映画『よこがお』あらすじ・感想!横顔の反対に隠れた人の見えない一面を静かにあぶり出すサスペンスフルな傑作

映画『よこがお』あらすじ・感想!

出典:『よこがお』公式ページ

真面目に暮らしていた市子は、とある自分に落ち度のない事件のせいでどんどん人生が壊れていきます。

彼女はそのきっかけを作った人物に復讐しようとしますが…。

ポイント
  • 筒井真理子の圧巻の演技力
  • 静かながら目の離せない緊張感に満ちた演出
  • 叫びたいけど叫べない、理不尽な世界に生きる女性の物語

それではさっそく映画『よこがお』をレビューしたいと思います。

映画『よこがお』作品情報

映画『よこがお』作品情報

出典:映画.com

作品名 よこがお
公開日 2019年7月26日
上映時間 111分
監督 深田晃司
脚本 深田晃司
出演者 筒井真理子
市川実日子
池松壮亮
須藤蓮
小川未祐
吹越満
音楽 小野川浩幸

映画『よこがお』あらすじ


周囲から信頼されている訪問看護師の市子(筒井真理子)は、訪問先の大石家の長女で介護福祉士を目指す基子(市川実日子)の勉強を見ていた。

市子は、基子が自分に憧れ以上の感情を抱いていることを知らなかった。

ある日、基子の妹のサキが失踪する。その後サキは保護されるが、犯人として逮捕されたのは思いも寄らない人物だった。

事件への関与を疑われた市子は理不尽な状況に追い込まれ、全てを失ってしまう。
出典:シネマトゥデイ

映画『よこがお』みどころ

映画『よこがお』みどころ

第69回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」審査員賞に輝いた『淵に立つ』の深田晃司監督と筒井真理子が再び組んだサスペンス。

訪問看護師の女性の日常が崩壊する。

異なる顔を持つヒロインの複雑な内面を筒井が表現し、『シン・ゴジラ』などの市川実日子、『宮本から君へ』などの池松壮亮のほか、須藤蓮、小川未祐、吹越満らが出演。

タイトルは、半身しか見えない状態を表している。
出典:シネマトゥデイ

映画『よこがお』を視聴できる動画配信サービス

『よこがお』は、下記のアイコンが有効になっているビデオ・オン・デマンドにて動画視聴することができます。

なお、各ビデオ・オン・デマンドには無料期間があります。

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注意点
  • 動画の配信情報は2019年9月13日時点のモノです。
  • 動画配信ラインナップは変更される可能性もありますので、登録前に各サービスの公式ページにて必ずご確認ください。

ご覧のとおり、2019年9月13日現在はどこのビデオ・オン・デマンドでも配信開始となっておりません。

動画配信が開始になり次第、追って情報を掲載させていただきます。

映画『よこがお』感想レビュー【ネタバレなし】

恐ろしい日常崩壊描写

冒頭、赤い服を着たリサと言う女性が美容室に入ってきて、和道と言う男性美容師を指名します。

彼女は世間話をしながら、ふとここ最近仕事を辞めたばかりと話します。昔は訪問介護士をしていたようです。

そして彼女は、髪を少し茶色に染めてもらいイメチェンしました。

そして時制が半年前に戻ります。

リサは偽名で彼女の本名は市子。

訪問介護士として大石塔子という女性の介護をしており、塔子の孫で大石家の長女の基子と中学生の次女のサキとも仲良くしていました。

彼女はまじめに働き、評判も良く、婚約も控えて堅実に生きていたのです。

しかし、そんな彼女はたった半年後には職を辞め、偽名を使って和道という美容師に近づき、わざわざ彼の家の近くに住んで毎晩双眼鏡で家を覗いています。いったい彼女に何があったのか。

