銀行強盗なのに、被害に遭った銀行員ですら「紳士だった」という感想を持たせてしまう。
スマートな手口で多くの人に注目された男の姿は、まさにロバート・レッドフォードそのもの。
- 銀行強盗が題材なのにアクションは皆無。
- 主人公だけでなく、追う刑事も含めて全ての登場人物が“優しい”
- ロバート・レッドフォードがとにかく渋く、俳優引退の事実が惜しくなってしまう
監督業も務める彼が、最後の出演作品としてこの作品を選んだのが納得できる、終始温かい雰囲気に包まれる不思議な作品となっています。
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目次
『さらば愛しきアウトロー』作品情報
作品名 | さらば愛しきアウトロー |
公開日 | 2019年7月12日 |
上映時間 | 93分 |
監督 | デヴィッド・ロウリー |
脚本 | デヴィッド・ロウリー |
原作 | デヴィッド・グラン |
出演者 | ロバート・レッドフォード ケイシー・アフレック ダニー・グローヴァー チカ・サンプター トム・ウェイツ シシー・スペイセク |
音楽 | ダニエル・ハート |
【ネタバレ】『さらば愛しきアウトロー』あらすじ・感想
銀行強盗のイメージを覆す手口
映画で銀行強盗といえば、覆面を被った複数の人間が急遽銃を持って押し入るシーンが想像されるかもしれません。
しかし、この作品の主人公フォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)は決して銃口を銀行員に向けることはないのです。
身なりもきれいで手にはトランクケース。
銀行員への最初の接触では口座開設や小切手を現金に換えたいなど、あたかも一般の客を装ってやってきます。
そして、窓口の銀行員や支店長など相手と1対1になったら、ジャケットを開けて胸ポケットにある銃をちらりと見せるのですが、その時も周りにバレるような素振りは見せず、あくまで相手一人に対して自分が強盗であることを教え、持ってきたトランクケースにお金を入れるよう指示します。
口調も穏やかで、時には震える銀行員をなだめ、「君はよくやっているよ」と励まします。
フォレストの雰囲気とそうした言葉の影響もあり、どの銀行員もパニックになるようなことはありません。
それどころか、その後来た警察からの聴取では「紳士でした」「幸せそうでした」と、とても銀行強盗に対する印象とはかけ離れた言葉を口にします。
確かに銀行にいる間、フォレストは焦る素振りも見せずに、笑顔で銀行員の様子を見ていました。
フォレストには仲間のテディ(ダニー・グローヴァー)とウォラー(トム・ウェイツ)がいるのですが、彼らも焦るような表情は見せず、それぞれの役割をしっかりと果たしていました。
ジュエルとの出会い
ある日フォレストは銀行強盗を行った後、警察から逃げている時に車がトラブルを起こして困っているジュエル(シシー・スペイセク)と出会います。
パトカーが近づいた時、フォレストはジュエルの車のボンネットを開けてチェックする素振りを見せることで、すれ違うパトカーをやり過ごしました。
警察をやり過ごしたのはいいものの、当然車修理のプロではないため直すことはできません。
フォレストはジュエルを車に乗せてダイナーに誘い、連絡先を交換します。
この時点でフォレストはジュエルに惹かれていました。
その後も度々会うようになり、恋人とまではいかないまでもジュエルの家に呼ばれるほどまでなっていました。
そしてこの時に、フォレストは銀行強盗をしていると告げるのですが、ジュエルの反応が怖いのか、本気ではなく冗談っぽく言っています。
このシーンからも、フォレストは人に嘘をつき通すことができない、根は正直でまっすぐな人間であることがうかがい知れます。
愛すべき刑事の登場
こうした犯罪を扱う映画には、犯人を追う側にも主人公的立ち位置の人物が現れます。
この作品ではジョン・ハント(ケイシー・アフレック)という刑事が登場します。
実はジョンはある休日に子供たちを連れて銀行に寄ったのですが、実はまさにその時にフォレストが強盗を行っていたのです。
当然その瞬間にジョンは気づいていません。
フォレスト達が立ち去った後に支店長から銀行強盗があったことを告げられたジョンは、その後フォレストの事件を担当することになり、「紳士で礼儀正しい」という印象を与え続ける彼の正体を突き止め逮捕しようと必死に捜査します。
そしてジョンはフォレストが過去に90何軒も同様の手口で強盗を行っていたことを知るのですが、そのどれもが目撃者や被害者に対して紳士的な印象を与えていることに強い興味を持つようになります。
この時点で、ジョンもフォレストに対して魅力を感じるようになっています。
最大のヤマをきっかけにして崩れる歯車
数えきれないほどの銀行強盗を行ってきたフォレスト達は、今までの中でも最大と言える銀行での強盗を企てます。
あまりに大きなヤマなため、いつになく弱気になってしまうテディと、これを機に引退しようと思っているウォラーと違い、フォレストだけは自信満々です。
入念な下見を行って実行した銀行強盗は見事に成功し、金ではなく金塊を奪います。
この事件も今まで同様にフォレストを逮捕するために動こうとしたジョンですが、事件の大きさからフォレスト逮捕の件はFBIにゆだねられることになり、ジョンは事件の担当から外されてしまいます。
大きなヤマの強盗に成功したフォレスト達は、その後強盗を繰り返すことなくそれぞれ平穏な日々を暮らしていて、当然フォレストはジュエルと一緒に幸せな日々を過ごしていました。
