第89回アカデミー作品賞を受賞した『ムーンライト』や、日本でも話題をさらった『ミッドサマー』『ヘレディタリー/継承』などを手掛けてきた映画制作会社であるスタジオA24。
設立からわずか10年足らずでありながらホラーや青春映画、人間ドラマなど、あらゆるジャンルの作品を世に放ち、すでにアカデミー賞の常連となっているハリウッドの最先端をいくスタジオが製作から手掛けた新作。
それが『WAVES/ウェイブス』です。
トロント映画祭での上映時は史上最長のスタンディングオベーションと絶賛を浴びたほど、評論家やメディアも絶賛した本作。
脚本も手掛けたトレイ・エドワード・シュルツ監督が大胆な手法を使って描いたのは、現代の若者たちが直面する様々な問題と愛の形です。
- スタジオA24の作品が好きな人には間違いなくおすすめ
- シュルツ監督の作家性が色濃い作品です
- 今までにない映画体験のできる画期的な「映画」です
それでは『WAVES/ウェイブス』を、ネタバレありでレビューしていきたいと思います。
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目次
『WAVES/ウェイブス』作品情報
作品名 | WAVES/ウェイブス |
公開日 | 2020年7月10日 |
上映時間 | 135分 |
監督 | トレイ・エドワード・シュルツ |
脚本 | トレイ・エドワード・シュルツ |
出演者 | ケルヴィン・ハリソン・Jr テイラー・ラッセル ルーカス・ヘッジズ アレクサ・デミー |
音楽 | トレント・レズナー アティカス・ロス |
『WAVES/ウェイブス』あらすじ【ネタバレなし】
舞台はフロリダ。
高校生のタイラーは裕福な家に生まれ、レスリング部の主力選手で成績も優秀、その上美人の恋人アレクシスもいるという恵まれた日常を送る少年。
しかし厳格な父親ロナルドの存在はタイラーにとって悩みの種でもありました。
ロナルドはタイラーの将来を思ってのこととはいえ、激しいトレーニングを強いたり、厳しい言葉を口にするのです。
そんなある日、タイラーは選手生命の危機ともいえる怪我を肩に負っていたことが判明。
すぐに手術が必要だと医師に言われますが、そうするとレスリングでの大学進学も難しくなるため、誰にも怪我のことは言えず父親の言葉に従ってトレーニングを続けます。
しかし結局タイラーは試合で痛めた肩を攻められ敗北したことで、怪我を隠していたことが周囲に知られてしまいます。
ところが継母と違い、父親は傷付くタイラーに優しい言葉をかけることもありませんでした。
将来に不安を感じるタイラーですが、まるで追い討ちをかけるように恋人のアレクシスの妊娠が発覚。
完璧に見えていただろうタイラーの人生の歯車は徐々に狂い始めていたのです。
鎮痛剤の過剰な服用からの薬物依存、子どもを生むか生まないかでの恋人とのいさかい…。
自分を見失いつつあるタイラーはある夜アレクシスから別れを告げられたことで、ついに決定的な悲劇を起こしてしまうのでした。
一年後。
兄が起こした事件によって心を閉ざして生きていたエミリーはすべてを知っていてもなお、自分に好意を寄せてくれるルークと出会います。
不器用で優しいルークと過ごすうちに、次第に心を開いていくエミリー。
やがて二人は恋人同士になりますが、兄タイラーの事件後、残された家族はバラバラのまま。
そんな時にエミリーはルークも幼い頃別れたきりの父親のことで、大きな傷を抱えていることを知ります。
エミリーはルークのためを思って、ある行動に出るのでした―。
前半部分は兄・タイラーの挫折と過ちを犯すまで、後半部分は妹・エイミーや家族の再生を描く2部構成になった物語です。
【ネタバレ】『WAVES/ウェイブス』感想
話題のスタジオ「A24」の新作です!