事の発端は、半年前にサキが誘拐されてしまった事件でした。

サキは10日後無事に帰ってきますが、誘拐の犯人が明らかになって市子は愕然とします。

それは自分の甥っ子の辰男だったのです。

サキが行方不明になるその日、市子はファミレスで介護士になりたいという基子とサキに勉強を教えていました。

そこに市子の姉が持っていた教材を持ってきてもらったのが辰男でした。その直後に辰男はサキを誘拐したのです。

市子は自分に直接的責任はないものの、そのことを気にして大石家の母親にそれを話そうとしますが、基子はそんなことをすれば市子がもう来れなくなってしまうと言って止めます。

市子は仕方なくそのことを黙っていました。

数日後、市子は基子と動物園に気晴らしに出かけた時に、幼少期に市子が辰男にしたとある秘密を彼女に話します。

家に辰男が遊びに来た時に10歳の辰男の股間が寝ている最中に屹立きつりつしているのに気づいた市子は、彼のズボンをずり降ろしてみたというのです。

別にその後は何もしていないし、大したことはないと笑う市子。

そんな何でもない日常が続きそうでした。

しかし、どこから情報が漏れていたのか、週刊誌に「誘拐された女子中学生の家に通っていた介護士が犯人の叔母だった!」という記事を書かれてしまい、挙句の果てに「誘拐を手引きしたのか?」とまで勘繰られている始末。

その記事を大石家の人々が読んで、市子はもう二度と訪問介護に行くことはできなくなってしまいます。

失意の市子を基子は慰めます。そして基子は突然市子に「一緒にルームシェアしようよ」と提案してくるのです。

しかし、市子は婚約者と暮らすからと断ってしまいます。

基子はそれを聞いて「なんで加害者のくせに幸せになろうとしてんの?」と怒ってしまいました。

ある日、職場の事務所でテレビをつけるとワイドショーのインタビューに基子が答えていました。

彼女は市子が辰男にいたずらをしたと、少し誇張して答え、それが人格形成に異常を与えたのではと語ります。

市子は職場の人間から白い目で見られ、おまけにマスコミが職場の前にたくさんやってきてしまいました。

市子は職場に迷惑をかけないために退職という選択肢を取ることになってしまいます。

その後、基子が市子の家まで謝りに来ますが、市子は「何しに来たの?」と冷たくあしらいました。

部屋を引き払った市子は婚約者とも別れ、あてもなく車を走らせます。

被害者支援センターのチラシを見た市子はその事務所に行ってみますが、そこで「ここは“被害者”の方々を支援する場所なので…」と断られてしまい、あまりのことに事務所の外で突然嘔吐してしまいました。

そこに大丈夫ですかと声をかけてくる男が。

それが基子の彼氏として前に写真を見せてもらった和道だったのです。

現在、市子はリサとして和道とどんどん距離を詰めていっています。

その行動は基子の大事な存在を自分が奪ってやろうという復讐心から来ていましたが、彼女の復讐は思いがけない顛末を迎えます…。

思いがけず壊れてしまう日常

深田監督の映画は『淵に立つ』『海を駆ける』など、本人に落ち度なく人生は壊れてしまうということを身も蓋もなく描いていることが多いです。

特に筒井真理子さんが浅野忠信演じる来訪者・八坂によって、自分と愛娘の未来を突然理不尽に奪われてしまう恐ろしい映画『淵に立つ』はカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門を受賞するなど高い評価を受けました。

そして今回の『よこがお』は、加害者側に立たされて人生が壊れてしまうというパターンの恐怖を描いています。

これはSNSが発展した現代では、特に身にしみます。

なにか不祥事を起こした有名人が必要以上に叩かれている場面など、みなさんも見たことがあるのではないでしょうか。

本人に落ち度があってもここまで叩かなくてもいいのではないかと思うことがありますが、でも結局あいつが悪いんだよなと見放しがちですよね。

その当人がどんな恐ろしい気分を味わっているのかがよくわかるのが本作です。

ちなみに甥っ子が誘拐事件を起こしたこと自体には市子に落ち度はありませんが、市子が甥っ子を昔家に招いた時にしたあることは「めっちゃ悪いこととは言えないけど、それは…」と思ってしまうバランス。