しかし、ジョンの元にある人物からの手紙が届いたことで事態は一変します。
その手紙の差出人は、ジョンがかつて一度結婚した時に授かった娘からでした。
その娘と会うことでフォレストの正体を知ったジョンは、過去にフォレストの事件を担当した刑事から話を聞くことで、より一層フォレストを追うことに執念を燃やします。
フォレストも自分の事件を担当しているジョンのことを度々テレビで見ていたため、こうして22人がお互いのことを顔も名前も把握するようになりました。
そして、2人はついに直接顔を合わせることになります。
その場所は、フォレストがよくジュエルと一緒に食事をしていたダイナーでした。
ジョンはある日、子供たちが寝たことを確認し、妻と一緒に出掛けるのですが、それがそのダイナーでした。
カウンターでジョン夫妻が食事をしているのですが、その後ろのテーブル席にはフォレストがいたのです。
ジョンの姿を確認したフォレストは、ジュエルに店を出ることを提案しますが、すぐに店を出ることはしませんでした。
一方のジョンは、フォレストのことを捜査中のぼやっとした写真などでしか見ていなかったため、すぐにはフォレストの存在には気づきません。
そして、ジョンがトイレに立った時のことでした。
トイレに入ろうとしたジョンを呼び止める男性。無論、これはフォレストです。
フォレストはテレビで見た刑事だと言って会話を交わします。
逃げることになく挑発するわけでもなく、むしろ好意的な会話をするところにフォレストの人間性が垣間見えるシーンです。
会話を終え、フォレストがジョンの服装を整えて「これで優秀に見える」と言って立ち去ろうとした時に、その雰囲気からついにジョンもフォレストであると気づき、その名を呼び「フォレスト、俺は優秀だ。」と一言だけ言います。
その男がフォレストであるという証拠がなかったためか、ジョンはフォレストをその場で逮捕することはせず、フォレストは立ち去ります。
このシーンではフォレストの余裕と、ジョンの絶対お前を捕まえるという宣戦布告の両方が感じられ、2人がお互いを認めるライバル同士であることを明確に表していました。
フォレスト逮捕。男は最後をどう引退を決意するのか。
ジョンと対峙したフォレストは、ジュエルを家に送ったあと自宅に戻ります。
すると、自宅の前にテディがいるのを見て声をかけようとした矢先、突然照明に照らされてフォレストはFBIに包囲されてしまいます。
一度は両手をあげますが、何か思ったことがあったのか車に戻り逃げ出します。
その際、腕を撃たれてしまうのですが、彼はそのままある場所に車を走らせます。
フォレストが行きついた先はジュエルの家でした。
しかし、時間は真夜中、彼女は寝ています。
彼は彼女を起こすことなく、彼女が所有していた馬に乗って移動し、家の見える丘にたどり着き、彼女の家にFBIの警察車両が何台も向かっていくのをそこから見ていました。
結局その後、フォレストは逮捕されて刑務所に投獄されました。
面会に来たジュエルに、これまで行ってきた16回の脱獄の記録を書いたメモを自慢げに渡します。
そのメモの最後には「17」とだけ書かれていました。
それを見たジュエルは、このまま刑に服すよう促します。
フォレストもまた、ジュエルの言葉を素直に受け入れて刑期満了まで刑務所で過ごしたのです。
出所したフォレストを迎えに来たジュエルは、そのままフォレストを家に招き入れて一緒に暮らすようになります。
銀行強盗を引退して罪も償い、ジュエルと幸せな余生を過ごすのだろうと思いきや、ある日フォレストはジュエルに買い物に行くと告げて出かけます。
行きついた先は銀行。
彼は銀行の前にある電話ボックスでジョンに電話をかけた後、バッグを持って中に入っていきます。
そう、現役だった頃のようなスタイルで。
そしてこの物語は幕を閉じます。
愛すべきフォレストの人間性はロバート・レッドフォードそのもの
タイトルにある通り、フォレストは銀行強盗を犯しながらも憎むことができない、担当刑事すらも魅了する人間性の持ち主でした。
それは決して紳士な言動を取っていたからだけではありません。
人に危害を与えないどころか恫喝することもない。
むしろ銀行強盗を楽しみながら行うその雰囲気から、劇中でも言われている通り幸せそうな雰囲気があふれてします。
幸せそうな人間に接して嫌な思いをする人はそうそういないでしょう。
相手が銀行強盗であろうと、自分に優しくしてくれる人間には悪い印象を持たないということなのかもしれません。
それは彼の手法ではありますが、彼自身はそれを狙ってやっていたというわけではなさそうです。
心の底から強盗を楽しんでいた結果が、人々に平和的な印象を与えていたのでしょう。
これは、ロバート・レッドフォードそのもののように思えます。
俳優業だけでなく監督業もこなす彼が、映画製作を楽しんでいることは言うまでもありません。
その姿が人々を魅了し、ここまで世界的に愛される人物を作り上げてきました。
ドキュメンタリーというほど彼自身を投影したものではありませんが、この作品は彼のこれまでの俳優としての道のりを大いにオマージュした内容になっています。
『さらば愛しきアウトロー』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
以上、ここまで映画『さらば愛しきアウトロー』について紹介させていただきました。
- 銀行強盗というテーマにとらわれず、人の温かさに触れたい方にオススメ
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