2009年“このマンガがすごい!”第1位、第57回小学館漫画賞受賞の漫画、小玉ユキ作「坂道のアポロン」が待望の映画化。
青春を経験したすべての人に贈る感動の物語です。
- 家にも学校にも居場所がない主人公を取り巻く環境の変化から展開していく物語
- ジャズに興味がない人でも、きっと楽しめる作品。そしてジャズが好きになると思います
- 原作が好きで好きで、実写化に手が伸びなかった私のような人にも見て欲しい
それでは『坂道のアポロン』をネタバレありでレビューします。
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目次
『坂道のアポロン』作品情報
作品名 | 坂道のアポロン |
公開日 | 2018年3月10日 |
上映時間 | 120分 |
監督 | 三木孝浩 |
脚本 | 高橋泉 |
原作 | 小玉ユキ |
出演 | 知念侑李 中川大志 小松菜奈 真野恵里菜 山下容莉枝 松村北斗 野間口徹 中村梅雀 ディーン・フジオカ |
音楽 | 鈴木正人 |
【ネタバレ】『坂道のアポロン』あらすじ
10年前、世界が変わる“ある男”との出会い
都内で内科医をしている、西見薫(知念侑季)は入院している子どもたちに、院内にあるピアノを弾いてとせがまれます。
「忙しいから、ちょっとだけ」と弾いたのはジャズの名曲、モーニン。
遡ること10年前の1966年、薫は“大嫌いな坂道”で、ある男と出会いました。
高校へと続く上り坂、その忌々しいまでの道のり。
薫は男手一つで自分を育ててくれた父を亡くし、叔母のところに住むこととなって横須賀から長崎の佐世保にある高校へと転校してきました。
病院長をしていた父のことや前の学校で成績トップだったこと、クラスのあちこちから「お坊ちゃんだ」などとヒソヒソ噂話をしているのが耳に入ってきて気分が悪くなってしまいました。
ハンカチを口にあて吐き気を抑える薫に、クラス委員の迎律子(小松菜奈)が声をかけてきました。
校内を案内するよう言われた、というのです。
薫は律子に屋上の場所を聞き走り出しました。
屋上の扉の前に並べられた椅子に布がかけてあり、「なんだこれ」とめくると、眉のところに絆創膏を貼った茶髪の少年が寝ていました。
そこに現れた上級生3人を相手に喧嘩して、彼らに奪われていたという屋上の鍵を取り戻したのは薫の同級生の川渕千太郎(中川大志)でした。
教室は息が詰まる、と言って晴れやかな笑顔を浮かべる千太郎。
めちゃくちゃで乱暴な千太郎が、薫には少しまぶしく見えていました。
世界が変わる“音楽”との出会い
ある日の英語の授業中、薫が流暢に教科書を音読するのをクラスの他の生徒が冷かしているところに千太郎が入ってきました。
千太郎は自分の机と椅子を薫の席の真後ろまで動かして、そこを定位置とします。
叔母の家では好きなピアノを弾いていても「そんなことより医者になるための努力をしろ」と咎められたり、叔母の娘からは嫌味を言われたりして居場所がなかった薫。
クラスでも同級生から冷ややかな目で見られて、居場所がないと感じていたのですが、自分のことを“ボン”と呼ぶ千太郎の存在が少し状況を変えていきます。
薫と、千太郎の幼馴染でもあるクラス委員の律子が一緒に下校している時、街のことでも何でも聞いてという律子に「クラシックのレコードを置いている店を教えて欲しい」と言いました。
律子は自分の家にたくさんあるから来たらいいと提案します。
律子の家は、レコードショップだったのです。
レコードを手に取りながらピアノを弾くことが好きだと教えた途端、律子は薫の手を引いて地下へと連れていきました。
地下は律子の父が作ったスタジオになっており、そこにはドラムを叩く千太郎の姿がありました。
薫がピアノを弾けるという話を聞いた千太郎は「お坊ちゃんの弾くピアノは、自分の叩くジャズドラムとは合わない」と言い、薫を小馬鹿にしました。
薫は、千太郎が“ピアノなら自分でも弾ける”と言って右手でたどたどしく弾いてみせたモーニンのレコードを買って帰っていきました。
まったく、腹が立つ。
そんなことを呟きながらレコードを片手に駆け上がる坂道、薫はいつの間にか微笑んでいました。
初めてのセッション、初めての楽しさ
小馬鹿にされたことが悔しかった薫は、それから絶対に見返してやるとレコードを聴いては譜面に起こしてモーニンを必死に練習しました。
