「廣木隆一が監督で、村上淳のSMの話?私はちょっと苦手かも」それだけで、過激な映画だと判断していませんか?観る前と後ではかなり印象が変わる、不思議なラブストーリーです。
・原作漫画の世界観を忠実に再現している
・男性は声が出るかもしれない
それでは『夕方のおともだち』をネタバレなし・ありでレビューします。
目次
『夕方のおともだち』あらすじ【ネタバレなし】
ヨシダヨシオ(村上淳)は寝たきりの母親(烏丸せつこ)と暮らし、市の水道局に勤める真面目な男です。そして、街にひとつしかないSMクラブに通いつめる筋金入りの “ドM” でもあります。しかし、ここのところプレイに身が入りません。理由は、“伝説の女王様” ユキ子(Azumi)が突然いなくなったからです。ある日 “バイトの女王様” ミホ(菜葉菜)と釣りに出かけたヨシオは、意外な場所でユキ子を見かけます。
『夕方のおともだち』ポスターの魅力【ネタバレなし】
劇場公開日の2ヵ月以上前に、『夕方のおともだち』の海外向けポスタービジュアルが解禁されました。鳥かごのような狭い柵の中で、手足を拘束されている全裸の村上淳。これを見ただけで、映画の内容もわからないのに観に行くことだけは決めました。アートポスターのような素敵な仕上がりです。
国内版のポスターは、原作の短編漫画が収録されている本の表紙をそのまま使用しています。短編集の表紙なので、ポスターの人物は『夕方のおともだち』には登場しません。なるほど、そういうパターンもあるんですね。
『夕方のおともだち』感想・考察【ネタバレあり】
釘を刺す
ミホ女王様とのプレイで、ヨシオの “袋” に釘を刺すというシーンがあります。もちろん原作にもある、思わず顔をそむけたくなるハードプレイです。さすがに映画ではやらないだろうと思っていたので、ミホ女王様がハンマーを手にしたときは驚きました。原作では全裸ですが、映画のヨシオは下着姿です。ミホ女王様は下着のすきまから少しだけ皮ふを出して、釘を1本だけ刺します。確かに、そこを忠実に再現するのは難しいです。
公開初日のほぼ満席状態で観たのですが、どこかから「うっ」という男性の声が聞こえてきました。場所がどこであっても、自分の身体に釘を刺すなんて恐ろしいです。
おしりの丸み
パーカーを着て、屋上でタバコを吸うミホ。ボンテージの上にパーカーという妙な組み合わせと、呼びにきた店長(好井まさお)との “ゆるいやりとり” が好きです。観ているこちらが、隣のビルから二人を眺めているような気になる引きの画もいいですね。このシーンは、予告編でも観られます。それにしても、菜葉菜のおしりの丸みが素晴らしいです。ボンテージがよく似合っていました。
同僚のトミ子
ヨシオに好意を抱いている同僚のトミ子(鮎川桃果)が、酔った勢いでヨシオの自宅を訪れます。もうすぐ親の決めた相手と結婚すると言いながら、「ヨシダさんのためなら何だってします」と想いをぶつけるシーン。お茶とケーキをテーブルに運ぶところから始まり、ベルトで背中を叩き、ヨシオを踏みつけるまでがワンカットになっていました。
立っているトミ子の足元に寝転んで、「おしっこをかけて」とお願いするヨシオ。スクリーンに大きく映し出されたのは、濃いピンク色の下着。真下からスカートの中を見ているという、ヨシオ目線のカットが面白いです。「え?」と一瞬迷うトミ子の間が絶妙で、本当にかけるのかとドキドキしました。
ちなみに原作では、全く違うことをしています。ヨシオはトミ子の前で全裸になり、ブリブリしたものを…..続きが気になる方は、漫画を読みましょう。
濡れ場シーン
ヨシオは「普通にできるかどうか試してみたい」と言い、ミホにセックスしてほしいとお願いします。服を脱ぐと、ミホが身につけているのは濃いピンク色の下着。私には、トミ子の下着と同じ色に見えました。さすがに偶然というのは考えにくいので、あえてでしょうか。レモンイエローの下着をつけているミホを想像してみたのですが、黒の網タイツとは合わない気がしました。もし同じ色にした意図があるなら、きいてみたいです。
この濡れ場もやはり、ワンカット長回しで撮られていました。ちょっと動くと前貼りがバレてしまいそうになる、難易度の高いカメラアングルだったと村上淳は語っています。自然でもあり不自然でもある二人の動きは、昆虫の静かな交尾のようでした。
前貼りといえば、思い出した話があります。濡れ場の経験がある俳優に直接話を聞いたことがあるのですが、「きちんと前貼りすると、お互いリカちゃん人形になるんだよ」と教えてくれました。俳優個人の感情で動くことのできない、でも感情で動いているように観せなければいけない。一度でいいから、計算されつくした濡れ場シーンの撮影現場を見学してみたいです。
寝たきりの母親
原作では、ヨシオと母親の関係はあまり描かれていません。自宅を訪れたトミ子に、父親が亡くなってから母親は “不定愁訴” であると説明しています。不定愁訴とは身体にいろいろな症状が出るものの、検査をしても特に異常が認められない状態。
母親の身の回りの世話をするヨシオは常に無表情で、淡々と接しているように感じました。しかし、ミホとの関係でヨシオの気持ちに変化が生まれたのか徐々に明るくなります。
私は、ヨシオが自分の靴ひもを直している間に車椅子が勝手に走り出してしまうシーンが好きでした。車椅子に乗っている母親が必死に大きな声で息子の名前を叫び、それに気づいたヨシオは猛ダッシュで追いつきます。ほっとして泣きそうになっている母親に、「びっくりしたね」とはじけるような笑顔で声をかける姿が印象的です。自分の母親とどこか重なる部分があり、観ていて泣きそうになりました。
伝説の女王様
同僚に無理やり連れていかれたSMクラブで、ヨシオはユキ子女王様に出会います。薄暗い部屋の奥からゆっくりとヨシオに近づく登場シーンが、最高にかっこいいです。
ただ女王様とウグイス嬢の演じ分けが中途半端に感じてしまい、そこだけ残念に思いました。原作では、久しぶりに会ったウグイス嬢のユキ子をかなり野暮ったく描いています。「私、太ったでしょ?」と言ったところでスタイルの良さは隠せませんし、メガネをかけても眉のシャープさが際立つだけで女王様感は消えません。
「もう一度お仕置きしてください」とお願いするヨシオに、ユキ子が女王様として放つ一言があります。そこが『夕方のおともだち』の見どころのひとつだと思っていたのですが、さらっと通り過ぎてしまいました。
『夕方のおともだち』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
・村上淳を知らない人こそ観たほうがいい
・大橋トリオが爽やかに送り出してくれる
以上、ここまで『夕方のおともだち』をレビューしてきました。
しましろ