そのことを基子に話したことで破滅のきっかけを作ってしまいます。

そして、基子が市子を社会的に追い詰めてしまうのは、恨みではなく、異常なくらい彼女のことが好きだからというのがやり切れない部分です。もはや友情を超えて同性愛的な匂いを感じます。

しかし、そこで基子が行う行為もあくまで怒りでついやってしまったものだと思えば、気持ちは分かるレベルのものにとどめられています。

とんでもない悪意を持った人物が関わっていなくても、人は破滅してしまうということが恐ろしく感じます。

そして、加害者にされてしまった市子が『よこがお』というタイトルの通り、反対側の二面性を見せて復讐に転じていく様もスリリング。話は予測のつかない方向に転がっていきます。

さらには、恐ろしいことが起きていても誰かが泣き叫んだりすることもなく、静謐せいひつに淡々と演出の積み重ねで物語を語っていくのが深田晃司監督の作風です。

筒井真理子による、静かながらちょっとした表情や声の震えで心情を雄弁に語る演技。そして、とあるシーンで見せる体当たりの演技やヌードなど、彼女の演者としての力量が凄まじく発揮されているのも見どころ。

そして、56歳とは思えない美しさにも注目です。

細かく巧みな演出。色の使い分けと平凡なようでドラマチックな場面の描き方

本作はとにかく細かい演出が凝っています。特に色の演出です。

冒頭で和道の働く美容室に赤い服でやってきて髪色を明るくする市子。

彼女は、その後も和道と会うたびに暖色系の色を身にまとっています。

過去の市子は白系や地味な色の服を着ており、心境の変化がうかがえます。

また、基子は青色の服を基本的に着ています。

そして、現在パートで市子が基子のことを覗きながら青い服を着ているシーンもあり、復讐対象と同化しているのがわかります。

さらに、とあることがきっかけで基子への復讐が失敗した市子は、青と黄色が混ざった色=緑に髪を染めて湖に入っていく謎のイメージ映像のような場面がインサートされます。

自分と復讐対象を混ぜて同化し、割りきって生まれ変わったのでしょうか。

そこから数年が飛び、出所した甥っ子と暮らし始める市子。

その頃には昔のような真面目な見た目に戻って飲食店で働いています。

しかし、市子はふとしたことで、偶然にも基子と対峙してしまいます。

そこで彼女がとある形で声にならない慟哭どうこくを上げるラストは必見です。

深田監督は決定的な事態そのものの場面ではなく、崩壊に向かう予兆のような場面をドラマチックに描きます。

甥っ子が誘拐を起こす前に、少しだけサキと巡り会う場面では印象的に西日が差しています。

市子と基子が決裂する前に、基子が夜の公園で市子に「一緒に入れなくなるから甥っ子のことは言わなくていい」と諭す場面では、逆行で表情が見えなくなっており、安心できない画面設計になっています。

そして、市子と基子が気分転換に動物園に行った後の場面で、劇中唯一のスローモーションのシーンがあります。

帰り道、横断歩道を渡る前、歩行者用音楽が流れ、基子はダッシュして横断歩道を渡りきるも、市子は途中から追いかけず次の信号を待ってしまっています。

走り出した時は歩行者用音楽をバックに、ドラマチックに二人がスローモーションで走る様が描かれたのに、途中からわかりやすく横断歩道を挟んで決裂してしまっているのです。

このように何でもないような場面の映像で後のシーンを示唆したり、心情や状況を説明するのが深田流演出。

決定的なことが起きるその瞬間以外の何でもないはずの時間をドラマチックに描く。そこにこそ複雑な感情が渦巻いているのです。

能動的に見ればたくさん発見があります。ぜひ見てみてください。

映画『よこがお』まとめ

以上、ここまで映画『よこがお』について紹介させていただきました。

要点まとめ
  • 筒井真理子の演技力と魅力にやられてしまいます。天才です。
  • 善良なはずの人間が色んなボタンの掛け違いで人生を破壊される恐ろしさが描かれます。そして彼女の恐ろしい一面が露わになります。
  • 細かい色や音の演出が光ります。