授業中、何気なく机の上で指をトントン動かして運指の確認をしていると後ろの席からカンカンとリズム音が聞こえてきました。
薫のピアノにあわせてドラムを叩くように、千太郎が鉛筆で机を叩いていたのです。
指と鉛筆じゃ雰囲気が出ないと、その日の帰り律子の家に寄ることになります。
行けば地下のスタジオには千太郎が尊敬しているという淳兄こと桂木淳一(ディーン・フジオカ)がいました。
淳一がトランペットを吹くとベースを弾く律子の父、そこに千太郎のドラムが乗ります。ビビってないで飛び込め!という千太郎の声に背中を押されて薫もピアノでセッションに参加しました。
後日、蝉が鳴き陽炎が立ち上る日に薫は公衆電話から律子に電話をかけました。
夏休み中は家で勉強ばかりだったから図書館にでも行こうと誘いだしたのです。
待ち合わせ場所の教会へ行くと、祈りをささげる律子の隣には千太郎がいました。
律子と2人で図書館に行くはずだったのに、千太郎に手を引かれてたどり着いたのは海。
そこで3人組の男たちにしつこくナンパされている女性を助けた千太郎。
白い帽子の女性に熱い視線を送る千太郎を、どこか切ない表情で見ている律子が目に入ってしまい複雑な気持ちになる薫でした。
千太郎の恋
海へ行った日から千太郎は白い帽子の女性のことを考えてはぼんやりすることが増えていました。
その女性は深堀百合香(真野恵里菜)といい、大学入学と同時に上京していたのですがある事情でに戻ってきているということを薫は知っていました。
おにぎりを持ったままぼんやりしている千太郎を見て薫は「恋わずらいだ」と言います。
恋をしたことがない様子の千太郎に“作戦会議”だとして放課後どこかで話そうとすると、千太郎は自分の家に薫を連れて行きました。
たくさんの兄弟と優しそうな母親のいる家庭の風景を見て、自分のもっていないものを持っている人間なんだと思ってしまう薫でした。
作戦会議をすると言ったわりには具体的な作戦も持ち合わせずにふわふわしたことを言う薫に、千太郎は普段の元気な様子を少し取り戻しました。
そして夜、「恋の話なら淳一だ」と2人は淳一の馴染みのジャズバーに行きます。
ちょうどマスターが淳一に、今度店で演奏してみないかと声をかけてくれていたところだという話で盛り上がっているところに、外国人の水平たちが「この店で日本人がジャズ?」と茶々を入れて煽ってきました。
バカにされたことに対して血の気の多い千太郎は殴りかかろうとしますが、弱気な薫はもう帰ろうと言い出します。
収拾がつかなくなりかけたところで、淳一がトランペットを吹いたことがきっかけで静かになるフロア。
千太郎がドラムを叩き、薫もピアノを弾いてセッションを披露すると水平たちは彼らを認めて楽しい雰囲気に包まれました。
演奏の後
、淳一の隣には百合香がいました。
千太郎はそれを見つけて声をかけます。
2人が知り合いだったことに対して切り出した千太郎に、淳一は「東京でちょっと」と濁しましたが、百合香は千太郎に「お願いがあるんだけど、いい?」と言いました。
後日、千太郎は百合香の“お願い”を聞き、絵のモデルをしていました。
百合香は「千太郎くんって、アポロンみたいね」と言いました。
薫の恋と、千太郎の過去
ある時、千太郎がずっとボロボロになったドラムスティックを使っていることが気になった薫が律子にそのことを言うと、2人で新しいスティックをプレゼントしようということになります。
プレゼントを持って律子が待っていると、地下のスタジオに千太郎がやってきました。
1人ではなく、百合香を連れて。
律子はショックでその場から立ち去り、薫は追いかけました。
雨の中走って雨宿りをした神社で、薫は律子にキスをします。
律子は驚いて走って帰ってしまうのでした。
その後、薫は千太郎の家にプレゼントを持って行きます。
なんだか上機嫌の千太郎に対して浮かない気分の薫は、つい「家に居場所のない人間の気持ちなんてわからないだろう」と思っていたことを口にしてしまいました。
千太郎は、薫を教会に連れて行きアルバムを見せました。
そして自分は教会に捨てられていた子どもだと言います。
どこにいっても捨て子だといじめられて、子どもに恵まれなかった今の両親が引き取ってくれたのですが、その後両親は子宝に恵まれてしまいました。
