映画:『RUN/ラン』あらすじ・感想!本当の怖さは母の愛ではない…?毒親VS不屈の娘

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(C)2020 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. RUN/ラン

「毒親」とは、自分の子どもに対して悪影響を及ぼす親を指す言葉です。

明確な定義はないものの、異常なほど子どもに対して干渉したり、行動を制限したりすることが多くあります。

「過保護」のレベルをはるかに超えた「支配」にも似た接し方をするケースが多くあるようです。

最近では漫画や映画でも取り上げられる「毒親」ですが、2021年に公開された映画『RUN/ラン』では、毒親の次元をはるかに超えた、狂気の母の愛が描かれています。

そんな毒親と、不自由な体でありながら不屈の精神を持つ娘の攻防が魅力的な作品です。

ポイント
・毒親を演じたサラ・ポールソンの狂気
・スリラーでありサバイバル映画
・ラストから知る「代理ミュンヒハウゼン症候群」とは

それでは『RUN/ラン』をネタバレありでレビューします。

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『RUN/ラン』あらすじ【ネタバレあり】


得体の知れない薬

ワシントン州パスコ。人里離れた田舎に暮らすダイアン(サラ・ポールソン)と、17歳の娘クロエ(キーラ・アレン)はふたり仲良く暮らしていた。

クロエは足が麻痺して車いすの生活を送っており、さらにぜんそく、糖尿病、不整脈といった複数の病気を抱えていた。そんなクロエをダイアンは熱心に面倒を見てきた。

クロエはワシントン大学への進学を目指して勉強をしており、ダイアンもクロエのひとり立ちを応援したいと周囲に話していた。

大学の合格通知を待ち望むクレアに、ダイアンは「大学から手紙が来たら、封は開けずにあなたに渡す」と約束していた。

ある日、クレアはダイアンの目を盗んで、買い物袋の中からお菓子をつまみ食いしようとする。そこには見覚えのない緑色のカプセルをした薬があり、ラベルにはダイアンの名前があった。

不思議に思ったクロエだが、その夜、ダイアンは緑の薬をクロエに飲むよう渡してきた。これまでの薬は製造会社が倒産したので、代わりの薬だと説明するダイアン。しかし、ダイアンの名前で処方された薬を飲むのは不自然だと感じ、クロエはこっそり薬を吐き出した。

その後、クロエは緑の薬についてこっそり調べる。それは「トリゴキシン」という名の薬であった。ところが、昨日はダイアンのラベルが貼られていた薬のケースに、クロエのラベルが貼られていた。

そのラベルをはがすと、ダイアンの名前が書かれたラベルが現れる。ダイアンが何かを隠していると察したクロエは、ネットでトリゴキシンを調べるが、ネットにつながらない。

電話でいつも薬を処方してくれる「パスコ薬局」に問い合わせるが、ダイアンに電話をしていることがバレてしまうため、家の中から薬を調べる手段がなくなってしまう。

苦肉の策で、クロエはあてずっぽうの電話番号にかけた相手に、必死に「トリゴキシン」を調べてほしいと頼み込む。

相手は不審に思いながらも、クロエに代わって調べたとろ「トリゴキシン」は心疾患に使われる医薬品で、心房細動や動機、心不全に効果がある強い薬だとわかった。

しかしカプセルの色は緑ではなく赤色であり、クロエが飲まされそうになった薬はトリゴキシンではなかった。

戦慄の「薬の正体」

ますます不審に思ったクロエは、ダイアンに「映画を見に行きたい」とせがみ、外へ連れ出してもらう。

クロエはダイアンに「トイレに行く」と嘘をつき、映画館の向かいにあるパスコ薬局へ駆けこむ。そこで薬剤師に緑の薬について尋ねると、それが犬の薬であることが明らかとなる。

薬の本当の名は「ラドカイン」と言い、筋弛緩薬で、皮膚炎や切り傷などによる足の痛みを和らげるものだった。ダイアンは動物病院で処方された薬をクロエに飲ませようとていたのだ。

