『セルフメイドウーマン ~マダム・C.J.ウォーカーの場合~』は、アフリカ系アメリカ人で女性初の百万長者となったサラ・ブリードラブの半生をもとに描いた物語。
奴隷解放宣言、南北戦争の終結から時を経てなお、存在し続ける差別や迫害。
社会の中でもっとも弱い立場がにあった黒人女性が事業を起こし、美容業界の帝国を築き、成功を手にした反骨魂。
その女性起業家のあくなきチャレンジ、黒人女性たちの地位向上と社会的・経済的自立への足がかりの門戸の解放に貢献した、先駆者サラ「マダム・C.J.ウォーカー」を、オクタヴィア・スペンサーが軽快に演じております。
それでは『セルフメイドウーマン ~マダム・C.J.ウォーカーの場合~』について解説していきます。
・共感を得る自らの言葉
・起業家としてのビジョン
・敵はひとつにあらず
・次世代のための道しるべ
目次
【ネタバレ】『セルフメイドウーマン ~マダム・C.J.ウォーカーの場合~』解説・感想
自らの体験を語るセールス
1908年、セントルイス。市場の一角で、育毛剤「マジカル・ヘアグロウ」を売るサラ(オクタヴィア・スペンサー)が語るのは、自分自身の物語。
日々ぎりぎりの生活を送る貧しい洗濯婦が、夢を失い、髪も抜け落ち、女性としての自信すら失ったどん底の生活で、出会ったアディー(カルメン・イジョゴ)の作る「マジカル・ヘアグロウ」。
髪を取り戻す実体験と、製品のおかげで自信を取り戻していった心情を語るサラの言葉に耳を傾けていた女性たちは、サラの話に共感し、その商品は飛ぶように売れていきます。
サラは、もともとは、ヘアケア製品の訪問販売するアディ―の顧客。抜け毛でまだらになった頭髪に、製品のおかげで髪を取りも出した自らの体験を語り、その製品を売ってみたいと市場の一角に立っていたのです。
ところが、「ヘアグロウ」の販売をめぐり、アディ―と意見が合わず、袂を分かつことになったサラ。
アディ―の商品からヒントを得て、自分のブランドの育毛剤を開発、改良を行い、新たなヘアケア製品を売り出したのでした。
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「ヘアグロウ」の販売をしてみたいというサラに、アディ―は「醜い貴方には販売は無理」とにべもなく袖にします。
同じ女性でありながら、肌の色や容姿で優位にたち、貧しい洗濯婦のサラを嘲る、味方であるはずのアディ―の不条理な言動に冒頭から出会うのです。
男性社会での事業展開
サラの改良した育毛剤を売るのに、ウォーカー・ヘア・カンパニーを起ち上げ、夫のC.J. (ブレア・アンダーウッド)と娘のレリア(ティファニー・ハディッシュ)と、インディアナポリスに拠点を移したサラ。
黒人女性のためのヘアサロンを開き、C.J.の父親のクレオファス(ギャレット・モリス)や弁護士のランサム(ケビン・キャロル)も雇い入れ、人手を増やし会社を大きくしていくのでした。サロンの繁盛と、ヘアケア製品の販売で利益も出始める中、起きたボヤ騒ぎ。
それを機に、手狭になったサロンと製品調合の場所に、工場を買うことをサラは考えます。地元の黒人投資家に工場の購入資金を募るサラでしたが、女性が経営する事業に理解が得られず、なかなかうまくいきません。
投資家の出資を説得をするのに、黒人社会の指導者で著名な作家でもあるブッカー・T・ワシントン(ロジャー・グエンヴァー・スミス)から投資の推薦を取り付けようと奮闘するも、当のブッカーからは「女性を支援する気はない」と断られる始末。
しかしそんな女性起業家のサラが語る熱い未来に希望を見出し、金銭的支援を申し出たのは、男性社会に声をあげず、夫との議論を避け、沈黙を続けてきた ワシントン夫人(キンバリー・ヒューイ)を始めとする投資家や実業家の妻たちだったのです。
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マダムC.J.ウォーカーの新たな使命
ヘアケア製品の事業を軌道にのせ多くの従業員を雇い入れ、インディアナポリスでも有数の大規模な工場を持つまでになったウォーカー製造会社。アメリカ国内に新たにオープンする5か所のサロンには、トップ成績の営業員女性たちを責任者に据える計画でした。そして、そのころには、「マダムC.J.ウォーカー」と名乗るようになっていたサラ。
