『時の面影』は、1939年にイングランド南東部で発掘されたサットン・フーの遺跡にかかわる実話をもとに描いたジョン・プレストンの小説を原作としたヒューマン・ドラマ。
今では大英博物館のギャラリーで世紀の発見として「サットン・フーの兜」を筆頭に展示される出土物の数々。
第二次世界大戦が迫る陰鬱な時代に、歴史的発見に力を注いだバジル・ブラウンとエディス・プリティを、アカデミー賞ノミネート俳優のふたりレイフ・ファインズとキャリー・マリガンが演じております。
それまでの中世、暗黒時代の学説を覆すサットン・フーの大発見にかかわった戦争に突入する時代に生きた人々の未来に向けた想いを丁寧に描いた作品です。
・始まった発掘作業
・予想もしなかった大発見
・いにしえの記憶と未来に馳せる想い
それでは『時の面影』をレビューします。
目次
【ネタバレ】『時の面影』あらすじ・感想
墳丘墓の発掘調査
時は1939年、イングランド、サフォーク州サットン・フー。
考古学者のバジル・ブラウン(レイフ・ファインズ)が訪れたのは、その地に広大な土地をもつエディス・プリティ(キャリー・マリガン)の邸宅。
考古学に興味があり、亡き夫ともに塚のある土地に買って移り住んだものの発掘することなく時が過ぎたというエディスから発掘する依頼を受けます。
当初、地元イプスウィッチ博物館に発掘依頼をしたものの、今にも戦争に突入する不穏な時期に、学術的根拠のない発掘を手がける余裕はないと、断られたエディスが学位はないけれど発掘経験とその腕に定評のあるバジルに、白羽の矢をたててのことでした。
サフォークの土のことなら、ひとめでどの土地のものかわかると自負するバジルは、エディスの土地にあるのはバイキング時代の墳丘墓だと見たて、土にシャベルを入れ掘り始めるのでした。
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実在の人物、バジルは、家族の仕事を手伝うのに12歳で学校を辞めたものの、考古学にとどまらず天文学、ラテン語、フランス語、ドイツ語の言語も独学で学ぶたたき上げの人だったのです。
現れた中世の船葬墓(せんそうぼ)
エディスの敷地から発掘現場に通い、ふたりの助手ジェイコブス(ジョー・ハースト)とスプーナー(ジェームズ・ドライデン)の手を借りて始まった発掘作業。
エディスのいとこのローリー(ジョニー・フリン)も加わり、作業は進みます。
そしてある日、ジェイコブスの見つけたリベットをきっかけに、その場に船が埋められていたことに気づき、バジルが掘り出したのは、いにしえの時代の船葬墓(せんそうぼ)の跡。
船の結合部分に使われていた金具の鋲(びょう)が出土したのをきっかけに、土に刻まれた船の全貌が現れた発掘現場にエディスとロバートは、息をのむのでした。
塚に埋まっていたのは、遥かの彼方の時代の偉大な人物を埋葬するための船で、人と馬を使い時間をかけて内陸まで運びこんだはずだというバジル。
その船が中世アングロ・サクソンの船だと予想しながらも、この時まだ、この発見がどれほど歴史的価値があるのか確信が持てずにいたのでした。
世紀の発見に色めき立つ関係者
発掘作業が進み、船の埋葬室の発見に浮足たつバジルのもとにやってきたのは、イプスウィッチ博物館のリードモア(ポール・レディ)や考古学者のフィリップス(ケン・ストット)。
船葬墓の発見は、国家レベルの事案として学位を持たない考古学者の出る幕ではないと、強引に発掘を引き継ぐというフィリップスに腹をたてるバジルでしたが、建設省の命令ということもありどうすることもできません。
フィリップスは、船の発見をしたバジルたちをないがしろにして、舩の内部に入ることを禁じた上、新たな発掘チームを呼びよせるのでした。
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「女性だから」と父親に大学の進学を許してもらえず、学ぶチャンスを失った経験のあるエディスらしいひとことです。
意義ある仕事
発掘チームから外され、発掘現場の廃土の処理をする雑用を押しつけられたことに耐えかねて、一度は発掘現場を離れたバジル。