怯えるクロエは「その薬を人間が飲んだらどうなるの?」と尋ねると、薬剤師は「足がマヒすると思う」と返すのだった。

自分の不自由な足は、病気ではなく母が原因なのでは…。そう考えたクロエだが、薬局にダイアンが駆け付けてしまう。クロエを心配するダイアンだが、クロエはダイアンに鎮静剤を打たれて眠ってしまう。

クロエを連れて帰宅し、シャワーを浴びるダイアン。その背中には無数の傷があった。

ダイアンの異常な愛情

ダイアンはパスコ薬局に、自分が犬の薬をクロエに与えたことはないと訴え、ラドカインを処方した医師にはクレームのメールを送ろうとする。

しかし思いとどまったダイアンはPCで「家庭用 神経毒素」と検索し始める…。

目が覚めたクロエは、自室に閉じ込められていた。ドアは外から塞がれていたため、窓から別の部屋への移動を試みる。

クロエは延長コードをつなぎ合わせて半田ごてを持ち、口には水を含む。

そのまま屋根伝いに別室の窓にたどり着くと、電源を入れて熱くなった半田ごてを窓ガラスに突き立てる。

熱せられた窓ガラスに亀裂が入ると、そこへ口に含んでいた水を吹きかけた。すると窓ガラスが粉々に割れ、別室に入れるようになる。

自室のドアを外から開け、車いすに乗ったクロエだが、今度は昇降機の電源が破壊されていた。強引に車いすを階段から落としたが、そのはずみでクロエも転げ落ちてしまう。

しかしこの時、クロエは自分の足がかすかに動かせることに気づく。気を取り直し、車いすに乗って家を飛び出したクロエは、通りがかった近所の住人・トムに助けを求める。しかし、その場をダイアンに見つかってしまう。

必死にクロエをかくまうトムだが、隙を見せた瞬間、ダイアンに鎮静剤を打たれてしまう。ふたたびクロエは自宅に連れ戻されてしまった。

クロエの本当の過去

クロエが目を覚ますと、そこは知らない暗い部屋だった。

そこでクロエはワシントン大学からの手紙を見つける。封は開けられており、中には合格通知書が入っていた。学校から連絡が来たら、封を開けずにクロエに渡すというダイアンの約束は嘘だった。

さらにクロエは自分が6歳のころの写真を見つける。その写真のクロエは元気に”自分の足で”走り回っていた。

ほかにも、クロエは自分と同じ名前の死亡診断書を見つける。死亡時の年齢は2時間ほどだった。さらに、ストックホルム病院では新生児が誘拐され、犯人はいまだ見つかっていないという新聞のスクラップも見つかる。

ダイアンは生まれたばかりの娘を亡くし、その悲しみを埋めるために、病院で新生児を誘拐していた。その誘拐された新生児こそクロエだった。

ダイアンはクロエが自分の元から離れないように、わざと不自由な体になるよう虐待していたのだった。

事実を知られてしまったダイアンは、自作の神経毒素をクロエに打ち込もうとする。八方ふさがりとなったクロエは、ダイアンが自分を部屋から出さざるを得ない状況を作るために、猛毒の「有機リン酸塩」を飲んでしまう。

クロエの狙い通り、無事病院に搬送されたが、ダイアンはスキをついてクロエを病室から連れ出そうとする。

しかしクロエはわずかに動くようになった足で踏みとどまる。追ってきた警官に撃たれたダイアンは階段から転落してしまう…。

それから7年後。クロエは杖で立ち上がれるほどに足が回復していた。クロエはダイアンが収容されている刑務所を訪れ、楽しそうに自分の近況をダイアンに話す。

一通り話し終えたクロエは、口の中に隠してた緑色の薬、ラドカインを吐き出す。怯えるダイアンをよそに、クロエは「大好きなママ。お薬の時間よ」とささやくのだった。

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『RUN/ラン』感想

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毒親を演じたサラ・ポールソンの狂気

『RUN/ラン』で恐怖の毒親を演じたのは、アメリカの俳優サラ・ポールソン。

活動当初はドラマを中心に出演しており、「アメリカン・クライム・ストーリー/O.J.シンプソン事件」で演じたマーシャ・クラーク検察官役で、エミー賞の主演女優賞やゴールデングローブ賞を受賞しました。

映画でもルーニー・マーラとケイト・ブランシェットが共演した『キャロル』(15)や『ミスター・ガラス』(19)に出演。

『オーシャンズ8』(18)では、メンバーの中で唯一家族を持つ女性でありながら、計画に参加する女性を演じました。

『オーシャンズ8』を観たことがある方が『RUN/ラン』を観ると、同じ母親という役柄でありながら、そのギャップに驚くこと必須です!

