「どうせ最後に、小松菜奈が死ぬ映画でしょ?」
そんなことを言う人が周りにいたら、リリー・フランキーに弟子入りした坂口健太郎が立派に成長する話だと教えてあげてください。
・RADWIMPSが劇伴音楽を担当
・同名小説が原作のラブストーリー
それでは『余命10年』をネタバレなし・ありでレビューします。
目次
『余命10年』あらすじ【ネタバレなし】
数万人に一人という不治の病を抱えた二十歳の茉莉(小松菜奈)は、自分の余命があと10年であることを知ります。生きることに執着しないように、「恋だけはしない」と心に決めて毎日を過ごしていました。そんなとき、同窓会で和人(坂口健太郎)と再会。茉莉とは違って何でもできるはずなのに、和人は人知れず生きることを諦めていました。
『余命10年』を楽しむ【ネタバレなし】
原作小説について
2007年に発売された単行本(左)と、闘病シーンを大幅に加筆・修正を加えて2017年に発売された文庫本(右)です。
『余命10年』はフィクションですが、主人公は作者と同じ病気を抱えています。
文芸社に自費出版として原稿を持ち込んだことがきっかけで、書籍化が決定。著者である小坂流加は、文庫版の編集が終わった直後に病状が悪化し、発売3ヶ月前の2017年2月に38歳という若さで亡くなっています。
原作を読んでから映画を観たのですが、いろいろと設定が変わっていて私の好きな場面はひとつも再現されていませんでした。
RADWIMPSの音楽
映画『余命10年』の音楽を担当したのは、RADWIMPSです。サウンドトラックCDには、主題歌『うるうびと』を含む全30曲を収録。
私が一番好きなのは、『重なる四季 Overlapped Seasons』です。繰り返し聴いては、隅田川花火大会のシーンを思い出しています。
俳優の衣装合わせのときにはもう主題歌のデモができていたなんて、とても贅沢な環境で撮影がスタートしたんですね。
コラボドリンク
最近、作品をイメージしたコラボドリンクをよく見かけます。
購入者先着プレゼントのオリジナルハンドタオルに興味はありませんが、さくらソーダは飲んでみたかったです。私が行った映画館では、販売していませんでした。
コラボドリンクといえば、『さがす』(片山慎三監督)が劇場公開されたときの売店メニューが面白かったです。
指名手配犯の山内照巳(清水尋也)が逃亡中にかじりついた果実をイメージしたという、その名も「指名手配犯のマンダリンジンジャー」。とても気になったのですが、上映開始時間ギリギリに到着したので購入することができませんでした。
『余命10年』感想【ネタバレあり】
10年のために1秒を作る
海に行って、花火大会に行って、クリスマスパーティーして、カウントダウンして、初詣に行って、お花見して…短い時間のなかに、ぎゅーっと詰まっています。
観ていて「ちょっと待って 情報量が多い」と焦りました。
隅田川花火大会のシーンについて、藤井道人監督がインタビューで語っています。実際の花火大会を撮るわけではないので、このためだけに船を出して通行止めをしたりと様々な苦労があったそうです。
予告編でも、とても印象的に使われていましたね。実際にはもっと長いシーンなんだろうなと勝手に思っていたので、そのままの短さに驚きました。
サクサク と ゴロゴロ
原作の茉莉は、銀杏の並木道で別れを告げます。この先も生きていく和人のために、そして自分の辛さを半分にするためです。
最後のキスをしたあとに “新しい人を好きになる” と約束するなんて、切ない以外の言葉が見つかりません。
『サクサクという音が重なって、次第にずれて、やがて遠のいていった。』
引用元:『余命10年』小坂流加
落ち葉を踏みしめながら左右に別れていく描写がとてもきれいで、私はこの場面を何度も読み返しています。
この “サクサク” シーンをスクリーンで観たかったのですが、残念ながら映画では別れたときの季節が秋から冬に変わっていました。
泣き崩れる和人に背を向けて、去っていく茉莉。キャリーバッグを引く “ゴロゴロゴロゴロ” という音を聞きながら、私はひとりで難しい顔をしていたと思います。
もしもの未来
ビデオカメラのデータを消去しながら、茉莉が想像したのは “もしもの未来” です。もし自分が病気じゃなかったら、和人と結婚して、出産して、幼い子供を連れてお花見に行く。
そんな訪れることのない未来を、言葉としてではなく誰かがビデオカメラで撮影したような思い出の映像として表現されています。
茉莉と和人が幸せそうであればあるほど、観ているのが辛かったです。
『ラ・ラ・ランド』(デイミアン・チャゼル監督)にも、切なくなる幻想シーンがありましたね。もしセバスチャン(ライアン・ゴズリング)がパリに行っていたら、ミア(エマ・ストーン)との未来はこうだったかもしれない…。
もしもの世界は、いつだって儚くて美しいです。
「頑張ったね」
自分のお店をオープンさせた和人は、沙苗(奈緒)から “開店祝い” を受け取ります。封筒に入っていたのは、茉莉が書いた小説の原稿でした。
観ている私たちは、ここで “和人にどう行動してほしいか” 意見が分かれるのではないでしょうか。
①会いに行く
②会いに行かない
③姿を目にするが病室には入らない
映画の和人は、自転車を走らせて病院に向かいます。眠っている茉莉の手を握り、「頑張ったね」と声をかけるので①です。
原作では②、別れたあと茉莉が亡くなるまで和人は会いに行きませんでした。棺の中にいる茉莉の頬にふれて「頑張ったね 俺も頑張ったよ」と伝える場面では、読んでいて何が正解だったのか考えてしまい複雑な気持ちになります。
私は、なんとなく③です。会いたい気持ちだけで病室の前まで来てしまうが、頑張っている茉莉の姿を見て思いとどまる…そんな展開はどうでしょうか。
ラストシーン
和人は白い紙に包まれた花束を手に、桜並木を歩いています。ポケットから取り出したのは、茉莉がいつも使っていたビデオカメラ。突風に驚いて下を向いた和人が顔をあげると、視線の先にいたのは “自分と茉莉” でした。
ふっと小さく笑い、背を向けて歩き出したところで物語は終わります。
すぐに『余命1ヶ月の花嫁』(廣木隆一監督)のラストシーンを思い出しました。亡くなった千恵(榮倉奈々)の声が聞こえた気がして振り向いた太郎(永山瑛太)も、和人と同じように切ない表情を浮かべ、背を向けて歩き出します。
同じ “余命もの” として『余命10年』と『余命1ヶ月の花嫁』を比べるようなことはしたくないのですが、ふと頭に浮かんでしまいました。
『余命10年』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
・リップヴァンウィンクルを思い出す人もいる
・井口理はいなくてもよかった
以上、ここまで『余命10年』をレビューしてきました。
しましろ