実際に埼玉県で起きた地域猫失踪事件をモチーフとした温かくも切ない人間ドラマ。
映画ならではの要素を注入した演出に舌を巻く、技巧派俳優と監督の描く世界は絶妙!
- イッセー尾形さんの妻に先立たれた夫の悲哀に満ちた演技がじわじわ泣ける
- 失って初めて気づかされる「大切な存在」。ネコ好きじゃなくても共感できる。
- 実際に埼玉県岩槻で起こった地域猫失踪事件が基となっている。
- 行方不明になった猫が元先生と地域の人々を繋いでいく…猫で繋がる絆に深く感動する。
ニャンコたちの可愛さにも癒される…すべての感情がこの1本で味わえる作品です。
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目次
『先生と迷い猫』作品情報
作品名 | 先生と迷い猫 |
公開日 | 2015年10月10日 |
上映時間 | 107分 |
監督 | 深川栄洋 |
脚本 | 小林弘利 |
出演者 | イッセー尾形 染谷将太 北乃きい ピエール瀧 岸本加世子 |
音楽 | 平井真美子 |
【ネタバレ】『先生と迷い猫』あらすじ・感想
女優猫のドロップにメロメロ!
『先生と迷い猫』でもっとも目を奪われるのが美しい毛色の日本猫。
「あの麗しい三毛猫ニャンコは何だー!?」と映画を観た人がざわざわした女優猫さんです。
とっても薄いブチの毛色、ふわっふわで毛並抜群、小顔のシュッとしたお顔…ブチブチがドロップ缶の模様みたいだから「ドロップ」と名づけられた猫だそうですよ。
ドロップは劇場マナー予告でも一躍話題となりました。
実はドロップ、猫通には有名なニャンコだそうで…『先生と迷い猫』以外にも、連続テレビ小説『あまちゃん』の夏ばぁちゃんが飼っていたカツエ役や、『ねこあつめ』『ヨルタモリ』にも出演していた売れっ子猫なんです。
この『先生と迷い猫』が銀幕デビュー作!記念すべき映画です!!
とにかく悶絶の可愛さ…特に心奪れたシーンは、ミイ(ドロップ)が、行きつけの美容室で飼っているワンコの前で、お腹を見せてゴロゴロするところ。
コンクリートに背中をコスコスして、真っ白なお腹を見せ、手足を開いて無防備な様子には目がハートになること間違いなし!
すっかり射抜かれてしまいました…しかもこれ、ドロップのアドリブなんだそう!
さて、この物語は埼玉県岩槻で実際にあった地域猫失踪事件を追った木附千晶さんのノンフィクション小説「迷子のミーちゃん~地域猫と商店街再生ものがたり~」を基にしています。
ドロップが演じる地域猫が突然パタリと姿を消します。
堅物で有名な元校長先生(イッセー尾形)は、その猫が失踪する直前に猫に対して辛く当たっていました。
亡き妻・弥生(もたいまさこ)が可愛がっていたその猫、姿を見るたび喪失感に襲われて耐えられなかったためでした。
失ってはじめて気づきます、煩わしいと思っていたその猫が与えてくれていたモノを。
元堅物校長は猫探しに立ち上がります!
その地域猫を可愛がっていた交流のない多くの人が、次々と協力してくれるのです。
1匹の猫が繋ぐ人々、果たして見つかるのか…。
マジメでヘンクツなおじいさんが猫探しで得たものは?
地域猫が1人の孤独なおじいさんの頑なな心をほぐしていく心温まるお話、猫たちを観てほっこりしてみませんか?
