『女王陛下のお気に入り』あらすじ・ネタバレ感想!欲望、陰謀、愛憎を滑稽に描いた美しくも風刺的な作品

『女王陛下のお気に入り』

出典:blog.foxjapan.com

絵画のように美しい優雅な宮廷の中で繰り広げられる欲望、陰謀、そして愛憎。

権力者たちを滑稽に描いた美しくも風刺的作品。

ポイント
  • 三大女優の巧みでパンクなドロドロ劇
  • 巨大な宮殿内を効果的に見せる広角レンズとすべてを歪める魚眼レンズ
  • 衣装にも注目!中世とモダン入り混じるモノクロを基調とした貴族服

それではさっそく『女王陛下のお気に入り』の作品情報・あらすじ・ネタバレ感想を書いていきたいと思います。

▼動画の無料視聴はこちら▼

『女王陛下のお気に入り』作品情報

『女王陛下のお気に入り』

出典:映画.com

作品名 女王陛下のお気に入り
公開日 2019年2月15日
上映時間 120分
監督 ヨルゴス・ランティモス
脚本 デボラ・デイヴィス
トニー・マクナマラ
出演者 オリヴィア・コールマン
エマ・ストーン
レイチェル・ワイズ
ニコラス・ホルト
ジョー・アルウィン
マーク・ゲイティス
ジェームズ・スミス

2019年に行われた、第91回アカデミー賞では『女王陛下のお気に入り』が最多9部門10ノミネートを獲得し、オリヴィア・コールマンが主演女優賞を受賞しました。

【ネタバレ】『女王陛下のお気に入り』あらすじ・感想


映画好きはもう無視できない。ヨルゴス・ランティモス監督。

ヨルゴス・ランティモス監督は、人間の心情に潜む残酷さを、ときにブラックジョークを交えてコミカルに、またあるときには滑稽なまでにグロテスクに描きます。

『ロブスター』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』でも見られるように、過酷で閉鎖的な環境にキャラクターを追い込み、その状況化で出てくる汚い感情をひとつも逃すことなく映し出す。

なのに、独特のテンポの良さと、見る者を飽きさせない展開で、不条理な映画ながらも多くの人々を魅了してやまない魅力があります。

そんなヨルゴス・ランティモス監督が、なんと歴史映画にまで手を伸ばしました。

それがこの『女王陛下のお気に入り』なのです。

一言では語れない。多くの矛盾を抱える登場人物たち。

この物語の鍵を握っているのは、なんといってもオリヴィア・コールマン演じるアン女王でしょう。

彼女は広々とした宮殿の中で絶対的な権力を持っています。

しかし、アン女王は子供を17人流産や死産、病気で失った経験から大きな孤独を抱えており、いつも心は不安定。

体調も崩しがちで、唯一の癒しは17匹のウサギを愛でること。

とてもじゃないけど国のことを考えられるような状態ではありません。

そんなアン女王の代わりに、すべてを切り盛りするのがレイチェル・ワイズ演じるサラなのです。

サラはアン女王の代わりに国のことを考え、難しい決断も私情を挟まずに直結できるなんとも頼もしい存在で、アン女王も絶対的な信頼を寄せています。

しかし、彼女たちの関係はこれだけではありません。

女官と女王という関係を超えて恋愛関係にもあったのです。

そして、そんな秘密を偶然知ってしまい、自分もアン女王に気に入られようとするのがエマ・ストーン演じるアビゲイルです。

アビゲイルは生まれこそ上流の家庭でしたが、父親がつまらない賭けに負けたことで、地位が転落。

見知らぬドイツ人の愛妾として暮らした過去がありました。

彼女はそんな状況から逃げ出し、宮廷に女中としてやってきていたのです。

最初こそ素直な女中をしていたアビゲイルですが、どん底から逃げてきたために備わったであろう叡智、そして時には運も味方につけて、貪欲なまでに這い上がっていきます。

また、男性陣もユニークです。

一見すると国のことを考えて増税を阻止しようとしているけどなにか思惑がありそうな政治家ハーレー、アビゲイルと結婚するマシャル大佐、そして、サラの相談役で党の首相でもあったゴドルフィンなど。