どうしても卑屈になってしまった千太郎には、ドラムを叩くのが唯一の救いでした。
自分がいつまでもあの家にいてもいいものか時々考えてしまう、と話したのを聞いて薫は涙を流しました。
千太郎は自分が思っていたような、絵に描いた幸せな家庭で育ったわけではなかった。
自分と同じように居場所がないなかで、今も、生きている。
薫にとってのピアノと、千太郎にとってのドラムは同じでした。
楽器は、音楽は、嫌なことを忘れさせてくれるものだったのです。
まるで王子様が2人で仲良く喧嘩しながら帰ってきたみたい
ある日、千太郎がスタジオを訪れると律子の父が「淳一がマウスピースを忘れて行ったから届けてくれ」と頼まれます。
千太郎が届けに行ったところで淳一と百合香が何も言わずにすれ違っていきました。
東京で学生活動に戻ると決めた淳一に、百合香がついて行くと決心し2人で出ていくところでした。
薫が登校していると、学生たちが集まって何かを見ていました。
視線の先では、千太郎が派手に喧嘩をしていました。
止めに入った薫は、千太郎から「2人のことを知っていたのか」と問われます。
知っていたけどどう伝えたらいいかわからなかった、傷つけたくなくて黙っていたという薫に対して千太郎は「ガサツな自分と繊細なボンとは合わない」と怒鳴って去って行ってしまいました。
そんな折、高校の文化祭が近づいて薫のクラスからは薫と律子が実行委員に推薦されました。
他のクラスの男子が千太郎を訪ねてきて「自分のバンドでドラムを叩いてほしい」と言ったのを、薫は「千太郎はジャズしかやらない。本人に聞いても一緒だ」とはねのけました。
しかしそこにやってきた千太郎は、さらりと“いいよ”と言ってしまうのでした。
失恋と、友達だと思っていた薫から本当のことを隠されていたことから自暴自棄になっていたのです。
律子はステージ発表の申請書に薫と千太郎の名前を書いた紙を用意していて、2人の承諾を得て提出しようとしました。
しかしそれを差し出された千太郎は、紙をぐしゃぐしゃに丸めてしまいました。
文化祭当日、千太郎のバンドがステージに立っている最中に停電が起きます。
ロックバンドの演奏には電気が通っていないと音も出せないため、実行委員たちが配線を調べたりしているさなか、見物にきていた生徒たちは「早くしろ」「まだなのか」と騒ぎ立てます。
薫は、自分が場を繋ぐから復旧した時に再開できるようにしておいてと他の実行委員たちに言い、ピアノを弾きだしました。
「My favorite things」律子の好きなその曲にあわせて、千太郎もドラムを叩きます。
そして2人を繋ぐきっかけとなったモーニンへと続きます。
即興のセッションに、騒ぎ立てていた生徒たちが静まり返り耳を傾け、外からも集まってきました。
演奏を終えた2人に、体育館いっぱいの生徒たちから割れんばかりの拍手をしました。
千太郎はハイタッチすると見せかけて、薫の手を掴んで走り出しました。
「やっぱりボンとセッションしとる時が一番楽しか!」という千太郎に、薫はどこか嬉しそうに、何を言ってるんだ気持ち悪い!と返しました。
叶わない3人でのセッション
もうすぐ教会のクリスマス演奏会の時期。
律子は2人のセッションが聞きたいと提案しました。
それに対して薫は、律子にも歌で参加してほしいと言います。
それぞれが練習に励む日々が過ぎていき、演奏会の当日。
薫を待ちきれなくなった千太郎と律子はスクーターを2人乗りして迎えに行きます。
しかし律子が後ろで喋っているのを聞き取れなかった千太郎が体と意識を後ろに傾けた時に事故に遭ってしまいます。
千太郎は腕をケガしただけで済みましたが、律子の意識は戻らず、薫は演奏が中止になってしまった教会へと足を運びました。
長椅子に不自然にかけられた布をめくると、千太郎が寝ていました。
初めて出会った時と似たような状況でした。
どうして大切な人ばかり傷つけてしまうのか。自分は何のために生まれてきたのか。
布をめくった薫を、寝ぼけて天使だと勘違いしていた千太郎は、そんなことを言いました。
翌朝、律子の意識が戻った時、千太郎はいつも首から下げていたロザリオを残したまま消えてしまいました。
10年間の空白、そして
あの日から一度も千太郎が姿を現すことなく、薫は医師となっていました。
