大作アクションシリーズを有名映画監督が手掛けることは稀です。
例えばですが、デヴィッド・フィンチャーが『ワイルド・スピード』シリーズの監督に就任など想像がつきませんし、マーティン・スコセッシが『エクスペンダブルズ』の続編を監督したら驚きです。
スティーヴン・スピルバーグが『ランボー』の最新シリーズを監督するとは思えませんし、リドリー・スコットがMCU作品を手掛けるのは想像がつきません。
では、こういうアクション映画企画は誰が手掛けるのか……というと、こういう企画を手掛ける監督は結構決まった範囲内に収まっています。
超有名監督がすべてを好み通りにコントロールできる「芸術家」「巨匠」だとすれば、大作映画を手掛けるのはオーダー通りに仕事を完遂する「職人」というところでしょうか。
注目の大作映画を手掛けているのに本人にはあまり注目の集まらない、大作アクション映画御用達の「職人」監督7人に注目してみました。
目次
【注目!】大作アクション映画の職人監督7選
アントワーン・フークア
CM、MVから映画に進出した映像派・技巧派の監督。 監督デビュー作は香港の大スターチョウ・ユンファのハリウッドデビュー作となった『リプレイスメント・キラー』(1998)で、同作はアクション映画でした。 以降、2〜3年に1本というかなりのハイペースで監督作を発表していますが、その大半がアクション映画です。 ニコ・トスカーニ ロサンゼルスを舞台に麻薬課の悪徳刑事と正義感の強い新人刑事が対立する『トレーニング・デイ』では、市街地を舞台にした生々しい撃ち合い。 『ザ・シューター/極大射程』は2km先の標的も射貫く凄腕スナイパーの頭脳と経験と技術をフル活用した圧倒的不利な状況下での戦い。 『イコライザー』シリーズは元CIAエージェントが地の利を生かしたトラップ職人ぶりで、圧倒的多数の相手を葬っていく冷徹な戦闘。 フークアの特徴を挙げると暗めのキリっと締まった画面、歯切れの良い編集、流麗な移動撮影というところでしょうか。 ニコ・トスカーニ 生身リアルアクションと対極的な芸風ですが、フークアの華麗な技巧と泥臭い肉弾アクションは対照的でありながらなぜか相性が良く、スクリーンで見事なマリアージュを果たしています。 とりわけ『イコライザー』はヒット作になりシリーズ化。3作目の制作も噂されています。 『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006)をはじめ、同シリーズの4作品を監督。 大作シリーズ『スター・トレック BEYOND』も手掛けている大作アクションをほぼ専業としている監督。 台北出身の台湾系アメリカ人で、意外なことに元々はアメリカのアジア人コミュニティを題材にした小品を撮っていた人です。 それが突如として大作シリーズの『ワイルド・スピード』シリーズに起用され、以降はアクション大作がメインフィールドになりました。 そういえば、MCUの『ブラックパンサー』(2018)を監督したライアン・クーグラーも『フルートベール駅で』(2013)というシリアスな小品で評価された人でしたが、以降『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)など大作映画で見事な手腕を見せています。 ニコ・トスカーニ リンはダイナミックな映像を作る人ですが、もともとはドラマの人だっただけあり、アクションパートが凄いのにドラマパートも上手く撮れる器用な人です。 『S.W.A.T.』(2017)や『TRUE DETECTIVE』の第2シーズン(2015)など、テレビの演出でも活躍。 It’s an official #F9 Wrap! This is by far the most ambitious film of the series and I am forever grateful to our amazing crew from London, Edinburgh, Tbilisi (Georgia), Phuket & Krabi (Thailand), and Los Angeles. pic.twitter.com/ggFGxwHuz7 — Justin Lin (@justinlin) November 11, 2019 上記のツイート通り、『ワイルド・スピード』シリーズの最新作でも監督を務める予定です。 