新聞紙で作った覆面に青いTシャツ。
動画配信をするのはネットカフェの一室。
「明日の予告を教えてやる」と宣い世の中に“制裁”を下すシンブンシの目的は一体なんだ!?
- 現実世界で起こり得そうな、凄く近いところにあるフィクション
- 予告と制裁を繰り返し逃げるシンブンシと、追う警視庁サイバー対策課
- 目的が明らかになるとき、思いのほか切ないラストが展開されます
それでは映画『予告犯』についてネタバレありでレビューしていきます。
目次
『予告犯』作品情報
作品名 | 予告犯 |
公開日 | 2015年6月6日 |
上映時間 | 119分 |
監督 | 中村義洋 |
脚本 | 林民夫 |
原作 | 筒井哲也 |
出演者 | 生田斗真 戸田恵梨香 鈴木亮平 濱田岳 荒川良々 宅間孝行 坂口健太郎 窪田正孝 小松菜奈 福山康平 田中圭 滝藤賢一 本田博太郎 小日向文世 |
音楽 | 大間々昂 |
【ネタバレ】『予告犯』あらすじ
世界を変えると豪語して制裁を下す存在、シンブンシ
「勘違いするな。俺は自分のためにやってるわけじゃない。」とあるネットカフェの一室からそう言い、「俺が世界を変えてやる」とも言う男は新聞紙で作った覆面を被り動画を配信しています。
その特徴的な見た目、そして決まり文句のように“明日の予告を教えてやる”と宣言した上で制裁の予告をすることが話題となり世間ではちょっとした騒ぎになっていました。
今回の動画で配信されたのは、先月、食中毒事件を起こした食品加工会社・アジサンフーズに“きっちり火を通して”制裁してやる、という予告。
シンブンシ、と世間で呼ばれているその男の予告は先月末から、もう3件目です。
最初の投稿は1週間前、某飲食店でアルバイトをしていた少年はバイト先の店の厨房でゴキブリを揚げSNSに投稿、炎上。
店は閉店の危機に追いやられていました。
アルバイトをしていた少年に対して「特性メニューを腹いっぱい食わせてやる」という予告をしたシンブンシは、少年を軟禁して自らが揚げたゴキブリを食べさせたのです。
2件目の予告のターゲットは城徳大学の学生、彼は同じ大学の生徒が犯した強姦事件に対して、男にホイホイついていく女も悪いと発言して炎上。
シンブンシは「彼には特別な元気玉を注入してやろう」と言います。
彼は弁護士だと言う男に浚われ、気付いたら裸で縛り付けられており性的な玩具で後ろを犯されてしまいました。
シンブンシがターゲットとして取り上げるのは、SNSで炎上騒動を起こした人や不謹慎な言動をした人、不祥事を起こしたにも関わらずうやむやにした企業などです。
3件目の予告の時点で動画についている評価やコメントは彼の言動を非難するものの方が、支持するものに比べて圧倒的に多数でした。
長身、小太り、眼鏡、普通体型
そんななか4件目の予告動画が投稿されます。
シンブンシはまるで自分の思想を語るかのように自らの言動について「誰も拾わない“お前ら”の声を、自分が拾って突き出そうって話だ」と言います。
明日の予告のターゲットは、東京の某ネット企業に勤める男。
入社試験に来た自分より年上の男の面接を、ネット上で実況したことを罪としました。
警察が男の自宅に向かった時、すでに男はシンブンシに捕えられていました。
そしてバットでボコボコに殴る様子を実況。
動画から犯人を特定しようとする警察が、あることに気付きます。
これまでの4件の予告に映っているシンブンシの外見の特徴が、それぞれすべて違うのです。
複数犯の可能性に辿りついたのは、警視庁サイバー対策課キャリア捜査官の吉野絵里香(戸田恵梨香)率いるチームでした。
警察も世間もシンブンシの犯行は社会に対する何らかの恨み辛みであると仮定しますが、“彼ら”の真の目的はそこにはありませんでした。
カンサイ、メタボ、ノビタ、ゲイツ。そしてヒョロ。
3年前、IT企業で派遣社員として働き、3年の月日が経とうとしていた奥田宏明(生田斗真)は正社員採用の時期が近付いていると張り切っていました。
しかしそれを社員に言うと「そんな制度あったっけ?」などと言われ、さらに社長は「変なところで改行を挟むのが見づらい」などと難癖をつけて今日中に直せと無理を言いました。
