女優の永作博美が出産後初の映画出演としても話題になった映画『八日目の蝉』。
原作は『おおかみこどもの雨と雪』を手がけた奥寺佐渡子、女性を描くにはこれ以上ないタッグでおもしろくならないわけがありません!
- 第35回日本アカデミー賞最優秀賞10冠に輝く感動作!
- 本当の親子とは何か?問いかけてくるようなストーリー。
- サスペンスに惹きつけられ、ヒューマンドラマに泣ける。
- 原作ファンも唸る、原作とラストが異なる。フィクションを忘れる作品の完成度。
それではさっそく映画『八日目の蝉』をネタバレありでレビューしたいと思います。
映画『八日目の蝉』作品情報 実の母親と思っていたのは、実は誘拐犯だったという衝撃的な設定から始まる『八日目の蝉……
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『八日目の蝉』作品情報
作品名 | 八日目の蝉 |
公開日 | 2011年4月29日 |
上映時間 | 147分 |
監督 | 成島出 |
脚本 | 奥寺佐渡子 |
原作 | 角田光代 |
出演者 | 井上真央 永作博美 小池栄子 森口瑤子 田中哲司 渡邉このみ 吉本菜穂子 稲葉菜月 市川実和子 余貴美子 平田満 風吹ジュン 劇団ひとり 田中泯 |
音楽 |
第35回日本アカデミー賞では10冠を獲得している名作です。
- 【優しかったお母さんは、私を誘拐した人でした。】
- 【なぜ、誘拐したの?なぜ、私だったの?】
というパンチの効いたキャッチコピーに興味を引いた方も多いでしょう。
【ネタバレ】『八日目の蝉』あらすじ・感想
誘拐された母・恵津子(森口瑤子)の証言
冒頭2分、裁判の証言台で子どもを誘拐された母・恵津子(森口瑤子)の心の叫びが語られます。
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- 4年間、毎晩赤ちゃんの泣き声が聞こえ、夜中に必ず目が覚めたこと。
- それは悲鳴のような、自分に助けを求めるような声であったこと。
- また赤ちゃんをつくればいいと無神経なことを言う人がいたこと。
- 娘の名前は「恵理菜」、夫婦にとってかけがえのない宝物だということ。
母親は表情ひとつ動かさず、淡々と、しかし怒りは内に抱えて震えながら語ります。
中でも特に胸がギュッと締めつけられたのは、最後に母親が話したこの部分です。
「戻ってきた恵理菜ちゃんは、私たちの子に間違いありませんでした。けれど4歳の恵理菜ちゃんには、私たち夫婦が本当の親だということが分かりませんでした。自分の子を誘拐した犯人を本当の母親だと思い込み愛していたんです。それがどれだけ苦しくて悲しいことだかわかりますか?あの女は私たち家族からすべてを奪いました。私たち家族の苦しみは恵理菜ちゃんが戻ってきてもずっと続いているんです。あの女は恵理菜ちゃんの体だけではなくて心も奪いました。命を奪えば死刑なのに、私たち親子の心を奪いズタズタにしても、あの女は死刑にはなりません。だったら…私たちの幸せな時間を返してください。」
この2分の中で、母は「恵理菜」というわが子の名前を何度も何度も呼びます。
まるで呼ぶことのできなかった時間の分を埋めるように…。
母は取り戻せない時間を、取り戻したいと切々と本気で訴えます。
時間は取り戻せないと知っているはずなのに、返してほしいと言います。
「悲しすぎる…なんてひどい犯人なんだ!」と憤りを覚えました。
しかし、同時に「どんな人なんだろう、こんなに母親を苦しめたのは…」と誘拐犯への興味が湧きます。
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誘拐した父の愛人・希和子(永作博美)の証言
証言台に、犯人であり父親の愛人だった野々宮希和子(永作博美)が立ちます。
「からっぽのがらんどう」だと恵津子さんに言われました。丈博さん(田中哲司)との子供を堕ろしたあと、子宮内が癒着して子供が産めない体になりました。赤ちゃんを殺したから罰が当たったんだと思いました。
希和子は恵津子の夫・丈博と不倫していました。
そして、丈博の子供を堕ろしたことで、二度と出産が望めない体になってしまっていたのです。
妻の恵津子はその後妊娠し、無事に出産。
恵津子は、毎日希和子に電話をかけ、別れるように泣き、罵倒し、あざけ笑いました。
「からっぽのがらんどう」だと言ったのです。
赤ちゃんをひと目見たくなってしまうまでに追い込まれてしまったのです。
あれほど犯人は最悪だと感じていたのに、ひとたび証言を聞いてしまうと…希和子にどうしても同情してしまいます。
