『プラダを着た悪魔』『レ・ミゼラブル』のアン・ハサウェイが主演、そして製作総指揮を務めたSFコメディ映画『シンクロナイズドモンスター』。
失業して酒浸りになっていた主人公が何故か突如現れた怪獣とシンクロするようになるという異色の設定のもと描かれた作品です。
監督に『ブラック・ハッカー』のナチョ・ビガロンド、共演に『モンスター上司』シリーズのジェイソン・サダイキスが参加し、風変わりで奇抜な映画作品の誕生を支えました。
今回はそんな映画『シンクロナイズドモンスター』をネタバレありでご紹介します。
目次
『シンクロナイズドモンスター』作品情報
作品名 | シンクロナイズドモンスター |
公開日 | 2017年11月3日 |
上映時間 | 110分 |
監督 | ナチョ・ビガロンド |
脚本 | ナチョ・ビガロンド |
出演者 | アン・ハサウェイ ジェイソン・サダイキス ダン・スティーヴンス オースティン・ストウェル ティム・ブレイク・ネルソン アガム・ダーシ ルキヤ・バーナード |
音楽 | ベアー・マクレアリー |
【ネタバレ】『シンクロナイズドモンスター』あらすじ
怪獣の出現
韓国にて、とある少女が人形をなくしてしまい、辺りが暗くなっても夜道を探していました。
母親が今日はもう帰ろうと促しますが、少女は諦められません。
やがて人形を見つけた少女は、夜の街に現れた何かを見上げて悲鳴をあげます。
そこには巨大な怪獣が立っていました。
ところ変わって、アメリカ・ニューヨーク。
グロリア(アン・ハサウェイ)は、恋人のティム(ダン・スティーヴンス)と同棲しています。
1年前までウェブライターをしていたグロリアですが、ふさわしくない記事を書いたとしてリストラの対象となり解雇されて以降、酒浸りの生活を送っていました。
この日も酒を飲んで朝帰りをし、出勤前のティムに「愛しているけどもう付き合えない」「ここを出ていってくれ」と家を追い出されてしまいます。
意気消沈したグロリアは、故郷であるニューハンプシャー州の田舎町に戻ることにしました。
仕方なく帰ってきた実家には、今はもう家族は住んでおらず、家具も何もありません。
とりあえずマットレスを購入した帰りに、幼馴染みのオスカー(ジェイソン・サダイキス)と再会します。
オスカーは父親を亡くしたことをきっかけに、父親が経営していたバーを継いでいました。
また、母親もすでに亡くなっていましたが、グロリアは葬式に参列したにもかかわらず、オスカーの母親の死を覚えていませんでした。
オスカーの経営するバーを訪れたグロリアは、店内が改装され、店の広さが半分ほどに縮小されていることに気がつきます。
予算が足りず、すべてを改装することができなかったため、半分だけを今風に改装し、残りの半分は父親が生きていた頃のウエスタン風の内装のまま、バックヤードとして使われていました。
グロリアは店の常連でありオスカーの友人であるガース(ティム・ブレイク・ネルソン)とジョエル(オースティン・ストウェル)を紹介され、バーの閉店後に四人で朝まで酒を飲んで盛り上がりました。
ジョエルはグロリアを好意的に見ており、グロリアもまんざらでもない様子ですが、ジョエルがグロリアにキスしようとすると、さすがに驚いて避けてしまいます。
それを見ていたオスカーも、ジョエルに注意しました。
朝が来て、グロリアはマットレスを背負い帰宅しようとしますが、途中にある小さな公園を通る際にベンチに座ると、そのまま眠ってしまいます。
姉からの電話で目を覚ましたグロリアは、あるニュースを聞かされます。
それは韓国・ソウルに巨大な怪獣が現れたというニュースでした。
すぐにネットで動画を見たグロリアは、衝撃を受けてティムに電話をかけます。
しかし、9時間も前のニュースだったので、この9時間何をしていたのかとティムに呆れられてしまいました。
突如出現し、行方をくらました怪獣の存在は世界を震撼させ、国連は世界中に停戦を呼びかけ、米軍をも派遣する大騒ぎとなっています。
ニューハンプシャーの田舎町でも大きな話題となり、オスカーのバーの客たちもニュースに釘付けになっていました。
その中の一人であるグロリアは不安を取り去るように再び朝まで酒を飲み、また同じ公園のベンチで眠ってしまいます。
ティムが出勤する頃に目を覚ましたグロリアは改めて電話をかけてみますが、相変わらず酒浸りであることを見抜かれ、すぐに電話を切られてしまうのでした。
帰宅してマットレスに空気を入れていると、オスカーがやって来ます。
グロリアは酔っていて覚えていませんでしたが、酒の席でオスカーからテレビを譲ってもらう約束をしたようでした。
