『あまくない砂糖の話』は、私たちが普段、何気なく口にする食品に含まれる糖分にスポットをあてたドキュメンタリー。
新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年以降、すっかり変わってしまった私たちの生活。
長引く巣ごもり生活で運動不足やストレスにさらされながらも、健康に対する意識は、高まっているといいます。
免疫力を高めるのは、栄養バランスの良い食事をとるのが一番!そうとわかってはいても、なかなかそれができないのも事実。
巷には、「免疫力アップ」、「ヘルシー」、「ゼロカロリー」といった、耳に心地いい健康食品が氾濫しており、消費者はそれを手にして、健康にいいと信じて疑うことはありません。
そんな一般的に「ヘルシー」といわれる食品を、俳優のデイモン・ガモーが、自らの身体を実験台に、60日間にわたって摂取した検証結果は、相当なインパクトがあります。
この作品はパンデミックの前、2016年公開されたものですが、健康に気をつけるのに、コロナ禍であろうがなかろうが関係なし。これは絶対に見た方がいい!それだけ、心に波紋を呼ぶ作品です。
それでは『あまくない砂糖の話』について解説していきます。
・ジャンクフードは一切なし!の実証実験
・変わる体型と気分のむら
・食品業界の導き出した「至福点」
・健康であるために
『あまくない砂糖の話』解説・感想
「健康食品」だけを食べる60日間チャレンジ
恋人の妊娠をきっかけに、健康に対する疑問が浮かんだオーストラリア人俳優のデイモン・ガモー。
健康志向が高く、精製した砂糖を口にせず健全な食生活を送っていたデイモンが、父親になる前に普段の食生活の中のひそむ「糖分」についての検証をしようと立ち上がります。
平均的なオーストラリア人が一日で消費する「砂糖」の量は、スプーン40杯程度。普段、人々が無意識に摂取している「砂糖」が人体にどう影響を及ぼすのかを知る実験を始めるのです。
デイモンの無謀ともいえる実験に、血液検査のための臨終病理医や栄養士、健康管理のエキスパートからの協力も得て、チャレンジはスタート。
ルールは、いたってシンプルで、「ジャンクフードはなし。健康にいいと言われる食品だけを食べる。」だけ。
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危険水位に血液数値
健康管理の専門家をバックに、徹底的な健康診断を行い、実験前の身体は、健康そのものとお墨付きをもらったデイモン。
摂取カロリーは、これまでの健康的な食事と変わらない2300キロカロリーと定め、毎日の運動もこれまで通りで、これまで食べていた野菜やナッツ、肉や魚といった脂質も含んだバランスの取れたものから、店で買える「健康食品」と名のつくものに変えることにします。
毎日スプーン40杯分の糖分を摂取するのは、ソーダ類やおかし、アイスは禁止。
それなのに初日の朝食の大盛りのシリアルと、無脂肪ヨーグルトとジュースだけで、砂糖20杯分という衝撃の事実に出会うのです。
そしてデイモンは2日目にして、現代社会ではジャンクフードを食べずとも、「ヘルシー」な加工食品だけで、一日40杯分の砂糖を容易にとることができると知り、愕然とします。
そして、わずか実験開始2週間にして、体重は3キロ増え、血液数値にも大きな変化が現れ「かくれ肥満」の兆候が明らかなるのでした。
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メンタル面の変化
変わらない摂取カロリーと適度な運動、「健康食品」を食べる糖分の摂取方法を変えただけで著しい身体の変化を感じ取っていたデイモンが何よりも驚いたのは、心理面の変化。集中力が落ちて、ハイになったかと思うと、だるくなりぼんやりするのです。
身体に入ってくる大量の糖分に、反応して乱高下する血糖値のおかげで、脳が糖分を常に欲するようになってしまい、精神が安定しなくなっているとの専門家の指摘に、デイモンはショックが隠せません。
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肥満や動脈硬化、心臓病リスクを指摘する、医師たちの言葉と、デイモンの姿に、現実が見えてきます。
食品業界の「至福点」のワナ
砂糖へのあくなき探求心は、とどまるところはなく、肥満体国で、加工食品と砂糖産業のメッカ、アメリカへと取材に向かったデイモン。アメリカに到着したその日に飲んだスムージーに含む砂糖の量は、なんとスプーン34杯分の砂糖。
到着早々に糖分過多な手厳しい洗礼を受けたデイモンは、アメリカで食品業界や砂糖業界の、利益を追求する企業戦略を目の当たりにするのです。
食品大手企業は、人がおいしいと感じる甘味の最適値を割り出しており、砂糖の量を増やすほどに、製品の販売数ものびるからくりを知っていて、甘さの最適値を探し出す研究を続けているというのです。
砂糖が多すぎず、少なすぎない境界点を「至福点」と呼び、その技術はパスタソースや炭酸飲料、シリアルに応用、食品の砂糖の含有量が増えていったのでした。
食品企業は、甘く中毒性のある商品について多くを語らず、利益を追求するあまり消費者の健康は置き去りのまま。
病気や肥満は、消費者の選択の問題であり、自己責任との立場をとっている、いきさつにたどりつくのです。
以上、ここまで『あまくない砂糖の話』をレビューしてきました。
・変わる体型とメンタル
・甘い誘惑と中毒性
・バランスの取れた食事
オーストラリア人俳優デイモン・ガモーが、いわゆるヘルシーな「健康食品」と謳う食品60日間、摂取するチャレンジを追った『あまくない砂糖の話』。
2004年に公開されたマクドナルドを食べまくる『スーパーサイズ・ミー』を彷彿しますが、本作の方がはるかに面白い!というのも、健康食品、加工食品、ジュースと、人が普段から口にするものにスポットを当てているからです。
健康に対する意識が高く、精製した砂糖を一切取らずスタート時には、全くの健康体だったデイモン。一ヵ月もしないうちに、血液の数値は危険水位に突入、気分の浮き沈みが激しくなり、60日後には心身ともに不健康な身体が出来上がってしまうという驚きの結果でした。
暴飲暴食をするわけではなく、健康にいいと言われる食品だけを摂取し、運動も淡々と普段通りにこなした60日間。
フタをあけてみるといわゆる「ヘルシー」な食品の糖分含有量の多さに、ぞっとするのです。
商品を売るためには、手段を選ばない食品業界の戦略と、それに踊らされる消費者。
幼いころから炭酸飲料の飲みすぎで、17歳にして歯がボロボロ、虫歯で無残な状況にある少年を紹介するエピソードには、かなりの衝撃を覚えます。
砂糖の甘さは、薬物よりも中毒性があると、わかりやすく伝えており、最後には、俳優デイモンが、「シュガ~、シュガ~、シュガ~!」とスーパーにならぶ食品に潜む砂糖の存在と、デイモンの実験結果の全てをラップにのせて歌って踊って終わるのです。
『あまくない砂糖の話』は、脳みそに幸せな信号を送る口当たりのいい食品には、必ずと言っていいほど糖分を多く含んでおり、その甘さには危険がはらんでいると警鐘をならす耳の痛いドキュメンタリー。それでいて、説教めいたお勉強の雰囲気はなく、明るくポップ、むしろ面白いのです。
実験を終えたデイモンは、健康な身体を作るにはバランスの取れた健全な食事をとることが、大切と、あたりまえのことを、語っています。
でも、そんなあたりまえのことが、あたりまえじゃない現代社会。
これからの世界を担う子供たちへの食育の重要さも伝えており、いろんな意味で食生活に対する意識が高まっている今にふさわしい、見ごたえの内容になっております。
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