Netflixのオリジナルドラマ『アンビリーバブル たった1つの真実』は、実際に起こった性犯罪事件から着想を得た物語です。
構成は極めて丁寧で、質が高く、最後まで目を離すことができません。
物語の展開はもちろんのこと、『アンビリーバブル』が持つ強力なメッセージや、2人の刑事を演じた俳優の見事な演技にも心を奪われてしまいます。
- 傷を負った被害者が生きる日々を緻密に描いた物語の構成
- ニュートラルな視点で捜査を続ける2人の女性刑事の姿勢
- 『アンビリーバブル』が発信する強力なメッセージとは
それではさっそく海外ドラマ『アンビリーバブル たった1つの真実』をネタバレありでレビューしたいと思います。
目次
『アンビリーバブル たった1つの真実』主要キャスト
ケイトリン・ディーヴァー / 役:マリー・アドラー
- ワシントンで一連の事件の最初の被害者となる。
- 両親はおらず、いくつかの家庭に養子に出された後に施設で暮らすことに。
- 普段はホームセンターで職業訓練を受けている。
- 自身の生い立ちや環境も影響し、内向的な性格。
メリット・ウェヴァー / 役:カレン・デュバル
- コロラド州ゴールデンの担当刑事。
- 冷静でありながら被害者への配慮を怠ることがない。被害者への聞き込みから、徹底的に事件の繋がりを探す。
- 家庭があり、パートナーも刑事。
トニ・コレット / 役:グレース・ラスムッセン
- いくつもの事件を担当してきたコロラド州のベテラン刑事。
- カレンに依頼され、自身が担当したレイプ事件と関連性のある事件の共同捜査を始める。
- 捜査へのこだわりが強い。周囲に冷たい態度で接することもあるが被害者への配慮は欠かさない。
【ネタバレ】『アンビリーバブル たった1つの真実』あらすじ・感想
物語の構成と時間軸
『アンビリーバブル たった1つの真実』は、大きく分けて2つのパートで物語が進んでいきます。
アメリカの異なる場所、異なる時期に起きた同一犯によるレイプ事件を被害者の1人であるマリー・アドラーと、事件を追う2人の女刑事の視点を交互に交えて描いていくというものです。
時系列が少し複雑で、最初の被害者となったマリー・アドラーが事件に遭ったのは2人の刑事たちが共同捜査を始めるより3年も前のことです。
点と線をつなげ、犯人を徐々に追い詰めていくようなサスペンス要素が『アンビリーバブル』には盛り込まれています。
kananika
事件が解決したとしても、被害者のその後の人生には事件の影が付きまとうことを視聴者の私たちも体感させられるのです。
最初の事件とマリー・アドラー
初めの事件は、ワシントンで1人暮らしをしていたマリー・アドラーの部屋で起こります。
何者かが自室に押し入り、突然マリーは被害に遭うのです。
事件の直後、男性刑事がマリーの部屋を訪れ、事情聴取を行うシーンが詳細に描かれていますが、被害者が心を落ち着ける間もなく全てを話さなくてはならないその状況は本当に残酷でつらいものです。
事情聴取の後も、病院で看護師に状況の説明をし、そして警察署では同じ話をより詳しく話すことが求められるのです。
極めつけには、自分自身で事件のすべてを文章に起こすことも求められます。
kananika
取り調べの段階でフラッシュバックが起こり、新たなトラウマを植え付けてしまうことも想像に難しくありません。
そのような厳しい取り調べの過程で、マリーがどのような状態で友人に電話をかけていたのかを巡って証言に一貫性がないとして、警察は彼女を激しく追及します。
被害者が事件後の一つ一つの行動について正確な記憶がないことは責められるべきことではありません。
しかし、警察がマリーに矛盾を突き付ける様子は尋問のようでした。
kananika
マリーは警察の厳しい尋問に耐えられず、事件の存在そのものを否定し、いち早く警察からの追求を逃れようとします。
しかし、自分を守るために辛い選択をしたマリーに待っていたのは周囲の冷たい目線でした。
彼女のことを知らない人たちも、マリーを悪人扱いするのです。
追い討ちをかけるように、警察はマリーを虚偽親告罪で訴えようとします。
虚偽申告で警察に訴えられたマリーは仕事を失い、さらには生活の支援さえも打ち切られることになるのです。
被害者を追い詰めるのは誰か?
