『チェイサー』『哀しき獣』のナ・ホンジン監督によるサイコ・スリラー。
日本人俳優の國村隼が「よそ者」役として抜群な存在感を発揮していることでも注目されました。
- 韓国で青龍賞助演男優賞&人気スター賞をW受賞した國村隼の怪演に注目!
- 信じることの全てを覆す物語に頭が混乱すること間違いなし
- ファン・ジョンミンと國村隼の超絶な祈祷合戦に盛り上がる
マルコヤマモト
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目次
『哭声/コクソン』作品情報
作品名 | 哭声/コクソン |
公開日 | 2017年3月11日 |
上映時間 | 156分 |
監督 | ナ・ホンジン |
脚本 | ナ・ホンジン |
出演者 | クァク・ドウォン ファン・ジョンミン 國村隼 チョン・ウヒ キム・ファニ |
音楽 | チャン・ヨンギュ タルパラン |
【ネタバレ】『哭声/コクソン』あらすじ
連続殺人事件と謎の日本人の関係
作品冒頭、「ルカの福音書24章39節」からの引用。
「わたしの手や足を見なさい。…わたしだ。触ってよく見なさい。亡霊には肉も骨もないが、…見えるとおり、わたしにはそれがある。」
出典:東京鵜の木教会
山に囲まれた全羅南道の田舎町コクソン。
普段な平和な街が一変、村中で連続殺人事件が発生します。
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事件の加害者はいずれも被害者の身内で、全身に発疹があり目はうつろな状態で現場に残っていました。
検査の結果、死因は毒キノコの幻覚作用が原因と言われていましたが、村の人達は山の中に住み着いた日本人が怪しいのではと噂し始めます。
主人公で警察官のジョングはただの噂話だと一蹴するものの、次第に日本人が事件に関わっているのではと思えてきました。
ある日、事件現場の見張りについたジョングのもとに見知らぬ女性が近づいてきました。
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その女性の名はムミョン、自分が事件の目撃者だというのです。
事件の詳細を語った後、やはりムミョンも日本人が「悪霊」であると語り姿を消します。
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ジョングは日本人の男について調べるために、以前山の中で男が裸で鹿を食べている姿を目撃したという、健康食品店の店長を案内係に山の中へ入っていきました。
恐怖のあまり途中で引き返そうとした店主でしたが、突然の雷に打たれ重体に。
さらには店主を運び込んだ病院に入院していた、事件の加害者が痙攣を起こして亡くなったのです。
目の前で起こった恐ろしい光景に、ジョングと後輩警官のソンボクは男の正体を突き止めるべく決意を固めました。
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ジョングの娘が危機に陥る
ある夜、熱を出して寝込んでいたジョングの娘・ヒョジンの体調が変化し、夜中に急に叫び始めます。
「知らないおじさんが入ってくる」と怖がり、泣きながらジョングにすがりつくヒョジンでしたが、次の日から反抗的な態度を見せたり嫌いなものを食べたりと人が変わったようでした。
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日本人の男の家へ向かうため、ジョングはソンボクの甥で教会の助祭をしているイサムを日本語通訳として連れて行くことに。
山の中の男の家にたどり着くも、男は留守で飼い犬だけが吠え続けていました。
無断で男の家の中を捜索し始める3人でしたが、男が帰宅しても結局何も聞き出すことはできませんでした…。
その帰り道にソンボクは、男の部屋で見つけたヒョジンの靴を差し出します。
さらに、ソンボクは男の部屋の中に祭壇と被害者たちの大量の遺品や写真を見つけていたのです。
ヒョジンの態度が変わったことを心配したジョングは、ヒョジンの身体にも事件加害者と同じ湿疹があることに気づきました。
ヒョジンの異変に日本人の男が関わっていることは明白で、ジョングは再び男の家に向かって問い詰めますが、証拠となる写真や遺品はすでに燃やしたというのです。