堅物・偏屈な元校長先生(イッセー尾形)
校長先生(イッセー尾形)の行きつけ、パン屋リリー。
クロワッサンの食べかけを持って元・校長先生は背筋をめいっぱい伸ばしてふんぞり返ってお店に…見るからに面倒くさそうなおじいさんといった印象。
入ると、パン屋リリーの店主(カンニング竹山)に向かってまっすぐ突き進み、持ってきた食べかけのクロワッサンを差しだして一言。
校長先生「いつもの味じゃない!」
店主はすまなそうに、物価高騰でバターを変えたと説明します。
そして、校長が指摘しに来たことで「店を辞める踏ん切りがついた」と話します。
そう言った店主に何も言うことなくお店を後にする校長先生こと森衣恭一。
お気づきですか。この「校長先生」正確には退職した元・校長先生なのですが、非常に偏屈で堅物で…変わり者。
行きつけのパン屋が閉店するという決断を目の前で聞いたのに、何も言わない…ちょっと冷たいんです。
森衣恭一は人間だけでなく猫に対しても冷たい。
亡き妻が可愛がっていた野良のミィが、毎日の日課で奥さんの仏壇の前に現れるのが森衣は気に入らなくてしょうがないのです。
悪さをするでもないミイに向かって怒鳴る始末…。
森衣「行けっ、おい!大体お前がくるたびにな…この際だから言わせてもらうが!女房が死んだことを思い出すんだっ。毎日!毎日!もう私はそれがうんざりなんだよっ!二度と来るな!」
どうやら、ミイを見ると「亡くなった奥さん」を思い出して辛くなるんだそう。
ようするに、この気難しいおじいさんはとっても寂しいのです…。
引きこもり気味の校長先生、ついにミイが行き来していたキャットドアと台所の扉を塞いでしまいます。
森衣の願い通り、とうとうミイは姿を見せなくなったのです。
そんな人間性だから、地域でも浮きまくり。
唯一相手にしてくれるのは、ちょくちょく仕事で森衣の撮った写真を借りに来ている猫アレルギー持ちの市役所職員・小鹿祥吾(染谷将太)のみ。
ミイが家に来なくなって幾日…近隣ではイタズラに危害を加え、猫を傷つけ殺して段ボールに入れて遺棄されてしまう事件が多発。
森衣はミイのことが急に心配になって探しはじめます。
必死に探している森衣に小鹿は痛烈なひと言。
小鹿「猫って死ぬときに姿を隠すっていうじゃないですか…」
森衣「…ばかもん。」(後悔しているように肩をすくめ下を向く)
苦渋の表情を浮かべる元校長。
今さら後悔しても…と腹立たしく思う反面、探し歩く必死の形相に後悔の念を感じて切なくなります。
そして、このどうしようもないおじいさんが、ミイ失踪がきっかけで地域の人たちと繋がっていくのです。
ガチガチの頑固おじいさんの激変、1匹の猫を想う気持ちが1人の老人の心をほぐしていきます。
三毛猫はたくさんの名前を持つ愛されニャンコだった
校長先生とミイを捜していると、いかに地域猫のミィが他の人にも愛されて可愛がられていたのかが分かります。
森衣家ではミイと呼ばれ…美容院の容子(岸本加代子)にはタマ子、クリーニング屋・真由美(北乃きい)にはソラ、いじめに悩む女子中学生にはチヒロ。
美しい三毛猫は、各々の場所で色んな愛称で呼ばれ、可愛がられ、人の心の拠り所になっていました。
その猫に関わった人たちが協力して「ミイー!タマ子ー!ソラー!チヒロー!」大きな声で呼びながら歩き回ります。
その光景がとても印象に残ります。
決して交わることのなかった赤の他人たちがひとつの目的に向かって協力する姿に心がアツくなります。
「私も可愛がればよかった…。(可愛がれなかった)そんな自分に腹が立つ。」
見つからないミイを想い、彼が言う言葉です。
見つかってほしい、すっかりストーリーの中に入り込み、そう強く願った瞬間でした。
想像すると寒気がしてしまう…要所で登場する北斗の存在
これは勝手な推察ですが…とても怖いと感じる描写が要所に登場してきます。
元校長先生が偶然出会った少年・北斗。
いつも独りぼっちで「独り遊び」をする孤独な少年です。
この男の子の存在が、ほっこりしたこの映画の中で異様な存在感を放っています。
森衣がその少年と出会ったのは、平日の昼間。普通なら学校にいるであろう時間です。
黒いランドセルを背負い、じーっと一点を観察するように見つめています。
その視線の先には、白い猫が瀕死の状態で横たわっていました。
北斗「…死んでる。」
校長先生「(猫の状態を確認して)生きてる、死んでない。」
病院に連れて行くから大丈夫だと、学校に行くように少年に促し、森衣はすぐに病院に運びます。
故意に切りつけられた白い猫。
窮地は脱したものの、大量の出血をして大変な状態でした。
動物病院の外には、少年の姿が。学校に行かずについてきたのです。
医師が言うには、猫を切りつけたのは刃の薄いナイフ(カッター)のようなものだそう。
少年は病院から出てきた森衣を見つけるとこう聞くんです。
北斗「死んだ?」
助けた白猫の状態を話して「会っていくかい?」と森衣が聞くと北斗は「いい。」と。