家業の好調とは裏腹に少しずつサラと夫のC.J.との関係に隙間があき、それと同時にサラの成功を快く思わない同業のアディ―によるトップ営業員たちの引き抜きも発覚し、不穏な空気が流れます。夫の不貞とアディ―の妨害工作と、ふりかかる苦難に負けず、ニューヨークに進出し、新たなサロンを出し、事業の拡大に力を注ぎ、なおも躍進を続けるサラ。新製品のヒットや、娘のレリアの頑張りをあり、「マダムC.J.ウォーカー」の名声は不動のものとなるのでした。
そして、事業の成功で夢はとどまるところを知らず、サラは、仕事だけの枠にとらわれない黒人女性の活躍促進、地位向上のための支援を自らの使命とするのでした。
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ビジネスで快進撃を続けるサラに対して、アディ―の事業の業績が下がる一方。
サラの顧客の横取りや、スタッフの引き抜き、と決して正攻法で挑もうとしません。
ライバル心を燃やすだけで、自分のことばかりで向上心のないアディ―にイライラます。そして、夫のC.J.の身勝手な言い分にもついでにカチン(笑)
自分自身で切り開く人生
ヘアケア製品のヒットにより全米初のアフリカ系アメリカ人女性で、百万長者となった「マダムC.J.ウォーカー」。
全国紙のニューヨーク・タイムズも、その快挙をたたえるほど。そんな中、病魔に侵され余命宣告を受け、人生を振り返るサラ。
その原点は、夢をあきらめない強い信念。
サラが、この世に生きた証を残したいと、娘のレリアに、託したのは、黒人女性たちが、人生を自分自身の手できりひらくことを可能とする確かな道しるべだったのです。
『セルフメイドウーマン ~マダム・C.J.ウォーカーの場合~』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
以上、ここまで『セルフメイドウーマン ~マダム・C.J.ウォーカーの場合~』をレビューしてきました。
・夢をあきらめない強さ
・女性の社会進出を阻む見えない壁
・時代の先を見据える確かな目
自分を持ち続ける強さ
経済発展に湧く1900年代のアメリカは、アフリカ系アメリカ人の社会的・経済的成功が、まだ容易でなかった時代。
洗濯婦として働き、わずかな給金と生活の苦労で髪が抜け、その姿を醜いと夫に捨てられ、女性としての自信も失っていたサラ。
同じ黒人女性アディ―の作るヘアケア製品のよって髪を取り戻し、その製品に商機を見た、サラは開眼するのです。
商品を売るのに、サラ自身の苦労や体験を語って得た報酬は、対価以上のもの。
黒人女性というだけで、社会的立場が弱く白人社会、男性社会の中で夫や家族に依存して、経済的自立が難しかった時代。声をあげることで、誰に頼ることなく自らの意思で人生を切り開く力を手にしたサラの躍進は、止まることがありませんでした。
順調に成長していくサラの事業に起こるトラブルの数々。ビジネスで頭角を現すサラの飛躍を阻むエピソードは、皮肉にも白人・黒人という明らかな構図だけに当てはまらず、黒人女性同士の軋轢、女性起業家を排除しようとする男性社会、夫婦間のプライドといったものでした。
どんな逆境にあっても、仕事の上では自分の人生をコントロールする確かな自信を持っていたサラ。
洗濯婦から身を起こし、貧しい生活を、身をもって知っていたサラだったからこそ、自らが作り出す仕事にはどん欲で、強いモチベーションを保ち続けていられたのでしょう。
そして、その「マダム・C.J.ウォーカー」としての成功が、未来を見据える目ともなり、ないがしろにされてきた黒人女性たちにチャンスを与え、経済的、社会的自立を促し、その地位向上をめざす大きな指針となる夢へと、つながっていったのです。
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どの時代にあっても、夢を諦めず、曲がらない信念は誰もが認めるパワー。『セルフメイドウーマン ~マダム・C.J.ウォーカーの場合~』は、サラからそんなパワーがもらえる作品です。ぜひご覧ください!