アンソニー・ホプキンスが主演を務めた映画『ファーザー』のフロリアン・ゼレール監督最新作『The Son/息子』が3月17日(金)より公開されます。
デビュー作では鮮烈な印象を残した監督ですが、新作は“心の病”をテーマに対して真っ向から描いた親子の物語となっていました。
・前作『ファーザー』とはまた違ったアプローチ
・心を引き裂かれること必須のストーリー
それでは『The Son/息子』をネタバレなしでレビューします。
目次
『The Son/息子』あらすじ【ネタバレなし】
突如訪れた前妻との息子と共同生活
弁護士のピーター(ヒュー・ジャックマン)は仕事も順調で、若妻のベス(ヴァネッサ・カービー)、赤ん坊のセオとニューヨークで3人仲睦まじく暮らしている。しかしベスと結婚したピーター再婚であり、彼には別れた妻ケイト(ローラ・ダーン)と17歳のニコラスがいた。
ある日、ピーターの自宅までケイトが駆け付ける。ニコラスの様子がおかしく、1か月近く学校に行っていないことが明らかになったからだ。
理由を聞いても答えず、時折母親に向けて憎悪をむき出しにするような態度を見せるニコラス。彼に恐怖すら覚えたケイトはピーターに助けを求める。
翌日、ピーターはケイトとニコラスが暮らす家を訪れ、ニコラスと二人きりで話をする。
ニコラスは不登校をする理由について聞かれても「分からない」の一点張り。しかしその状況に苦しんでおり、ピーターの前で泣き出してしまう。そして突如「父さんと一緒に暮らしたい」と訴える。
最初は戸惑うピーターだが、ニコラスを置いて別の女性と暮らし始めたことに罪悪感を覚えており、ニコラスを救えるのは自分しかいないと考える。ベスを説得し、ピーターはニコラスの提案を引き受ける。
「自分にしか助けられない」は驕りなのか?
しばらくして、ピーターとベスとセオ、そしてニコラスの4人暮らしが始まった。新しい学校も決まり、ニコラスにとっても良い変化が起きているとピーターは感じていた。
一方で、ピーターの仕事も選挙戦への手伝いが舞い込んでくるなど、変化が起きていた。
仕事でワシントンD.Cに訪れるピーターだが、そこには今も軋轢が残っている父親・アンソニー(アンソニー・ホプキンス)が暮らしていた。ピーターもまた、自分の父親と”ある理由”でわだかまりを抱えていたのだった。
またピーターとは別に、ベスはニコラスとの暮らしに馴染めておらず、感情の読めないニコラスを不気味に思うことすらあった。
さらにニコラスの腕に自傷のあとを見つけ、マットレスの下からはナイフが見つかる。心の病を受け入れられないニコラスと、まるで自分を裏切るかのような態度に苛立つピーター。
2人は衝突してしまい、ついにある事件が起きてしまう。
『The Son/息子』感想
ヒュー・ジャックマンが惚れ込んだ、すべての人が観るべきドラマ
今作はヒュー・ジャックマンが主演を務めるだけでなく、製作総指揮も担当しています。監督がオファーしたのではなく、ヒュー・ジャックマン自ら「この作品に出演したい」と、脚本に惚れ込んで自分を売り込んだという背景があります。
もともとヒュー・ジャックマンがフロリアン・ゼレール監督の『ファーザー』をとても気に入っていたこともあり「心の病」について真っ向から描いた本作への出演は、大きな意味を持つとも語っています。
自分たちの演技を通して、心の病ついて人々が対話するきっかけになってほしいと話しました。
共演には『マリッジ・ストーリー』(19)でゴールデングローブ賞などを獲得したローラ・ダーンが抜擢。
実はゼレール監督がデヴィット・リンチ作品の大ファンで、その関係でローラ・ダーンのファンになったとか。
息子ニコラス役はオーディションで選ばれた新人のゼン・マクグラス。現在は本国で放送されているTVシリーズや短編映画の出演が主となっており、長編でのメインキャスト抜擢は今作が初となっています。
ナーバスな雰囲気が印象的で、今後の活躍に注目したくなる役者です!
ちなみに出演時間はわずかですが、ヒュー・ジャックマン演じるピーターの父親役を『ファーザー』で主演を務めたアンソニー・ホプキンスが演じています。
登場シーンはわずかながら、強烈な印象を残す演技は必見です!
前作『ファーザー」とは違ったアプローチ
『The Son/息子』は劇作家としても知られるフロリアン・ゼレール監督の3部作の第2部という位置づけになっています。
3部作のうちの1つである前作『ファーザー』では、認知症を疑似体験しているかのような演出も話題になりました。
一方で、今作はトリッキーな演出を抑えたシンプルなヒューマンドラマとなっています。
難しい言い回しや演出などはなく、家庭と仕事の両立や、息子の変化を理解できずにいるピーターの葛藤を描きます。自分の心の病に対して、どうすればよいのかわからず、苦しむことにも疲れ果てていくニコライとの対立など、彼らの様子をギリギリの緊張感を持って真っ向から描いた作品となっていました。
それゆえに非常に重い作品となっていますが、本作の持つメッセージ性がまっすぐ届くため、彼らへの感情移入も自然とできます。
なぜニコラスは心に病を抱えたのか?誰もその原因を突き止められないでいますが、ニコラスがこぼすセリフの中に、観客でも気づける決定的な理由をのぞかせているのも印象的。
「完璧な親はいない」という本作のキャッチコピーのとおり、ピーターは自分が完璧にニコラスの病と向き合えているように見えて、実は見落としていることがいくつもあるのです。
今作を「心の病に対してオープンに対話できるきっかけになれば」と出演陣が語る通り、正しく向き合うことの大切さを、ピーターとニコラスのやり取りから感じ取らせてくれるドラマ要素も素晴らしい作品でした。
親子関係の歪みが見え隠れする演出
本作のもうひとつのテーマとして、ネガティブな要素が父子の関係から、世代を超えて引き継がれてしまっている点があります。
”血は争えない”という言葉があるように、ピーター自身も自分の父との関係が上手くいっておらず「自分はあんな父親にはならない」と考えていても、無意識のうちにその父親と同じようなことをしてしまうケースです。
ニコラスがピーターに対して「自分を捨てた」と感じているように、ピーターもまた、自分の父親アンソニーに対して、ある嫌悪感を抱いています。世代を超えて引き継がれてしまったネガティブな要素は、ニコラスの抱える心の病と深く繋がっていることが見えてきます。
幅広い世代層で見え隠れする問題や軋轢も描くことで、多層的なヒューマンドラマにもなっている本作。
ニコラスとピーター、そしてピーターとアンソニーの関係がどのように家族へ影響しているのかにも注目してほしい作品です。
『The Son/息子』あらすじ・感想まとめ
・前作『ファーザー』と比較するのも興味深い作品
・世代を超えて引き継がれてしまったネガティブな要素
以上、ここまで『The Son/息子』をレビューしてきました。
本作はかなり重いテーマの作品でありながら、すべての人にとってメッセージを持つ作品です。
ニコラスと同じ年頃の子どもはもちろん、親、そのまた親世代などにも見て欲しいストーリーとなっています。
多様なライフスタイルが確立しつつある現代だからこそ、家族との関係性にも様々な形があります。ゆえに家族間の問題も曖昧になり、目を背けてしまいがちです。
その曖昧さがどんな結末を招くのか?そのひとつの答えが本作にはあると感じました。
とても考えさせられる内容であると同時に、ピーターやニコラスと同じ立場になったことを考えると、心を引き裂かれずにはいられません…!