反論したわけでもなく単純に、奥田がコードの書き方等で注意があるなら気付いた時点で言ってほしいと社長に言っただけで社員たちに聞こえるような大声で「派遣に注意されちゃったよ!」と小馬鹿にしたりもしました。
そして奥田はプログラマーから一転、パソコンに向かう業務ではなく、フロア内や喫煙所の掃除をさせられるようになってしまいました。
SNS上では奥田に対する皮肉や悪口を言い合う社員たち、“今日中に直せ”と言われた案件の納期は来週であることを嘲笑しながら書き込む社長。
奥田はそれを見てしまい、精神的苦痛で胃潰瘍になったためクビを切られてしまいました。
それから2年の空白を経て就職活動をするも、空白期間がネックとなり仕事が見つかりません。
職業安定所で肩を落とす奥田に、声をかけてきた男がいました。
言われるままについていくと、複数人でワゴン車に乗せられ、ついた先は不法投棄のゴミを処理する肉体労働の現場でした。
そこで一緒に寝泊まりし仕事をすることになったのは、声をかけてきた葛西智彦(鈴木亮平)と、
小太りの男・寺原慎一(荒川良々)、
ひきこもりから脱して就職活動をするも奥田と同じく空白の期間がネックで仕事を見つけられなかった木村浩一(濱田岳)。
そしてもう一人、母親が死ぬ前に、父は日本人だと言い残したこととその名前だけを頼りに父を探しに日本に来たフィリピン人の少年ネルソン・カトウ・リカルテ(福山康平)。
それぞれのいきさつを話していた夜、ネルソンがUSBのようなものを使って「数字が揃った、ラッキーだ」と言いました。
それはネットカフェで働いていたとき、そこが潰れた際に落ちていたワンタイムパスワードの端末、OPPトークン。
それを目にした奥田はパスワードとして出てくる6文字すべてが数字になる確率を計算式で導き出しました。
難しそうな計算式をいとも簡単に書き出し答えを導いた様子を見て、みんなは奥田のことを“ゲイツ”というあだ名で呼びました。
葛西は関西弁だからカンサイ、寺原は小太りで腹が出ているからメタボ、ネルソンは痩せているからヒョロ、木村は眼鏡をかけているからノビタ。
そんな風にそれぞれあだ名をつけて、いつの間にか5人は仲良くなっていきました。
存在を大きくしていくシンブンシ、動き出す公安
ある日、過酷な現場作業の途中でネルソンは倒れてしまいます。
心配して看病する奥田たちに対し、実は日本に来るのに大金が必要となり腎臓を1つ売ったと打ち明けました。
結局それが影響してネルソンは命を落としてしまいました。
駆けつけた現場責任者は奥田たちにスコップを投げ、腐る前に遺体を埋めろと命じますが、その態度に逆上し彼らは責任者をスコップで殴って殺害。
寝泊まりしていた事務所もろとも火をつけて、自分たちも死のうとしますが、奥田はあるアイデアをみんなに提案します。
それが現在、世の中を騒がせている一連の“シンブンシ”による騒動でした。
4件目の予告の次のシンブンシの動画配信は、予告ではありませんでした。
人間は自尊心がなくなったら生きていけない、と言います。
自尊心を奪い取ろうとする“何か”が許せないとも。そして理由もなく侮辱するものが現れたら言え、俺が殺すと発言します。
シンブンシの言動に良くも悪くも世間が注目し、その存在はどんどん大きくなって模倣犯まで現れるようになっていきました。
その頃、ネットを批判するメディアと、それに乗じて名を売りたい政治家がテレビで論争。
政治家・設楽木(小日向文世)はネットを規制し自由を奪う法案を可決させると躍起になっている男です。
シンブンシは設楽木をターゲットとし、次の予告は、24時間以内に設楽木を殺害するというものでした。
トクホ飲料のイベントの場に姿を現した設楽木、予告の行方を実況する人々。
しかし殺害予告時間が過ぎてもシンブンシは現れずターゲットも命を落とすことはありませんでした。
しかし“制裁”としてスキャンダルを暴露する動画を配信され、政治家としての命を失ったのでした。
シンブンシの真の目的とは…?