ところが、妻のメイ(モニカ・ドーラン)の言葉に、自分が「掘る」のは功績を認められたいからではなく、自分にとって遺跡発掘は、過去や現在のためでなく、未来のため。
自分の仕事は、次の世代にルーツを伝え、過去と未来をつなげる意義あるもので、「発掘」は自分にとっての天職だと気づくのでした。
そんな中、発掘チームのペギー(リリー・ジェームズ)が発見したのは、船の埋葬室に残されていた装飾品のひとつ。これを皮切りに、副葬品の出土が続きます。
メロビング王朝の金貨や、銀のブローチといった装飾品は、中世6世紀頃、ローマ人が去った後のイングランドが略奪と物々交換をする衰退した暗黒時代と呼ばれて時代に、実際は文化と芸術が存在したと証明するもの。
それまでのイングランド史の定説を根底から揺るがす世紀の発見に、発掘を指揮するフィリップスは歴史的価値だけでなく宝物の価値についても口にするようになるのでした。
次の世代に残す寄贈
サットン・フーの地中で発見された東西に横たわる27メートルのオーク材の船葬墓は、国中の注目を集めるところとなります。
心臓の病をもつエディスは、残り少ない自分の命の灯や、開戦に心乱れる社会に、船の埋葬室で発見した宝物の行く先に悩みます。
エディスに所有権のある宝を地元イプスウィッチ博物館に預けるか、大英博物館に買い取ってもらうか、発掘を指揮したフィリップスは、それが気がかりでなりません。
そんな人間の儚い命を憂いて心揺れるエディスに、バジルが投げた言葉は、「私たちは悠久の時の一部、人は死んで消え去るわけではない。」そしてエディスが、下した決断。それは、発見した宝の全てを大英博物館に寄贈すること。
エディスは、この博物館史上最大規模の寄贈で、バジルの発見した宝が、より多くの人の目に触れ、語り継がれるように願い、続く未来へと想いを馳せたのでした。
『時の面影』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
以上、ここまで『時の面影』をレビューしてきました。
・たたき上げの人バジル・ブラウン
・それまでの学説を覆す世紀の発見
・後世にルーツを残す決断
未来への想いを感じる作品
夫と亡くし、自身も心臓の病をもつイーディス・プリティが所有する土地にある塚をアマチュア考古学者のバジル・ブラウンに、調査して欲しいと始まった『時の面影』。
戦争が始まってしまうと、学術調査や発掘プロジェクトは全てとまってしまうと手をつけたプロジェクトが、世紀の発見となった物語。
暗黒時代と言われたイングランド中世の当時の学説を根底から覆すサットン・フーの大発見を背景に、エディスやバジル、登場人物の心の動きを細やかにとらえた良質の作品です。
『時の面影』は、いにしえの時代の墓の発掘という、歴史の回顧する物語と思いきや、予想に反して未来に想いを馳せる物語。
1939年、戦争目前にした時代背景で、心沈む社会情勢に中にあって、未来のどこか希望を持ちたい、そんな心情の見えるものでした。
遺跡発掘現場を舞台で、これといった目に映える展開はないものの、その時代に生きる登場人物のひとりひとりに心情を折り重ねるように細やかに描いております。
レイフ・ファインズとキャリー・マリガンの存在感が静かな展開の中でひかり、学位をもたない考古学者、病に悩む母親だけでなく、他に夫との関係に違和感を持つ発掘メンバー、戦争へ招集されるパイロットと、心模様はさまざま。
過去と未来、生と死を見つめ、物語が集約していくのは、先人たちが生きた証を塚に残したように、時をつないでいく人の未来への想い。『時の面影』は、自分のルーツを知り、前に進むことを静かに語っている作品です。
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こなごなになっていたものを復元したその兜のレプリカは、今ではギャラリーの顔をなっています。『時の面影』の公開によって、エディス・プリティとバジル・ブラウンの功績に注目が集まり、博物館へ足を運ぶ人も増えているようです。
この作品をみたら、大英博物館に行きたくなる気持ちが、わかります。是非、ご覧ください。
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