不倫していた事実は最低ですが、されていた恵津子からの仕打ちも最低でした。
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なんて痛ましい言葉なのだろうと、言葉の刃に足がすくむ思いがします。
ひと目見たいだけだった…
事件が起きた日は雨でした。
すべてを包み隠すようなザーザー音のする激しい雨の日。
秋山夫婦が出かけるのを見て、希和子は秋山家に入ります。
リビングの机には朝食の跡、すると2階から赤ちゃんの泣き声がします。
2階へ上がり、ベビーベッドへ向かうと赤ちゃんは泣いていました。
希和子を見て泣きやみ、じっと見つめならが希和子が「…薫」と呼ぶと笑うんです。
魔が差しました、抱き上げてしまいます。
薫は産まれてくるはずだった、産んであげたかったわが子に名づけたかった名前。
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証言台で希和子は言います。
「この子を守る。あの笑顔に癒されたような、許されたような、そんな気持ちでした。お腹の中の赤ちゃんを殺してしまったことや、奥さんのいる人と結婚しようとしたことや、そんなことを全部この子は許してくれている。そう思いました。」
裁判官が言います。
「審理を終わります。被告人、最後に言いたいことは?」
「逮捕されるまで、毎日祈るような気持ちで生活しました。今日一日、明日一日、どうか薫と生きられますように。それだけを祈り続け暮らしました。4年間、子育てをする喜びを味わわせてもらったことを秋山さん夫妻に感謝しています。」
と、希和子は答えました。
裁判官「感謝ではなく謝罪の気持ちはないんですか?」
希和子「お詫びの言葉もありません。」
「死んでしまえ!死ねばいい!死ね!死ね!」と傍聴席から恵津子が発狂しています。
表情を変えない希和子。
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気が強く自信のある女・恵津子、控え目だが意志の強い女・希和子。
会ってはいけない最悪の2人が、一人の男性を好きになってしまったに過ぎないのです。
どちらも被害者であり、加害者です。
でも2人は、母になって変わりました。
そこには4年間子供と幸せだった母と、地獄のような日々を過ごした母がいました。
「薫」と名付けることを約束していた
希和子が秋山丈博と不倫関係にあったとき、2人の子どもの名前について話し合っていました。
「薫」という名前にしよう、響きのいい名前にしようと2人で話していたのです。
ある日、不倫相手の希和子が本当に妊娠してしまい、産むつもりであると同時に子供には「薫」と名づけようと話します。
丈博は「今は無理だ、俺はキワちゃんと普通に結婚したい。単なる浮気じゃないんだから!女房には、ちゃんと話して別れるから!だけど今その子産んだらキワちゃんと俺の未来、台無しになっちゃうんだよ!」
こう言って、希和子を説得したのです。
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罪を犯したとはいえ、悲しい女・希和子の事情に切なくなってしまいます。
大人になった恵理菜(井上真央)
大学生になった恵理菜(井上真央)は、居酒屋でバイトをしながらの一人暮らし。
バイト先までは自転車、下り坂を漕がずに足を広げ気持ちよさそうに下りていきます。
友達はいなく、バイト仲間からの遊びの誘いも断るほど、孤独な暮らし。
ただ1人、岸田(劇団ひとり)とは不倫関係ですがお付き合いしています。
ある日のバイト終わり、フリーライター安藤千草(小池栄子)が「薫ちゃんだよね?あの誘拐事件のこと聞きたいんだけど。」と声をかけてきます。
「覚えていない」と答える恵理菜に、強引にファイルを渡し「もし何か思い出したら話を聞かせて、また来るから。」とだけ言って安藤は去っていきます。
帰宅して、恵理菜はファイルを見てしまいます。
- 1枚目、保護されたときにマスコミに撮られた写真。恵理菜は思い出します…父に抱かれ、まぶしいフラッシュの嵐と「おめでとうございます」という記者たちの声。
- 2枚目、3枚目と開いてゆくと、今度は事件の新聞記事。
- 4枚目を開くと…週刊誌の記事、そこには希和子の写真。見出しは「謝罪ではなく感謝。野々宮被告は反省は皆無。」
その記事を見ると深くため息をつき、恵理菜は思わずファイルを閉じてしまいます。
後日、ふたたび安藤千草がバイト先にきて飲みに誘われます。
恵理菜のアパートで飲み明かした翌日、千草はいくつか質問をしてきます。