そういえば…こんなこともありました。
森衣が河原でファインダーを覗いていると…段ボールを持った女性が、橋から川にその段ボールを投げ入れようとしているところを見つけます。
森衣が「あーっ!」と大声を出すと、それに気づいた女性は段ボールを捨てるのをやめ、持ったままそそくさと小走りで逃げていきました。
小学生であろう北斗は学校に行かず、いつもぶらぶらしてます。
草むらで探検のようなことをして…古びて錆びた大きいカッターを見つける場面が映ります。
背の低い木の葉っぱを楽しそうに拾ったカッターで切り刻みます。
ん?カッター!?何か不穏な予感。
どうしても伏線のように感じてきてしまいます…
ある日、森衣は川に段ボールが浮かんでいるのを見て、事件を思い出し「ミイ!ミイ!」と呼びながら、なりふり構わず川へジャブジャブ入って段ボールの中を確認します。
ミイはそこにはいなく、一安心。
川から出ると「あはははは…」と森衣を見ながらちょっと気持ち悪い笑いをする北斗の姿が。
森衣は持ってきたおにぎりを北斗に勧めますが「僕は猫じゃない!」と怒って、その場から去っていきます。
ある夜、ミイをみんなで探しているとき、森衣は真夜中の神社でウロウロしている北斗を見つけます。
夜道は危ないと一緒に連れて帰ります。
北斗「なんで猫を探すの?」
校長先生「大切だからだ。」
北斗「野良猫なのに?」
校長先生「大切だ。」
森衣が少年を諭しているようにも感じました…「生き物は大切なんだ」と。
送っていくと北斗の家は「修道院(孤児院)」でした。
女性のシスターが門の所で北斗を待っていました。
シスターの様子からして、今回が初めての徘徊じゃなさそうです…。
あれ?その女性、なんだか見たことがあるような容姿…もしや河原で…
最後まで事の真相は明かされません。
謎多き少年の行動…ゾクゾクっと背筋が寒くなるような感じがしました。
どう感じるかは観た人次第!ちょっとピリッと、心がザワつきます。
「思い出したくはない…けれど忘れたくはない…」
「思い出したくはない…けれど忘れたくはない…」
絞り出すように苦しそうに、森衣恭一はこの言葉を言います。
思い出すのは胸が張り裂けそうなほど辛くて痛い。でも、忘れたくない。
大切な人を亡くした経験をした人は、少なからず理解できる「想い」ではないでしょうか。
「もういないのかもしれない…。死んでしまったのかもしれないな…。どんな生き物も必ず死ぬんだよ。だから残された者はね、折り合いをつけるのに必死になるんだよ。」
北斗にミイのことを聞かれて、森衣がこう言います。
ミイのことも言っていますが、同時に奥さんのことも言っているんですよね。切ないです、いじらしいです。
ひとり残されてしまった彼の悲哀を感じました。
このときのイッセー尾形さんの何とも言えない言い回しと雰囲気に、とても心が揺さぶられたんです。
「猫が嫌いなんて人生の楽しみの1つを知らないってことよねぇ?」
校長先生の妻・弥生が、生前に話していた言葉です。
いかに弥生が「猫が好き」なのかが伝わってくるのと、「あなたも人生楽しんで」と夫に諭しているような言い方が好きです。
夫が誰よりも優しく「猫を愛せる心」を持っているということを、弥生は見抜いていたように思います。
この弥生の言葉を恭一が思い出したとき、恭一は「猫が好き」な人になれていました。
そこに地域から孤立した孤高の老人の姿はなくなっていました。
最後までミイが発見されないまま、この物語は幕を閉じます。
ラストカットに聴こえたのは「ミイの首輪についていた鈴の音」でした。
観る人によって、さまざまな結末を想像させるいいエンディングだと思います。
私には「ミイが森衣家に帰ってきた」と感じました。
どう感じたか、どう感じるかを楽しめる余韻の残る素晴らしい映画です。
『先生と迷い猫』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
にゃん、にゃん、にゃんで本日2月22日は「猫の日」。
世界中の猫たちが幸せに暮らせますように。#猫の日 #先生と迷い猫 #ドロップ pic.twitter.com/9rX3stM3H1— 映画『先生と迷い猫』 (@senseimayoineko) 2016年2月22日
以上、ここまで『先生と迷い猫』について紹介させていただきました。
- 煩わしい存在だったはずの妻が愛した野良猫ミイ。失って気づく、大切な存在だったことに。
- 不穏な空気をはらむ少年・北斗の存在。想像すると恐ろしい。
- 真相は分からない。けれどこれでいい、これがいいと納得できるような結末。
- 「猫を通して人を見る」そんな映画。
ラストカットで聞こえてきた「ミイの鈴の音」の意味。あなたはどう感じますか?
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