女優・松林うららが初の長編映画プロデュースに挑戦し、4名の監督による連作スタイルで完成した映画『蒲田前奏曲』が9月25日よりヒューマントラストシネマ渋谷、キネカ大森ほかで全国順次公開されます。
今回は、公開に先駆けて「セクハラ」や「#MeToo」に鋭く切り込んだ第3部「行き止まりの人々」で主演を務めた瀧内公美さんと、演出を手掛けた安川監督にインタビューをさせていただました。
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瀧内公美&安川監督インタビュー
−−安川監督に伺いたいのですが、今回「#MeToo」や「セクハラ問題」といった繊細で難しいテーマの作品を撮る上で、その舞台をオーディションにした背景を教えていただけますでしょうか?
安川監督「もともと「#MeToo」を題材にしようと思った時に描きたいことが色々出てきて、最初はストーリー展開があるようなプロットで脚本を書いていたのですが、それだと長編の縮小版みたくなって弱くなると思ったので、一つの時間に絞った方が作品の強度が出ると思ってオーディションの時間をそのまま切り取ろうという結論に至りました。」
−−瀧内さんにお伺いしたいのですが、本作のオファーがあった時に「難しいかも」と思われたとのことでした。その後、本作プロデューサーの俳優の松林さんとどのようなお話をされて出演する決心がついたのか、決め手となった印象的な言葉などがあればお聞かせください。
瀧内公美(以下、瀧内)「まず、お話をいただいた時に『難しい』と思ったのは、自分が普段から考えているような題材ではないということです。「#MeToo」や「セクハラ」に関して興味を持ってない人間が今作に携わっていくことへの怖さみたいなものを感じたので、どうなんだろうかと思ったんですけど…。
その上で参加した理由は2つありまして、『21世紀の女の子』というオムニバス作品に出演させていただいた時に、その中の『ミューズ』という作品で安川監督も参加されていて、試写で拝見した際に作風がとても好きだったので『次、ご一緒させていただけたら嬉しいです」とお声を掛けさせていただき、その安川監督からオファーを頂戴したことが1つめです。
2つめは、松林さんに『なぜこの題材に興味を持ってプロデュースしたいと思ったのか』というお話を聞かせていただいた中で、『自分の実体験を描きたいんだ』とおっしゃっていて、ハラスメントに関しての個人的なことを描くのは怖いことだろうな、と私は思っていたんですけど、この『蒲田前奏曲』の全作品に対する彼女の熱意を感じまして、私が何か携われることがあったら一緒に何かやりましょうとお返事しました。
自分がこの題材について深く考えるというより、与えられた役割を果たすことの方が大きいだろうなと感じたので、私でもできるかなとも感じました。」
−−実際に演じられた役柄がセクハラ・パワハラの被害者であり、実際のオーディションの監督がセクハラ・パワハラの加害者だったという複雑な立場を絶妙に演じられていました。表情や態度で無言の抵抗をされるなど、リアリティがすごく印象に残りましたが、役作りにおいてイメージを膨らませるために参考にされたことや、演じる上で意識されたことはございますか?
瀧内「私は実際にオーディション会場で、私が演じた“黒川”のような人を見たことはなかったので、どこまでリアリティを持っていくのかということを意識しました。
先ほど「無言の抵抗」という言葉が出ましたが、『どういった態度で話を聞くか』とか、オーディションの中でも微妙に変化を作ることに関しては自分の中で気にかけながら演じましたね。
撮影する前日に同じくオーディションに参加する女優・蒲田マチ子役の松林さんとリハーサルもさせていただいて、製作陣4名のみなさんとは当日にセッションしていきました。脚本はありますが、アドリブも挟みながら色んなパターンのオーディション風景を演じさせていただいたという感じでもありましたね。」
−−あの場にいる男性陣も含めてディスカッションをしながら作り上げていったのですね。
安川監督「オーディションのジャッジ側の男性陣は撮影当日から参加だったのですが、撮影当日の俳優さんの瞬発力がすごかったです。制作側の監督役だった大西信満さんも普段から色々な監督とお仕事をされているので、蓄積された言葉がどんどん溢れてきて、それに反応してどんどん変わっていって…。それがすごく演出していてスリリングで面白かったです。」
−−瀧内さんは、プロデューサーでもある松林さんとご一緒のシーンが多かったと思いますが、松林さんとの初共演はいかがでしたか?
瀧内「松林さんご本人と接してみるとすごく淡々としていますし、引っ込み思案で謙虚な方ですが、行動力はとにかく凄いなと思いました。私には女優をやりながら映画のプロデュースはできませんし、自分の経験されたことや、女優として思い悩んでることを作品の題材にし、そしてご一緒したい監督を募ってお金を集めて一本の作品を作り上げていく体力と精神力は本当に尊敬します。私はいつも作品に乗っかっているだけなので…。」
−−「#MeToo」を扱う映画のオーディションで審査するスタッフが全員男性で、しかも監督はセクハラに関して前科ありという描写に若干の違和感を感じた一方で、確かに現実にあるかもしれないとも思いました。スタッフを男性で揃えたり、あえてトップの人にセクハラの前科をつけた配置の意図やこだわりを教えていただけますか?
