うまく喋れない女子高生・大島志乃は入学式の自己紹介で自分の名前もうまく言えずにクラスメイトから笑われてしまいます。
けれど、その中でただ1人、加代だけは笑わなかったのです。
そんな2人がバンドを組むことになって展開していく物語。
- 原作は『漂流ネットカフェ』『惡の華』の押見修造の漫画
- 『ワカコ酒』『来世ではちゃんとします』の湯浅弘章が初の長編商業映画監督を務めた作品
- 南沙良と蒔田彩珠のダブル主演で2018年に公開されました
それでは『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』をネタバレありでレビューします。
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目次
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』作品情報
作品名 | 志乃ちゃんは自分の名前が言えない |
公開日 | 2018年7月14日 |
上映時間 | 110分 |
監督 | 湯浅弘章 |
脚本 | 足立紳 |
出演者 | 南沙良 蒔田彩珠 萩原利久 小柳まいか 池田朱那 柿本朱里 中田美優 蒼波純 渡辺哲 山田キヌヲ 奥貫薫 |
音楽 | まつきあゆむ |
【ネタバレ】『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』あらすじ
入学式から始まる高校生活
高校の入学式の朝、7時。
目覚まし時計が鳴るジャストタイミングでそれを止める大島志乃(南沙良)。
志乃は制服を着て鏡の前で「初めまして、大島志乃です」、自転車を引いて登校しながら、教室で自分の席についてからも小声で何度も自己紹介の練習をします。
担任の挨拶に続いてクラスの生徒たちも自己紹介をする流れになり、お調子者の男子・菊池(萩原利久)が教室ドン引きレベルのやらかしをしつつも座っている順番に次から次へと進んでいきます。
そしていよいよ志乃の番。志乃は先生から呼ばれてようやく立ち上がりますが、下を向いたまま手をもじもじさせて言葉を発することができませんでした。
どもりながら涙を浮かべて必死の思いで「志乃、大島です」と言えたところで菊池が茶化し、クラス中が志乃を笑いました。
家に帰って母(奥貫薫)から「どうだった?」と聞かれた志乃は、「大丈夫だったよ」と答えました。
それから、授業で先生からさされた時うまく答えられず咄嗟に「パスで」と言う志乃を皆が笑い、先生も何だか腫物を扱うようにしました。
お昼の時間、他の生徒たちは友達同士で教室や屋上でお弁当を食べるのですが、志乃は誰とも仲良くなれず1人で校舎裏の誰もこないところでお弁当を食べます。
お弁当の中身のことや近所のお店のことを1人で、誰かと話すように2役演じて喋ってみます。
1人だと大丈夫なのに、実際に誰かと話そうとするとできません。
見かねた担任の先生(山田キヌヲ)が面談のようなかたちで志乃がうまく話せるように練習に付き合ってくれますが、どうしても喋れません。
先生は、緊張して喋れなくなってしまうのは皆と打ち解けていないからだと言いました。
先生も協力するから頑張ろうと言われて志乃は頷きました。
うまく喋れない志乃と、うまく歌えない加代
ある日、志乃が一人芝居をしながらお弁当を食べているとクラスの岡崎加代(蒔田彩珠)が1人で歩いていくのを見掛けました。
程なくしてどこからか聞こえてくる鼻歌。
志乃が声の聞こえてくるほうを辿って行くと加代が外の階段に座って音楽を聴きながら歌っていましたが、ひどく音程がずれていたので志乃は思わず動揺して箸を落としてしまいます。
物音に気付いた加代が志乃の存在に気付いて話しかけました。
「その喋れないやつ、何なの?病気?」と聞かれて、志乃がいつの間にかそうなってしまったことを伝えると、加代は「喋れないなら書けばいいじゃん」と言ってメモ帳とペンを見せました。
その日、志乃は加代からもらったメモに“一緒に帰りませんか”と書いて見せ、2人は一緒に帰ります。
途中から家の方向が違うので加代が「また明日ね」と言って別れようとしたのですが、志乃はそこから動きませんでした。
加代が「うち来る?」と聞くと志乃は嬉しそうに何度か頷きました。
加代の部屋にはたくさんのCDとギターがありました。
志乃が“きかせて”と伝えると、加代は人に聞かせるためにやってるわけじゃないから嫌だと断りましたが志乃は、頑固に引き下がりません。
下手だけど笑ったら殺すよ、と言って加代が弾き語りを始めて、最初のうちは静かに聞いている志乃でしたが、やっぱりひどくずれた音程に笑ってしまいました。
加代はギターを投げ付けて「帰れ!」と言いました。
謝るきっかけも見つけられないまま学校での時間を過ごしてしまった志乃は帰る途中で加代を見掛けて、後をつけていきます。
加代がカラオケ店に入ろうとした時。
中学のクラスメイトたちが「1人でカラオケ?」「音痴だから」と合唱コンクールの時のことを持ち出してバカにして笑ったのを、志乃は見ていました。