そして、ジョングは日本人の男に3日以内に街を出ていくよう警告しました。
祈祷師の登場と謎の日本人の死
ヒョジンの状態は次第に悪化し、両親の留守中に刃物で隣のおばあさんを傷つけてしまいます。
見かねたジョングの母親は、祈祷師のイルグァンを呼んでお祓いをすることに決めました。
イルグァンもムミョンと同じく悪霊は日本人の男であると言い、祈祷が始まりました。
次第にヒョジンの苦しみが絶頂に達するのを見かねたジョングは、イルグァンに祈祷をやめさせてしまいます。
同じ頃、山の中では日本人の男も祈祷をしていたのです。
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困り果てたジョングは、イサムに紹介されて教会の神父に助けを求めますが、断られてしまいます。
絶体絶命の状況のなか、なんとかヒョジンを救いたいジョングは仲間たちを集めて謎の男を追い詰めるも、男が姿を消してしまいました。
その最中、森の中ではムミョンと男の攻防が繰り広げられていました。
雨の山道をトラックで帰る途中、ジョングたちは偶然日本人の男と衝突、遺体を道路のガードから山中へ投げ捨て、隠蔽したのです。
ガードの縁からから山中を見下ろすジョングたちを、ムミョンが山の高いところから見下ろしていました。
日本人の男が死んだことで、ヒョジンの状態はもとに戻り、事件は無事解決したかに思えました…。
また、騒動の最中に大怪我を負ったイサムは怪我の治療のために入院していましたが、電話が鳴り叔父・ソンボクの家へ向かうとソンボクが祖母を殺していたのでした…。
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何を信じれば良いのか全くわからないラスト
祈祷師のイルグァンはジョングの家へ向かいましたが、待ち伏せていたムミョンに何かを感じて嘔吐をし、村を飛び出していきました。
イルグァンは自分が間違った相手に「殺」を打ってしまったことと、日本人の男も祈祷師だったとジョングに連絡しようとしましたが、無視され続けます。
荷物をまとめてソウルへ向かおうとしたイルグァンの車に、蛾のさなぎの抜け殻がバシバシと当たってきますが、それは幻覚でした。
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やっとのことでイルグァンからの電話に出たジョングは、「女こそが悪霊である」と告げられます。
夜になりジョングが急いで家に戻ると、ムミョンが立ちはだかります。
そして、家に結界を張ったことと、今家に戻ってはいけないと警告したのです。
ジョングはムミョンの正体を問うと、ムミョンは「家族を救いたければ信じろ。私はお前の家族を救おうとする者だ」と答えました。
しかし、正体がわからないムミョンをたやすく信じるわけにはいきません。
さらに、ムミョンは事件で亡くなったなった人の遺品を身に着けていたのです…。
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ヒョジンと家族のことが心配なジョングは、ムミョンの警告を無視して家の中へ入っていきました。
自分の警告を無視したジョングに対し、泣き叫びながらへたり込むムミョン。
そして、ジョングは自宅の中で今まで起こった異常な事件の現場と同じ光景を目にするのでした。
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その頃、イサムは十字架と鎌を持って再び男の家へ向かい、死んだはずの男が洞窟のようなところで祈祷をしている姿を見つけ近づいていきます。
祈祷をしていた日本人の男がイサムに語りかけながら、カメラでイサムの写真を撮り始めます。
恐怖のあまりイサムは「主よ…」と言って立ちすくむことしか出来ません。
イサムは日本人の男を悪魔だと思っているとおり、男の姿がだんだんと変わっていくのでした。
カメラを構えた男が「どうして心に疑いを持つのか…私の手や足を見なさい」と呟き、レンズから覗いた目は真っ赤で頭に短い角まで生えていたのです。
さらに男の手には聖痕のようなものもありました。
