映画『走れロム』あらすじ・ネタバレ感想!ベトナムで社会問題になった「闇くじ」をテーマにした衝撃作が検閲&修正の末についに公開!

『走れロム』

出典:『走れロム』公式ページ

ベトナムの労働者階級を中心に社会問題にもなっている「闇くじ」を題材に描かれる『走れロム』。

今作が長編デビュー作となるチャン・タン・フイがメガホンを取り、ベトナムのタブーに切り込んだ衝撃作として本国でクリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』を超える驚異の大ヒットを記録しました。

また第24回釜山国際映画祭のニューカレンツ部門の最優秀作品賞を受賞したほか、世界各国でも絶賛。

マルコヤマモト

社会主義国家であるベトナムの検閲&修正という苦難を経て公開された『走れロム』について、ネタバレありでレビューします。

映画『走れロム』作品情報

『走れロム』

(C)2019 HK FILM All Rights Reserved.

作品名 『走れロム』
公開日 2021年7月9日
上映時間 79分
監督 チャン・タン・フイ
脚本 チャン・タン・フイ
出演 チャン・アン・コア

アン・トゥー・ウィルソン

WOWY

カット・フーン

ティエン・キム

マイ・テー・ヒエップ

タン・トゥー

音楽 トン・タット・アン

映画『走れロム』あらすじ【ネタバレあり】


違法の闇くじに人生を賭けた人々の物語

ベトナムの社会問題となっている「デー」は、政府公認の正当な宝くじの当選番号の末尾2桁を予想する、オッズ70倍のハイリスク/ハイリターンな違法くじ

姿の見えない「胴元」が仕切り、「賭け屋」が運営、その間を「走り屋」が繋ぐというシステムで成り立っているものの、その実態は明らかになっていません。

活気に満ちているベトナム・サイゴンの裏路地にある集合住宅。

14歳の孤児の少年・ロム(チャン・アン・コア)は幼い頃に「デー」の当選番号を当ててからアパートの人々に可愛がられ、アパートの屋上に住まわせてもらっていました。

『走れロム』

出典:IMDB

ロムはアパートに住む人々から借用書を預かり「賭け屋」へ渡し、「賭け屋」から預かった借用書記載分の金額を当選番号が発表される30分前の16時までに「胴元」へ渡します。

そして政府公認の宝くじの当選番号が書いてある「ゾー」と呼ばれる紙をアパートの人々に配って回るという「走り屋」の仕事の他に、当選番号の末尾2桁を予想する「予想屋」として毎日の生計を立て、稼いだお金で生き別れた家族を探すことを心の拠り所にしていました。

マルコヤマモト

当選金を引き換えるために、当選番号を証明する「ゾー」が必ず必要になります。

ロムの毎日は、とにかく「デー」のためのラッキーナンバー探し。

同僚でありライバルである野心家のフック(アン・トゥー・ウィルソン)と競い合いながら、数字が当たれば褒められる、外れればみんなに殴られるという日々を送っていました。

『走れロム』

(C)2019 HK FILM All Rights Reserved.

そんなか、地上げを迫られたアパートの住民たちは、ひたむきに予想と向き合うロムを信じ、一攫千金の賭けに出ることに。

果たしてロムはアパートの住人たちを救うことができるのでしょうか…!?

映画『走れロム』感想【ネタバレあり】

ベトナムで大きな社会問題にもなっている「闇くじ」

現在は少なくなったようですが、「デー」はベトナムの労働者階級の間で長い間問題になっており、間違いなく全員が「デー」を知っているほどにはメジャーなギャンブル

特に映画に登場するような急速な都市開発に取り残された貧困層の人々が、自宅を担保に「賭け屋」に多額の借金を重ね、立ち行かなくなり自殺を図るという事象も少なくないようです。

マルコヤマモト

映画にもアパートに住むおばあさんが自殺を図るというショッキングなシーンもありましたが、アパートの人々が死んだおばあさんの部屋に忍び込んでおばあさんの霊を頼りにするという描写もきっと現実。
『走れロム』

(C)2019 HK FILM All Rights Reserved.

