【隅田靖監督インタビュー】映画『子どもたちをよろしく』に込めた想いやメッセージ性とは?

【隅田靖監督インタビュー】映画『子どもたちをよろしく』に込めた想いやメッセージ性とは?

(C)ミルトモ

2020年2月29日より公開される映画『子どもたちをよろしく』。

子どもたちの心の中の闇を振り絞るような叫びと、社会の綻びをメッセージ性高く発信している作品になっています。

文部科学省で長らく日本の子どもたちの実態と向き合ってきた元文部官僚の寺脇研さん、前川喜平さんが「子どもたちの叫び」を受け取ってほしいと願って企画し、それを映画という形に仕上げたのが『ワルボロ』を手掛けた隅田靖監督です。

今回は、映画『子どもたちをよろしく』の撮影エピソードや、作品に込めた想いについてお伺いしました。

隅田靖監督インタビュー【映画『子どもたちをよろしく』】

『子どもたちをよろしく』の監督オファーが入った経緯

−−寺脇研さん、前川喜平さんという元文部官僚から「子供たちを取り巻く状況」を題材に描いた今作『子どもたちをよろしく』の監督のお話があった経緯を教えていただけますでしょうか?

隅田監督「正確には寺脇さんからのお話だったんですが、寺脇さんはもともと私の師匠である澤井信一郎監督の知り合いで、官僚を辞められてから映画評論家や学校の先生をされている時に日本大学芸術学部で教えている方で、ある日の授業でゲストで澤井監督と一緒に行かせていただいていて、そこから寺脇さんとはお付き合いが始まりました。

隅田靖監督インタビュー

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授業が終わって澤井監督が早めに帰られた後に、寺脇さんと二人きりになり、そこで『子どもたちをよろしく』の骨格である「デリヘル嬢の運転手の息子がいじめられて自殺する。いじめの張本人の姉が実はデリヘル嬢である」という話を聞きました。僕はその時即座に「これは映画にしたら面白いな」と思い、そこから話が始まりました。

寺脇さんには私の監督第1作目の『ワルボロ』(2007年)を高く評価していただいており、映画の撮影に至りました。」

−−企画内容はお二人で一緒に考えられたんでしょうか。

隅田監督「寺脇さんは官僚時代に色々ないじめ・自殺問題に関わっており、事案をたくさん知っていたので、企画は寺脇さんが考えられて私のところに持ってきたんです。もともと私も例えば川口市で中学生が祖父母を殺してしまった事件などに似たようなものを映画化しようと脚本を書いて破綻していた時期もあったので、それを知っている寺脇さんは「隅田は子供の問題に興味があるんだな」と思われたのだと思います。

『ワルボロ』は松田翔太新垣結衣をメインキャストに立てた全国公開の映画だったので、予算も1億円以上、撮影日数も40日あったんですが、12年前にそれがヒットしなかったのでそれからもう監督ができていなかったんです。もう監督はできないと思っていたのですが、本作『子どもたちをよろしく』は脚本に3年かけて、自分の脚本で監督もできてよかったなと思ってます。」

隅田監督自身の体験も反映されている

−−別のインタビューで、脚本を書く際に「自分自身の体験と向き合うことになった」とお話されていたのですが、映画にご自身の体験が反映されたのはどのような点ですか?

隅田監督「いい質問ですね!家庭の問題なので難しいですが、我が家は私が4歳か5歳のころに父親が亡くなって、途中から新しい父親が家に来たんです。私自身は新しい父に馴染んだんですが、6歳上の兄が拒否反応を示したんです。自分の母親が奪われたという気持ちもあるじゃないですか。私の家庭は『子どもたちをよろしく』の優樹菜(演/鎌滝えり)に近いものがありますね、少し形は違うけど。

隅田靖監督インタビュー

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親はいろんな事情があって再婚するわけですけど、あんまり子供がそれによってどれくらい傷つくかは考えてないんじゃないですかね。今は知らないけど、私が子供のころはそういうことはありました。両親の仲が悪くて、父親が浮気性で、母親は逃げちゃうみたいな家庭で子供が育つとどうしても辛い記憶が残り、そういう記憶に立ち向かっていかないと本作の脚本を書くことはできなかったですね。そんなに表には出てこないですが、作中に出てくる2つの家庭には反映されてます。」

−−題材としては子供の問題にフォーカスして撮られた作品ですが、同じくらいの分量で川瀬陽太さん演じる洋一の父・貞夫のギャンブル依存症や低賃金の仕事に甘んじるしかない状況など、大人の問題も描かれていたのは何か意図があったのでしょうか。

