『太陽』のメガホンを取った入江監督いわく「明確な答えを提示して終わるのではなく、解釈を観客に丸投げしている」というエンディングは必見!
思わず寓話を忘れてしまうリアル感にため息が出ること間違いなしです。
- 「怖いもの見たさ」をくすぐってくる冒頭10分!
- 設定がピカイチ、魅力的で引きのあるハイブリット・ファンタジー映画。
- 光と闇、衰退そして繁栄。本当はどっちが幸せ?
- 無音が余韻を引き立たせる秀逸な演出に唸る…心に沁みるエンディング!
あなたはこの作品を観て何を考えるか…?脳と心をフル稼働させて観る珠玉のSF映画です。
それではさっそく映画『太陽』をネタバレありでレビューしたいと思います。
目次
『太陽』作品情報
作品名 | 太陽 |
公開日 | 2016年4月23日 |
上映時間 | 129分 |
監督 | 入江悠 |
脚本 | 入江悠 前川知大 |
原作 | 前川知大 |
出演者 | 神木隆之介 門脇麦 古川雄輝 綾田俊樹 水田航生 高橋和也 森口瑤子 村上淳 中村優子 鶴見辰吾 古舘寛治 |
音楽 | 林祐介 |
『太陽』あらすじ
バイオテロによって人口が激減してしまった21世紀初頭の世界で、ウイルスへの抗体を持った新しい人類が誕生する。
優れた知能と若く健康な肉体を誇る彼らは、自分たちをノクスと呼んで社会を支配するように。
しかし、紫外線に耐えることができずに夜間しか活動できない弱点があった。
一方、ウイルスの感染を免れた旧人類はキュリオと呼ばれ、ノクスから見下される存在になっていた。
キュリオの青年・鉄彦(神木隆之介)はノクスに憧れるが、幼なじみの結(門脇麦)はキュリオの復権を願っていた。
出典:シネマトゥデイ
【ネタバレ】『太陽』感想レビュー
設定が魅力的で面白い、近未来なのも絶妙
『太陽』は、劇団イキウメが上演した前川知大が原作の大人気演劇を映画化しました。
あの蜷川幸雄演出版の舞台も作られたほどの名作です。
舞台版のコミカルさを封印し、よりシリアスに描かれています。
観ると感情と脳が疲れる…それぐらい深く「考えさせられる」作品なのです。
<21世紀初頭…ウィルスにより人類の大半が死滅。かろうじて生き残った人類は、2つに分かれて暮らしていた。>
このテロップと、画面には夜景に彩られたビル街と真っ暗で荒れた街…2つの対照的な都市映像が映し出されます。
旧人類・キュリオと新人類・ノクスに分断された世界を、まず視覚から理解できるような画から映画『太陽』がはじまります。
新型ウィルス蔓延した際に、偶然ウィルスに抗体を持っていたのが「ノクス」と呼ばれる人たちです。
頭も良く、知能高めな上に理性的、超健康な肉体を持ち、おまけに裕福で心身共に恵まれた暮らしをしています。
弱点は2つ、太陽の光に極端に弱いということと、子どもをなかなか授かりにくいことです。
陽に当たると死んでしまうことから完全に「夜に生きる人々」です。
開始早々、けたたましく鳴り響くサイレン音に心が揺さぶられます。
警報音は、暗く悲しげに聴こえる短調で構成され、人間が緊張感を感じる音なのだそうです。
「まもなく日の出です。キュリオ地区に外出中の方は、速やかに戻りましょう。」
このサイレンと警告放送は、映画『太陽』の中で何度も登場するとても重要な描写です。
ノクスを太陽から守るための大切なモノです。
一方「キュリオ」はノクスとは違い、ウィルスに感染したら死んでしまいます。
彼らは感情表現が豊かで、土を耕して農作物を育て生きています。
今の私たちとそう変わらない生活を営んでいます。
貧しいけれど、陽の光を体に浴びて、太陽と共に生活しています。
絶妙にありそうで、なさそうな設定の妙に憑りつかれてしまいます。
「怖いもの見たさ」をくすぐってくる冒頭10分
作中の世界では、数十年前に新型ウィルスで多くの人が亡くなりました。
それ以来、人類は「キュリオ」と「ノクス」2つの種族に分かれて生活しています。
新人類であるノクスがキュリオを管理する世界になっています。
2つの居住区は分断され、キュリオは隔離、堅固なゲートで閉ざされていました。
