『荒野の用心棒』はイタリア西部劇「マカロニウェスタン」の代表作です。
黒澤明監督の『用心棒』を西部劇で撮ったという映画です。
クリント・イーストウッドの出世作でもあります。今作の注目すべき点について私なりに紐といていきます。
- スピーディでわかりやすい展開
- 西部劇において必見の一作
- わかりやすい話で際立つ凝った演出
それではさっそく『荒野の用心棒』をレビューしたいと思います。
目次
『荒野の用心棒』作品情報
作品名 | 荒野の用心棒 |
公開日 | 1965年12月25日 |
上映時間 | 100分 |
監督 | セルジオ・レオーネ |
脚本 | ヴィクトル・アンドレス・カテナ ハイメ・コマス・ギル セルジオ・レオーネ |
出演者 | クリント・イーストウッド ジャン・マリア・ヴォロンテ マリアンネ・コッホ ホセ・カルヴォ ヨゼフ・エッガー アントニオ・プリエート |
音楽 | エンニオ・モリコーネ |
『荒野の用心棒』あらすじ
二人のボスが対立するニューメキシコの小さな町に現れた凄腕のガンマン。
ご存じ黒澤明の『用心棒』を西部劇に翻案したマカロニ・ウェスタンの代表作。
当時、映画俳優としては鳴かず飛ばずだったイーストウッドを一躍トップスターに押し上げ、監督レオーネ、音楽エンニオ・モリコーネ共に出世作となった。
出典:allcinema
『荒野の用心棒』を視聴できる動画配信サービス
『荒野の用心棒』は、下記のアイコンが有効になっているビデオ・オン・デマンドにて動画視聴することができます。
なお、各ビデオ・オン・デマンドには無料期間があります。
- 動画の配信情報は2019年4月28日時点のモノです。
- 動画配信ラインナップは変更される可能性もありますので、登録前に各サービスの公式ページにて必ずご確認ください。
ご覧のとおり、2019年4月28日現在はどこのビデオ・オン・デマンドでも配信開始となっておりません。
動画配信が開始になり次第、追って情報を掲載させていただきます。
【ネタバレ】『荒野の用心棒』感想レビュー
クリント・イーストウッド演じる主人公の冷たさとかっこよさ
今作は黒澤明監督の名作『用心棒』に影響を受けて制作された映画です。
脚本はほぼ完コピです。
しかし、その演出はまったく異なり、別の雰囲気の映画に仕上がっています。
ジョーと桑畑三十郎の違い
まず映画の雰囲気が非常にドライなものになっています。
『用心棒』で三船敏郎さんが演じた桑畑三十郎は、カッコよさの中にどこかユーモアが感じられるキャラクターでした。
犬をイメージした人物として構成されております。
一方で今作の、クリント・イーストウッド演じる主人公ジョーは、とても冷たい印象を受けます。
ドライで硬派な役としてまとまっています。
この改変によって、より演出が際立つようになりました。わかりやすい点から書いていきます。
まず単純に、普段は冷たい人物が、困っている人を助けるというくだりはそれだけでドラマとして成り立ちます。
中盤で女性とその家族を助けるというくだり。
『用心棒』と共通していますが、今作ではその点がよりフォーカスされています。
用心棒の方はあくまで1アクションでしたが、今作ではこの部分が話の推進力となっています。
序盤から布石が打たれており、話としても分かりやすくなっています。
そして、普段は冷たい男が手を差し伸べてくれるというドラマも合わさり、物語に厚みを持たせています。
キャラクターの立場の描き方
主人公が冷たい男であることのもう一つの面白さは、キャラクターの立場です。
陰と陽の戦いという言い回しがありますが、それを意識して鑑賞すると非常に面白い構造になっていることがわかります。
今作はロホとバクスターの2大勢力の争いが話のメインです。
どちらも物語としては悪役でありながら、町の中心人物です。
今作の舞台となる町はまったくにぎわっておらず、死んだような町だと言われています。
ロホとバクスターは町で唯一日の当たる存在と言えます。この2人の争いは一種の陽と陽の戦いなのです。
一方ジョーは日ごろ誰とも関わらず、性格も冷たく、陰側の人間であると言えます。
陽と陽の戦いが陰と陽の戦いにシフトしていくという流れになっています。
ちなみに今作は昼間のシーンと夜のシーンがちょうど半々くらいになっています。
ここでも陰と陽の対比を感じ取ることができます。
ジョーのキャラクターで、ロホ、バクスターとのそれぞれの立場がより際立つような構造になっています。
度々用いられる対比構造
上述の2つの要素を対比させるという演出は、映画ではよく用いられます。
その中でも今作はとても多く用いられています。
冒頭でジョーが黒いロバに乗ってやってきます。
町に注目すると白い色が目立ちます。地面の砂も白く、家の壁も白です。白い空間に黒いものが際立って見えます。
ライフルの名手ラモン。作中でライフルを自慢しているシーンもあります。
拳銃には負けるはずがないと言い切っています。
一方ジョーは拳銃を使用しています。ここだけで両者の人物像の違いが感じ取れます。
ジョーが拳銃でライフルを持ったラモンに勝つ終わり方もわかりやすくて好きな展開です。
「死人も使いようだ」というとても印象的なセリフがあります。
ジョーは兵隊の遺体を夜のお墓に置き、ロホ側とラモン側とで銃撃戦をさせます。
この銃撃戦がとても見応えがあります。
「夜のお墓に遺体」という究極の静のなかで、銃撃戦という究極の動が行われます。見事な静と動の対比です。
これらの対比構造によって映画がわかりやすく、より面白くなっています。
アクション映画へ与えた影響と現代でのポジション
『荒野の用心棒』こそが、マカロニウェスタンが世界で知れ渡るきっかけになった作品です。
今作が大ヒットしたことでマカロニウェスタンが注目され始めました。
今作の最大の見所が銃撃戦です。
残虐で大量に人が死ぬのがマカロニウェスタンの魅力でもあります。それは今作から始まりました。
その後1980年代に入ると、アーノルド・シュワルツェネッガーやシルヴェスター・スタローンなど肉体派アクションスターがブームになります。
もはや人がいくら死んでも楽しいというような、良い意味で豪快な映画がたくさん作られます。
それらも今作の延長線上にあるとも言えます。
その後、シュワルツェネッガーはカリフォルニア州知事を経て俳優に復帰します。
復帰後の初主演作『ラストスタンド』は非常に西部劇的な映画です。
新たなるスタートに、自らのキャリアを構築した映画たちの原点に回帰するような構造になっています。
さらに現在制作中のシルヴェスター・スタローン主演作『ランボー5(仮題)』は、西部劇を意識した映画になることが予想されています。(カウボーイ姿のランボーの写真が公開されたことなどから)こちらも『ラストスタンド』と似ている構造です。
このようにマカロニウェスタン作品は、様々な影響を与えたと同時に、今でも非常にリスペクトされているのです。
その原点と言える今作は、映画の歴史において非常に重要な一作と言えるのです。
『荒野の用心棒』まとめ
以上、ここまで『荒野の用心棒』について紹介させていただきました。
- セルジオ・レオーネ監督の凝った演出でどんどん映画に引き込まれる
- クリント・イーストウッドの圧倒的なかっこよさ
- 様々な映画に受け継がれている重要作
マカロニウェスタンの地位を確立した作品です。
現在西部劇ブームは終わってしまったかもしれませんが、現代の映画も今作の延長線上にあるのです。
続編となっている『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』と合わせて、ぜひご覧ください。