そして加代のところに駆け寄って必死に、自分と約束があるから1人でカラオケに来たわけじゃないと言いました。
命名“しのかよ”
2人でカラオケに入って、志乃は歌ならつっかえずに歌えるということを知った加代は一緒にバンドをやろうと誘いました。
子どもの頃からミュージシャンに憧れていたけれど音痴でどうにもならない加代がギターを弾き、普通の高校生になりたいけれどうまく喋れない志乃がボーカル。
2人は一緒に練習したり加代のCDを志乃に貸したり、一緒にお昼ご飯を食べたりするようになっていきます。
制服が長袖から半袖になったころ、加代は志乃に「文化祭に出よう」と言いました。
志乃は人前で歌うなんて考えられなかったので断ろうとしましたが、加代から夏の間に特訓しよう、バンド名ももう決めていると言われて頑張ってみる気になりました。
2人でバスに乗って少し遠くまで足を運び、ある橋の上で演奏します。
最初は演奏もたどたどしく誰も聞かなかったのですが、曲のレパートリーが増えて少しずつ慣れたりもして足を止めてくれる人も出てきました。
夏の間、一緒に出掛けたりバンドの練習をしたり2人はたくさん笑い合う時間を共有していきます。
夏休みが終わろうとしている日、加代がいつもより人が多いところで演奏してみようと言い出しました。
駅前のバスロータリーで演奏しているとたまたま通りがかったクラスの男子・菊池が「何やってるの?」と声をかけてきました。
志乃は加代を置いて1人で走って逃げだしてしまいました。
喋りすぎる男子・菊池
始業式の日、加代は志乃が来ないかもしれないと心配していましたが、普段通りに教室に入ってきたのを見て安心して声をかけました。
昨日はどうしてしまったのか、菊池と何かあったのかと聞いた時まさにその菊池がクラスの全員の注目を集めて「この2人こう見えて路上ミュージシャンなんだ」と言いました。
まるで小馬鹿にするような言い方と、茶化すような歌い方に腹を立てた加代は菊池の頬を叩きました。
その日の帰り、菊池は2人に謝ってきました。
路上で演奏しているのが本当に格好良かったから仲間に入れて欲しいとも言ってきました。
しかし楽器もできると言いながらカバンから出したタンバリンを叩き出したのを見て、加代は「消えて」と言いました。
その頃、菊池は徐々にクラスメイトから距離を取られていました。
もともとお調子者キャラで、うるさくて、行き過ぎて空気が読めないところもあるせいか中学の頃いじめられていた菊池。
志乃と加代は、菊池が誰もいないところで1人で吐いているのを見掛けます。
菊池は2人が見ているのに気付いて、いつも通りにお調子者として取り繕って見せました。
加代は菊池をバンドに入れることにします。
音楽の話が合うことがきっかけで加代と菊池は仲良くなっていきました。
ある時、加代の部屋で“しのかよ”活動をしていると突然「詩を書いてほしい」と言われて志乃は驚いたのですが、あとからやってきた菊池はすでにそのことを知っていました。
志乃は加代の部屋を飛び出して、しのかよをやめたいと言ってふさぎ込んでしまいます。
志乃と、加代
志乃が1人で商店街を歩いていると、菊池が声をかけてきました。
志乃は無視しようとしましたが、アイス奢るから!と言って必死な菊池に仕方なくついて行きます。
菊池は加代も心配していることを伝えたり、入学式の日にうまく自己紹介できなかった志乃を笑って傷つけて悪かったと謝ったりしました。
そして、また3人でしのかよやろうと言います。
そのことについて、本当はずっと1人ぼっちだったから、やっと見つけた居場所だから離れたくないと本音を漏らしました。
志乃は泣きながら「なんで」と叫んで走ってフードコートから出て行きました。
それからも学校にも行かずふさぎ込んでいる志乃を心配して、加代は家まで会いに行きます。
志乃が部屋から出て来なくてもドア越しに話しかけました。
するとゆっくりドアが開いて、志乃は何も言わずに外に出て行きます。
加代はついて行きました。
辿りついたのはバス停でした。
しのかよが最初に路上で演奏をした時、一緒に遠出するのに乗ったバスの停留所。
最終のバスは行ってしまった後でした。
2人は何も言わずに座っていましたが、やがて志乃が「こんなにつらい思いをするなら1人でいい」と必死に伝えます。
加代は「わかった。もうわかったから」と言いました。
そして、じゃあね。バイバイと言って去って行きました。
“魔法”
文化祭が近づいても志乃と加代は会話すらしませんでした。
加代は1人でステージに立つことに決めます。
加代からバンド解散を告げられた菊池は志乃に「お前ダセェよ。俺は来年絶対歌う。お前はずっと腐った魚みたいな目ぇしてやがれ」と叫びました。
志乃は振り返りもせずに自転車を引いて去って行きました。
文化祭当日、生徒たちが賑わい、体育館で行われるバンドコンテスト。
ガールズデュオと紹介されてステージに立った加代は、デュオじゃないの?とざわつく生徒たちに向かって「今日は1人で演奏します」と言います。