リーチはもともと俳優・スタントマンだった人です。 そこからアクションを専業とする監督にスライドしたわけですから、よく考えられたキャリアパスだと思います。 俳優・スタントマンのキャリアと並行して、第二班監督(セカンド・ユニット・ディレクター)として『大脱出』(2013)、『ウルヴァリン: SAMURAI』(2013)など数多くのアクション映画を経験。 『ジョン・ウィック』で監督デビュー(チャド・スタエルスキと共同。ただしノン・クレジット)を果たします。 そして『ジョン・ウィック』の仕事ぶりが目にとまり、『アトミック・ブロンド』で単独監督デビュー。 同作は興行的にも批評的にも成功しました。 ニコ・トスカーニ スタントマン出身だけあって、彼の演出で特に印象深いのは泥臭い殴り合いです。 特に『アトミック・ブロンド』の東ベルリン脱出のシーンは出色の出来でした。 建物内の部屋から部屋を移動し、階段を上がり下がりしながらブロートン(シャーリーズ・セロン)の立ち回りを長回しで見せるというものですが、細身で軽量なブロートンはボロボロになりながら全筋力・全体重を使って相手にぶつかり、その場に鋭利な物や鈍器があれば活用するという生々しい臨場感がありました。 大がかりなカーアクションやガンアクションの演出も見事。 ニコ・トスカーニ ちなみに、iPhone11のプロモーションで、全編iPhone11で撮影した短編映画も監督しています。 タイの映画監督。 『マッハ!』で国際的に注目され、アメリカや韓国でも映画を撮っています。 『マッハ!』は「CGを使いません・ワイヤーを使いません・スタントマンを使いません・早回しを使いません・最強の格闘技ムエタイを使います」のキャッチコピーで売り出され、主演したトニー・ジャーの超人的な身体能力で話題になりましたが、ピンゲーオの演出も見事でした。 ほんと観よう?『マッハ!!!!』。 — きりゆ/月fam🛰ぽんぴらー (@kirihara_yui) May 8, 2016 ニコ・トスカーニ トニー・ジャーやジージャー・ヤーニンなど動ける俳優を起用している前提だからこそ成り立つやり方ですが、動ける俳優がいるという条件を極限にまで有効活用しているとも言えます。 特に『トム・ヤム・クン!』の立ち回りは動ける俳優、優秀なスタントマン、優れた技術、優れた演出が噛み合った神業のような出来で、ピンゲーオの監督作でも最も密度の高いアクションだと思います。 トム・ヤム・クンのカチコミキック好き pic.twitter.com/eShMYbyxUQ — 人間食べ食べカエル (@TABECHAUYO) March 10, 2019 『マッハ!』の続編『マッハ!弐』(2008)では、ピンゲーオが降板し主演のトニー・ジャーが監督を兼任していますが微妙な評価。 ニコ・トスカーニ ジョン・ウーがキャリアを築いた香港は多くのアクション映画が作られてきた土地柄です。 ウーがアクション映画をメインフィールにするのは自然な流れだったわけですが、彼は従来の主流派だったカンフー映画ではなくモダンで洗練された香港ノワールという新しい潮流を作りました。 ウーの演出を一言で表現すると「超大げさな誇張表現」です。 なら俺も男たちの挽歌シリーズもオススメするぞ〜 ジョン・ウー監督ならではの銃撃シーンが最高過ぎる!!香港映画でこれほど胸が熱くなれる作品はないと思う pic.twitter.com/Z6RpJRSuju — 映画大好きゴジラさん (@555godzilla) July 30, 2017 具体的にはクライマックスになると鳩が飛び立ち、スローモーションになって二丁拳銃で宙を飛ぶ。 エドガー・ライト監督の『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』(2007)などでわかりやすくパロディされる特徴をもった演出をする人です。 ニコ・トスカーニ 『レッドクリフ』二部作は恐らくかなりはっきりそれを意識しており、正面カットから俳優が面切りするのはまさに京劇のお約束そのものです。 ハリウッドに招かれ『フェイス/オフ』と『ミッション:インポッシブル2』はヒットしましたが、以降はパッとせず。 『ペイチェック 消された記憶』(2003)を最後にハリウッドからは距離を置いています。 