東京医療大学付属病院。
子どもからお年寄りまで人気の内科医、薫のもとに淳一と百合香がやってきました。
2人は結婚しており、百合香のお腹の中には新しい命が芽吹いています。
百合香はバッグから、薫に見せたいものがあると言って1枚の写真を撮り出しました。
地元の友達が結婚式の時の写真を送ってくれたという、その写真を見て泣き出す薫。
それから律子の家、ムカエレコードに足を運びますが閉店していました。
かつての通学路、相変わらずいましましい坂を上って辿りついた東高校の、ある教室。
教壇に律子がいました。
いつか薫が似合いそうだと言った、高校の教師になっていたのです。
そして百合香から受け取った写真を律子にも見せて「一緒に会いにいかないか」と言います。
向かったのは離島にある教会、近づいていけば外にまで聞こえてくるドラムの音。
千太郎は神父になっていました。
千太郎がドラムを叩き、誘われるようにピアノを弾く薫。
2人の視線に促されて、あのクリスマスの夜に叶わなかった3人でのセッションが始まりました。
『坂道のアポロン』感想
予想外に良かった実写版
vito
結果、映画版『坂道のアポロン』よかった!
期待値が低かったからというのもあるんでしょうけど凄くよかったです。
アニメで印象に残っている好きな場面は割と忠実に再現されていたし、一番好きな文化祭のところは“ボンと千ちゃんが三次元で生きてるすごい…”ってなったし、泣きました。
vito
正直なところ千太郎以外のキャストは、発表された時点でもキービジュアルを見た時点でもイメージと違うなぁと思っていたんです。
アニメの薫が私的にドストライクな見た目だったのに対して知念侑季にそこまでのポテンシャルを見いだせなかったというのと、りっちゃんの小松菜奈ほど垢ぬけてない違和感とで。
でも見てみたら全然そんなことなかったです。
ちゃんと知念侑季はボンだったし、ちゃんと小松菜奈もりっちゃんだった。
vito
小松菜奈のりっちゃんの表情で見たかったし、声で聞きたかった、という気持ちです。
好きな場面やセリフ
モーニンを練習し出したころの薫が授業中に指で机を鍵盤としてトントン叩きながら運指してる時、後ろの席の千太郎が鉛筆で机を叩いてセッションみたいなことをしてくる場面。
vito
その頃まだ2人には少し距離感があって、千太郎は似たもの同士な奴を見つけたと思って近づきたい気持ちでいるのに対して、薫としてはこれまで接点をもってこなかった種類の人間だけど、孤立していたクラスのなかで唯一なにか通じるものがある存在として気になっているところで。
vito
続きましては、淳兄の行きつけのジャズバーで薫が初めてジャズセッションなるものをする場面。
クラシックのピアノしか知らなかった薫が、千太郎きっかけでジャズを知ってから初めて人前で演奏する、しかも初対面の人も含めて即興で、という場面です。
vito
次はやっぱりなんと言っても文化祭。
薫と千太郎が喧嘩して、もう仲直りとかそういう次元じゃないくらい衝突してしまって、お互い取り返しがつかないと思っていたところに停電のハプニングがある場面。
vito
そして教会で千太郎が自分の生い立ちを話す場面。オルガンでモーニンを弾いて、「君は相変わらずそれしか弾けないのか」って薫が隣に座って一緒に弾くんですけど。
そこで初めて千太郎が薫を“ボン”じゃなくて“薫”って呼ぶんですよね。
vito
基本的に演奏している場面ばかりになってしまいましたが本当にグッとくるんです。
『坂道のアポロン』はたぶんアニメで見て、ここ好きだなぁと思った人には特に刺さると思います。
vito
ジャズに興味がない、わからないから見る気もないという人も、割と誰でもどこかしらで耳にしたことのある曲ばかりなので置いてけぼりになることなく見られると思います。
『坂道のアポロン』まとめ
以上、ここまで『坂道のアポロン』をネタバレありでレビューしてきました。
- 友情あり恋愛ありという部分では王道の青春ストーリー
- なんだけど、“青春ストーリー”なんて一言で片づけてしまうには勿体ない熱量の面白さ!
- アニメ版や漫画版が好きだけど実写はちょっと…と思って避けている人にも見て欲しい!
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