約束通りテレビを持ってきてくれたオスカーから、またソウルに怪獣が現れたと聞かされます。
グロリアは驚いて息を飲みました。
グロリアと怪獣の繋がり
グロリアは25年前にも一度だけ韓国に怪獣が現れたことを知ります。
大きな被害も証拠もなく、かろうじて残された写真も信憑性が低かったことから、当時はいたずら扱いされていました。
しかし、こうして怪獣が現れた今、そこには関連性があるのではないかと囁かれています。
怪獣のニュースが気になるグロリアでしたが、また酔って記憶をなくしていたことがわかります。
それには、オスカーとの「バーで働く」という約束を忘れていたことで気がつきます。
グロリアは考え直し、バックヤードになっているウエスタン風のエリアも開放して店として使うことを条件に、オスカーのバーで働くことになりました。
仕事が決まって一安心のグロリアですが、怪獣のニュースを見てあることが目につきます。
グロリアの癖である頭頂部を掻く仕草を、怪獣もしていたのです。
まさか…と思いながら改めて怪獣の姿を調べてみると、マットレスを背負っている様子や、ティムと電話をしながら頭頂部を掻いている様子など、グロリアがした動きと一致している気がしてきます。
そして、その時にグロリアがいた場所や時間から、午前8時5分頃にあの小さな公園に入ると、韓国に怪獣が出現するのではないかと予想しました。
グロリアは自分の考えが正しいのかどうか試してみることにします。
午前8時5分に小さな公園に入り、左手を挙げて降ろし、その次に両手を挙げる仕草をしてみせます。
すると、ニュースで見た怪獣は、全く同じ動きをしていました。
グロリアは驚き、大変なことをしてしまったと慌てます。
思わずグロリアはティムに電話をかけますが、その最中にオスカーとジョエルがソファを持ってやって来ます。
通話中だったにもかかわらず、オスカーとジョエルの対応に気を取られてしまったグロリアは、ティムの存在を忘れて出て行ってしまいました。
その日の夜、閉店後のバーでオスカー、ガース、ジョエルの三人といつも通り飲んでいたグロリアは、怪獣と自分の繋がりについて話そうと、あの公園に連れて行きます。
午前8時5分が近づき、スマホでソウル攻撃のライブ中継を見るよう三人に指示すると、グロリアは公園に立ち入りました。
グロリアが適当に動いてみせると、ソウルに現れた怪獣も同じ動きを始めます。
怪獣とグロリアの動きがシンクロしているのを見て、三人は驚きの声を上げました。
三人はグロリアのいたずらだと大騒ぎしますが、グロリアはお腹の辺りを抑えて痛がります。
そこはたった今、怪獣がミサイルで攻撃を受けた場所でした。
その直後、怪獣の頭にヘリコプターがぶつかり、グロリアは頭を押さえて転んでしまいます。
オスカーが急いで駆け寄り、グロリアを助けました。
目を覚ましたグロリアは、自分が転倒したことで韓国に死者が出たのではないかと慌てます。
しかし、そこで聞かされたのはさらに衝撃的な話でした。
オスカーがグロリアに駆け寄ったように、韓国ではロボットが怪獣に駆け寄っていました。
グロリアは怪獣に、オスカーはロボットに…。
何故こんなことが起きているのか考えあぐねるグロリアは、25年前の自分たちのことを思い出そうとしていました。
豹変したオスカー
グロリアはオスカーに頼んで、韓国人のお店で韓国語を教わります。
何故なら、韓国の人たちに伝えたいことがあったからです。
グロリアは午前8時5分に公園に立ち入ると、地面に「ごめんなさい、もうしません」と教わった韓国語で書き記しました。
グロリアのこの行動によって世界中が驚かされ、怪獣が意思疎通をできることから人間の味方なのではないかという意見が出始めます。
これをきっかけに、グロリアは禁酒することを決意しました。
ジョエルと一夜をともにしたグロリアは、ロボットが韓国で威嚇行動をしているというニュースを目にして、慌てて公園に向かいます。
すると、酔っ払ったオスカーとガースが公園に立ち入り、いたずら心からふざけていました。
グロリアは怒って公園から出るよう促しますが、グロリアがジョエルと関係を持ったことを察したオスカーは、嫉妬からか拒否します。
グロリアは公園に入って、オスカーにビンタをして従わせました。
この様子はもちろん大きなニュースとなり、あたかも怪獣がロボットから世界を救ったように報道されます。
グロリアはそんな状況を危惧しますが、オスカーはロボットが怪獣にビンタされる動画を見ては笑い声をあげていました。
さらに、オスカーは禁酒中のグロリアに酒を勧め、拒まれると「飲まないなら公園に行く」と脅しました。
調子に乗ったオスカーが公園に向かったので、追いかけて行ったグロリアと取っ組み合いになります。