ニコ・トスカーニ 日本映画『君よ憤怒の河を渉れ』(1976)のリメイク『マンハント』(2017)は日本が舞台で、福山雅治をはじめ複数人の日本の有名俳優が出演しています。 アメリカンコミック原作の大作映画がフィルモグラフィーにずらりと並ぶ清々しい経歴の持ち主。 元々はCM、MVの監督で『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)で映画監督デビュー。 グリーンバッグ、照明を駆使し異常なまでに陰影の際立ったハイパーリアルな画作りが特徴。 俳優以外ほとんどフルCGという極端な映画も手掛けており、リアリティの追及と対極のやり方を追求したらどうなるか……という究極の一例が彼です。 ニコ・トスカーニ 『マン・オブ・スティール』以降は特にDCコミックの仕事が多くなっています(プロデューサーも兼任)。 関連記事→DCコミックスを原作としたDCEU全7作品を総まとめ!MCUとDCEUの違いやDCEUの魅力も徹底解説 元々はプロデューサーだったという変わった経歴の持ち主。 プロデューサーとしてガイ・リッチー監督とコンビを組み『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998)、『スナッチ』(2000)などを送り出しています。 ガイ・リッチーの代役として『レイヤー・ケーキ』(2004)で監督デビュー。 『キック・アス』(2010)、『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』(2011)、『キングスマン』(2014)と立て続けにヒット作を生み出し、とりわけ「キングスマン」は2本の続編が製作される人気シリーズになりました。 2月14日には最新作『キングスマン:ファースト・エージェント』が公開! 基本的にアクションとバイオレンスの人ですが、コメディセンスも優れた人です。 ニコ・トスカーニ モンティ・パイソンがアクション大作を撮ったようなそんな捻ったユーモアが彼の持ち味です。 キングスマン — ぴょん吉ざます。 (@Crazy_pyon0127) October 26, 2016 監督業に進出後もプロデューサー業は継続。 『X-MEN: フューチャー&パスト』(2014)、『ロケットマン』(2019)などを手掛けています。 ロブ・コーエン、D・J・カルーソー、ジェームズ・ワン、ゴア・ヴァービンスキー、ダグ・リーマン、J・J・エイブラムスなどもコンスタントに良い仕事をしていますが、作品の平均点や実績など考えると、今回名前を挙げた7人が特に優れていると思います。 ジェームズ・キャメロン、ポール・グリーングラス、マイケル・マン、スティーヴン・スピルバーグ、ロン・ハワード、サム・メンデス、クリストファー・ノーランなども素晴らしいアクション映画を撮っていますが、彼らは映画祭などで芸術的な評価も受けているので今回は対象外にしました。 ニコ・トスカーニ 『マッドマックス』(1979)、『ランボー』(1982)、『ダイ・ハード』(1988)、『ターミネーター2』(1991)、『マトリックス』(1999)、『ダークナイト』(2008)など、いずれ劣らないアクション映画の歴史的傑作ですが、これらは一本たりともアカデミー賞の作品賞候補に名前を連ねていません。 アクション映画そのものが評価されない以上、恐らく彼らがアカデミー賞候補になるような日は来ないでしょう。 ニコ・トスカーニ 「巨匠」ならぬ「職人」として彼らを讃えたいと思います。 ▼あわせて読みたい!▼
ジャスティン・リン
デヴィッド・リーチ
エスタブリッシング・ショット(キャラクターの状況や居場所を明確にさせるショット)、インサート・ショット(主に主人公が映っていないところで、詳細を示すために挿入されるシーン)、カットアウェイ(異なる場面のシーンを交互に撮影する技法)などを主に担当する。
プラッチャヤー・ピンゲーオ
ギャグっぽい広告で日本では売り出されてたけどトニー・ジャーの肘と蹴りが死ぬほど鮮やかですごくいいから!!
裏拳ならぬ裏肘とか2段回し蹴りみたいなのとか!! pic.twitter.com/88vArmRpE0
ジョン・ウー
ザック・スナイダー
マシュー・ヴォーン
教会での皆殺し
爽快感ありまくり!
#映画で印象に残っている死 pic.twitter.com/zfUWXVVkG9大作アクション映画の職人監督まとめ