隅田監督「どうなんでしょうね。もっと少なくすれば良かったという話もあると思うけど、やっぱ大人も社会からいじめを受けている部分はあるのかなと思いまして。大人の息苦しさなども映画に盛り込みたかったんです。川瀬陽太が演じる貞夫があんな生活になっているのは自業自得かもしれないけど、それを自己責任で終わらせていいのか?とも思います。

もともとはどこかの物流会社のトラックの運転手で普通に働いていたのかもしれない。それがリストラされてデリヘルの運転手に成り下がったり、妻が出て行ってしまったりとはっきり描いてはいないけど写真などを見れば分かるようになってますね。その当時は幸せな家庭を築いていたんだろうなっていうのが見えます。

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村上淳演じる優樹菜の父親も立派な家には住んでいるけど、彼ももともとは一級建築士で資産家の家出身だったけど、投資に失敗し、親戚の借金の保証人になってどんどん家財がなくなっていったという状況です。だから表向きはスーツでびしっと決めているけど、飲んだくれて妻や息子にDVをふるっているという始末です。

そういう問題は本人が悪いのかもしれないけど、それ以外に社会の抑圧だったり、物が売れなかったりする時代のせいもあると思います。今だって例えば山形県の老舗のデパートが倒産しちゃって、従業員がみんなリストラみたいなことがあるわけです。昨日まで正社員だったのに急にみんなクビなんてそんなことある!?って話でしょ。そうやってどんどん先細りになっていって、子供たちにしわ寄せがくるんですよ。

そんな世の中で作ったのが『子どもたちをよろしく』というタイトルの映画です。自殺者は年々減っているのに10歳から15歳までの自殺者は実は年々増えているんです。こんな少子化なのに。だから何でこんなことになっているんだろう?と考える必要があるじゃないですか。政府の仕事でもあるけど、大人たちがみんなで考える必要があると思います。そういうメッセージが多少はあるのかな。」

主演女優・鎌滝えりについて

−−話は変わるんですが、主演を務めた優樹菜役の鎌滝えりさんは、2019年にNetflixで配信された園子温監督の『愛なき森で叫べ』でデビューされたばかりの女優さんですが、今作で抜擢された決め手を教えていただけますでしょうか。

隅田監督「30~50人くらいオーディションはしたんですが、最初から鎌滝えりさんは気合いが違いました。この役は私がやりたい!というのが伝わってきて、話を聞くと鎌滝さんは中高時代ほとんど学校に行ってないんです。引きこもりだったらしく、お姉さんがオーディションを受けさせるために部屋から引っ張り出したんだそうです。そして彼女もまた家庭環境が複雑らしく、あんまり詳しく話は聞いてないですが、最初から優樹菜という役は自分に近いと思っていたそうです。

オーディションした人の中でも圧倒的に役に合ってて、透明感もあるし、芝居も巧いし、この映画はこの子と心中しようかなという気持ちはありました。主役が良くなかったらこういう映画はなんてことなくなっちゃいますから。そういった意味では適材適所でいい女優さんが見つかったと思います。」

−−実際、撮影現場にて隅田監督のオーダーに対する表現はいかがでしたか?

隅田監督「本作の台本は110ページある中で、撮影日程が10日しかありませんでした。1日10ページ分以上を撮影しなくちゃいけないということは、普通の映画ではほとんどありえないです。

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そんな中でそこまで細かく言っている余裕はないけども、鎌滝えりにだけは現場では色々と言いました。彼女は根性があるし、言えば反省します。実ははっきり言って私は現場ではそんなにいいと思ってなかったんだけど(笑)できてみたらみんなが「彼女いいですね」って言ってくれた。結果的に鎌滝さんが褒められて非常に嬉しいし、演出した甲斐があったなと思ってます。彼女は頑張って耐えてくれました。」

−−鎌滝えりさんはクランクインとクランクアップで印象は変わりましたか?

隅田監督「鎌滝さんは最初は不安だったみたいで色々と自分に質問してきましたが、後半は結構穏やかな表情になっていました。稔(演/杉田雷麟)と動物園に行くシーンなんてすごくよかったですよね。あのシーンはほとんど口出ししていません。

優樹菜はデリヘルしているときと、弟といるとき、父といるとき、母といるとき、家族に対して怒るときなどいろんな表情があるので、彼女をうまく撮れればこの映画はうまくいくなと思ってました。彼女は撮影が終わる数日前にクランクアップしたんですが、「安心した」ってメールが来ましたよ。彼女もやり切ったって感覚はあったんじゃないですかね。」

