんです。いつもは不動産の社長なのですが、私が大阪に行くたびに運転手までしてくれるようなやつで、撮影のときも一緒にいたので、監督に「こいつガラ悪いですし、いかがですか」と出演を打診してみたら快諾されたんです。それで彼に明日一番ガラの悪い恰好をして来いと言って、出演してもらいました。それで、撮影の最後にその後輩が最後まで倒されずに残っていたので、私の提案で、そいつが勝吉に恫喝されて這う這うの体で逃げるという場面ができたんです(笑)」

『ねばぎば 新世界』赤井英和インタビュー

(C)ミルトモ

−−上西監督はコメントで本作を「大阪新世界にしかない空気を吸い込み感じて頂ける昭和懐古のエンターテーメント」とおっしゃっていましたが、大阪出身の赤井さんが思う新世界にしかない空気とは何でしょうか

赤井「今でも自分の地元の西成の地域に行くと、知らない人たちから「お帰り!どこ行くねん?」と聞かれて、こっちも「いや今からあそこ行くねん」と返したりすることがあります。そういう風に人との距離が近い街が大阪、特に新世界だと思うんです。知らない人同士でも「気いつけてな」というような、距離が近く人懐っこい人が多い街の特色が本作には詰まっていると思います。」

−−あまり予算がなかった映画とはお聞きしたのですが、赤井さんをはじめ、西岡馬さん、田中要次さん、小沢仁志さん、菅田俊さん、有森也実さんなどそうそうたる一流俳優が集まっていて驚きました。印象的な撮影中のエピソードなどはありましたか?

赤井「皆さん本当に味のある役者さんで、田中要次さんなんて留置場で面会している時は本当に危険な男にしか見えないくらいでした。カメラの前に出たらもう本当にその人物にしか見えないような、実在感のあるすばらしい演技をされていました。おかげで私も安心して集中して勝吉役ができたと思っています。ちなみに冒頭で勝吉が刑務所を訪問した際にコオロギと再会する場面で周りに引き連れている2人(上山勝也さんと柴山勝也さん)は、俳優ではなく全くの素人なのですが、私の知り合いで、ラメクの本拠地の建物も柴山さんの和歌山の別荘を使わせてもらっています。そんな風にみんなで作った映画です。」

『ねばぎば 新世界』赤井英和インタビュー

(C)ミルトモ

−−もう一つ、公式コメントで若手俳優時代に若山富三郎さんから「芝居しようとするな、気持ちを作って動けばええのや」と教わったとおっしゃっていましたが、本作でもそれは意識されていたのでしょうか。

赤井「もちろんそうですね。書いてあるセリフではなく腹の底から出る言葉をしゃべっていたので、見ている人にも伝わると思います。」

−−本作でお気に入りのシーン、注目してほしいシーンなどあればお聞かせください。

赤井「商店街の喧嘩のシーンも好きですし、アクションに関してはカメラマンさんとしっかり連携をとって、本当に当たるんじゃないかというぎりぎりのラインを追求してやっていたので見てほしいですね。それと、最後に勝吉とコオロギが二人で新世界に帰っていく場面が印象的で、続編もありそうな雰囲気なのが好きです。昔は『悪名』はもちろん『トラック野郎』などシリーズものがたくさんあったのに、今はほとんどないじゃないですか。そういう昔のシリーズものみたいに、この2人がまたいろんな場所で暴れるところが見たいなと思っていただけたら嬉しいですね。」

『ねばぎば 新世界』赤井英和インタビュー

(C)ミルトモ

−−最後に『ねばぎば 新世界』を見る観客のみなさんにメッセージをお願いいたします。

赤井「勝吉とコオロギが痛快に暴れる娯楽作なので、2人の活躍にぜひご注目ください。」

『ねばぎば 新世界』赤井英和インタビュー

(C)ミルトモ

インタビュー・構成 / 佐藤 渉
撮影 / 白石太一

映画『ねばぎば 新世界』作品情報

ねばぎば 新世界

(c) YUDAI UENISHI

出演:赤井英和、上西雄大、田中要次、菅田俊、有森也実、小沢仁志、西岡德馬、坂田聡、徳竹未夏、古川藍、金子昇、神戸浩、長原成樹、リー村山、堀田眞三、伴大介、谷しげる、剣持直明、國本鍾建、上山勝也、柴山勝也、草刈健太郎
監督・脚本・プロデューサー:上西雄大
撮影:前田智広、川路哲也、下元哲
照明:小山田勝治
録音:廣木邦人
音楽:ナ・スンチョル
編集:目見田健、ナ・スンチョル
制作:徳竹未夏、中村秀哉
助監督:山中太郎、上林大地
題字:小林良二
アクション監修:リー村山
ヘアメイク:山畑里奈、南原彩
衣装:中谷昌代、西川莉子
主題歌:吉村ビソー「comme ca de大阪」
制作:10ANTS
配給:10ANTS、渋谷プロダクション
2020/JAPAN/Stereo/DCP/107min
公式サイトhttp://nebagiba-shinsekai.com/
公式ツイッターhttps://twitter.com/nebagibamovie

あらすじ

舞台は大阪新世界。

かつてヤクザの組を潰して廻っていた村上勝太郎(通称・勝吉=赤井英和)は、自身のボクシングジムを営んでいたが、練習生がジムで覚醒剤取り引きをし逮捕されたことでジムを畳む。その後、元犯罪者の更生プロジェクトを運営している幼馴染み・沢村源蔵の経営する串カツ屋で働き出す。

ある日、勝吉は刑務所の慰問に誘われて訪れた刑務所で、かつて、共にヤクザを潰して廻った弟分・神木雄司(通称・コオロギ=上西雄大)と再会する。

コオロギは悪い女に引っかかり、覚醒剤所持で服役していたが、間もなく沢村の協力で出所し、勝吉と共に串カツ屋で働き出す。

勝吉はある日、少年・徳永武が逃げ出した宗教団体に捕まるところに居合わせ、武を助けるが、武は洗脳されており、また、母親が入信し、父親と別れさせられたショックから、口がきけなくなっていた。

失読症で文字が読めないコオロギは、筆談で会話をしようとする武が書く文字が読めず、悔しい思いをする。

また、その宗教団体には、かつて勝吉にボクシングと”Never give up(ねばぎば)”という言葉を教えた恩師・須賀田元(西岡德馬)の娘・琴音(有森也実)も入信していた。

武と恩師の娘を助ける為、見返りを求めない人情の男・勝吉とコオロギは再びコンビで立ち上がる。

7月10日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開

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