二人はいよいよ対立し、グロリアはバーの仕事を辞めると伝えますが、オスカーはグロリアが辞めるならソウルの一区画を踏み潰すと、再びグロリアを脅すのでした。
翌日、酔いが覚めて反省したのか、ジョエルとともに家具を持ってやって来たオスカーはグロリアに謝罪します。
酔って失敗する気持ちがわかるグロリアは、オスカーを許しました。
その後、仕事でニューハンプシャーにいるというティムから連絡が来て、グロリアはティムが泊まっているホテルへ向かいます。
ティムが仕事で来たというのはおそらく嘘で、どうやら復縁するためにグロリアに会いに来たようでした。
グロリアはティムをオスカーのバーに連れて行くことにしました。
オスカーはティムがグロリアをニューヨークに連れ帰ろうとしていることを知ると、激昂して店の中で花火を打ち上げ、店内をボロボロにしてしまいます。
そんなオスカーを見て気が狂っていると思ったティムは、明日の昼に出発するとグロリアに伝えて帰って行きました。
ティムと帰るか悩みながらグロリアが帰宅すると、家の中でオスカーが待っていました。
仲が良かった親同士が交換していた古い合鍵で、勝手に入り込んでいたのです。
オスカーの行動に恐怖すら感じるようになったグロリアは、25年前のとある出来事を思い出しました。
過去の事件と決着
25年前、グロリアとオスカーは小学生でした。
ある日、模型作りの宿題が出され、オスカーの模型は小学生らしい完成度のものでしたが、グロリアの模型は韓国の有名な建築物や街並みを再現した見事なものでした。
二人がそんな模型を抱えて登校していると、グロリアの模型が強風によって飛ばされてしまいます。
オスカーは飛んで行ったグロリアの模型を追いかけて茂みに入っていきました。
後を追ったグロリアは、茂みの中にいるオスカーがせっかく無事だったグロリアの模型を何度も踏みつけて破壊しているのを見てしまいます。
グロリアが憤った瞬間、雷が落ちてきて、二人は吹き飛ばされます。
その時、グロリアが持っていた怪獣と、オスカーが持っていたロボットが地面に転がり落ちました。
時を同じくして、韓国には怪獣が出現し、冒頭に登場した少女が悲鳴をあげるのでした。
小学生時代のこの事件を思い出したグロリアは自らの認識を改めます。
グロリアは、オスカーがグロリアに好意を抱いているために、他の男性に嫉妬して暴走していると思っていましたが、それは勘違いだと気がつきました。
オスカーはグロリアの人生に嫉妬していたのです。
リストラされてしまったものの、グロリアはウェブライターという職に就き、大都会ニューヨークで暮らしていました。
生まれ育った田舎町で父親から継いだバーを経営しながら、何の変哲もない生活を送っているオスカーは、そんな自分とグロリアを比べてしまったのかもしれません。
グロリアが怪獣とシンクロするという異常な事態にさえ嫉妬していたため、自らもロボットとシンクロしているとわかり、暴走するようになったとグロリアは考えました。
グロリアはオスカーの目の前でティムに電話をかけ、一緒に帰ることを約束します。
この挑発に反応したオスカーは、公園に向かうとグロリアを殴り、地面を踏みつけて大暴れしました。
グロリアがニューヨークに戻れば、毎日こうしてソウルの街を破壊するといいます。
グロリアはこの事態を解決するために、ある計画を思いつきます。
ティムとの約束を果たせなくなったグロリアは詫びの電話を入れて、ある場所に向かうために飛行機に乗りました。
翌日、今日も午前8時5分がやって来ます。
オスカーは公園に立ち入り、ソウルにはロボットが出現。
ソウルでは人々が避難を始めていました。
その頃、ニューハンプシャーにいるオスカーは地響きを感じ、辺りを見回します。
実は、グロリアはソウルに来ていて、出現したロボットに一歩、また一歩と近づいていました。
グロリア本人がソウルにいることで、ニューハンプシャーのあの小さな公園に、グロリアとシンクロしている怪獣が現れたのです。
オスカーは地響きの正体が怪獣の足音だと気づきますが、時すでに遅し。
怪獣はオスカーを捕らえます。
「降ろしてくれ」と叫ぶオスカーを、グロリアは放り投げるのでした。
その時、ソウルではロボットが遥か彼方に飛んでいくのを見た人々が、歓喜の声をあげていました。
ロボット消滅のニュースが流れる中、ソウルのバーへ立ち寄ったグロリアは、ふと涙を流します。
そこで、店員に「お酒飲みますか?」と聞かれ、グロリアは頭を抱えるのでした。
【ネタバレ】『シンクロナイズドモンスター』感想
ダメ女のちょっと変わった自分探し
主演のアン・ハサウェイが惚れこみ、製作総指揮も務めるほど熱を上げていた作品がこの『シンクロナイズドモンスター』。