政治家の殺害予告までして世間を騒がせたシンブンシは、最後の予告動画を配信します。
世の中の不平不満を代弁するかのごとく振る舞い“制裁”などと言って神様気取りのシンブンシ4人への制裁を予告。
その様子は実況配信するというものでした。
端的に言ってしまえば自殺の実況をするというのです。
彼らは新聞紙の覆面をとり、カンサイが持っていた致死量を超える青酸カリを飲みます。
サイバー課の吉野や、シンブンシ絡みの事件の捜査に加わっていた公安のたちが懸命に彼らの居場所を探すも間に合わず、吉野が動画の配信元に辿りついた時そこには横たわる4人の姿がありました。
しかし脈を確かめるとカンサイ、メタボ、ノビタは生きており奥田がただ1人死んでいました。
最初から1人で罪を被るつもりで、他の3人が飲むはずだったカプセルをすり替えていたのです。
最初は過激な動画配信で徐々に世間で話題になることを目的とし、目立ってきた頃合いで警察が動き出すのも奥田の予想通りでした。
そして政治家の殺害予告まですれば公安がシンブンシの身元を詳しく調べ出し犯行にいたるような生い立ち、背景まで操作することも予想していました。
奥田の目的はただ1つ、ネルソンを父親に会わせてあげたいということだけでした。
そんな事のために、自分の命をかけてまで“こんな事”をした奥田の亡骸を、吉野は泣きながら抱き締めました。
『予告犯』感想
やるせない気持ちになる作品だなぁ、という感想
vito
てっきり主人公が顔の見えないフォロワーたちに持ち上げられ世間からも話題になってどんどん予告を盛大にしてしまって人生が狂っていく的な、どうにもならないところまで堕ちてしまうような話かと思っていたんですけど。
そんな予想を易々と超えてくるほど切ないオチというか、切ない背景でした。
事情を知らない“世間”から見たシンブンシの言動は、4人のようなある種ちょっと世間から落ちこぼれてしまったような、出来れば這い上がりたいけれどどうにもうまく出来ない不器用な人たちには刺さったんだろうなと思います。
実際物語のなかでも、あらすじからは割愛しましたが彼らが動画配信に使っているネットカフェの店員は全店舗で指名手配扱いとなっている奥田を庇うような行動に出ていますし。
ちなみにその役を演じているのは窪田正孝です。
vito
直接の知り合いではなくても、その言動を応援というか支持というか、身代りにブタ箱に入ることさえ厭わないと思わせるだけの“何か”がシンブンシにはあったんです。
vito
ストーリーの秀逸さ、問題提起なども去ることながら出演者が豪華
シンブンシたちはもちろんのことなんですけど、主軸である彼らの周りで動き回る人たちも豪華です。
あらすじに書かなかった人物で上げると吉野絵里香の部下・市川学は坂口健太郎、吉野の同期で公安課の北村は田中圭。
ノビタが通っている中華屋さんで働いている女の子・楓は小松菜奈。
設楽木が関わったトクホ飲料のCMモデルは菜々緒。
あと個人的にこういう役よくやってるよね~と思ったのは職安の職員、野間口徹。
vito
あとストーリーの秀逸さというか最終的なオチのところ。
奥田が最初から自分1人で罪を被るつもりで動いていたんだとわかる動画と、それに関する残された三人の言動があるんですけど。
vito
きっとあらすじで大体の中身を知っていながら見ても楽しめる作品だと思うので、出演者の誰かが好きとか気になる場面があるとかそれくらいの興味でも良いので是非見てみてください。
『予告犯』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
#面白いと思うかは知ったこっちゃねえが個人的にオススメしたい邦画
『予告犯』。意外にも大泣き映画である。誇張でなく号泣した。映画館で観なくて本当に良かったと思う。邦画で過去最高に泣いた。生田斗真は勿論のこと、その他のキャストも皆素晴らしいのでググってほしい。 pic.twitter.com/iAX8blAJeQ
— めいやん( ・ε・) (@mayan_someya) February 13, 2020
以上、ここまで映画『予告犯』についてネタバレありでレビューしてきました。
- 現代社会に起こりうる世界観の話、フィクションなのにリアルに感じる場面の数々を楽しんで!
- 豪華な出演者たちが繰り広げるヒリヒリする展開に目が離せなくなること間違いなし!
- もし、明日。今日でも。シンブンシが現れたら支持しますか?非難しますか?