「事件の記事を初めて読んだとき、野々宮希和子についてどう思った?」
「本や記事はどこまで本当かわからず、話ができ過ぎている。書く人が適当におもしろく書いているんじゃないか。他人ごとみたい。私には関係ない。」
「よかったじゃん。家に戻ってこられて。」
「正直、今でもあんまり家族って感じがしません。本当の母親が誰かって分かるまで時間かかったし。母親も困ってたんじゃないかな。私がそばにいると事件のこととか思い出すみたいで。」
「あんたは何も悪くないじゃん。」
千草の言葉に少し動揺する恵理菜。
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ここでは、大人になった恵理菜を井上真央さんが演じています。
誘拐された経験を持つという大変な役を見事に演じきっています。
妻子ある人物との不倫…人生を諦めてしまったような恵理菜の姿は、事件がいまだに尾をひいていることを想像させます。
フリーライター安藤千草は、小池栄子さん。
作中の小池栄子さんは、彼女だと気が付かないくらい、姿勢から歩き方まで別人です。
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そして、実はフリーライター安藤千草は、かなりのキーパーソン。
恵理菜ではなく、“薫だったころ”に深い関わりのある人物なのです!
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大阪へ逃亡
赤ちゃんを誘拐してしまった希和子はトイレで髪をバッサリ切り、新幹線に飛び乗ります。
新聞には「恵理菜ちゃん連れ去り」と見出し、事件の記事と赤ちゃんの写真。
希和子は、赤ちゃんの顔を見られないように隠しながら座席に座ります。
たどり着いたのは大阪、ホテルの部屋で夜泣きする赤ちゃんがいました。
いくらあやしても泣きまず…服を脱いでがんばって母乳をあげようとします。
しかし、出産をしていていない希和子から母乳が出るはずもなく「出ないよね…」と言いながら、泣き叫ぶ赤ちゃんを抱きかかえて、希和子も泣き崩れてしまいます。
翌朝、途方に暮れ、所在なげにベンチに座る希和子。
そこへ、女性が「いま何ヶ月?お母さん似やねーソックリ!」と、話しかけます。
エステルと呼ばれるその女性・沢田久美(市川実和子)は、エンジェルホームという女性限定の施設のチラシを渡していきます。
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大きく話が展開するので見逃せません。
誘拐保護後
雪の降る日、まだ薫のままの恵理菜(渡邉このみ)は、家から脱走。
「知らないおじさんとおばさんの家につかまってる、逃げてきた、自分の名前は薫だ。」と交番に保護されます。
事情を知らないお巡りさんは「薫ちゃん、もう1度お話してくれる?」と聞こうとすると…
恵津子が後ろから「恵理菜です!恵理菜ちゃん、こんなに心配かけてどんだけ悪い子なの!そんなに家が嫌いか!そんな悪い子はねえ…もううちの子じゃないよ!お願いだから、もうどこもいかないでー!」と言いながら必死に恵理菜を抱きしめます。
別の日には、夜眠る前に歌をうたってあげようとした恵津子に、関西弁で話しかけてしまう恵理菜。
何度か恵津子に標準語に直されるも、思わず出てしまう関西弁。
娘にお星さまの歌をリクエストされますが、歌ったうたは全部違っています。
恵理菜の言う「お星さまのうた」が分からない恵津子は半狂乱になり、「そうね…じゃあどの歌がいいかな…なんでなの!なんでなの!なんでなの!なんでなの!」と取り乱してしまいます。
「お母さんごめんなさい…お母さんごめんなさい…」と、ベッドの上で必死に泣きながら謝る恵理菜が見えます。
大人になった恵理菜はその光景を思い出し…うつむきます。
無事に保護されてからも過酷だったのです。
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元通り、思い通りにいかないのは仕方ないのですが、恵理菜の謝る姿を見て4年の親子の空白の大きさに胸が痛みました。
それと同じく、4年をどう過ごしたのか?と知りたくて仕方がなくなっていきます。
恵理菜の関西弁が抜けないのは、しっかりと理由があったのです。
観ている人々の思考を見透かすように、希和子と薫の逃亡生活へと展開し、物語はエンジェルホームへ戻っていきます。
エンジェルホーム
エンジェルホームは、行き場のない女性たちが集まって生活する施設です。
代表エンゼル(余貴美子)は「魂で会話しなさい!」と俗世とのかい離を信条としています。
