人気漫画家、沖田×華さんの作品をドラマ化した『透明なゆりかご』。
母の勧めで街の小さな産婦人科「由比産婦人科」の見習い看護師として働くことになったアオイ(清原果耶)。
感性豊かな彼女の目を通して、命の重みについて感じとっていくお話です。
産婦人科の“影”の部分にも向き合いながら、「なかったことにしてはいけない、透明な存在にしてはいけない」ことも取り上げています。
アオイの持ち前の明るさに支えられながら、ほっこりする場面もあり、本当に心に沁みる内容となっています。
センシティブで表現方法が難しい内容、受け取る人々を傷つけてしまう恐れがある事柄を、絶妙なバランスで表現しているのが本作『透明なゆりかご』という秀逸な作品です。
1990年台後半の時代背景ですが、そこまで違和感もなく、今の世にも変わらず存在する妊娠をめぐる様々な事件を通して、命の重みを感じ、心を洗われる思いになります。
目次
ドラマ『透明なゆりかご』主要キャスト
清原果耶 / 役:青田アオイ
- 高校の准看護学科に通う17歳。
- アルバイトの看護助手として由比産婦人科へやって来る。
- 不器用でコミュニケーション下手だが、独特の感受性と真っ直ぐな心根を持っている。
瀬戸康史 / 役:由比朋寛
- 由比産婦人科の院長。
- 大学病院に勤めていたが、思うところがあり30代半ばで開業した。
- 一見淡々としており、厳しい言葉も口にするが、どの妊婦に対してもとことん丁寧に向き合う。
酒井若菜 / 役:青田史香
- アオイの母。夫と離婚し、娘と二人暮らし。
- 幼少のアオイは勉強ができず周囲にもなじめなかったため、厳しく接して来た。
- 今でも娘とはどことなく距離感がある。
水川あさみ / 役:望月紗也子
- アオイの指導につく先輩看護師。
- 厳しいところもあるが頼りになる存在で、内心は温かい目でアオイを見守っている。
- 結婚しているが、自身が子どもを持つかどうかは悩んでいる。
ドラマ『透明なゆりかご』あらすじ
1997年・夏。
アオイ(清原果耶)は看護師見習いとして「由比産婦人科」へやって来た。
いきなり中絶手術の現場を目撃して衝撃を受けるが、はじめて出産にも立ち会い、産まれて来る赤ちゃんの生命力に心を揺さぶられる。
院長の由比(瀬戸康史)、看護師の紗也子(水川あさみ)・榊(原田美枝子)らが妊婦ひとりひとりに向き合う中、田中さん(安藤玉恵)という女性が訪れる。
彼女はいわゆる未受診妊婦で、出産直後に失踪してしまう…。
出典:『透明なゆりかご』公式ページ
【ネタバレ】ドラマ『透明なゆりかご』あらすじ・感想
見習い看護師アオイ(清原果耶)の成長
主演は、ドラマ初主演となる清原果耶ですが、これがハマり役です。
青田アオイ(清原果耶)は、注意欠陥多動性障害(ADHD)を抱えています。
- 不注意(集中力がない・気が散りやすい)
- 多動性(じっとしていられない・落ち着きがない)
- 衝動性 (順番を待てない・考える前に実行してしまう)
こういった症状があり、母親の史香(酒井若菜)は心配していました。
けれども、このドラマの中では、彼女のこの特徴があったからこそ、思い切った行動がとれて、事態が好転したことも多々ありました。
アオイの純粋な愛情や好奇心、そして持ち前の行動力で「由比産婦人科」で起きる様々な出来事に取り組んでいきます。
白衣に三角巾という、今はあまり見られないスタイルも初々しく、前髪をアップにしたスタイルは清潔感がありました。
院長の由比(瀬戸康史)、婦長の榊(原田美枝子)の温かい見守り、先輩看護師望月(水川あさみ)の厳しくも愛のある指導のもと、少しずつ命の重みを感じながら、看護師として成長していくのです。
命の重みを感じるキーワード
全10回にわたって放映される中で、命の重みを感じるいくつかのキーワードがあります。
1.中絶手術
第1話「命のかけら」で、由比が「1990年代の死亡要因の一位は、教科書どおりならガンですが、本当の一位は“アウス”(人工中絶手術)だ。」とアオイに教えています。
それほど中絶は多いのだということを初めて知りました。
アオイの仕事は、手術後に人の形をしていない胎児をベビーカーのようなものに入れ、回収に来た業者に手渡すことです。
こうしてひっそりと弔われているのですね。みなさんご存知でしたか。
第6話「いつか望んだとき」では、別の角度から人工中絶を取り上げています。
中絶を断った女学生が自殺をした経験から、何も言わず手術をしてあげている山の上の老夫婦がいました。
看板もないのに患者はあとを絶たないそうです。
中絶の意味を問うアオイに対し、由比は「いつか臨んだ時に妊娠できるために綺麗にする、中絶も分娩も新しい命を迎えるための仕事」だという表現をしています。
確かにそう思わないと、意義を見出せないのです。
2.母性
第2回話「母性ってなに」では、母性を取り上げています。
はじめは出産直後に産院の前に赤ん坊を捨てに来る女子高生に憤りを覚えるアオイでした。