「お金がない、じゃぁ仕事でも増やすか。」という単純な思考では通用しないほどに、アパートの人々は困っている。

マルコヤマモト

おそらくパチプロや競馬で生計を立てている人とも、またベクトルが違うはず。

神にでも霊にでも予想屋にでも縋らないとやっていけないんだな(その方が外れた時に誰かのせいにできるし)、とにかく貧困層の人々が時には命を懸けてまで現状を打破したいという必死さが伝わり辛かったです。

そんな人々の運命を背負って走る14歳のロムや同僚のフックも、また己の毎日を生きるために必死で、良き友も時には仕事や金を奪い合う敵になるという悲しさ。

『走れロム』

出典:IMDB

マルコヤマモト

「デー」や「ゾー」、「賭け屋」「胴元」「走り屋」など専門用語やシステムが登場し、結局最後まで詳しいルールはわからずじまいでしたが、とにかくベトナムは国レベルで危険なギャンブルが流行っていたんだなということがわかりました。

社会主義国家の様々な規制のなかで作られた衝撃作

マルコヤマモト

そうか、ベトナムは社会主義国家だった。と映画の冒頭説明で思い出しました。

中国、北朝鮮、ラオス、キューバ、と並んで世界でも数少ない社会主義国家の1つであるベトナム。

中国が香港映画などに対して検閲を始めたように、世界の映画祭で評価されてきた今作も「闇くじ」というタブーを扱っているため、監督たちには罰金、そして検閲&修正の命令が待ち受けていたようです。

『走れロム』

(C)2019 HK FILM All Rights Reserved.

ちなみに日本で公開されたのは検閲を受けた修正後のバージョン

修正前バージョンを知らないことと、カットされている部分もあると思うので、物語全体について感想を述べるのは難しいです。

マルコヤマモト

観る前に予想していた『スラムドッグ$ミリオネア』のような一攫千金サクセスストーリーとも違い、「人を感動させよう!」といった余計な演出もなく、ただただロムと「デー」に明け暮れるアパートの住人たちのリアルな生活を間近で見せられているような映像作品でしたが、私は逆にそこに好感を持てました。

ロムとフックが仕事を取り合ってベトナムの街を駆け抜けたり、ベトナムではお馴染みの光景であるカブがあふれる道路で殴り合いをしたり(でもカブは2人にお構いなしで走っていく)という、観光では絶対に見られないリアルベトナムを体感できる作品としてもおすすめです。

『走れロム』

(C)2019 HK FILM All Rights Reserved.

泥だらけになりながら殴り合うロムとフック、カメラにかかる泥水、それでも2人を撮り続けるカメラからは臨場感あふれる映像しか生み出されません。

マルコヤマモト

また監督の実弟でロム役を演じているチャン・アン・コアと、ライバルのフックを演じているアン・トゥー・ウィルソンの身体能力の高さにも驚かされます。

SNSでのみんなの感想・評判

闇くじだけでなくストリートチルドレンや貧困、地上げなどベトナムの社会問題を詰め込んだ『走れロム』。

「心打たれる〜!感動する〜!」という作品ではなかったですが、監督や製作陣の気骨は確かに感じました。

マルコヤマモト

いいぞいいぞ!ベトナム映画の未来に確かな希望を感じます

また、日本でも技能実習生の問題が度々話題になっていますが、そんな技能実習生にもSNSなどを通じて「デー」の闇が迫ってくるようで、ベトナムを抜け出せば必ず「デー」から足を洗えるというわけではないようです。

マルコヤマモト

あああ〜!国問わずみんな生きるために精一杯!本当にお金が必要な人にじゅうぶんなお金が行き渡りますように!

映画『走れロム』あらすじ・ネタバレ感想まとめ

マルコヤマモト

映画『走れロム』について、ネタバレありでご紹介しました。

自分が想像していたようなサクセス・ストーリーではなかったものの、映画を観終わった後は素直に「良い作品を観た」という満足感が強く、日本と映画に出てきたベトナムの人々の間に「日々を生きる」ことに対するエネルギーの使い方に大きな違いがあることを見つけました。

マルコヤマモト

同じギャンブルでも生活や命がかかっているのと単なる娯楽とは気の入れ方が違いますし、貧困層を相手にした闇の商売が昔からあることも実際かなりヤバイ。けれど既に「闇くじ」は生活の一部として染み付いてしまっている、1度始めたら抜け出せない蟻地獄のような仕組みです。

チャン・タン・フイ監督の卒業制作がきっかけで作られた『走れロム』は、ベトナムの社会主義という様々な制約があるなかで製作され、世界中で評価されたことによりベトナム社会の闇を1つ明らかにしました

マルコヤマモト

これはとても画期的なことで、私は映画には少なからず社会を変える力があると信じており、チャン・タン・フイ監督をはじめとするベトナムの才能豊かな若手ホープたちによる映画製作について、今後も注目したいと思います。
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