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イサムが見た男の姿は、まるで悪魔そのものでした。
イサムは「主よ…」と唱え、立ちすくんだまま逃げ出すことも出来ないままでした。
夜が明けようとする頃、イルグァンの車がジョングの家に到着します。
イルグァンは家の中に入り込むと、亡くなったジョングの妻と母、そして虫の息のジョングの写真を撮って去りました。
イルグァンの車の中からこぼれ落ちた荷物には、日本人の男が焼いたと言っていた無数の写真があったのです。
ジョングは朦朧とする意識の中でヒョジンとの思い出を思い浮かべながら、「大丈夫だ、ヒョジン…父さんは警察官だ、全て解決する…父さんが」と呟いていました。
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【ネタバレ】『哭声/コクソン』感想・考察
『哭声/コクソン』は混沌・混乱・疑惑の映画
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前2作のような地べたを這いまわるような泥臭さもありながらも、一見エンタメにも見えるオカルト祈祷合戦など様々な要素を含んだ内容で、前2作よりはキモチが重くならずに済みました。
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見ているうちに視聴者はどんどん疑惑の波に呑まれていき、まさにジョングと同じ感情を味わうことになります。
「本当に何を信じて良いのかわからない」
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しかし、今作は誰が敵か味方かという次元ではなく、「信じること」について根本的に描いています。
逆に言うと、今作のキャッチコピーになっている「疑え、惑わされるな。」ということです。
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ただ、もしも自分が信じているものが崩れ落ちたとしたら…?
今作はとても深い物語なので、順番に解説&考察をしたいと思います。
日本人の男の正体は悪魔?
物語で一番の恐怖となったのが、國村隼演じる謎の日本人。
彼が町に現れてから連続殺人事件が続発し、事件に関係しているのではと疑われる人物です。
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撮影時、國村隼はナ・ホンジン監督から男の存在について「旧約聖書が信仰されている世界に突如現れたジーザス・クライストのような存在」というイメージを伝えられたそうです。
ナ・ホンジン監督にとってイエス・キリストは「歴史上最も混乱を与え、疑惑を持たれた人物の1人」という印象があるようです。
また、中盤で死んだはずの男が再び生き返っていたことも、イエス復活のメタファーであり、洞窟のシーンでは男の手に聖痕があることも確認できました。
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男=キリストでもなく、祭壇や祈祷などキリスト教徒とはかけ離れているかのように見えますが、キリスト教徒であるイサムにだからこそ男はわざと聖痕を見せ「自分は何者だと思うか?」と問うたのだと思います。
そこでイサムが恐怖と「そう信じ込んだ」あまり、「悪魔だ」と答えてしまったからこそ、男は悪魔に姿を変えたのではないでしょうか?
恐怖のあまり信じ抜くことが出来なかったイサムに対し、男は悪魔に姿え、悪霊を目覚めさせてしまったというエンディングです。
つまり、宗教を含め何かを信じる人達の「信じ抜く能力」によって、信じる対象が悪にもなってしまうという戒めの意味であるとも考えました。
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つまり日本人の男の正体は、聖人にも悪霊にも成り得た「何か」ということでしょう。
しかも、人によってどうなるかは異なる。
さらに、男はカメラを持っていましたが、カメラや写真は「思い込みや偏見で人間が見たいように対象を見てしまう」という比喩にもなっていたと考えられます。
祈祷師やムミョンは敵か味方か?