まさに警察の捜索から身を隠さなければならない行き場のない希和子にとって、うってつけの場所なのです。
希和子は「何もいりません。ただこの子と生きていきたい、私にはこの子がすべて。どうか助けてください!」とこのエンジェルホームに入ります。
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まず、名前は俗世のものではない名前にするというルール。
希和子は「ルツ」、薫は「リベカ」で、略して「リカ」。
食堂にも「食事中は俗世の会話禁止、口から悪いモノが入って魂が汚れます。」という格言が記載してあるほど。
エステルこと沢田久美は、この施設でルールに従いながらも自由に過ごしている人です。
希和子にとって良き話し相手となっています。
久美は裁判で負けて親権をなくし、姑に男の子を奪われてしまっていました。
もう会わせてももらえないその現実(俗世)を捨ててここに入ったという経緯があったのです。
久美の息子は「薫」と同い年。他人とは思えなかったのかもしれません。
いかにも怪しいこの施設で赤ちゃんの薫は育ちます。
希和子にとっては、久美もいて心穏やかな日々を過ごせた場所。
しかし、忘れそうになりますが希和子はあくまでも逃亡者。
平穏は長く続かないのです。
岸田(劇団ひとり)という男
ある日、恵理菜は「岸田の子供ができたかも…」と安藤千草にだけ打ち明けます。
恵理菜は、岸田に質問してみます。
「私に子供ができたらどうする?」
「エリちゃん、だって学生だろう?そりゃもちろん産んでほしいけど。まぁ、今すぐっていうのは現実的に難しいと思う。いつかなら俺エリちゃんと暮らしたい。エリちゃんが卒業して、うちのチビがもう少しこう手がかからなくなったら、そのうち全部ちゃんとするって何度も言ったでしょ!」
言っていることが自分の父のようだな…と恵理菜は笑い、もしもの話で妊娠はしていないと岸田に言います。
そして、岸田に別れを告げます。
信じられない岸田の返答に、恵理菜と同じように思わず笑ってしまいました。
それにしても”父のよう”と言って笑うということは、恵理菜はかなり事件の記事を読んでいるに違いありません。
やはり自分の誘拐された事件が気になったのか、どう感じていたのか。
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からっぽのがらんどう
恵理菜は学校も辞め、妻子ある人(岸田)の子供を「1人で産んで育てる!」と両親に伝えます。
母(恵津子)は「堕ろしなさい!そんな子ども堕ろしなさい!」と病院へ連れていこうとします。
恵理菜は「お母さん、あの女の人(希和子)になんて言ったの?」と責めたてます。
母が希和子に言った「堕ろすなんて信じられない!あんたは、からっぽのがらんどう!」という言葉をブーメランのように返し、「私はがらんどうにはなりたくない。人の子供を誘拐しないで済むように産む!」と宣言します。
その言葉に母は絶句。
そして「なぜ希和子を忘れてくれないのか!私はちゃんと普通の母親になりたかった!」と発狂。
「女の子が母親に笑いかけていると、ねたましくて悲鳴をあげそうになるのよ!」と泣き崩れます。
あなたに好かれたいと訴える母の恵津子に、なにも言わず母の手を握る恵理菜。
「からっぽのがらんどう」
希和子への悪態が、娘を通して母に戻ってくるというなんとも皮肉な結果になってしまうわけです。
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物語の中で、登場人物の感情にこんなに右往左往し、心が揺さぶられるのははじめてです。
お星さまのうた
エンジェルホームで、薫は3歳まで育ちました。
一番の仲良しはマロンちゃん、姉妹のようにいつも一緒に遊んでいます。
ある日、代表のエンゼルさんがみんなを集めて「ここを見学したいと言う人がおる、これから来るけどいつも通りにしといたらいい」と言いました。
希和子は一瞬で嫌な予感がよぎり、ゾッとします。
そして、すぐに薫を抱きかかえ逃げることにしました。
「ママ、ママ、どこ行くん?マロンちゃんと遊びたい!マロンちゃんと遊びたい!!」
薫は何度も何度も言います。
何も持たず慌てて窓から脱出した希和子に、久美が声をかけて巾着を渡してくれます。
「薫ちゃんを離さんといて!おっきくなるまで一緒にいたげて!」と久美が応援します。
暗い森の中を2人は歩きます。
怖いと言う薫をおんぶし、希和子は「お星さまのうた」を歌います。
それは、坂本九の「見上げてごらん夜の星を」だったのです。