ラストシーンに込められた『子どもたちをよろしく』が伝えたいこと

−−最後にいじめられっ子の洋一が自殺してしまい、いじめていた側の稔が事実をすべて告白するシーンが印象的でした。あのシーンに本作のすべてが集約されていたと感じましたが、視聴者が受け取ってほしいメッセージ性をお伺いしたいです。

隅田監督「この映画は見終わった後にみんなで考えてほしいのでネタバレになってもいいからこれは書いてほしいです。

普通、あれが事実だったら全部隠蔽しますよね。市長の娘と、商工会議所の息子とPTAの会長の息子がいますから全部隠蔽しようとするでしょう。当然、稔も口裏を合わせるよう言われてそうするでしょう。それに学校ではいじめてなかったかもしれない。仲良く振る舞っていたかもしれない。

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しかし、これはフィクションなので何かしらメッセージを残さなければならないし、稔が主人公だから彼が希望にならなければならない。稔はお姉ちゃんからこっぴどく否定されましたが、今でもお姉ちゃんは好きだし、洋一も幼馴染でした。しかし、かばうと自分がいじめの標的になるからみんなの前では加勢してしまい、後悔の涙を流します。

そのままやるせない気持ちで家に帰ると、父親とお姉ちゃんが置手紙を残して家から出て行ってしまっている。こんなことは人生で一番あってはならないことです。稔はパニックになって探し回り、へとへとになってたまたま水面に映った自分の顔を見て「なんて顔をしているんだ」と思うんです。

そこで稔は、動物園でお姉ちゃんに「強くなりなよ、幸せにならなきゃだめだよ」と言われたことを思い出しながら洋一の家に行きますが、洋一はいない。自分が投げた石で割れている家族写真を見ると、洋一のところだけ割れている。なんか不吉な予感がしてあちこち探しまわると、洋一は橋から飛び降りて死んでいました。

そんなことがありながらも仲間からは口止めされて、稔はもうこのまま自分も自殺したいと思ったかもしれません。自分のせいで洋一は死んだと思っているので。そして警察や教育委員会も絡んでくるんですが、稔はお姉ちゃんからの「強い男になりなさい」という言葉に後押しされて、本当のことを話したのでしょう。このまま黙っていては洋一の死が無駄になってしまうと。

彼は中学卒業したら手に職を付けて、周りからは裏切り者と言われながらひっそり生き、ある時が来たらお姉ちゃんを探すと思うんです。というようなことを暗示させないと、お客さんは気持ちよく映画館を出れないので、ご質問あったようにああいうラストにしました。

だから最後に『子どもたちをよろしく』というタイトルを出しました。見た人からはこの映画は誰かと語らずにはいられないと言ってもらっています。とにかく見た後に考えてほしいので、絶望だけで終わってはいけないと思い、最後は稔が正直に告白するラストにしました。

ぜひ視聴者の皆さんには、稔のお父さんとお姉ちゃんが家を出て行った後にどうなったのかな?と考えてほしいですね。絶対に幸せになってませんよね(笑)稔は強く生きていくでしょう。そういうことを考えながら見てほしいと思います。」

インタビュー・構成 / 佐藤 渉
撮影 / 白石 太一

『子どもたちをよろしく』作品情報


作品名 子どもたちをよろしく
公開日 2020年2月29日
上映時間 105分
監督 隅田靖
脚本 隅田靖
出演者 鎌滝えり
杉田雷麟
椿三期
川瀬陽太
村上淳
有森也実
音楽 遠藤幹雄

オリンピック、カジノ、万博…世の中が浮足立つなかで、子どもを巡る事件が、毎日のように報じられる。

しかし、子どもたちの世界に目が向けられることは少ない。

いじめに苦しみ、そのために死を選んでしまう少年、性的虐待を受け自らを「汚れた存在」と思い込んでしまい風俗産業に身を沈める少女、そんな彼らに、われわれ大人は手を差し伸べることができるのか。

いや、アルコール依存、ギャンブル依存、対人依存、同調圧力など、大人社会にはびこる闇こそが問題の源なのではないのか。

その問いかけを、観客の皆さんに投げかけたい――。

それがこの映画を作った一番の狙いだ。

映画の中の子どもたちは、悩み、苦しみ、他人を追い詰め、自分を追い詰めていく。

子どもたちの心の中の闇を振り絞るような叫び!この叫びがあなたの胸に届くだろうか。

これが、文部科学省で長らく日本の子どもたちの実態と向き合ってきた企画・統括プロデューサーの寺脇研、企画の前川喜平、二人の願いであり、それを映画という形に仕上げた脚本・監督の隅田靖の想いなのだ。

2020年2月29日(土)より、ユーロスペース、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開!