彼らはふわふわとした長髪で大げさなかつらをかぶり、厚化粧をして、キザな衣装に身を包み、なんともナンセンスな遊びを繰り広げ、凡庸な日々を送っています。

けれど彼らもこの宮廷での駒として、重要な役割を果たしているのです。

撮影方法と衣装

広大な宮廷内を効果的に映すのが、広角レンズ。

高い天井や壁一面に広がる絵画、美しい壁紙。

天井まで伸びる巨大な窓からの光が、煌びやかな衣装をいっそう浮かび上がらせます。

また広角レンズとともに使われているのが魚眼レンズです。

貴族たちがナンセンスな遊びを繰り広げる時には、この魚眼レンズで映された映像はスローモーションで流されたシーンは、彼らの下品な笑顔を皮肉なまでに滑稽に歪ませていました。

そして、なんとも魅力的な衣装を担当したのはサンディ・パウエルです。

白と黒を基調としたその衣装には、中世にはあまり見られないようなデニム生地や水玉模様などのポップなデザインも使われ、全体的に優雅な中世の雰囲気を保ちながらも、見る人に新鮮な印象を与えます。

また、ダンスや言葉遣いが中世っぽくなかったりしますが、それらが登場人物たちをよりリアルに描き出していておもしろかったです。

冷酷になっていくアビゲイルと愛情ゆえに感傷的になっていくサラ

鳩を銃で撃ち落とし遊ぶサラとアビゲイル。

戦地に旦那を送り込んでまで、国のために戦うべきだと決断したサラに、アビゲイルが「辛くないのか」と聞くシーンがありました。

「何事にも犠牲はつきもの。私は覚悟ができている」

そう話すサラですが、その後の展開でアン女王にどんどん接近するアビゲイルに嫉妬し、アン女王への愛情などが弱みとなって、最後は国を追放されてしまいます。

そんなサラにゴドルフィンは序盤でこんな忠告をしています。

「有益な相手も、危険な敵になり得るぞ。」

そして、画面に映し出されるアビゲイルの顔のアップ。

その言葉を意味していたのはアビゲイルのことではありませんが、なんとも印象的なシーンです。

サラは女中あがりのアビゲイルを見くびっていたところもあったと思います。

どん底を経験しているアビゲイルは、どこまでも貪欲になり、道徳を無視した戦略を考えます。

毒薬入りの紅茶を盛られたサラは落馬し、顔に傷を負うだけでなく、アビゲイルをすっかり気に入ったアン女王との間にも埋まらない溝を作ってしまうのです。

アン女王の心に広がる孤独と退屈

サラとアビゲイルに自分を奪い合わせることで支配欲を満たして楽しんでいるアン女王。

何がアン女王をここまで歪ませてしまったのでしょう。

それは、アン女王の抱える孤独と、虚無的な心の退屈です。

サラに仕事を任せているため、基本的に何もすることのないアン女王。

閉鎖的な人間関係の中でも常にストレスを感じています。

貴族たちも例外ではありません。

ストレス発散に、国の民は戦争に苦しんでいるというのにアヒルを競わせて遊んでいました。

何かを競わせて遊ぶのが好きなのはアン女王も同じです。

それはこの場合、サラとアビゲイルというところにアン女王の悪意を感じます。

そして、そんなアン女王は最後、本当にアン女王のことを愛し、国のことを考えていたサラではなく、甘い言葉や態度でアン女王の欲望を満たすアビゲイルを選んでしまうのです。

アン女王の突然の思い付きのような行動で、戦争は終わりに向かいます。

それは、民のことを考えてではなく、戦争続行を謳っていたサラとの決別の意思を表しているように見えました。

マシャム大佐との結婚が許され、アン女王にも気に入られ、安定を手に入れたアビゲイル。

しかし、最後のシーンでアン女王を愛撫している時、髪の毛を掴まれたアビゲイルは気がつくのです。

たとえ裕福な生活を手にしたとしても、やっていることはドイツ人の男性のもとで愛妾をしていた昔と変わらないことに。

そればかりか、アン女王にとってアビゲイルは、失った子供たちの代わりに飼われたウサギ同様、サラの代わりに飼われたペットに過ぎません。

そして、アン女王の孤独と退屈は宮廷全体をむしばんで、欲望にまみれた巨大な穴倉を作り出していたのです。

『女王陛下のお気に入り』まとめ

見事にアカデミー賞で主演女優賞も獲得し、『女王陛下のお気に入り』は名実ともに名作の仲間入りを果たしたと言えるでしょう。

以上、ここまで『女王陛下のお気に入り』について、感想を述べさせていただきました。

要点まとめ
  • ブラックジョーク的に描かれる支配者層の滑稽な姿
  • 中世を舞台に現代の要素がちりばめられた愛憎劇

▼動画の無料視聴はこちら▼