大手のスタジオとは一線を画し、独特の映画を作り続けるハリウッドでも大注目の制作・配給スタジオ。
それが「A24」です。
2012年に設立されたばかりなのに、アカデミー賞ではすでに常連。
2016年には『ムーンライト』で、作品賞も受賞しています。
くりす
A24の作品に多いのは作家性の強さを感じるものや、現代の社会問題を反映するテーマを扱っている作品です。
そして映像や色彩の独特な美しさ。
スタイリッシュでアーティスティック、それでいて深いテーマを訴えてくる作品に映画を愛する人たちが夢中になるのは当然。
本作『WAVES/ウェイブス』はそんなA24が製作から関わっている映画になります。
『WAVES/ウェイブス』は家族の絆や親子間の問題、青春時代の恋や挫折といった、どの世代にも通じる普遍的なテーマを鮮やかな色彩と現代を代表する音楽で描いた画期的な作品です。
シュルツ監督こだわりのカメラワークや、心情を表現するアスペクト比の変化、スクリーンに広がる美しい色彩など映画館で鑑賞するとより全身で「感じられる」仕上がりになっています。
くりす
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物語そのものでもある珠玉の31曲と、演じる若手実力派の俳優たち
『WAVES/ウェイブス』は曲を決めてから脚本を書いたと監督が言うように、曲のプレイリストがまさに物語そのもの。
カニエ・ウェストやレディオヘッド、フランク・オーシャン、ケンドリック・ラマーにアニマル・コレクティヴなどヒップホップ好きにはたまらないアーティストの曲が、31曲も使われています。
🌊劇場パンフレットご紹介🌊
中身はカラフル🌈そして読み応えたっぷり💪
監督による使用楽曲全ての解説など、音楽へのこだわりがたっぷり感じられる一冊です。¥900(税込)
是非 この夏の思い出に。 pic.twitter.com/rIKqlamYUd— 映画『WAVES/ウェイブス』公式|7/10 (Fri.)公開 (@WAVES_jp) July 10, 2020
くりす
『WAVES/ウェイブス』がプレイリスト・ムービーと呼ばれるのは台詞より「音楽」で登場人物の感情を伝えているからでしょう。
正直作品が合う、合わないは別として、歌詞がすべてしっかりわかった人と、あまりわからなかった人では映画の評価が違ってくるのではと思います。
そんな31曲に感情を表現される登場人物たちは全編通して台詞が少ない印象を受けます。
しかし主人公のタイラーとエイミーを演じるケルヴィン・ハリソン・Jrとテイラー・ラッセルの演技は本当に素晴らしいものです。
追い詰められていくタイラーは観ていてずっと息苦しさを覚えるほどで、対して内向的でいつも周囲を気にして一歩引くようなエイミーに変化が訪れる様は思わず安堵し、開放感を感じるほどでした。
くりす
くりす
出番や台詞がさほど多いわけでもないのに、妙に存在感と安心感があるルーカス・ヘッジズのおかげで、後半はぐっと物語が明るくなり、心も軽くなります。
テイラー・ラッセルとルーカス・ヘッジズはどうやら『WAVES/ウェイブス』の共演が縁で、私生活でも恋人関係になったようですね。
くりす
愛によって再生する家族の物語であり、若者たちが直面するリアルな問題を描いた青春映画
日本では一週間の差で公開された『カセットテープ・ダイアリーズ』と同じような題材を扱いながら、まったく違った作品に仕上がっている『WAVES/ウェイブス』。
両作品に共通するのは高圧的な父親、青春の挫折や恋、家族や兄弟の存在、そして音楽。
けれど『カセットテープ・ダイアリーズ』が誰もが幸せになるようなハッピーエンドを迎えたのは対照的に、『WAVES/ウェイブス』にはわかりやすいハッピーエンドは訪れません。
兄が起こした最悪な事件によって心を閉ざしていたエイミーが顔を上げて人生を歩き出し、壊れていた家族の絆が再生されつつある、そんな希望の光が差し込んだところで物語は幕を下ろすのです。
本作では様々な愛の形が描かれています。
主人公の一人であるタイラーと恋人とのまだ幼い情熱的な愛。
タイラーの父親ロナルドの子どもや妻への独善的な愛。
妹エイミーのおそらくコンプレックスを感じていただろう兄への愛。
エイミーとルークの繊細で純粋な愛。
愛によって傷付きも癒されもする姿を台詞は少ないながらも、計算された色彩とカメラワーク、そして音楽で表現するシュルツ監督の手腕はさすがの一言。
くりす
現代を生きる若者たちが抱える葛藤や悩み、大人たちからの抑圧や反発心。
誰もが覚えのある感情に、アメリカの若者たちが直面する人種差別や、薬物依存への入口でもある医療系鎮痛剤の問題が加わり、やがて大きな波となって主人公のタイラーを飲み込んでいく過程はヒリヒリとした痛みを覚えるほどです。
もしタイラーが誰か大人に相談できていたら、もしどこかで弱音を吐けていたら、もし父親に息子や自分の弱さを認める「強さ」があれば。
たくさんの「もし」が浮かぶほどタイラーの結末は悲惨で、やりきれないものです。
もちろん、タイラーが起こした事件によってどん底に突き落とされた二つの家族にとっても。
しかしエイミーが愛する人を見つけ父親と正面から向き合って話し、また兄の事件後亀裂が入った両親の仲にも修復される兆しが見える終盤は希望の光が見えたことで、やっと救いを感じることができます。
『WAVES/ウェイブス』は愛ゆえに起きた崩壊が愛によって再生され、癒されていく物語と言えるかもしれません。
くりす
『WAVES/ウェイブス』あらすじ・ネタバレ感想:まとめ
/
映画・音楽ジャーナリスト
宇野維正さん よりコメント
いただきました🌊
\ラップからインディーまでジャンルレスなポップミュージックと共に生きる、ティーンのリアルなライフスタイル。彼らを悩ませる、人間関係や家庭環境や社会問題。『WAVES』を観れば、2010年代以降のアメリカがわかる。 pic.twitter.com/xC5Hx9ApKG
— 映画『WAVES/ウェイブス』公式|7/10 (Fri.)公開 (@WAVES_jp) July 16, 2020
以上、ここまで『WAVES/ウェイブス』をレビューしてきました。
- いい加減アメリカは鎮痛剤による薬物依存はもちろんのこと、学生の飲酒や危険運転などの問題を真剣に考えるべきと改めて思わされます
- 音楽と映像が感性にハマるかがキーポイント
- 青春映画と言いつつもこれはやっぱり根本的には愛の物語なのです
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