盗みもダメですけど、どうしても『オーシャンズ8』の役が好印象に見えるのが不思議です…汗

娘クロエを演じるのは、オーディションで役を勝ち取ったキーラ・アレン。舞台で活動をしており、公式サイトでは「役者兼脚本家」として紹介されています。また実生活でも車いすで生活をしています。

スリラーでありサバイバル映画

本作ではダイアンの狂気的な愛情が恐ろしい一方で、最悪な状況でも絶対にあきらめないクロエの強さも印象的です。

もともと健康だったのに不自由な体にされたにもかかわらず、持ち前の知恵や行動力で、あらゆる苦境を乗り越えます。

半田ごてと水を駆使した脱出劇は、まさにこれまでクロエが勉強していた知恵を使ったもの。

わざと劇薬を飲んで、監禁から解放せざる追えない状況を作るなど体を張った度胸もあり、サバイバル的な魅力も強い作品です。

むしろ怖いのはダイアンのキャラクターや行動であって、大きな音で驚かすなどホラー的な演出はあまりないため、ホラーが苦手な人でも楽しめる作品だと感じました。

ラストから知る「代理ミュンヒハウゼン症候群」

ラストシーンではクロエとダイアンの立場が逆転しており、ダイアンの狂気がクロエに受け継がれたかのように見られます。

ダイアンの狂気的な状態は「代理ミュンハウゼン症候群」という精神疾患だといえるでしょう。

これは身近な人を介抱している状態を同情してもらうことで心地よさを感じ「もっと同情を集めたい」という気持ちから、介護者に対して虐待行為や、周囲にウソの情報を伝えるものです。

『RUN/ラン』では、クロエに足がマヒする薬を飲ませていた行為が虐待にあたり、本当は健康なのに、周囲には薬の影響でもう元が多いなど、ありもしないことを言いふらしていました。

なお、アメリカでは2015年に本作のモデルになった「ディー・ディー・ブランチャード殺害事件」が発生してます。

代理ミュンヒハウゼン症候群の可能性があった母親ディー・ディーが、その虐待を受けていた娘とその恋人に殺害されました。

『RUN/ラン』では、この代理ミュンヒハウゼン症候群がクロエに受け継がれる形で幕を下ろしました。

また、ダイアンの背中には虐待でついたと思われる傷が見られ、ダイアンもまた、代理ミュンヒハウゼン症候群の親から虐待を受けていたのかもしれません。


ちなみにスリラー映画ではありませんが、同じテーマの映画に『PITY ある不幸な男』(19)があります。

昏睡状態の妻を持つ主人公が、他人からの同情や親切心によって幸せを感じており、明言はされていませんが、彼もまたダイアンと同じ精神的な闇を抱えています。

両作を見比べてみると、同じ題材でも悲劇の描き方がかなり異なっているので、気になる人はぜひチェックしてみてください。

『RUN/ラン』あらすじ・感想まとめ

要点まとめ
・サラ・ポールソンの生々しい毒親演技は必見
・クロエのガッツはサバイバル映画としてもおススメ
・「代理ミュンヒハウゼン症候群」をテーマにしたスリラー

以上、ここまで『RUN/ラン』をレビューしてきました。

もしも自分の不幸な境遇が、偶然ではなく誰かによって作られたものだったら…。

虐待と聞くと直接的な被害を想像しますが、事実を捻じ曲げる形で、知らず知らず虐待にあっていた、というのも恐ろしいものです。

それは知らなければならないことですが、知った時の絶望感もすさまじいスリラー映画でした。

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