『エクスペンダブルズ2』(12)『トゥームレイダー』(01)など、多くの作品を世に送り出したプロデューサーたちによるクライム映画『ワイルド・ロード』が12月2日より全国ロードショーとなります。
「マシン・ガン・ケリー」名義でラッパー活動するコルソン・ベイカーと、名俳優ケヴィン・ベーコンが親子役で共演しているものの、これがただの親子ではないようで…。
因縁と贖罪が渦巻く人間ドラマも描かれている作品となっていました。
・ずっとHP1の『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』を観ている感じ!
・クライム映画というより移動式の告解部屋
それでは『ワイルド・ロード』をネタバレなしでレビューします。
目次
『ワイルド・ロード』あらすじ【ネタバレなし】
組織から金を奪うも瀕死の傷を負ったフレディ
フレディ(コルソン・ベイカー)は冷酷で残忍な女ボス・ヴィック(ドレア・ド・マッテオ)率いる組織から、大金とコカインを盗んで逃亡。その途中、フレディは腹部に銃弾を受け、仲間ともはぐれてしまう。命からがら長距離バスに乗り込んだフレディはなんとか追っ手をかわす。
バスには少女レイチェル(ストーム・リード)や妊婦の女性、双子の黒人が座っている。フレディははぐれた仲間と電話で連絡を取ると、2人のうち1人・JJは車でなんとか逃げていた。しかしもう1人の仲間はヴィックに捕まり、拷問の殺される。
フレディと少女・レイチェルの出会い
出血が止まらないフレディは看護師の元妻に連絡を取る。フレディには娘リリーがおり、これまで犯罪を繰り返しては、娘に父親らしいことができなかったため、償いも込めて組織から大金を盗んだのだ。
バスで息をひそめるフレディだが、これから恋人に会うというレイチェルから、電話を貸してほしいとせがまれる。最初は断るフレディだが、レイチェルに娘のリリーを重ねてしまい、しぶしぶ電話を貸す。
レイチェルは年齢を偽っていたうえに、これから会う男とは面識がないことから、フレディは妙な不安に駆られるようになる。
途中下車は許されない!極限の状態でフレディのとる選択とは?
レイクシティのバス停でJJと合流するフレディだったが、JJもまたヴィックの手下に捕まってしまい、フレディはバスを降りる機会を逃してしまった。出血は止まらず、このままではバスで野垂れ死にをしてしまう。
当てがないと思われたフレディだが、彼は苦肉の策で疎遠になった父親(ケヴィン・ベーコン)に連絡をする。しかしフレディと父親にはある因縁があった。
さらにバスにはソーシャルワーカーを名乗る怪しげな男・ウィル(トラヴィス・フィメル)が乗り込んでくる。彼の目的とは?そしてフレディは無事バスを下車できるのか?
『ワイルド・ロード』感想
脇役ながら圧倒的存在感のケヴィン・ベーコン
本作で主人公を演じるのは『囚われた国家』(19)『バード・ボックス』(18)など俳優活動だけでなく、マシン・ガン・ケリーの名でラッパーとして活躍するコルソン・ベイカー。
最初から最後まで重傷を負っているので、終始苦悶の表情を浮かべているという難しいキャラを演じています。同時に、自分の命が危機にさらされているのに、バスで出会った少女レイチェルのことも気に掛けるという、複雑な心境を熱演していました。
フレディの父親役には、これまで多くの作品に出演しているケヴィン・ベーコンが抜擢。ハリウッド俳優のほとんどが彼の共演者か、共演者の共演者であるという人物で、正直出演作をピックアップするのが大変なレベルです。直近の作品だとホラー映画『レフト -恐怖物件-』(20)があり、こちらでは製作も務めています。
多くの作品に出演していることもあり『ワイルド・ロード』でもその存在感は抜群。登場してすぐ「ただの父親ではないな…」と思わせる風格と、ミステリアスなキャラがハマっていました。
ずっとHP1の『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』を観ているかのよう!
フレディは物語のスタート時からすでに被弾しているため、最初からずっと虫の息で話が進んでいきます。おまけに何とかバスに乗り込んだものの、それは長距離移動のバスのため、なかなか降りることができません…。
組織の追っ手をかわしたのも束の間、今度は出血多量による死が刻一刻と迫ってきます。
なんとかバスを下車して治療を受けようと画策するもうまくいかず、映画本編もバスの車中によるシーンが多くを占めています。さながらトム・ハーディが車から一切降りず、ずっと車中で会話を続ける『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』のような展開を、HP残り1の主人公で見ているかのようなシュールさがあります。
どちらもワンシチュエーションではありますが『ワイルド・ロード』は時間制限付きなうえに、原題の意味深さも気になります。
まったく関係ありませんが『ワイルド・ロード』も『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』も父親と息子の関係が複雑なので、見比べると面白いかもしれません。
クライム映画であり、移動式の告解部屋でもある
組織から大金とコカインを盗んで逃亡という、字面からしてゴリゴリのクライムな映画ですが、一方でフレディがバスで偶然出会った少女・レイチェルとの関係や、娘リリーへの贖罪など、ドラマ要素もかなり含まれています。
特に娘リリーに対するフレディの想いはかなり重要なポイントとなっており、レイチェルとリリーを重ねはじめるフレディの心境の変化も見どころです。何せ自分は腹に銃弾を喰らって死にそうなのに、今日初めて会った少女におせっかいにも似た心配をするようになるのですから…。
それもこれも、全部フレディがこれまで組織で行ってきた悪事への贖罪が込められているのです。
体力も限界にきたフレディは次第に幻覚を見るようになり、自分の罪の意識を感じる場面が増えてくると、バスは教会にある告解室の様に見えてきます。
ワンシチュエーションな展開、レイチェルや父親など、常に誰かと対話をする環境に置かれたフレディの状況もまた、本作を「移動式告解室」のように感じる要素だと思います。
むしろ本作はクライム要素よりドラマ要素を重視する人の方がハマるかもしれません。
『ワイルド・ロード』あらすじ・感想まとめ
・某ワンシチュエーション映画を限界度マシマシにした設定
・ドラマ要素もユニークな告解室的な作風
以上、ここまで『ワイルド・ロード』をレビューしてきました。
97分と少し短い作品のため、いまいち感情移入しづらい面や、クライム映画特有のスリルやスピード感はあまりありません(主人公がずっとハアハア言っているので)
しかし「贖罪」というテーマをかなり特殊なシチュエーションで見せている点がユニークでした!
「ハラハラドキドキしたい!」というよりは、フレディの一挙一動に考えさせられるドラマ要素が見どころだと感じました。