マリーを追い詰めるのは刑事だけではありません。
マリーの過去の養母たちは、彼女が事件に遭った直後にあまりにも飄々としていたことから、事件そのものの存在を疑います。
性犯罪の被害者を疑ってかかるのは何も男性だけではありません。
養母たちのような性被害の経験がある女性から疑いの目を向けられることもあるのです。
「事件に遭った後の被害者はおとなしく悲しんでいるものだ」
kananika
性犯罪の被害の深刻さについて理解があるような近しい人々でさえ、マリーのことを疑ってしまうという点に問題の複雑さを感じざるを得ません。
とても重要な問題提起を含むシーンであったように思います。
繰り返される事件と2人の刑事
第2話から新たに加わる事件の舞台は、2011年のコロラド州。
マリーがワシントンで事件に遭ってから3年の月日が経っています。
女性刑事のカレン・デュバルが、大学の学生寮で事件に遭ったアンバーの事件を担当するところから捜査が展開していくことになります。
カレンの被害者への接し方は徹底しています。
被害者が抱く感情をすべて肯定し、「事件に遭ったのはあなたのせいではない」と重ねて伝えていきます。
「誰にいつ伝えるかは全部あなたの自由」と事件直後のアンバーにかけた言葉は、カレンの刑事としての姿勢を象徴するようなものです。
マリーに厳しく詰問したワシントンの刑事とは対極で、被害者を最大限に尊重しながら犯人を特定しようとする真摯な刑事の姿がそこに在るのです。
第3話からはカレンが別の所轄のグレース・ラスムッセン刑事に接触し、互いが担当する事件の類似性を共有しながら捜査を進めていきます。
捜査の方向性をめぐって初めは反発しあう2人ですが、徐々にお互いが抱えている傷や、刑事としての苦悩を共有しながら事件の解決に向かって共に戦っていくことになるのです。
そして回を追うごとに、3年前に1人で事件に耐えていたマリー・アドラーの存在に2人は徐々に近づいていきます。
点と線がつながり、一度は救われることがなかったマリーの元に正義が近づいていく過程には、どうしても胸が締め付けられます。
『アンビリーバブル』が訴えるメッセージとは
『アンビリーバブル』の素晴らしい点は、性犯罪に遭った被害者たちの反応はひとりひとり異なるのだということを徹底して丁寧に描いていることです。
マリーのように事件後何もなかったように元気に振る舞ってしまう女性もいれば、コロラド州のアンバーのように事件の一部始終をすべて記憶して冷静に伝えようと努める女性もいます。
kananika
事件の後にこんな行動をしていたから、あんな言動をしていたから、というような理由で被害者を責め立てることは本来決してあってはならないことです。
しかし、今の社会では被害者は傷ついているべき、悲しみにくれているべきだというようなイメージがつきまとい、それが彼女たちを縛り付けているように思います。
確かに事件の証拠を見つけるのは警察の役割で、私たちは事件解決に貢献することはできないかもしれません。
kananika
性犯罪の被害者にとって、事件後に自分の行動を責められることは、存在を否定されるようなものであると思います。
彼女たちをこれ以上追い込むような風潮は決して容認されるべきものではありません。
kananika
このドラマに出てくる彼女たちのような被害者の抱える傷の大きさを想像する力を常に持つこと、それが『アンビリーバブル』というドラマが伝えたい最大のメッセージであると強く感じました。
『アンビリーバブル たった1つの真実』まとめ
オバマ前大統領も2019年に印象に残ったドラマの1つとして『アンビリーバブル』を挙げており、作品の影響力の大きさを計り知れます。
世界で起きている「#Metoo」のムーブメントも相まって、『アンビリーバブル』で描かれているような出来事を社会全体の問題として考えようとする機運は高まっています。
1人でも多くの人が『アンビリーバブル』のメッセージを受け取り、想像を続けることを願ってやみません。