安川監督「改めて聞くとモリモリな設定だなと思いましたが、オーディションをする側が全員男性というのは珍しいことではありません。それが少し記号的に見えてしまう節もあるかもしれませんが、そこに女性も入れてボヤッとさせるより、男性しかいないオーディションもたくさんあるので、今ある現状に向き合おうと思い男性で揃えました。」
−−瀧内さん演じる黒川瑞季は、目の前のセクハラ加害者に対して最後まで事実を打ち明けることはなく、最後まで歯痒さを感じたとともに、一方であの結末には感慨深いものも感じました。ラストシーンにはどういった狙いがあったのでしょうか?
安川監督「受け手によって解釈が分かれるように、作品内では言い切らないことを大事にしました。瀧内さん演じる黒川は、監督が自分を覚えてるかを試しに来た側面はありつつ、とは言え女優としてひとつの役を獲りに来ている気持ちに嘘はないと思うんです。最後に追いかけてきた二ノ宮隆太郎さんが演じた役についても、色々な解釈で捉えることができますよね。プラスにもマイナスにもどちらにも転べる状況で終えたかった狙いはありました。」
−−今作はフィクションでありながらも「やっぱりこういう世界ってありそうだよね」という設定の中で、「これってセクハラじゃないですか?」というセリフが男性の二ノ宮さんから飛び出したことについて、私は『男が全員そういう人ではない』ことを示唆している気がしました。
安川監督「そのように受け取ってもらえてすごくありがたいです。男性が全員加害者ではなく、男性の中にも問題意識がある人はいるし、女性だから正しく女性と対峙できるわけではなく、女性が女性を抑圧することだってあると思っています。
男性に「これってセクハラじゃないですか?」と言わせたのはおっしゃる通りの狙いですが、彼もただの良い人ではなくて、監督としての野心も持っているだろうし、もしかすると打算的に動いた行動なのかもしれないという含みも持たせています。ただ、やっぱりセクハラに対して批判的な言葉が出てくる人だから、良いように転べる素質はあるよねという人物を男性の中で一人は出したいと思って描いた結果です。」
−−最終的には女性2人が仕事に繋がるような見せ方をされていて、『女性が戦っても味方になってくれる人はいる』ことや、『仕事ももらえるよ』という一種のメッセージ性を感じましたが、あの点の描き方はどういった意図がありましたか?
安川監督「私の中では、本当に『こういう見方が正解』というのは決めずに演出しています。見ていただく人々によって様々な解釈が生まれるような展開で描きました。ただ、そのように捉えてくださったことは本当に嬉しいです。」
−−現実にセクハラを受けて何も言えずにストレスを抱えている女性は多いのも事実だと思います。そんな中で、フィクションとは言え「セクハラ」をテーマにした作品を世に出す社会的意義はどのようにお考えでしょうか?
安川監督「何かしらの結論を出している映画ではなくて、本当に『ここがスタート』と思えるような作品になれば良いのかなと。『蒲田前奏曲』という連作長編映画の一本ですし、映画全体が「セクハラ問題」を扱っているわけではないので、可愛いチラシの中に不意打ちにこういう作品が紛れてるということに意味があるのかなと思っています。」
瀧内「事実として、セクハラ問題はあると思います。松林うららさんが経験したことも入っているので、フィクション作品ですがドキュメンタリー的な部分もあって、そういった意味では松林さんが『こういったこともあることを知ってもらいたい』『もしあなたが私の立場になった時、どんな気持ちになり行動するのか考えてもらいたい』とおっしゃっていたので、映画を通して何かに気付き、または感じ、考えていただけたらこの作品が生まれた意味があるんだろうなと思っています。」
(瀧内公美さん)メイクアップアーティスト / 藤原玲子
(瀧内公美さん)ヘアスタイリスト / YAMA
(瀧内公美さん)衣装協力 / Ray BEAMS
取材場所協力 / ENBUゼミナール
インタビュー・構成 / 佐藤 渉
撮影 / 白石太一
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— ミルトモ【映画・ドラマ・アニメ総合情報サイト】 (@mirtomo_jp) September 21, 2020
『蒲田前奏曲』作品情報
出演:伊藤沙莉、瀧内公美、福田麻由子、古川琴音、松林うらら、近藤芳正、須藤蓮、大西信満、和田光沙、吉村界人、川添野愛、山本剛史、二ノ宮隆太郎、葉月あさひ、久次璃子、渡辺紘文
監督・脚本:中川龍太郎、穐山茉由、安川有果、渡辺紘文
企画:うらら企画
製作:「蒲田前奏曲」フィルムパートナーズ(和エンタテインメント、ENBUゼミナール、MOTION GALLRY STUDIO、TBSグロウディア)
特別協賛:ブロードマインド株式会社、日本工学院
配給:和エンタテインメント、MOTION GALLRY STUDIO
公式サイト:https://www.kamataprelude.com/
公式Twitter:@kamataprelude
第3番『行き止まりの人々』あらすじ
監督・脚本:安川有果
出演:瀧内公美、大西信満、松林うらら、吉村界人、二ノ宮隆太郎、近藤芳正
映画のオーディションを受けたマチ子。
セクハラや#metooの実体験やエピソードがあれば話すという内容だったが、皆、思い出すことに抵抗があり、上手く演じられない。
そんな中、マチ子の隣にいた黒川だけは迫真の演技を見せる。
マチ子は共に最終選考に残ったが…。
9月25日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷・キネカ大森にて他で全国順次公開!