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恵津子が当てられなかった「お星さまのうた」の正体は、坂本九の「見上げてごらん夜の星を」だったのか。
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キーパーソン安藤千草(小池栄子)
安藤千草は、マンションを持つ親からの援助で生活しています。
千草は「今いるところから出ていきたい」と、恵理菜にそう言いました。
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女性しかいないあの施設で育った千草は、男性恐怖症になっていました。
千草もまた、幼いころの経験で今も悩む1人だったのです。
千草は恵理菜を取材旅行に誘います、小豆島へ。
そしてとうとう、恵理菜が4年間を取り戻すときがきたのです。
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どこか自信なさげに歩く姿は、幼いころ小さなコミュニティで育ったからなのかもしれません。
「ずっとひとりで生きていくんだって思うと、ときどき気がス~って遠くなる」という千草のセリフが印象的です。
言い表せない孤独。それが2人の共通点なのです。
彼女も、妻も、母にもなることを諦めざるを得なかった千草にとって、恵理菜の妊娠は希望だったのですね。
小豆島のそうめんや
沢田久美の実家・香川県小豆島に、希和子は預かった伝言を伝えに行きます。
そうめんやを営んでいる久美の母(風吹ジュン)に「久美は元気」と伝えます。
優しい沢田夫妻の計らいで、希和子と薫は離れに住まわせてもらい、そうめんやで働かせてもらうことになります。
仕事のお休みの日になると、希和子は自転車に薫を乗せていろいろな場所へお出かけします。
長い下り坂を自転車を漕がずに足を広げ気持ちよさそうに下りていきます。
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「いつか幸せにお嫁に行くんよ」と言う希和子に、「薫、ママと一緒にずっとおる!」と薫が話す場面はかわいくてかわいくて、逃げているという現実を忘れさせる魔法にかかった気がしました。
「このままそうっとしておいてあげたい!」といういけない感情でいっぱいになってしまいました。
しかし、もうすぐ4年。
終わりがやってきます。
『八日目の蝉』というタイトルの謎
『八日目の蝉』というタイトルの謎について、2度ほど語られます。
それは千草と恵理菜のやりとりに出てくるのです。
1度目は、東京の公園で「蝉ってたった7日で死んじゃうなんてあんまりだよね」という千草に対し、「他のどの蝉も7日で死んじゃうんだったら別に寂しくない、だってみんな同じだし。」と答える恵理菜。
「でも、もし8日目の蝉がいたら、仲間みんな死んじゃってるのに。その方が悲しいよ…」と恵理菜は言います。
そして2度目は、小豆島で「7日目で死ぬより、8日目の蝉のほうが悲しいって。私もそう思ってたけど違うかもね。8日目の蝉はさ、他の蝉には見られなかったなにかを見られるんだもん。もしかしたらそれ、すごくきれいなものかもしれないよね。」
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これからの恵理菜と千草の可能性に光を感じました。
全国紙の新聞、佳作の写真
薫はすっかり島の子になりました。
新ちゃんとさくらちゃん、お友達もできました。
夏の日、薫と希和子は「灯せ、灯せ」と声をかけ、竹のたいまつを持って棚田のあぜ道を歩く「虫送り」に参加します。
竹のたいまつの火の列と、棚田の景色のあまりの美しさに2人は立ち止まって見とれました。
大人になった恵理菜も「虫送り」の景色を覚えていました。
離れのお家もそうめん屋も、小豆島の思い出が徐々に思い出されます。
そして、海辺でママとくすぐりあった楽しい出も。
ある日、希和子は突然沢田夫妻に呼ばれます。
差し出された全国紙の新聞には一枚の写真。
タイトルは「虫送りの親子」で佳作。
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希和子は血の気が引きます。
希和子は薫に引っ越しを提案しますが、「どこにも行かない」と拒否されてしまいます。
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最初で最後の家族写真
その夜、希和子は薫と写真館へ行きます。
写真館の滝(田中泯)に希和子が「写真を撮りたいんですけど…家族写真を」と願い出ます。