本作と同じく奇抜な作風の映画である『マルコヴィッチの穴』と比較しながら脚本を読み込んでいったと言います。
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しかし、『シンクロナイズドモンスター』は特撮ものやSF、さらにはコメディの要素を纏いながらも、主人公のグロリアが自分と向き合うまでを描いたヒューマンドラマになっていました。
グロリアは田舎町からニューヨークに上京して、ウェブライターとして働き、同棲している恋人もいて、公私ともに順調でした。
そんなグロリアが失業、アルコール依存、破局と転落していくところから物語は始まります。
上京して上手くいかなかったとはいえ、都会に染まった美女であるグロリアは田舎町に帰ってみると悪目立ちします。
ちょっと浮いていて、故郷とはいえ他所者のように見られてしまいます。
幼馴染みのオスカーと再会することで、オスカーが経営するバーという居場所ができますが、実はグロリアとオスカーはあまり親しくないような雰囲気です。
近所に住んでいたこともあり、親同士も子供同士も近い距離で暮らしてはいたけれど、少なくともグロリアにとってはとても重要な存在ではなかったということが露見します。
そのことが一番わかりやすく表れているのが、グロリアがオスカーの母親の葬式に参列しておきながら、亡くなったこと自体覚えていなかった件だと思います。
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また、このことからはグロリアが自分中心の考え方を強く持っており、自身の生活が傾いていることで他人への配慮が欠けていることもわかります。
しかし、後半の展開に至るのに配慮云々はあまり関係なく、オスカーの人間性が現れていると思われます。
オスカーは父親の死後、バーを継いだことで店の改装を行っていますが、時代遅れのウエスタン風から今風のバーに仕上げていました。
とはいえ、資金が足りなかったために半分しか完成しておらず、見栄を張りきれない出来になっています。
そんなオスカーが封印したウエスタン風のエリアを解き放ってしまったのは、他の誰でもないグロリアです。
その解放とともにオスカーの嫉妬心も解放されていき、グロリアへの攻撃が始まります。
オスカーの心の内には気づかないまま、グロリアはガースやジョエルといった男性たちと親しくなっていきますが、これもどこかよそよそしさを感じさせます。
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そもそもオスカーと彼らの関係性もどことなく脆い感じで、ガースとオスカーはあるきっかけで簡単に罵り合って仲違いしてしまいますし、ジョエルはオスカーに手下のように扱われていました。
こういったことからも友人同士で行われるパワハラだったり、身近な男性から女性へのモラハラだったりと、かなり重く難しい問題へ踏み込んでいます。
あらゆる作品で怪獣やモンスター、クリーチャーといった存在が“何かのメタファー”として登場するように、『シンクロナイズドモンスター』でもメタファーとして存在しているのです。
ただ、結局“何のメタファー”なのかは明言されていないですし、わかるようにも描かれていないのが本作であり、この点が鑑賞後のモヤモヤを生み出しているともいえます。
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しかし、グロリアが傾いた人生を立て直していく過程に“怪獣とシンクロした自分”との決別があり、“ロボットと化した幼馴染み”との決闘があるわけです。
ある種、怪獣とは、モンスターとは、人間自身だぞといわれているように感じて、自らの日頃の行いを顧みる良い機会を生み出す作品になっていると思います。
グロリアがラストシーンで「お酒飲みますか?」と聞かれて頭を抱えていますが、この一件から自分を見つめ直し本当に反省しているのならば、きっとお酒を断ったことでしょう。
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『シンクロナイズドモンスター』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
いかがだったでしょうか。
アン・ハサウェイがダメ女を演じた映画『シンクロナイズドモンスター』。
特撮やSF、コメディの皮を被った自分探しの物語でした。
思わず身につまされるような想いをする方も多いのではないでしょうか?
ぜひ、一度ご覧ください!