『ウトヤ島、7月22日』は77人が殺された実際のテロ事件を描いた作品。
犯行が続いた72分間を実際のワンカット長回しで再現し、被害者たちの恐怖を追体験させる映画です。
- とにかく銃声の音響が怖い
- 若い俳優ばかりながらみんな死におびえる演技がうまい
- 回しゆえの少し弛緩した時間からの突発的な惨劇に心臓が止まりそうになる
- 極限状態でも希望を捨てずに助け合った若者たちの姿が描かれている
それではさっそく『ウトヤ島、7月22日』のレビューをしたいと思います。
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目次
『ウトヤ島、7月22日』作品情報
作品名 | ウトヤ島、7月22日 |
公開日 | 2019年3月8日 |
上映時間 | 90分 |
監督 | エリック・ポッペ |
脚本 | シヴ・ラジェンドラム・エリアセン |
出演者 | アンドレア・バーンツェン エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン ジェニ・スベネビク アレクサンデル・ホルメン インゲボルグ・エネス |
【ネタバレ】『ウトヤ島、7月22日』あらすじ・感想
事件概要と映画のスタンス
今作は、2011年7月22日にノルウェーで起きたテロ事件を元にした作品です。
細かい事件の概要は「ウトヤ島 テロ」で検索すれば一発で出てくるので調べて欲しいのですが、この事件は移民排斥を訴える排外的極右思想を持つ、たった1人のノルウェー人による犯行だったというのが重要な点です。
そして被害に遭ったのは同じノルウェー人ではあるものの、移民受け入れ推進を掲げる左派政党のノルウェー労働党に所属していた青少年たちでした。
無差別テロなどではなく、犯人と政治思想の違う団体、しかも希望の象徴とも言える理想を抱いた未成年たちが殺されたのです。
映画冒頭の字幕でも少し説明があるのですが、この前提を知っておくと劇中で起きる事件の恐ろしさや理不尽さがより伝わってきます。
2018年11月からNetflixで配信されているオリジナル映画『7月22日』も同じ事件を題材に扱っています。
『7月22日』は犯人の事件準備、実行、逮捕後の裁判、事件を生き残った被害者の心身の後遺症との戦いを多角的に描いた作品です。
より事件の詳しい内容を見たければこちらの映画も見てほしいです。
一方、この『ウトヤ島、7月22日』はどんな映画かというと、そのウトヤ島で政治集会に参加していた700人近い若者たちが何が起こっているのかすらわからないまま銃撃を受け、ひたすら隠れ逃げ惑うさまを、72分間の驚異的な長回しで描いた作品です。
映画としては、それ以前以後のことは字幕で出るだけで、とにかくソリッドに観客に事件の追体験をさせるように襲われる若者視点で物語が進行していきます。
見終わるころにはヘトヘトになり、一定以上のトラウマが残る可能性がありますが、監督のエリック・ポッペの狙いは観客に事件の恐怖を知ってもらい想像してもらうことなのです。
なぜならこのテロ事件は、いまだにノルウェーでは論争になるくらい深い影を残すものだからです。
テロの被害者たちは移民を受け入れて国を崩壊させようとしていた、殺されて当然だったなどと恐ろしいことを言ってはばからない勢力も一定数いるようです。
しかし、そんなことを言っている人たちでも、この映画を見て事件の恐怖を想像し、自分や自分の家族友人がこれに巻き込まれたらどう思うかを考えればそんなことは言えなくなるでしょう。
ハイレベルな音響とカメラワークによる恐怖の72分間
事件ではマシンガンと小銃が使われ、69人が死亡、99人が重傷を負いました。
本作では犯人の姿はほとんど映りませんが、定期的に銃声が鳴り響いています。
遠くから聞こえる銃声、近くで聞こえる銃声の音響の使い分けが上手く、終盤までどこから音がしているのかわからないくらいの音量だったのが、突発的に今までにない大轟音で銃声が鳴り響くシーンがありとても恐ろしいです。
72分間回しっぱなしのカメラワークは、ポッペ監督曰く「被害者の側にいて助けてあげたいけど何もできなくて逃げ回る存在」のように撮って欲しいと注文をされたそうです。
主人公と一緒に隠れ、伏せ、這いまわっていくカメラワークの臨場感はすさまじく、本当に観客も事件に巻き込まれているような気分になってきます。
極限状態でも希望を捨てない若者たち
本作にはカヤという主人公の少女がいます。
カメラは終始彼女について回り、72分間動き回ります。
カヤは銃撃事件が始まる前に妹のエミリエと喧嘩をしており、その後はぐれてしまった妹をsがそうと銃声に怯えながらも島を探し回ります。
主人公カヤをはじめとする登場キャラクターは、全員事件の証言などを基に作られた架空の人物です。
遺族感情などを考慮して、事件の実際の被害者を登場させることは控えられました。
しかし、カヤはリベラルな考えを持ち、将来は議員になりたいという夢もあり、極限状態でも他者を思いやって行動する若者として描かれており、彼女は被害にあったノルウェー労働党青年部の青少年たち全員を集約させた象徴的なキャラといえます。
またマグナスという青年も、カヤと隠れながら軽口をたたくシーンがありますが、彼は彼で死と隣り合わせでもユーモアを忘れない人物として心に残ります。
ポッペ監督が「絶望的な状態でも必死に生き助け合う若者たちを描きたかった」と語っているように、本作は悲惨な事件を描きながらもただの悲劇に終わっていません。
排他的な犯罪行為への対処は他者への思いやりや生きようとする意志だと伝えてきます。
本作のラストでカヤは死んでしまいますが、マグナスとエミリエは生き残ります。
カヤが死んで初めて、ずっと彼女についていたカメラがそばを離れ、マグナスたちを乗せて島を離れていくボートの方に移動します。
ただカヤが死んでしまったという虚しさを描いているだけではなく、彼女の魂だけは生き残って妹や仲間に受け継がれたようにも見えます。
曲解かもしれませんが72分間彼女と一緒に逃げ回った観客としては、カヤの想いだけは死んでいないと信じたくなってしまいます。
『ウトヤ島、7月22日』まとめ
『ウトヤ島、7月22日』
興行通信社ミニシアターランキング
第1位となりました!
(3/9~3/10 小規模公開作品 週末観客動員数)https://t.co/3crkAcQvXf#ウトヤ島 #ワンカット pic.twitter.com/RPWnpNePR8— 映画『ウトヤ島、7月22日』 (@utoya0722) 2019年3月11日
以上、ここまで『ウトヤ島、7月22日』について感想を述べさせていただきました。
- 排外主義によって起きたテロの恐ろしさを追体験させ問題提起する映画です
- 2分間主人公カヤと一緒に逃げ惑うような恐怖を味わされます
- んな極限状態でも必死に前向きに生きた人々の物語でもあり、ヘビーで容赦はないが、ただ絶望するような映画ではありません。
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