本当は自分が曲を作って志乃が詩を書いて演奏したかったけれど叶わなかった、だから1人で曲を作って詩を書いた、と言い「魔法」という曲を演奏します。
入学当初に1人でお昼ご飯を食べていた校舎裏で歌を聞いていた志乃は、ふらふらと導かれるように体育館に向かいました。
演奏が終わってまばらな拍手が響く中、志乃は「私は自分の名前が言えない、なんで、どうして、知らないよ」と叫び出しました。
喋れさえすれば自分だって“普通の高校生”なのに。
そして「喋れない私が嫌で逃げても逃げても私が追いかけてくる。喋れない私を恥ずかしいと思っているのは、私だから」と、泣きながら胸に抱えていたものを吐き出しました。
ステージ上から見ていた加代は志乃の本音を聞いてやわらかく微笑みました。
文化祭が過ぎて、また普通の毎日が訪れた教室の中。
お昼の時間に志乃の机にパックのジュースが置かれました。
今まで話したこともなかった前の席の子が「あげる」と言ってくれて、どもりながらも志乃は「ありがとう」と言いました。
【ネタバレ】『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』感想
不器用な3人の成長物語
あらすじとか設定に目を通した時点で結構しんどい感じなんじゃないかなとは思っていたんですけど。
人によってはだいぶしんどい内容じゃないかなぁって感じです。
vito
タイトルにもなっているくらいだから志乃についてのことが印象的に描かれてはいるけど、それが特別なこととして描かれているわけではなくて。
端的に表すなら“吃音症”なんでしょうけど私はそういう風に表記したくなかったので“うまく喋れない”としています。
うまく喋れない志乃に対して喋りすぎる菊池という存在と、うまく歌えない加代に対して歌ならつっかえずに歌える志乃という対比のバランスがいいなと感じました。
そんな菊池も加代も志乃と同じように周りに馴染めずに一人ぼっちだった人なんですよね。
3人が接点を持って、少しずつ関係性を変えながら成長していく話。
超絶ざっくり言うとそんな内容です。
vito
うまく空気を読んで馴染むタイプのお調子者と、間が悪いというかそれこそ空気を読めなくて周りが離れていってしまうタイプのお調子者がいるわけで。
菊池は明らかな後者です。
そういう人って周りが離れたとて急に振る舞いを変えるわけにはいかないというか、そんなパッと自分を変えられないからきっかけがないとずっとそのままなのかな。
vito
志乃がなりたい“普通の高校生”の加代と菊池が仲良くなっていくのを、後ろから眺めていた志乃は1人で取り残されたようで悲しかっただろうなぁ。
そこにはちょっとした嫉妬みたいなものもあったのかもしれない。
“しのかよ”なのに、加代が誘ってくれたのは自分なのに、みたいな。
吃音うんぬんは置いといて、こういう友達関係の悩みって中学とか高校の頃特有の悩みだと思うんです。
友達同士の嫉妬じゃないけど、あの子と一番仲がいいのは私なのに…みたいな気持ちって絶対誰しも抱いた事があると思うんですよね。
vito
しのかよが練習していた曲たち
映画の中で2人が演奏する曲が何曲かあります。
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』のサントラ、ヤバい。志乃ちゃんがカラオケで初めて歌った「翼をください」、路上で歌ったしのかよの「あの素晴らしい愛をもう一度」「世界の終わり」「青空」、加代ちゃんが最後に歌った「魔法」。全部映画そのまんまの音源で収録されてます😭涙が止まりません😭 pic.twitter.com/eQHpL7xSqh
— 高坂昌幸 (@ma_kousaka) July 29, 2018
赤い鳥の「翼をください」、加藤和彦と北山修の「あの素晴らしい愛をもう一度」。
vito
たぶんそこまで音楽に詳しくない志乃でも知っている歌を練習しようとして加代がセレクトしたのかな?という曲たち。
THE BLUE HEARTSの「青空」。
miwaとかWANIMA、菅田将暉など色んな人たちがカバーしているのでカバーきっかけで聞いたことがある人もいるんじゃないかなと思います。
“生まれた所や皮膚や目の色で いったいこの僕の何がわかるというのだろう”という一節はハッとします。
vito
THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「世界の終わり」。
vito
大人になった今でも聞くと高校の頃のことを思い出します。
vito
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』まとめ
以上、ここまで『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』をレビューしてきました。
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