疑惑があるのは日本人の男だけではありません。
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まずイルグァンですが、最初は日本人の男を悪霊呼ばわりしていたものの、のちにムミョンが悪霊であると意見をコロリと変えてしまいます。
日本の伝統の下着であるふんどしを着けているのが謎の日本人とイルグァンだけだったことや、ラストで死体の写真を撮って集めていたことが明らかになったので、イルグァンと日本人はグルだった説は大いに有り得るかもしれません。
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次にムミョンです。
ムミョンが人間でないことは明らかです。
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被害者の遺物を着用している点から、ムミョンのことが信じられなくなる場面もありました。
しかし、監督的にはそこはあまり重要ではないということ。
殺人現場に飾っていたキンギョソウは、村人を守るお守りだったのですが、ラストでムミョンを信じきれなかったジョングが家に入っていくと花が枯れてしまいます。
疑念を捨てきれないジョングを、ムミョンは守りきることができなかったのですね。
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作品とキリスト教の関係
冒頭の「ルカの福音書」引用からもわかるように、今作はキリスト教に深く関連している内容がいくつもあります。
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韓国の主な宗教は仏教とキリスト教ですが、無宗教の人も増えているそうです。
ヨハネの福音書8章第7節「あなたがたの中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい」
出典:Wikipedia
序盤で事件現場飲み針をしているジョングに、石を投げて自分の存在を気づかせるムミョン。
このことを知っていれば、罪のない者=ムミョンという図式が出来上がり、ラストのジョングの行動は間違っていたことがわかります。
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ヨハネの黙示録第3章20節「見よ、わたしは戸の外に立って、たたいている。だれでもわたしの声を聞いて戸をあけるなら、わたしはその中にはいって彼と食を共にし、彼もまたわたしと食を共にするであろう。」
出典:wikisource
こちらはヒョジンが熱にうなされて「誰かが私の中に入ってこようとする!」という叫びに関係しています。
戸の外に立っている何か=悪霊で、それをヒョジンが受け入れてしまったというシーンです。
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SNSでのみんなの感想・評判
【哭声 コクソン】2016年
コリャまたすげ〜のを観ちゃったな。
驚かす演出なしでここまで得体の知れない恐怖で引きつけるとは😲
除霊師が出てきてから一気に緊張感が増し、ラスト30分は
「どっちなの⁉️一体どっちを信じればいいの⁉️」となって気持ちが主人公とシンクロした。後で色んな考察読んだよ。 pic.twitter.com/DbB5OMV4Lz— ごんピクシー 映画野郎Aチーム (@grandir88) May 9, 2020
哭声/コクソン
この映画は様々な要素を取り入れグロテスクで有りながらもナ・ホンジン監督の透徹な目線が特に素晴らしい。
後半から一気に物語が回転し始めてラストは観客を見事に突き放すがこれぞ映画の醍醐味であり韓国映画いや全ての映画の一つの到達点とも言える傑作。#1日1本オススメ映画 pic.twitter.com/3N3Hkb0dNA
— モンタナS🐵 (@montanas1968) March 31, 2020
「哭声/コクソン」あぁ、面白かった…。最初は何も考えずに観ていたが、中盤からどんどん面白く怪しくなってくる。警察官なのに警察らしいことを全くしない主人公がツボ。それがテーマに繋がっているのだが。空間混ぜ込み編集も妙があって、映像的な精度も高レベル。ものごとを常に従順にみちゃだめ! pic.twitter.com/33ZKBqKXYT
— ネボスケ (@Angenieux17) May 5, 2020
ただじゃ終わらない、ナ・ホンジン・ワールドにまんまとハマってしまった人多数。
ただのオカルト祈祷合戦ではなくて、他の人の意見や考察を見ながらまとめると自分なりの答えにたどり着くかもしれませんね!
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『哭声/コクソン』まとめ:意味がわからなくてもOK!
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- 國村隼はじめ、子役を含めた出演陣の相当な演技力が圧巻の作品
- 様々なジャンル要素を組み込みながらも飽きさせない、あっという間の156分
- 観終わった後にさらに考えてみたくなる、余韻も大事にできる作品
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156分という長めの上映時間にも関わらず、無駄な展開が一切なくあっという間に駆け抜けたのは、ナ・ホンジン監督作品の本質。
鑑賞後の意味のわからなさは正直今までで一番の作品ですが、ああだこうだ考えていたい後を引くタイプの映画です。
映画についての解釈は人それぞれなので、「全然わからなかった」でOK!
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