キュリオたちの中では、四国の自治区と呼ばれる地域では、ノクスに頼らないで立派で裕福な生活をしている人たちもいる…そんな噂が流れていました。
ある時、噂を聞いたキュリオの青年・奥寺克哉(村上淳)がノクスのゲート警備員を殺害して逃亡するという衝撃的な事件が起こります。
「俺たちだっていい暮らししたっていいじゃないか!同じ人間だろー!」
ノクスなんていらない、革命を起こしたい…これが克哉の犯行動機でした。
この事件により、克哉の村はノクスから10年間にわたり経済的な制裁を受けることになってしまいます。
克哉がノクスを殺す描写が妙にリアリティーがあります。
太陽の光を浴びて、煙を出し溶けていくシーンはまるでホラーでした…。
怖い…冒頭10分の印象はコレに尽きます。
でも、続きが気になるという「怖いもの見たさ」をくすぐってくるんですよね。
克哉(村上淳)の甥っ子・奥寺鉄彦(神木隆之介)が抱くノクスへの想い
「人間が差別されてはいけないように、ノクスとみんなは平等だ」
教師がいないキュリオの村学校で日替わりで教える大人・生田草一(古舘寛治)は、キュリオの子供たちにそう教えます。
草一の話も聞かず、鉄仮面製作に没頭する克哉の甥っ子・鉄彦(神木隆之介)。
彼は「ノクスの学校には、工作とか運動がある…自分たちとノクスが平等なんて嘘だ!」と不満を持ち、ノクスに強い憧れを抱いていました。
実は「キュリオがノクスになる方法」が存在します。
それには変換手術をする必要があります。
しかし、この手術は医学的に若年層のみに限られたもので、誰でも受けられるわけではなく変換志望者から抽選という形をとられています。
鉄彦の叔父・草一の事件以降、この村では抽選が打ち切られてしまっていました。
そんな鉄彦に朗報が!ノクスの新都心大宮区役所から使者の役人・曽我征治(鶴見辰吾)が訪れ10年ぶりに経済封鎖が解かれることになったのです。
<20歳以下の若者1名がノクスへの転換手術を受けられる>
憧れのノクスになるチャンスが自分にも巡ってきたことに、鉄彦は心躍ります。
「変換志望者届」の書類を提出し、抽選結果を心待ちにするのでした。
鉄彦(神木隆之介)の幼馴染で草一の娘・生田結(門脇麦)の想い
10年の経済封鎖で307人だった村人は44人、度重なる村人の流出…この村を捨てた人の中には、かつて草一の妻だった玲子(森口瑶子)もいます。
娘の結(門脇麦)を捨てて、手術をしてノクスになってしまっていました。
結は3歳、幼くして母に捨てられました。
そのため、結はノクスになりたいという気持ちが微塵もありません。
キュリオとして生きていく、そう決めている彼女の夢は四国自治区に行くことです。
父・草一は子ども達へ「平等」を説きながらも、キュリオの未来に疑問を感じていました。
彼は、結の想いを知りながらも勝手に「変換志望者届」を出してしまうのです。
大喧嘩する父と娘…親子の心は揺れ動きます。
玲子はノクスになり、役人・曽我征治の妻となっていました。
なかなか授からず、養子を迎えるというときに、ふと玲子は結のことを思い出します。
結をノクスにして養子に…玲子はそんな考えを持って結に会いにいきます。
その提案を突っぱねる結でしたが、運命に導かれたのか結はノクス変換手術の抽選に受かってしまいます。
結が手術を受けるというのが村中に伝わります。
佐々木拓海(水田航生)は好きな気持ちが抑えられず結をレイプ、幼馴染の鉄彦には妬まれてしまい…結にとって胸が苦しいことが続きます。
鉄彦(神木隆之介)とノクスのゲート駐在員・森繁富士太(古川雄輝)の友情
「なんでノクスに生まなかった?俺だって…いいモン食って、いい生活したかった。こんな所、もう嫌なんだよ!」
抽選が駄目だったことを知り絶望した鉄彦は、母・奥寺純子(中村優子)に馬事雑言を浴びせます。
純子に一発ビンタされるまで、感情の限り叫び散らします…。
鉄彦は、ノクスのゲート駐在員・森繁富士太(古川雄輝)と友達になっていました。
ノクスらしい穏やかな性格で、頭が良く上品な森繁は、はじめ鉄彦と関わらないようにしていました。