けれども、女子高生に言ってやりたいことがあると、自転車で彼女の家を目指して走っている時、その同じ道のりを出産直後の体力のない体で我が子を病院まで運んだ彼女の姿を想像して引き返すのでした。
アオイは、この女子高生にも、今日産院で持病を乗り越えて出産した女性にも、そして看護師見習いの自分自身にも母性はあり、目の前の命を愛おしく思えた気持ちは同じなのだ、ということに気づくのでした。
改めて、母性って不思議です。
3.母子手帳
第7話「小さな手帳」では、母子手帳とはいかに貴重なものかに改めて気づかされました。
幼馴染のミカ(片山友希)が妊婦として現れ、母子手帳を大事に持っていました。
実は、ミカは母親の連れ子で、再婚後に弟が生まれてからは疎まれて育ったのですが、それでも大事にされた思い出の残る母子手帳を見ると安心するのでした。
アオイ自身も、母に迷惑をかけた思い出が多いことから母子手帳を見ることを恐れていたのですが、恐る恐る開いてみると、深い愛情が感じられる内容が刻まれていました。
母子手帳は、単なる医療記録というだけではなく、その手帳に込められた母親の愛情と、それを受け止める娘の気持ちをつなぐかけがえのないものなのですね。
4.妊婦の不安
第8話「妊婦たちの不安」で、紗也子(水川あさみ)の妊娠が発覚し、彼女を通して妊婦となった女性の気持ちの変化、仕事に対する向きあい方、そして夫との相互理解の大切さがクローズアップされました。
仕事に関しては、だんだん仕事がきつくなっても続けようとする紗也子に対し、婦長の榊(原田美枝子)は「全部を欲しがっちゃだめ、あなたは子どもを産むことを選んだんだから」と諭します。
由比は「産むと決めたら選択の余地はない」と言って、子どもと母体を優先させるべきと休暇を決定します。
後半では、紗也子の夫は「わからない分、わかりたい気持ちが強い」と思っている様子が伝わると、それに対して紗也子は「ただあなたに甘えたかっただけ」と漏らします。
お互いを想う気持ちにほのぼのとしました。
妊婦の不安も、家族や周りの人たちの支えで緩和されるのです。
5.性暴力
第9話「透明な子」では、10歳の子が、母の再婚相手の父から性暴力の被害を受けるという、とても重い内容が取り上げられています。
隠したい家族の気持ちはわかりますが、実際に傷ついた子どもがいるのですから「なかったことにはできない」のです。
アオイが心を閉ざした少女の気持ちをほぐし、聞き出すことができたのでした。
今も隠れた被害者は多く潜んでいるかもしれません。
様々な出産
その他にも、いろいろな境遇、環境での出産をとりあげ、問題を提起しています。
第3話「不機嫌な妊婦」では、夫が医療ミスから昏睡状態になっても、子供を出産し、気丈に生きていこうとする女性の話を取り上げています。
逆に第4話「産科危機」は、妻が出産直後に出血が止まらず思いもよらない他界に戸惑いながらも、娘を育てていく男性の話です。
この夫役の陽介(葉山奨之)は、毎話登場し、アオイと関わりながらお互いに成長していきます。
また、第5話「14歳の妊娠」では、深く考えず出産した14歳の少女が、成長してその息子と由比産婦人科にやってくる話です。
少女はその後キャリアウーマンになり、息子も立派に成長していました。
どのような状況で生まれても、その後の人生がどうなるかは誰にもわかりません。
そして第10話(最終回)「7日間の命」では、赤ちゃんの命の長さが1週間だという夫婦の話です。
胎動を感じ「母親になり始めていた」妻の灯里(鈴木杏)と、それを理解し始めた夫は出産を決意し、やがて子どもが生まれます。
しかし間もなくお別れのときが来てしいます。
わずか数日で亡くなったトモヤ(赤ちゃん)の気持ちが分からなかったという灯里に、アオイは「他人の気持ちは絶対に分からないんですよね…でも一生懸命に考えるしかない」という言葉をかけました。
彼女らしい、素敵な言葉です。
どれも一概に幸せとは言えない出産ですが、それぞれに貴重な体験で、その人たちの人生なのですね。
ドラマ『透明なゆりかご』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
【透明なゆりかご】きのう文化庁芸術祭の贈呈式があり『テレビ・ドラマ部門 大賞』の賞状など拝受しました。あらためて皆様に御礼申し上げます。写真左から柴田D、鹿島D、脚本の安達奈緒子さん、駆けつけてくれた清原果耶さん、須崎P、村橋D。https://t.co/RzgdQ97EVh #透明なゆりかご
#NHK pic.twitter.com/98NK6H4Rr0— NHKドラマ (@nhk_dramas) 2019年2月15日
見ているとなぜか自然に涙がこぼれてくるドラマです。心が揺さぶられます。
これからパパ、ママになる若者、現在子育て真っ最中のパパ、ママ、子育てを終えた方々、子どものいない方々にも見てもらいたい。
命とは何か、人間とは何かを考えさせられる素晴らしいドラマなので、ぜひ本作に触れてみてください。