舞台は、1940年のスペイン、カスティーヤ地方の小さな村。
そこに暮らすある家族を中心に、スペインの内戦が人々に与えた心の傷と、幼い子供の現実と幻想の狭間で揺れる内情を繊細に描く傑作です。
- とにかく画面に映される映像のひとつひとつが美しい
- アナ・トレントの顔を浮かび上がらせる光と細やかな表情
- 映画『フランケンシュタイン』を取り入れて描かれる現実と幻想
それではさっそく映画『ミツバチのささやき』をレビューしたいと思います。
目次
『ミツバチのささやき』作品情報
作品名 | ミツバチのささやき |
公開日 | 1985年2月9日 |
上映時間 | 99分 |
監督 | ビクトル・エリセ |
脚本 | ビクトル・エリセ アンヘル・フェルナンデス・サントス |
出演者 | アナ・トレント イザベル・テリェリア フェルナンド・フェルナン・ゴメス |
音楽 | ルイス・デ・パブロ |
『ミツバチのささやき』あらすじ
一人の少女を主人公に、彼女が体験する現実と空想の交錯した世界を繊細に描き出した作品。
スペインのとある小さな村に「フランケンシュタイン」の巡回映画がやってくる。
6歳の少女アナは姉から怪物は村外れの一軒家に隠れていると聞き、それを信じ込む。
そんなある日、彼女がその家を訪れた時、そこで一人のスペイン内戦で傷ついた負傷兵と出合い……。
出典:allcinema
【ネタバレ】『ミツバチのささやき』感想レビュー
タイトル『ミツバチのささやき』
日本語タイトルでは『ミツバチのささやき』と訳されるこの映画。
スペイン語“El espíritu de la colmena”では、“ミツバチの巣箱の精霊”という意味があります。
『ミツバチのささやき』の中では、主人公アナとその姉のイサベルの父親フェルナンドが、ミツバチの巣箱を管理する仕事をしています。
また、家の中にもガラス張りになった巣箱を置いていたり、窓のガラスがハチの巣をモチーフに作られたようだったりと、まるで物語全体がミツバチの巣箱の中のことのように見えます。
フェルナンドは多くを語りませんが、書籍や持っている懐中時計、日記の文章、またアナのめくるアルバムに映る写真などから、何か昔は知識人のような扱いを受けていた人物のように見受けられます。
訳あって、今はカスティーヤ地方の小さな村で暮らしている。そんな不穏な空気がフェルナンドの堅い表情からも伺えました。
また、その空気が伝染するように、母親のテレサもまた、フェルナンドよりも若いにも関わらずいつも疲れているような表情から、少し老け込んで見えました。
そんなテレサは、誰か親しい人に向けた手紙を書いています。
「みんなが一緒に幸福だった日々を忘れられません」
「あなたとともに過ごしたころのものは何一つ消えてしまいました」
そういった内容から、何か理由があって離れなければならない人に宛てたものだと思われます。
1940年と言えば、スペインでは内戦がおわったばかり。
何かその内戦によって心に大きな傷を抱えた夫婦であるということがわかりました。
映画『フランケンシュタイン』の意味
アナとイサベルは、ある日村にやってきた巡回映写の映画『フランケンシュタイン』を公民館で目にします。
そこで、映画の画面の光に映し出されるアナ・トレントの表情が印象的です。
アナ・トレントの顔が光に照らされるシーンは3回あります。
一回目はこの映画のシーン。2回目は暗闇の湖に映し出される自分の顔を覗きこむシーン。そして、3回目は最後の窓を開けて「私は、アナです」と幻想の友に向かって語り掛けるシーンです。
どれも、映画『フランケンシュタイン』での影響を大きく受けたアナの内情を表しています。
ジェイムズ・ホーエン監督の映画『フランケンシュタイン』を見たアナは、映画の中で少女が突然に怪物フランケンシュタインに殺されてしまうシーンに衝撃を受けます。
「なぜ殺されたの?」と思わずイサベルに問いかけますが、上映中は相手にされません。
家に帰ってから、ベッドについた二人はその映画について回想をはじめます。
「なぜ少女は死んだのか。そして、なぜフランケンシュタインも殺されたのか」と問いただすアナにイサベルは、映画の中の話は全て嘘であり、フランケンシュタインは精霊であるとアナに告げます。
そして、秘密の交信方法を教えてしまうとイサベルはすっかり眠ってしまいます。
それを聞いたアナは、精霊の存在を信じてしまい、次第に現実と幻想の狭間で心が揺れ動いていきます。
兵士の死によりショックを受けたアナと内戦で心に傷を負った両親
そんなアナに、ある出会いが訪れます。
普段アナが遊び場にしていた村のはずれの小屋に、脱走兵が逃げ込んでいたのです。
ここで、脱走兵という現実に触れたアナ。
傷ついた脱走兵にリンゴを渡すシーンでは、映画『フランケンシュタイン』を見た時とは違って、現実を見据えたしっかりとした表情をしています。
しばらく脱走兵をかくまっていたアナですが、その脱走兵はアナの行いもむなしく見つかってその場で射殺されてしまいます。
その遺体が運ばれたのは、あのアナたちが映画を見ていた公民館であるのも印象的です。
映画の中のフィクションの死と、現実の死が重なった瞬間にも見えました。
アナにとって兵士の死は、現実から再び幻想の世界へと誘うきっかけとなってしまいます。
しかし、そんな現実での心の傷を癒す救いを幻想に求める姿は、アナの両親にも見受けられます。
父親フェルナンドは、同じ文章が繰り返される日記や、懐中時計のオルゴール、そしてミツバチの巣箱を眺めることで、心の傷を癒そうとしているようにも見えます。
母親テレサは、気まぐれにピアノを弾いてみたりして感傷に浸る姿から心の弱さが伺えます。
そして、その弱さが、誰かに向けて書いていた手紙までもを、まるで架空の人物に宛てたモノのように見せるのです。
『ミツバチのささやき』まとめ
以上、ここまで『ミツバチのささやき』について感想を述べさせていただきました。
- まるで絵画のような映像美に胸打たれる
- 現実と幻想の狭間で心の傷を癒していくアナと両親たち