しかし、彼の人懐っこさに魅了されていきます。
次第に人種の垣根を越え、心を通わせていくようになります。
森繁からノクスについて聞くたびに「ノクスになりたい」という想いが膨らんでいきます。
抽選結果は、鉄彦の生きる希望を打ち砕くものでした。
落ち込む鉄彦を元気づけようと、森繁が持ってきてくれたのは日本地図。
「鉄彦、俺と一緒に旅に出ない?」
そこには鉄彦の行ったことのない世界が描かれていました。
昼は鉄彦が運転して、夜は森繁が運転する…24時間稼働の2人旅を提案されます。
森繁の優しさに少し元気を取り戻す鉄彦でしたが…その矢先、あの恐ろしい男が帰ってくるのです。
凶器の男・克哉(村上淳)の帰還と母に訪れた悲しい運命
克哉が村に戻ります。
森繁に暴行し、手錠をかけてゲートにくくってしまいます…。
もうすぐ夜明けという時間帯、警報音と放送が鳴り響きます。
このままでは森繁が死んでしまう…。
最終手段、手を切り落とし森繁を布にくるんで、光を避けるため鉄彦は家に連れ帰ります。
悲劇は続き、家ではウィルスに侵された母・純子が亡くなっていました。
さらに嘆かわしき事態が重なります。
克哉と克哉の帰還を知った村人たちが押し寄せ、純子の亡きがらの傍らで乱闘になります。
悲しみのあまり乱闘に加わり、克哉を殺めようとする鉄彦を煙を出しながら必死に止める森繁…もう画面中が収集つかない怒涛の展開を迎えます。
あまりにハードでスピーディーで、てんやわんやな様相に、観ていて頭がパニック状態でした。
感情的で歯止めが効かない、人間のどうしようもない愚かな部分が詰まっていたシーンで恐ろしかったです。
森繁が身を呈して鉄彦を止めてくれてよかった…2人の確かな絆に胸アツでした。
娘がノクスに。望んでいたはずなのに…草一(古舘寛治)に垣間見えたジレンマが切ない。
幾多の悲しみを超えて、とうとう結はノクスになる決断をします。
玲子の血を結に流すという壮絶な変換手術を終え、無事にノクスになった結は草一に会いにきます。
モルダウのクラシック音楽に合わせて流れた結の手術シーン。
はじめの拒絶反応を示す描写がめちゃくちゃ怖かったです。
要所に恐怖感を織り込んでくるあたりが、飽きない理由な気もします。
変わってどんな感じだ?と心配そうに聞く草一に「何かスッキリって感じ。今までいろいろ悩んでたのがバカみたい。」と、結は憑き物でもとれたような涼やかな表情で答えます。
体の奥から力が湧き、すごく自由になった気分がするそうです。
晴れやかな表情でゲートの向こう側へ去ろうとする結に、寒いから…と草一が差し出したキュリオ時代に愛用していたマフラー。
彼女がいらないと断った瞬間がすごく切なかったです。
「みんながもっと楽な生活を送れるようになるといいわよね!」
当たり前かもしれないけど、もうノクス側の人間…娘は内面から別の人になってしまっていました。
自分が後押ししたはずなのに、泣きながら見送る彼の背中からにじみ出る「哀愁」が半端なく、考えさせられました。
『太陽』まとめ
【7/9(土)~7/15(金)タイムスケジュール】
福井での上映がスタート致しました!!
③メトロ劇場(福井)⇒17:30https://t.co/psosiyqQ6N
※劇場、上映開始及び上映終了日は変更となる場合がございます pic.twitter.com/DCMQB33FgW— 映画「太陽」公式 (@eigataiyo) July 8, 2016
以上、ここまで映画『太陽』についてネタバレありで紹介させていただきました。
- 感じる余韻の強さ1位に挙げたい作品、深く重たいけど苦しくない不思議な映画。
- 「上品さ」でオーディションを突破したという古川雄輝の飄々として知的でどこか優しい森繁の演技が良い!
- 演技派が魅せる表情や体の動きで伝わる心理描写がすごい、あっという間に画面に釘づけになる。
- 実社会にも存在する差別や区別について深く考えさせられ、じわじわと心に沁みる。
- ラストの画力と終え方が秀逸、ラストを観ただけでこの作品を観る価値あり!