希和子は赤いベロアの長椅子に座り、薫の服を丁寧に整えながら愛おしそうに髪をなでます。
そして、両手を丸く合わせて何かを分ける様に薫の手を包みこみます。
最後になるとわかっている。
まるでそんな予感をしているように感じました。
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すべてを観終わった後に見返しても素敵なシーンだなぁ、と。
大事に丁寧に撮られていると感じます。
その子はまだ何も食べていません
希和子と薫のふたりは夜逃げをしようと、夜道を走ります。
希和子は「ママと一緒にお船に乗って動物園に行こう!」と薫にウソをついて。
喜んで船乗り場に走っていく薫の後ろ姿に「薫、ママもう追いつけないよ。」と希和子はつぶやきます。
食べ物を買って売店を出ると、そこには警官たちが待っていました。
複数の警官たちを前に、希和子はこの生活が終わったことを悟ります。
薫を自分から離し、警官のいる方へ促し…泣きながら見送り頷きます。
「ママーママー!!」と叫ぶ薫。
「野々宮希和子さんですね。秋山恵理菜ちゃんに対する未成年者略取誘拐罪で19時10分逮捕します。」
希和子は連行されながら、「待ってください!待ってください!その子は!まだごはんを食べていません!どうかよろしくお願いします!」と言ったのです。
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最後の一言には母性を感じました。
薫は確かに間違いなく希和子に愛情をかけて育ててもらっていたのです。
滝写真館
船乗り場で、恵理菜はすべてを思い出します。
導かれるように最後の家族写真を撮った「滝写真館」へと向かいます。
ショーウィンドウにはしんちゃん家の家族写真。
恵理菜は「昔、ここで写真を撮ったことがあるんですけど」と尋ねてみることに。
恵理菜の顔を見ながら、希和子と薫のネガを探し出しますが、なんと5年前に希和子が写真館に来ていたのです。
そして、希和子は家族写真を持って行ってたことが判明。
しかし、写真は現像してくれることに。
暗室で写真が浮き上がってきたとき、恵理菜の記憶もより鮮明に蘇ります。
それは写真のシャッターが切られるまでの30秒の記憶。
薫に「ありがとう」と言っていた希和子。
「ママはもういらない。何もいらない。薫が全部持って行って。大好きよ、薫。」
希和子はそう言って涙をぬぐいながら薫を抱きしめる様子。
30秒の中には、希和子の薫への愛がたっぷりと詰まっていました。
そして顔を上げて、レンズに向かって微笑んでいたのです。
恵理菜はそれを思い出して、居ても立ってもいられずに写真館を呼び出します。
- 「憎みたくなんかなかった。誰も憎みたくなかった。この島に戻りたかった。でも、そんなこと考えちゃいけないって思ってた。」
- 「お腹の子に、”生まれてきたら世界で一番好きだ”って何度でも言うよ。」
- 「私、なんでだろ?もうこの子が好きだ!まだ顔も見てないのに…なんでだろ。」
恵理菜は不倫相手の子供だった自分に精一杯の愛を注いでくれた希和子がそうであったように、次は自分が不倫相手(岸田)の子供に同じようにしてあげる番だ。と、決意した瞬間なのだと思います。
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岸田のことをずっと憎んでいたはずだけど、本当は憎んでいなかった。
そして、希和子は愛された記憶をくれた大事な人だと気づいたとき、恵理菜は長い呪縛から解き放たれたのです。
やっとお腹の中にいる我が子を愛せる自信が出てきたのですね。
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『八日目の蝉』まとめ
『八日目の蝉』がトレンドに入ってるけど、同作は日本映画を信じ続けてもいいかな、と思った良作でした。原作も読んだけど、個人的には原作の世界をより昇華させた映画版の方が面白かった。キャストの皆さんも素晴らしいですよね。 pic.twitter.com/9Xru0wQ75Q
— 宣伝ダディ (@senden_daddy) 2016年2月26日
- ハンカチではおさまらず、タオルが絞れるほど泣いた。
- 愛がDNAを超えた、そう思わざるを得ない。
- 人の心を揺さぶり離さない物語。
- 女優陣による渾身の芝居に胸が熱くなる!観終えたときに感じたもの、自分に残ったものを大切にしたいと余韻に浸れる作品。
Twtitterなどでは、今もなお【泣ける映画】の代表作のひとつとして数えられている名作です。